ナオト・インティライミ|J-POPに世界のトレンド掛け合わせた“新ティライミ”をご提案

ポジティブな言葉は過去に対して使うべきもの

──「Start To Rain」の歌詞の中では恋人に対する純粋な愛情や、別れ際の切なさが表現されています。

ナオト・インティライミ

「またね、バイバーイ」と別れてからの10秒間にフォーカスを当てたんですね。でももっと衝動が欲しいなと思って、最後の部分だけは全部日本語詞にしたんです。「ここでバイバイしたら、もう二度と会えなくなるんじゃないか……」みたいな瞬間を切り取っていて。

──最後の「なんだかほんとにアナタが 遠くに行ってしまうようで」という歌詞を見て、映画「旅歌ダイアリー」のトリニダード・トバゴでのシーンを思い出したんです。この場面でナオトさんはカーニバルを楽しんでいるのですが、ふと「ここに爆弾が落ちたらどうなるんだろう」と冷静に語っていました。「Start To Rain」の最後もまさにそのシーンのように、“もしも”の事態を想像していて。

こんなに幸せすぎていいんだろうか、バチが当たるんじゃないか……みたいなね。でもそんなネガティブなことが思い浮かぶのは、今置かれている幸せな環境をより強く感じられることでもあるんです。僕は時々、そういうふうに考えてしまうことがあるんだよね。

──ナオトさんの著作「世界よ踊れ」「旅歌ダイアリー」ではある出来事を通して生まれた感情をストレートに書き残しつつ、一連の体験を経て、その意味などを振り返る場面が多々ありました。そのテキストのスタイルにも近いものを感じます。

なるほど。そうかもしれないね。あとネガティブなことが起きたときには、そこからちゃんと意味を考えるのが僕のスタンスなのかもしれない。僕はポジティブな言葉は、過去に対して使うべきものだと思うんです。例えば「やるだけやってみる」「それは意味があるんだよ」と未来に対して使うと、どこかで甘えているような気がして。だから過去の経験を通して「やるだけやったけどダメだった」「それはどういうことなんだろう、意味があるはずだ」って考えるようになったのかもしれません。

ナオト・インティライミ

直感をパックする能力がどんどん冴え渡ってきた

──もう1つの収録曲「Sing a song」は「ハイビスカス」に近いトロピカルハウス風のサウンドで、「Start To Rain」とはまた違った心地よさを感じました。歌詞では“自分らしくあること”について触れられています。

これは「誰だって歌えるよ」「君にも歌えるよ」という歌詞だけど、必ずしも「Sing」という動詞である必要はなくて。それぞれ自分に当てはまる動詞に置き換えて、「挑戦してみようぜ」というメッセージを受け取ってもらいたかった。世界への挑戦に向かって動き出した、自分に対しても掲げているメッセージです。

──「Sing a song」もすぐに完成したんでしょうか?

ナオト・インティライミ

この曲はね、1日どころか数時間しかかからなかったかな。ロサンゼルスで一緒に制作しているクリエイターたちが東京に来る機会があったんですけど、一緒に制作部屋に入ったんです。それでほんっとにゼロの状態で「どうする?」みたいな感じで始まって、4時間ぐらいで土台を作り終えて。

──場合によってはアレンジに時間をかけることもできたと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか。

あっ、もちろんアレンジに関してはさらに時間をかけるの。キモとなるものを7割作って、歌も全部録り終えて、そこから残り3割をアップデートして完成になります。

──「Sing a song」のように、その場で一気に楽曲を完成させるパターンは多いんでしょうか?

旅をしたあとからは、基本こんな感じの作り方に変わったんです。これまで積み重ねてきた経験も大事だけど、今は瞬発力、直感をパックする能力がどんどん冴え渡っていて。この方法が向いているとわかってからは楽しくてしょうがないね。以前はもっと頭を悩ませて制作してたから。

──前は絞り出すように作っていた?

そうそう。大変だったね。もちろん熟考して書いていくべき曲もあるだろうし、これからもそういうスタイルで作ることがあるかもしれないけれど。今は頭で考えすぎるより、直感をパックするのが性に合ってるし、いいクオリティで作れてるなって思います。

もう“アイデア渋滞”が著しくて

──昨年の旅を経て、楽曲そのものだけでなく作り方や環境、意識など、とにかくいろいろな変化があったんですね。その中でも“楽しい”という感情を保ち続けられるのは、とてもいいことだと思うんです。アーティストの中には自分を追い込んで、つらい状況の中で制作を続ける人も多いと聞きます。

ああー……わかるよ。僕も旅に出ていなかったら、今のようないい流れは生まれなかっただろうし、ずっと以前のままだっただろうね。旅に出る前は音楽が好きで追っていたはずなのに、気が付いたら音楽に追われるようになってしまって。別に精神的に病んだり、音楽が嫌いになったり、自分の活動に不満があったわけではなくて。とてもありがたい環境で活動ができていたし、自分の曲が日本中に知れ渡ったのは奇跡的な現象だと思っていて。これは周りのスタッフやファンの方々のおかげだから、ただただ感謝してる。でも旅を経て、制作のサイクルを見直したかった。日本での音楽活動を1回止めて旅に出て、海外で新たな挑戦を始めるっていう出来事は自分の中で大きな変革になったんです。自分の音楽人生において、とても大事な時期だったと思う。だって今はもうバンバン曲ができて、アルバム5枚分ぐらいはパッと作れる(笑)。

ナオト・インティライミ

──それはすごい(笑)。

もう“アイデア渋滞”が著しくて。「なんでもう完パケしてんだろう?」っていう曲もあるし(笑)。やっぱり音楽に追われてるときって、「このタイアップのための曲を作りましょう」「アルバムの曲を作らなきゃいけない」という状況になるんですよね。でも今は好きで作っちゃった曲が用意されていて、「これはシングル曲でいいんじゃない?」「これはアルバム曲だね」ってお渡しできるような状態。とっても健全で、実は音楽を制作するうえで本来あるべき姿じゃないかな。売れるか売れないかはまったく別の話だけど(笑)。

──それでは、新しいアルバムも間もなくリリースできるのでは……?

なにしろ球は山ほどあるからね。「Start To Rain」も「ハイビスカス」も、あくまで断片だから。アルバムやライブでさらに立体的に今のスタンスを感じてもらえるようにしていかないとね。