桜井さんが「なんでもするよー!」
──今回のアルバムの中でも特に話題となっているのが、桜井和寿(Mr.Children)さんが参加した「Amor y sol」です。
実は2008年にお会いして以来、10年越しで初めて桜井さんとごはんを食べたんですけど、そのとき何曲か聴いてもらったうちの1曲が「Amor y sol」だったんです。もともとこの曲はスペイン語だけの歌だったんだけど、桜井さんは「これは日本でも受け入れられるよ」って言ってくださったんですね。でも僕は海外向けと日本向けの曲は完全に別物として作っていて、「Amor y sol」は海外向けの曲だったんです。それに外国語の曲を日本語にした瞬間、いなたいものになっちゃうことがあるじゃない? そういう逆マジックが起こってしまうのはわかっていたから、「自分の作詞能力では、日本語にうまく落とし込めないんです……」ってお話ししたら、桜井さんが「なんでもするよー!」って言ってくれて。「えっ?」「今なんとおっしゃいました?」って思ったよね(笑)。それで数週間後、2人っきりで歌詞を作ったんです。この歌詞は桜井さんが主導で考えてくれたんですけど、僕のバックパッカーや旅人としての姿を言葉にしてくれたのかもしれないですね。僕1人じゃ絶対書けない。
──自分なりの手段で何をやっていくべきかを歌ったこの曲は、「どうやって生きていくのか」という人生観を問いかけているようにも感じました。
自分自身でも知らなかった、僕の奥底を見透かされているような内容ですよね。ただナオトのことを書いただけではこんな内容にはならないので、やっぱり桜井さんはすごいなと思いました。それで簡単なデモを録ったあとに47都道府県ツアー(「こんなの初めて!!ナオト・インティライミ 独りっきりで全国47都道府県 弾き語りツアー2018」)が始まって、その石川公演に桜井さんが遊びに来てくれたんです。そしたら今度は「一緒に歌っちゃうー?」って声をかけてくれて、ライブにも出てくれて。でもさすがに……あの方の声を収録したCDを出すとなると、また事情が違うじゃないですか。
──確かにお願いするのは難しそうですね。
でも石川公演で歌った「Amor y sol」が、スタッフとかファンの方からすごい好評で。それで「まだなんにも決まってないんですけど……この曲をリリースするのってアリですか……?」って恐るおそる聞いたら、また「なんでもするよー!」って言ってくれて。
──それはすごい!
本当にこんなことってあるんですね。実はデビューしてしばらくの間、ミスチルのコーラスに参加していたことは、極力自分から言わないようにしていて。頼りすぎたくない気持ちがあったし、一緒にごはんを食べるだけでも10年かかったんだよね。でも去年から海外のアーティストたちと制作を始めて、作り手としての自信が湧いてきて、桜井さんと面と向かってお話しできるようになったんです。そんな中で桜井さんから「J-POPアーティストとしてでなく、世界的なアーティストとしてミュージシャンシップを持っているのがうれしい」と言われたときは、本当にうれしかったですね。誰も介入していない、2人の個人的な関係性が少しずつ形になっていったからこそ、こんなふうに協力してくれたんだと思います。
倍率3倍の選抜を勝ち抜いた“まぐれ”たち
──続いての「Sunday」も、旅人としてのナオトさんの姿を描いた曲になっています。こちらは映画「旅歌ダイアリー2」のテーマ曲ということもあり、ナオトさんの旅のスタイルが色濃く反映された内容でした。
まさにそうだね。これは旅を終えた直後にできたんです。ライブでもすごく盛り上がる曲だから愛着が生まれて、アルバムにはアコースティックサウンドをメインにした、オーガニックバージョンを入れました。海や山への旅のお供に連れて行ってもらいたいね。
──5曲目の「My Great Days」からはまたムードが変わってきますが、この曲では23回も「まぐれでいいから」と歌っています。すごく切実というか……。
子供用の“まぐれ”からオーバー80の“まぐれ”まで入ってますからね。
──この歌詞はどんなシチュエーションで思い浮かんだんでしょうか?
車を運転してたら、「まぐれでいいからホームラン打ちてえな」とか「オーバーヘッドでシュート決めたいな」とか、いろんな“まぐれ”がブワーっと湧いてきて。それで車を停めて、歌詞にまとめたんです。本当はこの3倍ぐらいの数の“まぐれ”があるの。
──もっとあるんですね(笑)。
そのうちの選抜だからね(笑)。それで歌詞を書いているうちに「まぐれってなんだ……?」って思うようになって、「こうやって生きてるのも当たり前じゃないな」「奇跡的にいろんなものをかいくぐって生きているんだ」と。それで最終的に「まぐれでいいから生きていたいわ!」「生きてることはまぐれなんだ!」って考え方に行き着いたわけ。最初は「一発キメてえなー」とかものすごく浅はかだったのに(笑)、気が付いたらすごい哲学ソングになってしまって。
──だから楽曲タイトルは「まぐれでいいから」じゃなく「My Great Days」なんですね。
そうなの! しかも「My Great Days」ってマイグレイトデイズ、マイグレイデイズ、マグレイデ……ってだんだん“まぐれで”っぽく聞こえるでしょ? それもまた、まぐれで生まれたこと。
──ちなみにボツになった“まぐれ”はどんなものがあったんですか?
もう覚えてないなあ(笑)。泣く泣く削ったのも超あるよ! 15分バージョンにしてライブで披露するのもいいかもね。
オマットゥリ男とはいえ、いつも「イエーイ!」だけではない
──続く「同窓会」は前作「Sixth Sense」の収録曲「わなげうた」にも近い、身近なシチュエーションを題材にしています。「ハイビスカス」発表以前、旅に出る前のナオトさんの楽曲に近いテイストですね。
旧ティライミっぽいよね。でもこの曲のデモはLAで録ってるんだよ。僕の海外向けの曲は全米やラテンマーケットのトレンドを意識しながら作っていくんです。そうやって制作していくうちに、パッとこういう曲が浮かぶ瞬間があって。J-POPが恋しくなったときに生まれた、とってもかわいらしいナンバーですね。
──ナオトさんは同窓会には行くんですか?
5、6年前に初めて行ったんですよ。僕は中学校を卒業したあと地元の千葉を離れて、同級生とは20年近く会ってなかったから、劇的に楽しくってね。でも最初はティライミ感というか……ドヤ感を出したくなくて、みんながどう接してくれるのか緊張したんだけど、全然当時と変わらなかったね。
──「Eraser」からは“新ティライミ”サウンドを感じさせる作風に戻っていきますが、この楽曲は自分自身を消せない消しゴムに例え、つらい心情を描いたものとなっています。
消しゴムって文字を消すために存在しているのに、消せない消しゴムってたまにあるでしょ? 全然消えないどころかなんなら紙を黒く汚しちゃうやつ。それを自分に置き換えて、「自分はなんのために存在しているのか?」「ちゃんと表現できているんだろうか?」ってことを表したんです。オマットゥリ男とはいえ、いつも「イエーイ! ハッピー!」だけではないから。そういう心情を表現したのが「Eraser」とか「セーフティーゾーン」かもね。
──「セーフティーゾーン」は失敗した人を見て、安心感を感じてしまったり、安全な場所へと逃げる“セーフティーゾーン”を設けることについて歌われています。
この曲は「距離を置いてもの言ってんじゃないよ!」と思いつつ、「ん? 自分も同じ立場だよな」ってことを表していて。安心な場所を求めて優越感に浸りたいとか、そういう醜い部分っていうのは人間誰でも持ち合わせているし、本当のセーフティーゾーンってどこなんだろう……ってことだよね。
次のページ »
新ティライミと旧ティライミをつなぐもの
- ナオト・インティライミ「『7』」
- 2018年12月12日発売 / UNIVERSAL SIGMA
-
初回限定盤 [CD+DVD]
7538円 / UMCK-9982 -
通常盤 [CD]
3240円 / UMCK-1615
- CD収録曲
-
- Shake! Shake! Shake!
- Start To Rain
- Amor y sol with 桜井和寿
- Sunday -オーガニックver.-
- My Great Days
- 同窓会
- Eraser
- セーフティーゾーン
- 夢のありか
- ハイビスカス
- Sing a song
- しおり
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- ナオト・インティライミ LIVE キャラバン 2017「旅歌ダイアリー」@Zepp Osaka Bayside
- 「7」ジャケット撮影メイキング
- ナオト・インティライミ
- 三重県生まれ、千葉県育ち。世界28カ国を515日間かけて1人で渡り歩き、各地でライブを行うなど、世界の音楽と文化を体感。帰国後となる2009年には自らのソロ活動のほか、サポートメンバーとしてMr. Childrenのツアーにも同行する。そして2010年4月、ナオト・インティライミ名義でのメジャーデビューシングル「カーニバる?」をリリース。同年7月には1stアルバム「Shall we travel??」を発表し、メジャーデビューからわずか8カ月後の12月には東京・日本武道館公演を開催する。その後2011年には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2015年12月には自身初となる大阪・京セラドームでのライブを4万人の観客と共に大成功に収め、2016年11月には全国アリーナツアー11公演を行い、計10万人を動員した。2017年1月31日、自分の原点に立ち返るため世界を回る旅に出ることを宣言し、約半年の旅を経て7月10日開催の「ナオトの日」でシーンに復帰。この旅の模様はドキュメンタリー映画「ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2」として劇場公開された。2018年3月からは弾き語りワンマンツアー「こんなの初めて!!ナオト・インティライミ 独りっきりで全国47都道府県 弾き語りツアー2018」を行い、7月に20枚目のシングル「ハイビスカス / しおり」、10月に21枚目のシングル「Start To Rain」、12月には7枚目のアルバム「『7』」を発売。29日には3年ぶり2度目となる愛知・ナゴヤドーム単独公演「ナオト・インティライミ ドーム公演2018~4万人でオマットゥリ!年の瀬、みんなで、しゃっちほこ!@ナゴヤドーム~」を開催する。