Technicsはいい意味で日本企業っぽくないイメージ
──DJのお話が出たのでお伺いしますが、お二人にとってTechnicsはどんなイメージですか?
NONCHELEEE 王道という感じです。
KYNE いい意味で日本企業っぽくないイメージがあります。なんかグローバル企業みたい。実際、世界中のDJが当たり前に使ってるし。
──お二人が初めてゲットしたTechnicsは?
NONCHELEEE 僕、実はTechnicsのアイテムを1個も持ってなくて。自分で買うものは王道を避けがちなんです(笑)。めっちゃピッチを変えられるターンテーブルとか、変なものばっかりで。
──関西ゼロ世代に影響を受けてるなら仕方ないと思います(笑)。
NONCHELEEE でもだからこそクラブでTechnicsのターンテーブルを使うとその安定感にビビるんですよ。僕が持ってるターンテーブルに比べると、圧倒的に音のブレが少ない。骨格がしっかりしてて「おおー!」ってなる。
KYNE めっちゃわかる。ちなみに僕はちゃんとTechnicsの製品を持ってますよ(笑)。DJ用のヘッドフォンです。
──パット部が可動する「EAH-DJ1200」ですかね?
KYNE はい。コンパクトに折りたためるから持ち運びにも便利で。
──ではお二人に持参していただいたレコードをSL-1200MK7で聴いてみましょう。
KYNEがSL-1200MK7で聴きたいアナログ3タイトル
杏里「MORNING HIGHWAY / GONE WITH THE SADNESS」
これは「COOL」というアルバムのプロモーション用の7inchシングルです。「GONE WITH THE SADNESS」はアルバムの2曲目なんですけど、1曲目からほぼノンストップでこの曲に入っていくんですよ。CDならどこまでが1曲目かわかるんですけど、LPだと溝の切れ目がないからDJで使うのがめちゃくちゃ難しい(笑)。だからこの7inchはDJですごく重宝しています。
矢野有美 「素敵なハイエナジー・ボーイ Eat You Up」
これをDJでかけるとみんな最初は荻野目洋子さんの「ダンシングヒーロー」だと思うんですよ。でも途中で「あれっ?」ってなる(笑)。あの曲はアンジー・ゴールドの「Eat You Up」のカバーなんですけど、これは矢野有美さんという方が同じく「Eat You Up」をカバーした7inchなんです。僕、バブル期にリリースされた外国曲の日本語バージョンが大好きで。この曲はDJでめっちゃ盛り上がります。中古レコード店で偶然見つけました。
プリンス「ポップライフ」
このレコードはTOWA TEIさんにいただきました。以前イベントでご一緒した時に、DJでかけたレコードを何枚かプレゼントしてくださって。僕にとってすごく大切なレコードですね。
NONCHELEEEがSL-1200MK7で聴きたいアナログ3タイトル
Byron Lee & The Dragonaires「Disco Reggae」
これは最初に買ったレゲエのレコード。バイロン・リーというジャマイカの有名なプロデューサーが率いているバンドのアルバムです。 ボブ・マーリーの「No Woman, No Cry」をラジオか何かで聴いて同じ曲のカバーが入ってるから買ったんですけど、なんか想像以上に音がペナペナで。衝撃的なガッカリ体験が逆に自分の中で忘れられない1枚になりました(笑)。高1のとき、古着屋さんで300円で買いました。
V.A.「SUPER FRESH」
レゲエを知って少ししてから、ダンスホールレゲエがヤバいということに気付いて。80年代のダンスホールレゲエのジャケってすごくかわいいんだけど、反面ちょっと不良っぽいというか。その感じにめちゃくちゃ惹かれて。ダンスホールレゲエのジャケットで有名なウィルフレッド・リモニアスっていう画家がいるんですけど、彼の作風には直接的に大きな影響を受けていると思います。ジャマイカ盤はジャケの紙質とか印刷の粗さとかも含めて大好きです。
ヨーッラック・サラックジャイ「I Don't Have A Boyfriend」
タイの大衆歌謡であるルークトゥンのレコードです。サウンドはもちろん、ジャケの色彩とかロゴのデザインとかすべてが僕好み。見るだけでやる気が出ます。モノ作りをするうえでの超イメージソースになっていますね。20代の頃に頻繁にアジアを旅してる時期があって、当時はアジアの音楽のカセットテープとかを大量に買ってました。アジアのレコードってジャケの匂いもヤバいんですよ。インクの匂いと埃臭さでインスピレーションを掻き立てられます(笑)。
レコードは触れることが大事
──SL-1200MK7の触り心地はいかがでしたか?
NONCHELEEE 操作性がしっとりしてる。シルキーだよね。改めて安心感あるなって感じました。
KYNE カシャカシャしていなくて、ズッシリしてる。ボタンの操作感もいい。
NONCHELEEE うん。押し心地のよさは超大事。こういうディテールがプレイにも影響してくると思うんです。
──レコードで音楽を聴くことの魅力を教えてください。
NONCHELEEE 僕はもともとバンドをやっていたせいか、音楽を聴くとき、どこかにプレイヤーとしての自我というか、雑念みたいなものが残っていて、聴くことへの純度が高くなかったんです。それこそ宅録イズムなのか、自分で音を劣化させてオリジナルの音源を好みのテクスチャーに変えちゃったりとか。もちろんそういう楽しみ方もいいと思うんです。でも1、2年前にDesiderataのスタッフの増尾さんが手がけた、今、今泉にあるSiroccoのサウンドシステムでレコードを聴かせてもらう機会があって、そこで打ちのめされちゃったんですよね。「音楽を聴くってこういうことか!」と。
──その感覚、具体的に教えてもらえますか?
NONCHELEEE プレイヤーがレコーディングしたものをピュアに聴けているというか。音が脳にトランスポートされてる感覚っていうのかな。それが自分にとって、ものすごくピュアなリスニング体験だったんです。それこそ自分もプレイヤーとしての経験があるから、作り手がレコーディングしたものにどんな思いを込めているのか、僭越ながら少しはわかるようになって。だからこそ音楽を聴くことに自我は必要ないと思うようになりました。ありのままを聴くというか。そこから聴くことに対して謙虚になりました。
──なるほど。
NONCHELEEE ようやく純粋なリスナーになれたというか。その意味でもレコードってやっぱり作り手の思いに、より近付けるツールだと思うんです。あと、音のクオリティもそうだし、レコードってジャケットを手に取って触れるじゃないですか。それがめちゃくちゃ大事なんです。例えばタイのレコードに染み込んだ香りとかも含めて五感で音楽を楽しめる。そういうツールだと思いますね。
KYNE わかる。触れるって大事。僕が7inchを買い始めたのも触ることがきっかけなんです。僕は80年代アイドルの写真集をコレクションしていて、中にはもう市場に全然出回ってなかったり、神保町とか専門店に行けばあるだろうけど、超プレミアがついてて気軽に買えないものも多いんですよ。レコードってたまにブックレットが付いてるものがあって。そこで写真とか当時のデザインが見られるんです。それが本当に楽しかった。しかも数百円(笑)。もちろんサブスクを否定してるわけじゃないんです。めっちゃ便利だからよく使うし。ただノンチェくんも言ってたけど、レコードを手に取って聴くとさらに作品の世界観に浸れるんですよ。あとモノを集める楽しさもありますよね。
──せっかくお金を出して買ったからにはアートワークの隅々まで見たいという気持ちにもなりますし。K-POPのCDがすごく売れているのは、今KYNEさんがおっしゃった感覚に近いと思うんですよね。パッケージがすごく凝っているので。あと、今は所有という意味で、若い子を中心にアナログが再び注目されていますよね。
NONCHELEEE “買う”という行為って出会いでもあると思うんですよ。特に中古盤になってくると、別のもの目当てでディグしてて、なんとなく気になって買ってみたら、実はそれが自分にとって重要な1枚になったり。
──買ったときは知らなくても、実はよくよく調べてみると音楽史の文脈的にも重要な作品だった、なんてこともありますもんね。
NONCHELEEE そういう曲でもサブスクにないことも多い。
──もっと言うと、昨日までサブスクにあった曲が今日は消えているというパターンだってなきしもあらずですからね。
KYNE CDで出ていない音源もありますし。もちろん検索じゃ出会うきっかけすらない。それを求めて何年も探すのも魅力だと思います。
NONCHELEEE そういうのに限って、忘れた頃に見つかるんだよね。出会い頭の衝突みたいな。ぶつかってくるんですよ。音も、ジャケもそう。スケール感がCDとは全然違う。そこが魅力なんじゃないですかね。
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Technics「SL-1200MK7」
世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。ボディはブラックおよびシルバーの2色展開。
プロフィール
KYNE(キネ)
福岡を拠点とするアーティスト。大学時代に日本画を学び、並行して2006年頃から活動を開始する。2010年頃にクールな表情の女性を描く現在のスタイルを確立。1980年代の大衆文化を独自に解釈し生まれた絵画は、国内外で注目されている。
NONCHELEEE(ノンチェリー)
福岡を拠点とするアーティスト。2015年頃に間抜けな表情の人物を描く現在のスタイルを、2018年頃に素朴な表情の建物を描くスタイルを確立させる。1980年代の大衆文化を独自に解釈し生まれた絵画が、国内外で注目されている。
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