ナタリー PowerPush - 中村 中

ひりつく言葉で歌う再生の物語 マスターピース「少年少女」完成

再デビューシングル「家出少女」では、倒れていた人間が渾身の力で立ち上がるような痛みと、新しい一歩を踏み出すある種の痛快さが同居していた。そしてこのたび、ニューアルバム「少年少女」がリリース。この作品にはシングル「家出少女」に加え、“再生の物語”の核となる「人間失格」「不良少年」といった、聴くほどに普遍性を増す楽曲群が収録されている。

子供も大人も、危うい人間関係に心や態度をかたくなにし、ごく近いコミュニティの中だけで認められることに必死な日常。生きることが戦いなら、この戦いの本質はなんだろうか。今、そして以前、少年や少女だった人すべてに捧げられた作品について、話を訊いた。

取材・文/石角友香

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アルバムのテーマは「青春をやり直す」

──今作はすごく物語性のあるアルバムだと思うんですが、最初からどんなものにするか全体像は見えていたんですか?

「家出少女」のインタビューのときにも似たようなことを言ったんですけど、移籍をして周りの環境が変わったので、再スタート盤になるなっていう意識がすごく強かったんです。私は2006年にデビューしたので今はアーティスト生活5年目なんですね。そうすると、ここで、短い歴史ながらも自分がどんなふうに過ごしてきたのかを振り返ってもいいのかもな、と思ったんです。さらに、例えば何かためらいがあって表に出てこなかった言葉があったんじゃないかとか、本当ならもっとたくさん出会えた人がいたんじゃないかとか、私がもっと素直なら応援しようとしてくれる人に応じられたんじゃないか、という考えに至って。なんというか、「落し物を拾いに行く」というか、やり直したいなと思うことが多かったので、ここで一気に取り戻そうかと。

──今までを振り返ったことでアルバムの全体像が浮上してきた?

そうですね。何を取り戻したいかというと、曲作りに向かう気持ちだったり、自分は自信を持って立ってるという感覚だったり。じゃあ一体どうやってそれらを取り戻すかって考えたときに……それは楽曲が引っ張ってくれたんです。もともと「家出少女」という曲があって、次に「人間失格」という曲ができて、それを追いかけるように「不良少年」っていう曲を書いたんですね。つまり、このアルバムで柱になる曲を先に書いたんですけど、その曲たちに引っ張られて、じゃあ“青春”というアイテムを使ってやり直そう、すなわち「青春をやり直す」というテーマにしようと。

このアルバムを作ることで前に進まなければいけない

──今曲名が挙がった3曲は「素直になればよかった」という気持ちがすごく出ている曲ばかりだと思います。

うん。恥ずかしいです(笑)。

──(笑)。いや、ホントに存在感が大きい3曲で。同じようなテーマを描いていると思いました。

1曲1曲を説明するのってちょっと苦手なんですけど、「家出少女」と「人間失格」は、とても似ている気持ちを歌ってると思います。2曲とも、戦わなきゃいけない人間に立ち向かっていく歌、戦う姿勢が強い曲。そしてその相手は自分以外かもしれないし、目に見えないことかもしれないし、ひょっとしたら自分かもしれない。で、「青春をやり直す」というテーマは、今、私が生きていくために必要な作業だったから、「このアルバムを作ることで前に進まなければいけないんだろうな」と、ぼんやり思っていたんです。なので、「不良少年」を作るときに、この主人公は「家出少女」や「人間失格」で味わった悔しい気持ちや苦い気持ちを……知っているからこそ、強くなって歩める少年にしてあげたかったんですね。

──中村 中というアーティストのデビュー以降を青春として捉え直すということですか?

うーん、もう少し昔まで振り返るような感じなんですけど、デビューしてからのこともひとつの青春として考えると、“青春”という言葉が10代のためのものではなくなってくることに気付いてもらえますか? うん。私は常々「青春だな」って思うんです。

──人生ずっと?

人生ずっと。

ニューアルバム「少年少女」 / 2010年9月22日発売 / 3000円(税込) / ヤマハミュージックコミュニケーションズ / YCCW-10120

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CD収録曲
  1. 家出少女
  2. ここは、風の街
  3. 独白
  4. 初恋
  5. 秘密
  6. 人間失格
  7. 旅人だもの
  8. 戦争を知らない僕らの戦争
  9. 青春でした。
  10. ともだちになりたい
  11. 不良少年
中村 中(なかむらあたる)

歌手、作詞作曲家。10代の初めからピアノを独学で習得し、高校時代からストリートでのライブ活動を展開する。2005年、インディーズからシングル「友達の詩」をリリースし、2006年に同曲を岩崎宏美のアルバム「Natural」に提供。同年6月にシングル「汚れた下着」でメジャーデビュー。同年9月には「友達の詩」をメジャー2ndシングルとして改めてリリースした。その後同年11月に3rdシングル「私の中の『いい女』」、翌2007年に1stアルバム「天までとどけ」を発表。2010年にレーベルを移籍し、6月にシングル「家出少女」をリリース。
また、多くのアーティストに楽曲を提供しているほか、2009年10月上演の「ガス人間第1号」をはじめさまざまな舞台演劇にも参加している。