「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私」第1回|画家・五木田智央に聞くレコード愛

さまざまなクリエイターに話を聞き、音楽と創作活動の分かちがたい関係を探る新企画「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~supported by Technics」がスタート。第1回のゲストは、TOWA TEIやMETAFIVEなど、そうそうたるアーティストのジャケットを手がけている画家の五木田智央。彼はヘビーなレコード愛好家としても知られ、普段からTechnicsのターンテーブルを愛用しているという。「Technicsのインタビューということで即決しました」という五木田に「SL-1200MK7」でレコードを聴いてもらいつつ、これまでの音楽遍歴やレコードで音楽を聴く醍醐味などを語ってもらった。

取材・文 / 松永良平撮影 / 須田卓馬動画撮影 / Ubird

Technics「SL-1200MK7」

Technics「SL-1200MK7」

世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。ボディはブラックおよびシルバーの2色展開。

YMOで音楽の魅力に目覚める

──「レコードが好き」という感覚自体は子供の頃からあったんですか?

ありました。生まれて初めて買ってもらったレコードが「週刊少年ジャンプ」のレコード(1978年発売の「少年ジャンプ スーパー・サウンド・コミックス」)だったんですよ。連載マンガのテーマ曲とかドラマみたいなのが入ってたと思うんですけど。そのときからレコード盤はずっと好きですね。CDが出てきたときは寂しかったです。ちっちゃいし。

五木田智央

五木田智央

──初めて買ったのが「週刊少年ジャンプ」のレコードというのは興味深いですね。その頃からガジェット的というか、非音楽的な要素に惹かれていたのかもしれませんね。

そうですね。

──では、今の自分につながるような、大きな影響を五木田さんに与えてくれたレコードってなんですか?

即答しますけど、YMOです。それ以前もアニメの歌とか聴いてましたけど、影響を与えられたというと、やっぱりYMOですね。5歳上の兄貴がYMOのレコード(1979年発売の「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」)を買ってきたんです。子供の頃は兄が買ってくるレコードを聴いてる感じでした。違う傾向の音楽を兄が聴いていたら、まったく違う趣味になってたと思います。

──お兄さんはテクノやニューウェイブを当時聴いていたんですか?

そうですね。XTCやPop Group、This Heatとか、そういうのを兄貴がいっぱい買ってました。渡辺香津美さんがYMOにギターで参加してたんで、その流れでフュージョンも聴いてましたね。僕はそっち方面は面白くないなと思ってましたけど(笑)。兄貴がいないときに勝手にいろいろ聴いて、「このレコードは好き、こっちは嫌い」とかやってましたね。

──最高のライブラリーじゃないですか。

でしたね。だから変な話、同級生とは音楽の話がまったく合わなくて(笑)。兄貴とは同じ部屋だったんですけど、Talking Headsとかブライアン・イーノのポスターが貼ってあったんですよ。「このハゲのおじさん誰なの?」「ブライアン・イーノっていうんだよ」みたいな会話をしてましたね。

──もちろん音楽的な面白さや刺激もあったと思うんですけど、今、名前が挙がったようなアーティストって、ジャケットなどビジュアル面のインパクトもすごかったですよね。

印象的なジャケットがいっぱいありますよね。

兄のバンドの架空ジャケットを手描き

──特に印象に残っているレコードはありますか?

Talking Headsの「Remain In Light」は中身もジャケもいまだに好きです。あと、デヴィッド・カニンガムの「Grey Scale」というアルバムがあって、「これ何?」って聴かせてもらったら、小学生ながら衝撃を受けました。「ずっとおんなじフレーズを繰り返してるだけじゃん!」って。ミニマルという概念がまだ小学生にはないので(笑)。兄貴も「お前、こういうのが好きなんだ!」って驚いてました。いまだにあのアルバムは好きです。たぶん理屈じゃないんでしょうね。ほかの音楽と違うものを感じたのかな。

──絵を描くことと音楽がつながっていくのはいつくらいだったんですか?

兄貴が若いときにプログレっぽいバンドをやっていて、自主製作でレコードを作ったんですよ。そのとき、白ジャケットが余ったから好きに描いていいよと言ってくれて。本物のジャケは兄貴たちがシルクスクリーンで刷っていたので、余ったやつを僕にくれたんです。僕はその頃から絵やデザインに興味を持つようになっていたので、兄貴のバンドの架空ジャケットを手描きしたんです。裏にクレジットまで入れたりして。

──それがいくつくらいですか?

中学時代です。絵に関しては、幼稚園の頃から得意でした。マジンガーZとかを友達にせがまれて描いてましたね。「描いて、描いて」って行列ができてました(笑)。

アトリエ(道場)で作業をする五木田。

アトリエ(道場)で作業をする五木田。

五木田の作業机。

五木田の作業机。

──お兄さんも五木田さんに描かせてみたら「化学変化が起きるかも」と思ったのかも。

どうなんですかね? そういえば、高校生のとき、兄貴の友達のバンドが作ったカセットのジャケも描かせてもらいましたね。パソコンがない時代なので、インスタントレタリングを使ってデザインして。

──そのカセットは売り物だったんですか?

ライブ会場で売ったりしてたんじゃないですかね。

──音楽関連の作品として五木田さんの絵が世に出たのは、それが初めて?

いや、その前に芝居やパントマイムの公演のポスターとかを頼まれて描いてましたね。絵を描いて、デザインもして。ギャラをもらったのは、そのポスターが初かもしれないです。5000円くらいだったんですけど、すごくうれしかった。

──それって、内容にインスパイアされて、絵やデザインを考えてました?

そこは今も変わらないんですけど、全然関係ない絵を描いてました。でも、なぜかそれが通っちゃって。けっこうヒドい感じでしたね(笑)。大人になって「STUDIO VOICE」で、三田格さんの連載(「ハッパのフレディ・マーキュリー」)の挿絵を描く仕事をやらせてもらったんですけど、一切文章を読まないで絵を描いてましたから(笑)。

五木田がアートワークを手がけたMETA FIVE「METAATEM」のジャケット。(提供:WARNER MUSIC JAPAN)

五木田がアートワークを手がけたMETA FIVE「METAATEM」のジャケット。(提供:WARNER MUSIC JAPAN)

五木田がアートワークを手がけたTOWA TEI「LP」のジャケット。(提供:日本コロムビア)

五木田がアートワークを手がけたTOWA TEI「LP」のジャケット。(提供:日本コロムビア)

「Barfout!」の表紙で脚光を浴びる

──本格的に音楽作品のビジュアルアートを手がけるようになったのは、いつですか?

最初にやったジャケット仕事は、東京パノラママンボボーイズのゴンザレス鈴木さんがやっていたSoul Bossa Trioの1stアルバム(1994年発売の「A Taste Of Soul Bossa」)です。DJイベントのチラシを作ったときに、それをゴンザレスさんがどこかで見て、「この人にジャケットをお願いしたい」と言ってくれたのがきっかけでした。でも当時は僕、デザインの仕事について何も知らなかったんですよ。どうやって版下を作って、どこで印刷したらいいのかとか全然知らなくて。デザイン事務所に勤めてる友達にいろいろ教えてもらって、なんとかやりましたね。「本当は絵のほうが好きなんだけどな……」という気持ちもありつつ、でもレコードジャケットをデザインするなんて夢のような話だったから、うれしくはあったんですけど。

──そこからしばらくデザインの仕事を続けられて。では、今の活動につながるきっかけを挙げるとしたら?

一番大きかったのは「Barfout!」の表紙で描いたUAのイラスト(1998年発売の33号)。そこからはイラスト仕事がものすごく来るようになりました。のちのちUA本人からも、ビデオのパッケージの絵を描いてほしいという依頼が来ました。先日亡くなった信藤三雄さんのデザインでしたね。

──あの「Barfout!」の表紙はすごく有名ですね。

「Barfout!」1998年5月号(提供:ブラウンズブックス)

「Barfout!」1998年5月号(提供:ブラウンズブックス)

当時は若かったから、「こんなに仕事が来るんだ!」って思ったし、「俺、絵でいけるかも!」とも思いました。そうしたら、だんだんイラストレーターみたいな感じになっちゃったんです。デザインの仕事でも友達と2人でチームを組んでファッションの広告とかまでやり始めて、それはそれで面白かったんですけど、90年代後半くらいには自分が何者なのか、わかんなくなっちゃって。で、あるとき、デザイナーの相棒に「俺、もうデザインの仕事辞める! 絵が好きだから、絵でいくわ」って宣言しました。それから、ずーっと絵を描き続けて、それをまとめたのが作品集「ランジェリー・レスリング」(2000年)なんです。

──ちなみに絵を描いてるときに音楽は聴くんですか?

ほとんど聴かないですね。基本的にはラジオをかけながら仕事してます。音楽をかけると、どうしてもそっちに気持ちがいって、絵に集中できなくなっちゃうから。あとLPレコードって、途中でひっくり返さなきゃいけないじゃないですか。そこで作業が中断しちゃう。絵がある程度までひと段落して、「ハイ、音楽の時間!」っていうのが楽しみなんですよね。「さあ、レコードを聴こう」みたいな感じです。

──わかります。くつろいだアフターアワーズというか。とはいえ、人ってそこでリラックスできたり、ホンワカするような曲ばかり聴くわけではないのが面白いですよね。

面白いですよね、音楽って。悲しいときに悲しい曲を聴くときもありますけど、まったく逆の明るい曲を聴くときもある。あと、最近は朝もレコードを聴いてます。朝8時半くらいにここに来るんですけど、朝イチでレコードを聴いてから作業するっていうのが毎日のパターンですね。

──朝はどういうレコードを?

いろいろですよ。適当に目をつぶってレコードを選んだりもします(笑)。「今日はこれを聴かなきゃダメ」って決めて1枚選ぶんです。でも引っ張り出してみて「はあ、これか……」とがっかりしたり(笑)。

五木田智央

五木田智央

──朝聴いて、仕事して、ひと段落したら夜にまたレコードを聴いて。2つの景色を味わう感じですかね。

そうですね。