水樹奈々インタビュー|デビュー25周年を飾るアルバム完成!“攻め”と“安心”が共存する意欲作

水樹奈々のニューアルバム「CONTEMPORARY EMOTION」が3月19日にリリースされる。

声優として常に第一線で活躍を続けている彼女だが、2000年12月の1stシングル「想い」リリースから25年、アーティスト水樹奈々は声優業と並行してコンスタントに楽曲を作り続け、ついに通算15枚目のオリジナルアルバムを完成させた。アニバーサリーイヤーを飾る力作を、水樹はどのように作り上げたのか。本人にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 西廣智一

転んでもただじゃ起きない

──コロナ禍に制作された前作「DELIGHTED REVIVER」は、今振り返ってみると水樹さんの中でどんな1枚でしたか?

本当にまだ光が見えない中、もがきながら打開策を求めて必死になり、みんな手探りで少しずつ前に進んでいた時期だったので、もどかしさや苦しさ、悶々とした気持ちがあの1枚にはものすごく詰まっているなと今でも思います。だからこそ、改めて聴き返してみても「ここで負けられない!」という力強さや根性みたいなものがすごく伝わってくるんですよね。

水樹奈々

──ああいう時期だからこそポジティブさを強く打ち出すこともできたはずだけど、水樹さんはネガティブな感情も包み隠さず表現していて。僕は「DELIGHTED REVIVER」を非常に生々しい1枚だと思っていましたし、だからこそ水樹奈々というアーティストは信用できる表現者だなと実感しました。

ありがとうございます。私は嘘をつけなくて感情が全部顔に出ちゃうので、人狼ゲームとかできないタイプなんですよ(笑)。これまでもストレート1本で勝負してきたので、気付いたらこのスタイルになっていましたね。ちょうど自分の20周年のタイミングでコロナ禍に突入し、ライブが全部ストップしてしまい本当に悔しい思いをしたので、その感情を全部制作に込めたというか。「転んでもただじゃ起きない」じゃないですけど、その気持ちがあるからこそ皆さんと次に会えたときはものすごいエネルギーを放出することができるんじゃないか、そのためには溜まりに溜まったエネルギーをいい方向に昇華させようと考えたんです。

──そういう感情を落とし込んだ作品を、今度はライブで披露するわけじゃないですか。リリース以降、徐々に状況が好転していく中で、楽曲と向き合うご自身の感情も少しずつ変化していったのかなと思います。

そうですね。「DELIGHTED REVIVER」リリース直後に「NANA MIZUKI LIVE HOME 2022」というツアーを回っているんですけど、そのときはまだコールとかできない状況だったので、皆さん拍手で応えてくださって。最終的には無事にツアーを全公演開催できたという喜びもあり、あの時期に作った曲をちゃんとステージから皆さんに届けられたことも自信につながりました。とはいえ、水樹のライブといえばお客さん参加型で、みんなの声があって初めて完成すると思っているので、それがない寂しさももちろんあって。なので、「この状況が緩和されたらここに声が入ってくるのかな」とか、そんなことを想像しながらステージに立っていました。もちろん、曲を届けられる喜びと同時に悔しさや悶々とした気持ちもありましたけど、そのネガティブな感情も最終的には「早く完成形を見せたい!」というポジティブなものにどんどん転換されていった気がします。

混沌とした「なんでもあり」な世界はアニソンに似ている

──その後、2023年にはさいたまスーパーアリーナでの2DAYS公演「NANA MIZUKI LIVE HEROES 2023」や声出し解禁後初の全国ツアー「NANA MIZUKI LIVE PARADE 2023」、2024年には全国アリーナツアー「NANA MIZUKI LIVE JUNGLE 2024」と公演の数も増えていきますが、その合間にニューアルバム「CONTEMPORARY EMOTION」の制作も進めていたわけですよね。

実はチーム水樹にしては珍しく、「DELIGHTED REVIVER」を完成させてすぐに今作の制作に入ったんです。というのも、このアルバムが私の歌手デビュー25周年イヤーという節目のタイミングにリリースされることが決まっていたので、だったらそこへ向けて早めに着手して、練りに練ったものにしたいよねと。私も一度じっくり時間をかけて作り上げるということをやってみたかったので、提案してみたんですが……結果的にいつも通り、最後は締め切りに追われていました(笑)。

──「さすがに余裕を持って完成させられるだろう」と思っていたら、こだわりすぎてしまった?

そうですね。「DELIGHTED REVIVER」以降の2年半で、世の中が少しずつコロナ禍前の状況に戻り、でも昔とはまた違った形に進化していったじゃないですか。だからこそ、いろんなものの境界線が曖昧になり始めているというイメージがあって。例えば、SNSの普及によって世界中の情報がすぐ手に入るようになり、さまざまなことがボーダレスになったけど、混沌とした状況もあって。でもポジティブに捉えれば「なんでもあり」。そういう今の状況を表せる1枚にしたいなと、まずは考えました。

──なるほど。

その「なんでもあり」って、まさにアニソンもそうじゃないですか。いろんなジャンルが融合するという自由が許されているのが、アニソンの魅力であり個性である。私自身もこの25年でたくさんのアニソンを歌い、そこでいろんな経験をさせていただきました。すごく面白くて個性的な世界だと思っているんです。そんな私が25周年という節目にアルバムを作るなら、水樹のルーツである歌謡曲や演歌の歌謡メロにアニソンらしいごちゃ混ぜ感の強いアレンジを融合させて、なおかつ新しいチャレンジにもトライしつつという、今の時代を象徴するような1枚にしたいなと思いました。「DELIGHTED REVIVER」を作り終えてすぐにコンペ第1弾の曲が届いたんですけど、2曲目「Electric Trick」と10曲目の「Blueprint」はその中にあった曲。最初にこの2曲と出会えたことで「これでいいアルバムが作れるぞ!」と確信できたので、制作の初期段階から迷わず突き進んでいけたところもあります。

水樹奈々

ボカロPとのコラボで“攻め”の決意表明

──今作のサウンドやアレンジにおいてはエッジの効いた現代的なテイストが強い曲も多いですが、どれもメロディは水樹奈々らしさ全開なので聴いていて安心感が強いです。

そう言っていただけるとうれしいです。すべてにおいて奇をてらうのではなく、ベースの部分がブレることなくいかに新しい要素を組み込んでいけるかがとても重要で。これまで水樹を応援してくださった皆さんに「そうそう、これ!」と安心していただける要素がありつつ、「お、こう来たか!」とか「まだこのジャンル、やってなかったんだ!」というアプローチも仕掛けられたらと思っていました。今作で新たに水樹の音楽に触れる方には「水樹奈々の音楽の引き出しって、どうなってるの?」と面白がっていただきたいですし。アルバム1枚の中にいろんなジャンルがごちゃ混ぜになっているからこそ、入り口はとても広いと思いますし、だけど聴き込むとちゃんと水樹らしさが伝わるという、そういう名刺代わりのような作品を目指したところはあります。

──納得です。にしても、今作は1曲目の「拍動」からしてこれまでの水樹作品にない曲調で驚かされました。

私も「まだ自分の中にこんな引き出しがあったのか」とびっくりしました(笑)。「#コンパス2.0 戦闘摂理解析システム」という作品が、ボカロPの皆さんとコラボして曲を作るというコンセプトで。アニメ制作サイドの方から「水樹さんにぜひオープニング主題歌を歌っていただきたいんですけど、ボカロPの方と一緒に作っていただけないでしょうか」とオファーをいただいて、「ぜひ!」とすぐにお返事しました。ボカロPの皆さんが作る音楽って、すごく早口で「ブレスをいつするんだろう?」っていうところとか、「もはや人が歌う曲じゃない!」みたいな状態になっているところとか(笑)、どことなく私の曲と共通するところがあると思っていたんです。いつかコラボレーションする機会があったら面白いなと思っていたところ、すごく素敵なご縁をいただきまして。打ち合わせの際に「作品との親和性が高い方々でお願いします!」とお答えしたんですが、その際に「このお二人と水樹さんの間でどんな化学反応が起こるのか、ぜひ見てみたい」と堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さんとGigaさんの名前が上がったんです。

──お二人ともとても旬な売れっ子ソングライターですよね。

曲を書いていただけるとは思ってなかったですし、まさか曲をブラッシュアップさせるために何度もリテイクしてくださるとも思っていなくて。例えば、「サビをもうちょっと水樹らしいドラマチックな二段構えにしたいんです」とか「歌謡メロディというか歌い上げるような要素も入れてもらえたらうれしいです」とか「ここはもうちょっと激しくしたいです」とお願いしたら、それに快く応えてくださったんです。特にサビは4パターンも作ってくださって、「これだ!」っていうものができあがるまでお付き合いしていただいて、本当にありがたかったです。

──サウンド自体はもちろんのこと、水樹さんの歌唱面においてもラップに挑戦していたりと、新鮮さが伝わります。

この曲、実は仮歌が日本語じゃない言葉で入っていて、それがまたカッコよくて。「私、こんなふうに歌えるかな?」ってすごく不安だったんですけど、とにかく練習を重ねて挑みました。堀江さんからは「大丈夫ですよ、ちゃんとサマになってますよ!」と励ましていただきました(笑)。

──あのラップパートは言葉の置き方が普段の水樹さんの楽曲とは全然違うから、より新しさが伝わってきました。

私が作詞したらこういうはめ方にならないですし、堀江さんだからこそ、この世界観にバシッとハマる言葉になったと思います。サウンド自体もデジタルなダンスサウンドなんですけど、そこにロックバンド風の歌詞が乗っているので、この譜割りじゃないと(リズムを)食ったり母音を強調するような歌い回しは難しいんじゃないかなと。まだまだチャレンジをし続けるぞ、攻め続けていくぞという決意表明のような1曲になりました。なので、これは絶対1曲目に置きたいと思ったんです。