ナタリー PowerPush - 中村 中

ニューシングル「家出少女」で新しい一歩を踏み出す

情の深さと、潔さ。自分の心のありかを時には辛いほど見つめ、しかし表に出す際にはエンタテインメントにまで昇華する。中村 中というアーティストに対する信頼感とオリジナリティはそういう部分にあったと思う。そしてこの1年6カ月ぶりとなるシングル「家出少女」では、本質は同じでありながら、もっとストレートに剥き身の中村 中を体感することができる。

家を出るとは? 自分の心と足で歩いていくとは? エバーグリーンなサウンドとアレンジで届ける、決意表明。新たなアーティスト人生の幕を上げた今について、中村に話してもらった。

取材・文/石角友香

Twitterでつぶやく このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をクリップ!

「家出少女」ではある種の自立心みたいなものを歌った

──いきなり髪型の話で恐縮ですけど、今はショートカットなんですね。カッコイイです。

ありがとうございます。ボーイッシュとも言われますね。シングルのジャケット撮影のときに「少年にも少女にも見えるような形にしたい」ということでこの髪型にしました。レーベルや事務所を移籍したから、一緒に仕事をする人たちも変わって、心機一転というか新しい出発という気持ちにもなれました。

──なるほど。では、シングル「家出少女」についてなんですが、とにかくストレートにドスッ! と心に入ってきました。いつ頃、どういうシチュエーションで書かれた曲なんですか?

去年の秋頃ですね。私は今、母と住んでいるのですが、なんてことのない普通の会話だったんですけど、「今日は何時に帰ってくるの?」って聞かれたときに私は何時って答えられなくて。それは遊び歩いているからとか、そういうことではなく。答えられなかったのは、最近妙なニュース、特に少年少女が危ない目に遭うニュースが多いですよね。今朝は元気に出かけていったのに、夜には帰らぬ人になってしまったっていう。それに、家の中にいても安全とは言えないのかな? と思っちゃうような出来事も多い。そういうニュースを日々見せられていて、ふと「私が今日出かけてまっすぐ帰ってこられる保証なんかないんじゃないか?」と思ってしまったんです。加えて、帰ってこれなくなってしまうような時代だ、ってことを考えて生きていきたいなと感じたんです。

──即答できなかったことが発端だったと。

はい。それがきっかけになって書き始めたんですけれど、例えば家にいれば、家族が善悪について教えてくれますよね。「これ以上すると悪いことだよ」とか「これはいいことだね、もっとやりなさい」とか。でも、自分の生きる道まで親に頼ってしまってはいけない。まして、家の中でも安全が確保される保証がないような時勢だから、自分の歩む道は自分でちゃんと選んでいかないといけないと思うんです。それに、少年少女たちには、物事を自分で選択していかなきゃいけない時期がくるものですよね? だから、この曲ではそういう意味での自立心みたいなものを歌いました。

──中村さんは、優れたストーリーテラーとしての歌詞も書かれますが、今回はストレートですね。

向かいたい方向ははっきりしていたんだと思います。ちょうど新しく走り出すような時期が近かったっていうのもあったんですけど。これは私自身のことでもあって、自分が守りたい“夢”とか“憧れ”とかは、他人にとっては小さなものだったりするけど、私はそういうものを守りながら生きていきたいと思いましたし。それに、書くきっかけになった“身の危険”みたいなものは解き放っていきたいと考えてました。

この曲は再生していくようなイメージで書いた

──タイトルは時代がかった印象もあるんですけど、実際には「家を出る」ことの本質が描かれているな、と。

字面だけ見るとまるで家の中に何か問題がある少女みたいに見えてしまいますけど、歌詞を読んでもらうとわかるように、例えば「母さんの子でよかったな」って言ってたり、書き置きはちゃんと「探さないで“ください”」と尊敬語でまとめられていたりします。つまり、この子はちゃんと家族やまわりの人に愛されてる少女だと思うんです。だから、逃げの家出というよりは、挑んでいくというか、外に旅に出ていく“家出”をしている少女です。

──歌詞では、どんな職業に就きたいとか、どんなふうになりたいではなく、どうであれば自分は生きていけるか? ということが端的な言葉で書かれていますよね。

そうですね。人に流されて選んでしまったものだと、愛せないこともあると思うんです。自分で選んでいるんだっていうことが、この少女にとってすごく重要な部分なんだと思います。

──危機感が発端になってはいるけれど、温かさも感じますね。

すごく熱いものを感じます。生きることって、汗をかくことだと思うんです。この曲は、再生していくようなイメージで書いたので、すごく熱さを感じます。

──中村さんはある意味、幅広い音楽性をお持ちですが、この曲の状態はロックだなと感じました。

自分では、音楽性の幅が広いとは思わないんですけど、人には言われます。この曲は今までのどの曲よりも自分の気持ちが表れているような気はしています。

ニューシングル「家出少女」 / 2010年6月2日発売 / 1000円(税込) / YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS / YCCW-30025

  • Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. 家出少女
  2. 帰れる場所なんて、ない
  • レコチョク 着うた® 着うたフル®
  • iTunes Store
中村 中(なかむらあたる)

アーティスト写真

歌手、作詞作曲家。10代の初めからピアノを独学で習得し、高校時代からストリートでのライブ活動を展開する。2005年、インディーズからシングル「友達の詩」をリリースし、2006年に同曲を岩崎宏美のアルバム「Natural」に提供。同年6月にシングル「汚れた下着」でメジャーデビュー。同年9月には「友達の詩」をメジャー2ndシングルとして改めてリリースした。その後同年11月に3rdシングル「私の中の『いい女』」、翌2007年に1stアルバム「天までとどけ」を発表。2010年にレーベルを移籍し、6月にシングル「家出少女」をリリース。また、多くのアーティストに楽曲を提供しているほか、2009年10月上演の「ガス人間第1号」をはじめさまざまな舞台演劇にも参加している。