水樹奈々|6年間の“変革期”を記録したベストアルバム第3弾

百人一首クラブと「歌詞当てクイズ」

──「HOT BLOOD」は水樹さん自身が作詞を手がけていますが、なぜこちらは自分で歌詞を書こうと?

いつも通りの直感です(笑)。「HOT BLOOD」は変則的なメロディ展開にすごく惹かれて、これまでの水樹の和テイストにはない曲だなと思って選んだんですけど……和メロにハマる言葉を探すのがすごく大変なんです! 日常的な言葉だとまったくハマらなくて。「こういうことを言いたいんだけど、昔の言葉だとどう表すんだろう」と、古語辞典や「甲賀忍法帖」のときに買った昔の言葉の本を引っ張り出して、吟味に吟味を重ねて言葉を組み立てていきました。私はいつも頭から順に書いていくんですけど、最初のサビの締めで「参らん」という言葉がハマったときに「これこれ、これだーっ!」と思いました(笑)。あの決めの4文字はすごく印象に残るメロディだったので、すごく大事だぞと思っていて。

──確かに、曲調と相まってビシッと決まる感じがありますね。

はい。「参らん」でジャン!と終わって次回予告に行く感じ(笑)。あとテンポが半分の解釈になるBメロは雅な雰囲気を出したくて、いろいろ考えている中でパッと百人一首が浮かんだんです。私、小学生のときに百人一首クラブに所属していたので(笑)。Bメロは5文字、7文字……と始まるから、短歌のような言葉を選ぶと雰囲気に合うんじゃないかと思ったんです。

──なるほど。「君想う」や「君がため」は百人一首モチーフなんですね。百人一首クラブに所属していた過去が歌詞に生かされたと。

はい。人生って何一つ無駄なものはないんだなと思いました(笑)。

──歌詞には水樹さん独自の解釈で当て字にした部分も多々あって。今回ついに当て字の読み方をクイズにした「歌詞当てクイズ」企画にまで発展しました(笑)。

あははは、すみません(笑)。レコーディングの1時間前にやっと歌詞が完成して「できましたー!」と持っていったら、みんな「……ん?」って。1文字目から読めなくて固まるという(笑)。それがネタみたいになってしまったので、「じゃあ歌詞当てクイズをやろう」ということになったみたいです。

──でも長年の水樹ファンは案外読み解くんじゃないかと思います(笑)。

私もそう思います(笑)。

得意路線のようで実は難解、新機軸バラード「粋恋」

──一方、静サイドの「粋恋」は岩里祐穂さんが作詞を手がけています。

こちらは「命懸けで愛し合う2人をテーマにぜひ書いてください」と岩里さんにお願いしました。岩里さんには今回の「桜花忍法帖」の脚本と、さらに「甲賀忍法帖」までさかのぼって観ていただいたので、すごくシンプルだけど深い歌詞になっていて、歌うと自然とこみ上げてくるものがあります。

──「命懸けで愛し合う2人」というテーマを投げかけられた岩里さんは、どんな反応を示していましたか?

すぐに「わかりました」と言ってくださって。さすがです。

──この「粋恋」というタイトルはどちらが?

私が付けました。これは「ヒメムラサキ」(「バジリスク ~甲賀忍法帖~」エンディングテーマの1つ)と対になるようにしたくて、同じく花の名前にしたかったんです。でも、このメロディを聴いたときにカタカナはなんかしっくりこなくて。それで漢字にしたんですけど、主人公のピュアな気持ち、初恋を表せるようにと、純粋の「粋」を使って“粋恋”(すいれん)という当て字にしました。

「粋恋」ミュージックビデオのワンシーン。

──“睡蓮”ではなく。

はい。睡蓮には「清純な心」とか「優しさ」とか「信頼」といった花言葉があるんですけど、ほかに「滅亡」というすごく怖い花言葉もあるんですね(笑)。それが今回の作品の世界観にぴったりなんじゃないかなって。

──「粋恋」の歌については、先ほどの声の変化の話ともつながるかもしれませんが、この曲調でこのメロディだとなめらかに歌い上げる感じになりそうなところですけど、けっこう複雑な味わいがあると言うか。

そうなんです! この曲、すっごく難しいんですよ(笑)。「シンフォギア」系の曲のように起伏の激しい曲に比べると、これはとても歌いやすいように聞こえると思うのですが、かなりの曲者です。レコーディングエンジニアさんも「これは水樹さんの得意パターンだからすぐ終わりそうだね」っておっしゃってましたけど、実はすごく時間がかかりました(笑)。と言うのも、この曲はロックバラードなので、単に優しく柔らかく歌うだけではうまくハマらなくて。かといって、熱すぎてもダメ。ひと言ひと言、相手の胸に杭を打ち付けるみたいな感じで(笑)、思いの塊をねじ込むように歌いました。サビは一定の音圧を保ちながら、切なさを表現するうえでの儚さを出さなくてはならないので、相反する表現を同時にどれだけできるかの戦いです。強く歌うだけでは伝わらないし、ただキレイに歌うだけでも伝わらない。強いけど一歩引いてる、大和撫子みたいなところがないといけないから……もう「私の腹筋と喉、がんばれ!」と思いながら歌いました(笑)。

2018年は可動域の広がった水樹奈々を

──最近は連日ライブのリハーサルとのことですが(取材は12月中旬に実施)、ベストアルバム発売翌日の1月11日には日本武道館で合計7公演のライブ「NANA MIZUKI LIVE GATE 2018」がスタートします。最後にこのライブについて聞かせてください。

はい。ライブの開催を発表したときに「水樹奈々 7DAYS バケモノ」という検索ワードが出てきましたけど(笑)、これは数年前に日本武道館でファンクラブイベントをやらせてただいたときに、「ここで7DAYSができたら楽しいよね! 実現させたいね!」なんてMCで話していたんですね。それを聞いていたライブのスタッフさんが、「いいですね!」とすぐに交渉してくださったんです。半分本気、半分冗談の勢いで言った言葉だったので、まさか本当に武道館を1週間も借りられるなんて。ビックリしました(笑)。

──しかも7日間ライブを行ったうえで、誕生日に千秋楽が迎えられる日程が抑えられるなんて。

そうなんですよ! これはまさにご縁!きっと神様がご褒美をくれたんだなって。普段は土日を中心にライブをやっているので、平日にも公演があって、ほぼ連続的にライブをやるというのは自分としては未知へのチャレンジだし、体力が持つのかという心配もあります。本当に7日間押さえられたと聞いたときは、うれしい反面ちょっと不安もあったんですけど、やっぱり願ってもないチャンスなので「ぜひやらせてください!」とお願いしました。決まってからは、体力作りをどうやっていくのか、トレーナーさんといろいろお話をして。

──複数公演と言えど普段のツアーとはまったく違うでしょうね。日程は連続しているし、同じ会場で何度もやるというのは。今までの経験値では対応できないところも出てくるかもしれない。ただ、もしかしたらこれってミュージカルの感覚にも近いんじゃないでしょうか。

そうですね。楽屋を自分色に染めてもいいのかなって(笑)。帝国劇場では、楽屋に荷物を置きっぱなしにしてもいいというシステムに私はすごくびっくりして。楽屋にイルミネーションを付けている方もいれば、バーみたいになっている方もいて(笑)。皆さん「1カ月ここに住んでいるようなものだから、自分が一番リラックスできる空間を作ればいいんだよ」とおっしゃっていて「なるほどな」と思いました。私はほとんど初期設定のまま使っていたので、武道館ではリベンジをしようと思います(笑)。

──演出的にどういうライブになるのかは……お話しいただける範囲で教えてもらえますか?

武道館という会場は、あんなにたくさんのお客さんが入れるのにギュッと距離が近いという特性があるので、より音楽でつながれるライブにしたいなと思っています。シンプルにそぎ落とした形……武道館というと“ロックの聖地”というイメージが私にはあるので、ゴリゴリに攻めていく骨太な感じで構成したいです。なので、これは先に言っておきますけど、今回飛んだりはしません!

──あはははは(笑)。宙を舞ったり巨大な飛行機が出てきたりはしないと。

はい(笑)。今回はそういう見せ方じゃないなと思ったんです。できるだけシンプルにして、皆さんと思いっきり歌でコミュニケーションをとる、ストレートに音楽でつながるライブにしたいです。ミュージカルの経験も大きいですけど、体1つでどこまで表現できるか。あの経験をライブでも生かしてみたかったんです。攻める曲が多いので、皆様も体力作りをしっかりとお願いします(笑)。

──では最後にもう1つだけ。2018年はどんな1年にしたいですか?

そうだなあ……実は最近、ちらほらお話してるんですけど、自分の体の内側をもっと知りたくて、クラシックバレエを習い始めたんですよ。クラシックバレエはすべてのダンスの基本で、海外ではトレーニングに組み込まれていたりするらしいんです。「体の使い方がもっとうまくなりたい」と、急にやりたくなって、10月末に始めたんです。「なんで今!?」ってみんなに言われますけど(笑)、今だからこそやりたいんです。トレーニングである程度筋肉が付いて、だいぶ可動域が広がってきたので、もっともっと自分の体のことが知りたくて。ずっと苦手意識のあったダンスがそれでカッコよく決まるようになったら、ステージングも変わってきたりするのかなって。2018年は……もっと可動域の広がった水樹奈々と言うか(笑)、より身軽な、ステージ上をもっと自由に動き回る水樹奈々を観てもらいたいです。

水樹奈々「THE MUSEUM III」
2018年1月10日発売 / KING RECORDS
水樹奈々「THE MUSEUM III」CD+Blu-ray

[CD+Blu-ray]
3780円 / KIZC-437~8

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水樹奈々「THE MUSEUM III」CD+DVD

[CD+DVD]
3780円 / KIZC-439~40

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CD収録曲
  1. Synchrogazer
    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:上松範康(Elements Garden)]
  2. METRO BAROQUE
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:やしきん / 編曲:中山真斗(Elements Garden)]
  3. BRIGHT STREAM
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  4. Vitalization
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:上松範康、菊田大介(Elements Garden)]
  5. 禁断のレジスタンス
    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:加藤裕介]
  6. エデン
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤森真一(藍坊主)/ 編曲:藤間 仁(Elements Garden)]
  7. Angel Blossom
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:光増ハジメ / 編曲:EFFY]
  8. Exterminate
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤田卓也 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  9. STARTING NOW!
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤田卓也 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  10. Destiny's Prelude
    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:加藤裕介]
  11. TESTAMENT -Aufwachen Form-
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  12. HOT BLOOD
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:山田竜平 / 編曲:加藤裕介]
  13. 粋恋
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲:K-WONDER、SAS3 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  14. Preserved Roses / T.M.Revolution×水樹奈々
    [作詞:井上秋緒 / 作・編曲:浅倉大介]
  15. 革命デュアリズム / 水樹奈々×T.M.Revolution
    [作詞:Hibiki / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  16. 花は咲く ~アニメスター・バージョン~ / 山寺宏一&水樹奈々
    [作詞:岩井俊二 / 作・編曲:菅野よう子]
  17. えがおは君のためにある
    [作詞:篠原勲、市川勇嗣 / 作曲:篠原勲 / 編曲:石戸谷斉]
Blu-ray / DVD収録内容
  • 「粋恋」MUSIC CLIP
  • at SUGA SHIKAO 20th ANNIVERSARY「スガフェス!~20年に一度のミラクルフェス~」
    1. ETERNAL BLAZE
    2. はじまりの日 feat. Mummy-D
    3. 恋想花火
  • 水樹奈々のMTV Unpluggedを科学する -Special Edition-

公演情報

水樹奈々「NANA MIZUKI LIVE GATE 2018」
  • 2018年1月11日(木)東京都 日本武道館
  • 2018年1月13日(土)東京都 日本武道館
  • 2018年1月14日(日)東京都 日本武道館
  • 2018年1月16日(火)東京都 日本武道館
  • 2018年1月18日(木)東京都 日本武道館
  • 2018年1月20日(土)東京都 日本武道館
  • 2018年1月21日(日)東京都 日本武道館 ※ライブビューイングあり
水樹奈々(ミズキナナ)
愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2013年には初の台湾公演を行い、海外へも活動の幅を広げている。2016年9月には長年の夢として掲げていた兵庫・阪神甲子園球場でのワンマンライブを実現させ、12月には通算12枚目となるオリジナルアルバム「NEOGENE CREATION」を発表。2017年1月より全国ツアー「NANA MIZUKI LIVE ZIPANGU 2017」を開催し、4月には島根・出雲大社東神苑でスペシャルライブ「水樹奈々 出雲大社御奉納公演」を行った。7月には2枚同時シングル「Destiny's Prelude」「TESTAMENT」を2枚同時にリリース。7月から8月にかけて東京・帝国劇場で上演されたブロードウェイミュージカル「ビューティフル」では平原綾香とのダブルキャストで主人公のキャロル・キングを演じた。2018年1月にはベストアルバム「THE MUSEUM III」を発表し、合計7日間におよぶ東京・日本武道館公演「NANA MIZUKI LIVE GATE 2018」を行う。