ナオト、40代はやり切ります! あんなティライミやこんなティライミ集めた「虹色∞オクターブ」

1年の延期を経て、2021年にメジャーデビューシングル「カーニバる?」発表10周年を記念した企画「10周年!アニバーサリーおまっとぅりYEAR」を実施したナオト・インティライミ。2022年4月に「おまっとぅりYEAR」を終えたあとはホールツアー「全国LIVEキャラバン2022-春-!ホップ・ステップ・スプリング!みんな引き連れ、おまっとぅり!!」や恒例イベント「ナオトの日 2022」などを行い、ライブ活動を活発化。そして11月にはおよそ4年ぶり、8枚目のオリジナルアルバム「虹色∞オクターブ」をリリースした。

「虹色∞オクターブ」は2019年にリリースされたシングル曲「まんげつの夜」や、ディズニー映画「ミラベルと魔法だらけの家」の日本版エンドソングとして制作された「マリーポーサ~羽ばたく未来へ~」、シンセサウンドを前面に押し出し、80'sテイストに挑んだ「Rule」など、ナオトのさまざまな側面が楽しめる1作に仕上がっている。音楽ナタリーでは本作の発売を記念し、ナオトへのインタビューを実施。「虹色∞オクターブ」の制作背景をはじめ、「おまっとぅりYEAR」を終えての感想、2022年の出来事や2023年の抱負を語ってもらった。

取材・文 / 高橋拓也撮影 / ほりたよしか

※記事初出時、カメラマンクレジットに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

TikTokerたちにも浸透! 今も続くティライミ高度成長期の影響

──まずは「おまっとぅりYEAR」、おつかれさまでした。

1年間あっという間だったよね。

──昨年4月から今年4月まで、ちょうど1年にわたってベスト盤のリリースやライブなどの企画が行われました。去年インタビューをしたとき(参照:ナオト・インティライミ デビュー10周年記念インタビュー)、ナオトさんは「ファンへのお礼参りのような年にしていきたい」とお話をされていて。ライブやツアーでファンの皆さんとようやく再会できたと思いますが、いかがでしたか?

お客さんと直接会えるまで、もうどん底って感じだった。特に僕の場合、ずっとライブで戦ってきた感覚だったので。わかりやすいヒット曲を持っていない中、ドーム公演ができるところまで到達できたのは、なかなか例のないパターンだと思うんです。それはイベントやフェスで地道にお客さんを増やしていくような心づもりがずっとあったからこそで。そういう手段が全部奪われてしまって、「あれ? 持ち味を生かせるところがないぞ」みたいな気持ちになってしまったんだよね。コロナ禍は少しずつ落ち着いてきたけど、おそらく2020年以前の状況には戻らないだろうし。

──ミュージシャンの活動方法はかなり変化しましたからね。

この3年でまったく異なるライフスタイルに変わってしまったよ。これまでライブに来てくれていたファンも、中には違うアーティストを好きになったり、ライブに行く日常自体を失った方もいるだろうし。今は僕自身もそれを受け入れて、今後どう進んでいくか意識してるかな。

──今年4月にリリースされたライブ映像作品「10TH ANNIVERSARY LIVE TOUR 2021」のドキュメンタリーでも、ナオトさんはライブができない絶望感、「お客さんがどのぐらい戻ってくるのだろうか?」という不安について語っていました。その状況下、TikTokで投稿を始めたことが大きな支えになったそうですね。「別冊カドカワ」のナオトさん特集号でも「ストリートライブに近い感覚だった」とコメントしています。

TikTokの存在はめちゃくちゃデカいですよね。僕より全然若い世代が使っているSNSだから、正直使いこなすことはあきらめていたんです。でも今となっては、使っていなかったことを考えたら怖くなるぐらい重要なツールで。コロナ禍前にはつながりのなかった世代と交流する機会が一気に増えました。最近は映画「旅歌ダイアリー」から、相槌が完璧な少年の動画を抜粋して投稿したんだけど、500万回だったかな? ものすごい回数再生されて、旅人としてのティライミも広まっている実感があります。「旅歌ダイアリー」は2時間近いドキュメンタリー映画だから、よっぽどティライミのことが好きじゃないと全編観るのは難しい作品だよね。その中でも、わずか20秒の動画で旅人であるティライミを世間の方に知ってもらえるって、やっぱりすごいなって。このバズり方はコンスタントに投稿を続けてきた証だろうね。知り合いの2、30人くらいから「動画を観た」という連絡があったんですよ。テレビ番組に出演したときよりも連絡がきた(笑)。

──相当な影響力で(笑)。ほかにも優里さん、YouTuberのばんばんざい、ぞうさんパクパクさんなどの動画にも出演されました。例えばぞうさんパクパクさんの動画だと、見た目がそっくりなことを生かして、2人が入れ替わって出演していたり。そういったバラエティ番組的な演出を盛り込みつつ、YouTuberやTikTokerが作る動画のスタンダードな構成にも対応できる立ち位置で参加しているのがすごいなと。

ああーなるほど! 確かにね。

──そこがほかのアーティストやYouTuber、TikTokerと差別化されている、ナオトさんならではの魅力だと感じました。

僕はテレビを観て育ってきた世代だからね。例に挙げてくれたぞうさんパクパクさんの動画に出演したときは、具体的にどんなふうに撮るか、事前に決めていなかったんです。現場で合流して、その場で「僕とぞうさんが入れ替わったら面白いんじゃない?」みたいなアイデアをどんどん提案していくわけ(笑)。このあたりはとんねるずさんとかの影響が強いかも。あとはテレビ番組だと、構成とか尺が厳格に決められているんだけど、YouTubeだとそのあたりがゆるいからやりやすいんですよ。それに普通だったら、中堅どころのアーティストがYouTuberと絡むのは難しいかもしれないけど、僕の場合はすんなりできて。「学生の頃からずっと聴いていました」って声をかけてくれる子がめちゃくちゃ多いの。

──若い世代にもナオトさんはかなり認知されているんですね。

コムドットとか平成フラミンゴも、こないだ会ったときにそう言ってくれました。小学生、中学生、高校生のどこかのタイミングでティライミに触れているんだね。今はティライミの高度成長期は終わって、自分のペースで活動しているんだけど、2010年のデビューから6年間はすごいことが起きていたんだなって。そこまで多くの若者が聴いていたとは実感できなかったから、すごくありがたいね。だからコラボもしやすいんだろうし、僕もYouTubeやSNSの先輩だと思って接しているから勉強になる。お互い持っていないスキルをシェアできるから、とっても有意義ですね。

──現在YouTuberやTikTokerの動画に慣れ親しんでいる、さらに若い世代にもアピールできますし。

まさにそうだね。もちろん動画を観て、いきなりワンマンに足を運んでもらうのは難しいかもしれないけど、「学生の頃に聴いていたな。聴き直してみよう」とか、ちょっとしたきっかけになるだけでも違うからね。あとはフェスでも、タイムテーブルを見て「この間コムドットの動画に出てたティライミがいるんだけど」「ちょっと冷やかしに行こうぜ」みたいな、興味本位で観に来てくれたらありがたい。ライブはティライミの真骨頂だから、僕を好きになってもらうきっかけが増えたのは大きいです。イベントやフェスで1人ずつ接触していくやり方が、今ではTikTokやYouTubeに代わった感じかもね。

──来年以降、フェスも本格的に再開されると思うので、客層がどう変化するか楽しみですね。

新たな気持ちで臨めるね。新人ティライミ、がんばります。

ナオト・インティライミ

同じ防寒具でも、はんてんとダウンジャケットじゃ全然違うからね

──アルバム「虹色∞オクターブ」はこれまでのナオトさんと新しいナオトさん……言い換えれば“旧ティライミ”と“新ティライミ”をうまく混ぜ合わせた作品でした。アルバムのライナーノーツでも、「今までのティライミっぽいものをアルバムに多く入れました」「今までのティライミと違うとか、ファンの皆様に“ナオトらしくない”と言われちゃうかもしれないものは、これから配信で出そうと思っています」と解説していましたね。

「ティライミらしくない」っていうのも、自分の中では全然範疇なんだけどね。パブリックイメージとしてのティライミから、特に離れている曲にリード曲の役割を担わせた、みたいな感じ。

──既発曲のうち、CDとして発表されたのは「まんげつの夜」「オモワクドオリ」の2曲のみで、そのほかはすべて配信で発表されたのも特徴的でした。ナオトさんの楽曲もシングルは配信メインになってきたようで。

この2、3年で国内のマーケットが急速に変わったので、シングルをCDで出すのは難しくなっていて。僕自身、CDを買う枚数はかなり減りましたね。

──ナオトさんは以前海外に行かれたとき、CDを買って現地の音楽シーンを調べていたそうですが、それも少なくなった?

あっ、それはまだ続けてた! でもSpotifyやApple Musicですぐ調べられるから、徐々に形が変わってきてはいるかな。コロナ禍に入って、ほとんど旅に出られなくなったこともあるし。

──CDでシングルを出すのが難しくなり、配信がメインになったからこそ、いわゆる「ティライミらしくない」楽曲をシングル化するチャレンジができたのではないでしょうか?

なるほど。CDになると、もう少し堅実な楽曲をシングルにしていたかも。それはあるかもしれないね。

ナオト・インティライミ

──各収録曲について、大まかに振り分けてみると「ピンチ」「You Make My Day」は2017年の旅以前、「テキナビート」「Dreammaker」などの作風に近く、「たいせつな」「何度だってLalala」は2017年の旅に出たあと、「ハイビスカス」「Start To Rain」あたりの作風に似ています。ひと言に“ティライミらしさ”と言っても、さまざまな時期に分かれているように感じました。

確かに! でも音の違いはあまり意識していなくて。今回はいろんな曲をバッと並べてみて、「定食を作るとしたらこの曲とこの曲」みたいな感じで、バランスよくピックアップしていったんです。時期ごとにアレンジが変わったのは、極端な話をすると各時代に合わせた音色にしているからで。「たいせつな」「何度だってLalala」も2015年頃に作っていたら全然違うサウンドになっていたかもしれない。基本的にティライミの音楽って、最後のコーティングでどんなアレンジになるか決まるんです。まず弾き語りで作るから、デモの時点ではどの曲も同じようなサウンドで、筋が1本通っていて。そこからどういうお洋服を着せるか、みたいなことなんだよね。凝り固まった音楽をやるつもりはなくて、最新の音楽、アーバンなものをその都度勉強して反映する、ということかな。同じ防寒具でも、はんてんとダウンジャケットじゃ全然見た目が違うからね。

──ナオトさんは2017年以降、コライト(数人のチームを作り、共同で制作するスタイル)形式での作曲を始められましたよね。アルバムもコライト形式で制作されたんでしょうか?

アルバムの収録曲でコライトはやらなかったよ。1人で黙々と作りつつ、ときには共同アレンジャーの方に来てもらって、その場でアレンジも含めて組み立てていったかな。

2022年12月22日更新