ラテンはおまかせ!ナオト・インティライミが「ミラベルと魔法だらけの家」の世界を彩っちゃいました

ディズニー・アニメーション映画の最新作「ミラベルと魔法だらけの家」が11月26日に全国で公開された。

ディズニーの長編アニメーション60作目となる「ミラベルと魔法だらけの家」には、「ズートピア」の監督を務めたバイロン・ハワードや共同監督のジャレッド・ブッシュ、「モアナと伝説の海」などに参加した音楽家リン=マニュエル・ミランダらが参加。南米のコロンビアを舞台に、家族の中で自分だけ“魔法のギフト(才能)”を持たない少女・ミラベルの活躍が、色鮮やかな映像で描き出される。

本作で、コロンビアと縁の深いナオト・インティライミが日本版エンドソングを担当。映画で重要なシーンを彩る、セバスチャン・ヤトラ歌唱の「2匹のオルギータス」をカバーした「マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~」を歌っている。そこで音楽ナタリーでは、ナオト本人に「マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~」の制作背景についてインタビュー。さらに「ミラベルと魔法だらけの家」の魅力、声優として参加してみての感想も語ってもらった。

取材・文 / 高橋拓也撮影 / 山崎玲士

ディズニーからオファー!? 違うインティライミじゃないの?

──ディズニー映画の日本版エンドソング担当とは、すごいオファーがきましたね!

いやあ、びっくりしたよね。

──さらに「ミラベルと魔法だらけの家」の舞台はコロンビアで、ナオトさんともゆかりの深い場所になります。

それだけに今回のオファーはうれしかったし、正直最初はドッキリじゃないかと思った。「ディズニー映画の最新作の楽曲をナオト・インティライミが歌う!?」「違うインティライミじゃないの?」と言ったんだけど、「ほかのインティライミじゃないです」ってお返事があってね。これまで「武道館やドームでライブをやりたい」「『紅白歌合戦』で歌いたい」とかいろんな夢があったけど、ディズニー映画で楽曲が使われることはその中の1つだったんだ。

「ミラベルと魔法だらけの家」より。

「ミラベルと魔法だらけの家」より。

──ちなみにナオトさんがディズニー映画の中で特に好きな作品はなんですか?

「リメンバー・ミー」「2分の1の魔法」かな。あとは「ピーター・パン」みたいな、男子の冒険ものが好きよね。

──ナオトさんには「おまかせピーターパン」(2011年5月発売のアルバム「ADVENTURE」収録曲)という曲もあるぐらいですからね。これまでナオトさんは2003年から2004年にかけて挑戦した世界一周の旅、2013年にドキュメンタリー映画「旅歌ダイアリー」にもなった旅など、数回にわたってコロンビアを訪れています。その縁もさることながら、2019年にユニバーサルミュージック ラテンからNaoto名義で世界デビューを果たしたあと、ラテン音楽をふんだんに使用した「ミラベルと魔法だらけの家」の日本版エンドソングを担当することになったのは、素敵な巡り合わせに感じます。

しかも劇中歌を歌っているセバスチャン・ヤトラは僕と同じくユニバーサルミュージック ラテンに所属していて、以前マイアミで会ったんです。彼はとんでもないスーパースターで、ラテンシーンではものすごい人気者で。

──ヤトラさんは現在27歳の若手ミュージシャンですが、人気曲の再生数が億単位のビッグアーティストです。

日本だとあまり馴染みがないかもしれないけど、コロンビアだけでなくラテンシーンでもNo.1と言っても過言ではないね。ヤトラだけじゃなく、もう1つのエンドソング「愛するコロンビア」を歌っているカルロス・ビベスもコロンビア音楽界の偉大な大御所だし。2人がどれだけシーンに貢献しているか知っていたから、今回お話をいただけてホントに光栄だったよ。

──カルロスさんも先ほど挙げた旅で出会っていましたね。現地で仲よくなったミュージシャン、アンドレス・セペーダさんの紹介で偶然出会えたそうで。

そうそう! アンドレスのライブの打ち上げでたまたま会えたんだ。それも不思議な縁だったよ。いくらコロンビアに行ったからといって、カルロスはなかなか会えるような人じゃないから。わかりやすく例えると、日本にフラッと旅行しに来たコロンビア人が桑田佳祐さんに会うような感じかな。

──相当なレアケースですよね(笑)。

もうそのぐらい貴重なこと。2人にはこのあと、「ミラベルと魔法だらけの家」の日本版エンドソングを担当したことを伝えるよ。

ナオト・インティライミ

ナオト・インティライミ

ナオト大研究!ラテン初心者も魅力が味わえる「マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~」

──日本版エンドソング「マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~」はヤトラさんが歌っている楽曲「2匹のオルギータス」のカバーになります。ラテンは情熱的な楽曲が多いかと思いますが、「2匹のオルギータス」はどこか寂しげなムードが漂うバラードで。

カルロスが歌った「愛しのコロンビア」とは対照的だよね。ラテンって「愛しのコロンビア」のように踊り出したくなる陽気なものもあれば、憂いを伴う、メロディアスな曲もたくさんあるんです。「2匹のオルギータス」はまさにメロディアスな側面を前面に押し出していて。

──「2匹のオルギータス」を日本語に訳す作業はナオトさんご自身が担当されたそうですね。

この楽曲にしっかり向き合いたくて、訳詞は「ぜひ僕が着手させてほしい」とお願いしたんだ。誰かが訳したものをただ歌うんじゃなく、自分が積み重ねてきたことやコロンビアに対する愛情によって、クリエイティビティを発揮できるんじゃないかと思ったんだよね。ただ今回はすでに完成している楽曲、つまりオリジナル曲があった。まずはその楽曲を何よりもリスペクトすることが大前提であって、何度も楽曲を聴き込みました。ヤトラが歌っているのは英語とスペイン語の2バージョンあって、その両方を聴き比べたんです。その歌詞を見ると、英語に訳すときどんなふうに表現が変わったのかわかるんだよね。

──両言語の歌詞を比較しつつ、共通点や違いを調べていったと。

うん、まさに研究だったよ。最初にスペイン語版、そのあとに英語版を全部自分で訳して、歌詞で描かれている内容を把握したんです。そこから自分の言葉で紡ぎ始めたんだけど、「2匹のオルギータス」の内容をそのまま反映するだけでなく、「ミラベルと魔法だらけの家」の日本版エンドソングとしての役割も担わなきゃいけない、という責任感を抱いちゃって。だからオリジナルの歌詞にミラベルへのメッセージも加えて、「違っていたらなんでも書き直しますから言ってくださいね!」みたいなスタンスでご提案させていただきました。あとは英語もスペイン語の音楽も韻を踏んでなんぼなので、そこもリスペクトしたかったから、韻の使い方も気を付けたね。例えば「アイ・オルギータス」に対して「愛のギター」という歌詞を当てはめたり。

ナオト・インティライミ

ナオト・インティライミ

ナオト・インティライミ

ナオト・インティライミ

──ほかにはスペイン語に聞こえる日本語(「お腹すいた」 / 「ウナ・カシータ」)を歌詞に入れていました。この「お腹すいた」という言葉は、ナオトさんが2004年にコロンビアに訪れたとき、あるミュージシャンが唯一知っていた日本語でしたよね。

カルロスのライブでドラムを担当していたパウロだね。「ウナ・カシータ」と「お腹すいた」ってすごく似ている言葉だから、それで覚えたって言ってた。しかも「カシータ」は日本語で家という意味で、「ミラベルと魔法だらけの家」ではものすごく重要な役割を担っているよね。

──どちらも発音が近い分、どのように歌い切るのかの判断は大変そうですが、いかがでしたか?

お腹“すいた”とはっきり言い切ると「ウナ・カシータ」に聞こえないし、“カシータ”が強すぎると今度は「お腹すいた」に聞こえない。その絶妙な響きを引き出せるよう、30回以上は録り直したんじゃないかな。この1フレーズを完成させるだけでも40分以上かかったはず。そのぐらいこだわったね。

──オリジナルバーションを聴くと、ワンフレーズを言い切って少し間を置き、またワンフレーズを言い切る……という歌の流れが特徴的でした。この歌詞の入れ方を日本語に当てはめるのは難しかったのではないでしょうか?

確かにそうだね。最初はヤトラがどうやって歌っているのか、1フレーズ単位でずーっと真似してみました。この曲は「ラテンのリズムはこういうもの」とわかっていれば違和感なく聴けるけど、ラテンに慣れ親しんでいない人にとっては、なかなか解釈しづらいリズムの応酬になっていて。例えばサビの部分はもともと16分音符の裏拍が多用されていて、日本人にとってはすごく難しい。でも日本版のエンドソングであるからには、日本人でも聴きやすく変換する必要があるよね。そこでオリジナルを崩しすぎず、リスペクトしたうえで「リズムを少し変えたほうが日本の人にも伝わるんじゃないか」という提案をしました。そういう意味では、日本人がラテンに興味を持ってもらえるための橋渡しもできたんじゃないかな。