さまざまなクリエイターに話を聞き、音楽と創作活動の分かちがたい関係を探る企画「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~supported by Technics」。第4回は昨年12月に京都・四条通りにオープンしたTechnicsのカフェ・Technics café KYOTOの内装デザインを手がけた建築デザイナー・関祐介をゲストに迎えてお届けする。
長崎・マルヒロの直営店や、ファッションブランドsacaiの旗艦店・sacai Aoyama、東京・桜新町と下北沢に店舗を構えるコーヒーショップ・OGAWA COFFEE LABORATORY、リビタのライフスタイルホテルブランド・THE SHARE HOTELSのKUMU 金沢、TSUGU 京都三条などを手がけ、海外からも注目を浴びる関。彼は学生時代からTechnicsのターンテーブル「SL-1200MK3」を愛用し、京都のスタジオではTechnicsのコンパクトサウンドシステム「SC-C70MK2」で日々音楽を楽しんでいるという。
音楽ナタリーでは、Technics café KYOTOのオープン前日のタイミングで関にインタビュー。取材の前半を京都にある関のスタジオ、後半をTechnics café KYOTOで行い、彼の音楽遍歴や、音楽と建築デザイナーという仕事の関係性、Technics café KYOTOの空間デザインに込められたこだわりなどを聞いた。
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取材・文 / 下原研二撮影 / YURIE PEPE動画撮影 / Ubird
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Technics「SC-C70MK2」
新開発のスピーカーユニットや音響レンズの最適化によって明瞭でスケールの大きなサウンドを堪能できるTechnicsのコンパクトステレオシステム。部屋の広さや置く場所に合わせて最適な音質に自動調整する「Space Tune Auto」機能を搭載している。アナログ音源のみならず、音楽ストリーミングサービス、ハイレゾ音源、CDなどの幅広い音楽コンテンツに対応。「Chromecast built-in」に対応しているアプリを使用してさまざまなサービスが楽しめる。
プレミアム・コンパクトステレオシステム OTTAVA™ F SC-C70MK2|Hi-Fi オーディオ - Technics(テクニクス)
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Technics café KYOTO
パナソニックがTechnicsサウンドの新たな体感拠点として展開するカフェ。Technics製品の中でも最上級クラス「リファレンスクラス」のオーディオ機器から流れる良質な音楽を浴びながら、こだわりのコーヒーや軽食を楽しむことができる。カフェメニューは京都の老舗ロースター・小川珈琲が監修している。
店舗情報
住所:京都府京都市中京区新町通錦小路下る小結棚町444番地 京都四条新町ビル1階
TEL:070-7817-3849
営業時間:
11:00~20:00(日~木)
11:00~22:00(金・土)
※定休日:年末年始
パンクに学んだ“ダメじゃない”感覚
──「Music & Me」は、さまざまなクリエイターに音楽と創作活動の関係についてお話を聞く連載で、これまで五木田智央さん、長場雄さん、KYNEさん、NONCHELEEEさんに登場していただきました。
おお、長場氏とNONCHELEEEくんは友達なんですよ。特に長場氏とは仲がよくて、お互い暇だった頃は近所に住んでいたから共通の友達の家に行って遊んだりしていました。まだ彼がかえる先生の名義で活動していた時期で、今の線画のスタイルにたどり着く前の話ですね。
──古くからのお付き合いなんですね。
そうそう。僕はたまに洋服を作っていて、音楽の要素が入ったグラフィックは長場氏にお願いしているんです。今日着ているパーカーのグラフィックも長場氏のデザインで、Black Flagをオマージュして作ってもらいました。ほかだとピーター・サヴィルがデザインしたJoy Divisionのグラフィックも描いてもらったんだけど、タッチがかなりゆるいからグラフィックを見て「ピーター・サヴィルじゃん」と気付く人はいないと思う(笑)。長場氏は線のアーティストですから、彼がリファレンスのデザインをどう解釈して省略するかを楽しんでいるところはありますね。長場氏のグラフィックで次回作を仕込んでいるところなので、楽しみにしていてください。
──Black Flag、Joy Divisionの名前が挙がりましたけど、関さんは子供の頃どんな音楽を聴いて育ったんですか?
なんだろう。母親が家で流してた光GENJIとかかな。初めてCDを買ったのは小学生の頃で「ドラゴンクエスト3」のサントラでした。「ドラクエ3」はただ単にゲームが面白いからやってたはずなんだけど、CDを買うってことは昔から音に対しての意識があったのかな。
──パンクもお好きだったとか。
そうですね。パンクはけっこうハマって一時期ずっと聴いてましたから。最初に触れたパンクはHi-STANDARDで、初期の作品はよく聴いてました。そこから昔の音楽を掘り下げていく中でSex Pistolsに出会うんですよ。彼らの作品にはジェイミー・リードのグラフィックが使われていたり、ファッションで言えばヴィヴィアン・ウエストウッドやマルコム・マクラーレンが関わっていて、音楽だけじゃなくてビジュアル面でも世の中に衝撃を与えましたよね。カルチャーの深さと言うか、そういう広げ方もあるんだと教えてくれたのがパンクだったと思います。
──少し話が変わりますけど、関さんはファッションブランドsacaiの旗艦店・sacai Aoyamaのリニューアルオープン時に店舗デザインを手がけていますよね。僕はあのお店のコンクリートが剥き出しになった内装や、カットしたカーペットを重ねて作った階段などのデザインからパンクの精神を感じました。
ああ、確かに。あのデザインを“ダメじゃない”と思う基準はパンクから教えてもらったことかもしれない。空間デザインの仕事をしていると、単にカッコいいと思うものを追求していると勘違いされることがよくあって。僕としては人が“ダメ”だと思う部分の解釈をどう変えるかを、店のデザインに表現として落とし込んでいる感覚なんです。例えばいろんな人に嫌いな食べ物のアンケートを取ると、何か共通項が見えてくるんですよね。だからその食べ物の嫌いなポイントを押さえておけばそれなりに嫌われないものができるだろうと考えているんです。だからカーペットの階段も突拍子のないことをやっているわけじゃなく、僕としてはあの空間を表現するための正解があのデザインなんです。
制作者の意図を知りたい
──パンク以外で最近聴いていいと思った作品はあります?
僕はパンクを通って以降、アナーキーな精神性を感じるヒップホップもよく聴いていて。最近だと舐達麻のディス曲「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」は面白かった。ビーフに至った背景や、彼らのカルチャーを感じ取ることができたし、楽曲からいろんな情報を紐解くことができてSex Pistolsを聴いていた頃を思い出しました。そのほかだとアニメをよく観るから普通にアニソンも聴くし、僕が内装を担当したSniite(東京・世田谷にあるコーヒーショップ)のスタッフがやってるWHEN I GROW UPの音源もよかった。昔のように前のめりで音楽を聴くことは減ったけど、その分、生活の中で自然に耳にしたアニソンだったり、仕事で出会った人や友人の作品を聴く機会が増えてきましたね。
──舐達麻からアニソンってかなりの振り幅ですね(笑)。ちなみにアニソンだとどんなアーティストの楽曲を聴くんですか?
特別詳しいわけではないけどYOASOBIはよく聴いてます。僕は音を情報として取り入れる傾向があって、「YOASOBIの音楽が世の中で受け入れられている理由はなんだろう?」と考えたりする。制作者として楽曲のどの部分にフックを付けようとしているのか気になっちゃいますね。もちろん音の構造とか理解できてないですよ。ただ、制作者の意図を勉強したいという欲求は常にあります。
──そういった視点から音楽を聴く中で、関さんがシンパシーを感じるアーティストはいますか?
シンパシーを感じるアーティストやバンドはたくさんいるんですけど、今興味があるのはやっぱりYOASOBIかな。彼らのバックボーンはまったく知らないけど、自分たちが周りからどう見られているとか関係なく自由に活動している気がする。僕が好きなパンクやヒップホップには、スタイルや掟のようなものがある気がしていて。そこがカッコいいところなんだけど、YOASOBIの自由さに惹かれているのかもしれない。
デザインは生活の中にあふれている
──音楽好きの少年だった関さんが、建築デザイナーを志した理由は?
僕は高校生の頃に阪神大震災を経験しているんです。崩壊した街が少しずつ復興していく、要は0からほぼ10になるまでの過程を見たんですね。そのときに「物ができていく、作られるってすごいことなんだ」という感覚は無意識に植え付けられた気がします。その経験もありつつ、当時付き合っていた彼女のクリスマスプレゼントを探して「関西ウォーカー」を読んでいたらイームズの椅子に目が留まって。その頃の僕は家や学校にある椅子しか見たことがなかったから「椅子ってこんなんやっけ?」と衝撃を受けたんです。次の日、美術の先生にその話をしたらイームズを筆頭にいろんなデザイナーが手がけた椅子を教えてくれて。さらにその先生の「関くんが履いているそのスニーカーも誰かがデザインしているんだよ」という言葉を聞いたときに、自分の身の回りにもデザインはあふれていて、それは誰かが作っているんだと知ったんです。それで、物を作れるデザイナーになりたいと思うようになりました。
──では、その頃は椅子のデザイナーを目指していた?
そう。だから最初は美大のプロダクト学科を目指していたんですよ。だけど浪人中に先輩からル・コルビュジエを教えられて、「椅子を作りたいなら空間もできないとダメじゃない?」と言われたんです。まあ、その先輩は2浪中だったんですけどね(笑)。でも2浪中の先輩の言葉って重たいし、自分が通っていた服屋は売ってる洋服だけじゃなく店内の雰囲気も含めてカッコいいなと気付いて。それで空間デザインの道に進むことを決めました。
関祐介のベストアルバム
──建築デザイナーというお仕事は基本的にクライアントの希望を汲み取って作品を作ると思うのですが、自分が表現したいこととクライアントの希望で意見がぶつかることはないんですか?
クライアントと衝突したことはないですね。以前、長崎にあるマルヒロという器屋さんの空間デザインを担当したことがあって。お店の床を器で作ったんですよ。インパクトのあるデザインで、その仕事で僕のことを知ってくれた人がたくさんいるんです。そうやって積み上げてきた実績もあるから「関祐介はこういうことをするデザイナーだ」という認識が広がって、最近はお任せでオファーしてくださることが増えてきました。
──関さんの空間デザインにおけるスタイルはどのように確立していったんですか? 例えば長場さんならミニマムな線画がスタイルにありますが、扱う対象が建築や空間という大きな規模で、なおかつクライアントワークとなるとスタイルの確立は難しいのかなと思いまして。
なんだろう……。例えば同じ業種の人間が見て「これはどうなってるの?」と感じる部分に、そのデザイナーのスタイルが宿る気がしていて。だから狙ってできることではないんじゃないかな。僕の場合、その空間が数年後にどう評価されるかは気にしていないんです。あくまでそのお店のために今どこまでやれるかを考えているので。
──その積み重ねの先にスタイルの確立があると。
そうそう。作ってるときは精一杯ですから。それに狙うってことは経験則でものを見ているわけだから、逆に面白いものは生まれないと思います。
──ちなみに関さんが手がけた空間の中で一番のお気に入りは?
どの空間も気に入ってるので一番というのはないですね。ただ現時点での集大成という質問ならそれはsacaiかもしれない。カーペットの階段は初めて作ったけど、階段に階段を作ったり、コンクリートを使って成型した什器を作ったり、あとは窓際の棚の付け方とか、今まで手がけたお店の個性的な部分を集約しているんです。だから僕にとってのベストアルバム、ベスト・グレイテストヒッツみたいな感じ(笑)。とは言え作品は過去のものにしていかなきゃいけないので、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね。
地方の工事跡に見る、時代の重なりとギャップ
──関さんはこの京都のスタジオのほかに、東京と神戸にも制作拠点をお持ちですよね。活動の拠点が複数あることで、クリエイティブに影響が出たりするのでしょうか?
影響は確実にあると思いますよ。周りの人から「移動が多くなるし、面倒くさくない?」と言われることもあるけど、体ごと移動させることでスイッチが切り替わるんですよね。視覚情報や食事の内容が変わるだけでも全然違うし、移動の新幹線で音楽を聴く時間も大切だと思っていて。考え事をしすぎて少し疲れたときは、鳥取や高松にも行くから拠点は5つですね(笑)。
──地方を選ばれているのには何か理由が?
地方の街を歩いていると工事と工事の重なりで“おかしくなっている場所”をよく見かけるんです。都心だと毎日どこかしらで工事が行われているから、街の補修サイクルが早いんですよね。それに比べて地方はめちゃくちゃ遅いから昔の現場が残っている。
──その工事と工事の重なりとクリエイティブに何か関係があるんですか?
その工事はどこの誰がやったかもわからない仕事で、どの時代とどの時代が重なっているのかもわからない。でもね、それはなんとなく重なったのではなくて、工事に関わった人の工夫や意図が必ず存在しているんです。万博のパビリオンのような規模だと意図が大きすぎるけど、生活の中で見つけた工事現場のような小さなレベルの意図が自然とインスピレーションソースになることが多いんです。
──街をそういった視点で見るようになったのは何かきっかけがあったんですか?
昔、一緒にいると街のあちこちで「あそこ見てくださいよ。面白くないですか?」とか言ってくる変わった先輩がいて(笑)。その先輩と歩いていると確かに街が面白く見えてくるんです。その影響で変わった現場を見つけると写真を撮ってInstagramのストーリーズにアップするようになって。そうすると「自分が面白いと思うのは意図の重なりなんだな」と、なんとなく理解できるようになったんです。工事にはその時代のハイテクな技術が使われているから、月日が流れて補修することになったときに、また新しい時代のハイテクが重なるわけです。さっきも話したように地方はそのギャップが激しくて面白い。こうやって言語化して初めて気付いたけど、それが僕は地方に行く理由かもしれないです。
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空間のクオリティが変わる