水樹奈々のベストアルバム第4弾「THE MUSEUM IV」が1月21日にリリースされた。前作から約8年というスパンで届けられた本作には、水樹にとって初のデジタルシングルとして2018年に発表された「BLUE ROSE」から、2024年4月発売のシングル「ADRENALIZED」までの14曲に加え、テレビアニメ「魔法少女リリカルなのは」の初代オープニングテーマとして長年愛される2004年の楽曲「innocent starter」のリアレンジバージョンと、水樹の地元である愛媛県新居浜市の太鼓まつりのテーマソング「ちょおうさじゃ」のカバーも収録。タイアップ曲を数多く含むシングル集でありながら、常に進化した姿を見せたいという水樹の貪欲な挑戦をたっぷりと楽しめる1枚だ。
昨年末にアーティストデビュー25周年を迎えた水樹。音楽ナタリーではデビュー記念日の12月6日より全国ツアーで各地を回っている彼女にインタビューを行い、「THE MUSEUM IV」収録曲に対する思いや「THE MUSEUM」シリーズにまつわるエピソード、2026年の目標などを語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一
ツアー初日に迎えたアーティストデビュー25周年
──昨年12月6日に全国ツアー「NANA MIZUKI LIVE VISION 2025-2026」がスタートしました。現時点(※取材は12月中旬に実施)では北海道と地元愛媛での公演が終了していますが、手応えはいかがですか?
とにかく楽しいです! 1年半ぶりのツアーですし、昨年夏にライブがなかった分、待ちに待ったという気持ちが自分の中でも大きくて。それに、昨年3月に発表したアルバム「CONTEMPORARY EMOTION」(参照:水樹奈々インタビュー|デビュー25周年を飾るアルバム完成!“攻め”と“安心”が共存する意欲作)の新曲をやっとみんなに生で届けられる喜びもありますし、加えてアーティストデビュー25周年を記念したツアーでもあるので、溜めに溜まったエネルギーを爆発させているところです。特に、20周年のときはコロナの影響でツアーが中止になってしまいましたし、今回は思いきりみんなとお祝いできるぞ!という、喜びと幸せに満ちた時間になっています。
──アルバムリリースが3月だったので、けっこう焦らされた感もありましたものね。
ですよね(笑)。私も早くライブで届けたいっていう気持ちが強かったので、この9カ月が本当にもどかしかったです。その分、どの会場も常夏のような暑さですよ(笑)。
──ツアー初日の12月6日はアーティストデビュー25周年当日でしたし、そりゃ盛り上がらないわけにはいかないですよ。
デビュー記念日当日にライブっていうのもなかなかないことなので、本当に幸せだなと思いました。でも、私的には「25周年当日」の喜びよりも、無事にツアーの幕を開けて、皆さんに喜んでいただけるステージを届けられるかどうかという、「ツアー初日」の緊張感のほうが大きくて。
──初日ですし、思いもしないトラブルが起こる可能性もゼロではない。その緊張感のほうが勝っていたと。
やっぱり初日って演出関係含め、すべてをスムーズに進行することができるかという緊張感があって。もちろんしっかりリハーサルをして、それぞれのセクションもしっかり確認をしてきているんですけど、それでもライブは生ものですから何が起きるか予想できない。実際にやってみないとわからないこともたくさんあるので、無事にやりきれるのか?というところへの意識がどうしても強くなってしまうんです。なので、ダブルアンコールでデビュー曲の「想い」を歌って、みんなから改めて「おめでとう!」という歓声をいただいたときに、ようやくデビュー記念日を噛み締めることができました。
──やっとホッとできたと。
それまで「油断してはいけない、隙を見せてはいけない」と張り詰めていたので(笑)。直前のMCで「感謝の気持ちはいくら言葉にしても足りないので、この25年間を私と一緒に走り続けてサポートしてくれた皆さんへの感謝の気持ちを、この曲に込めます」とお話しして、それから「想い」を歌い始めたんです。「北海道でこんなにたくさんの人にお祝いしてもらいながら、25年前のデビュー曲を歌えているってすごいことだな。デビューしたばかりの、20歳の頃の私はそんなことを思い描いていただろうか」とか、その短い曲の間にワーッといろんな情景が浮かんできて。これからも1曲1曲、1ステージ1ステージを大事にしながら、皆さんに届けていきたいなと改めて決意することができた、大切な瞬間になりました。
──そうだったんですね。
無事、北海道での初日を終えて「ああ、幸せな時間だったなあ」って、少しだけ肩の荷が下りて。帰りの飛行機の中でブログの内容を考えながら余韻に浸るみたいな、そんな25周年記念日でした。
いろんな変化を感じられる1枚に
──そのアーティストデビュー25周年を経て届けられたのが、今回のベストアルバム「THE MUSEUM IV」です。「THE MUSEUM」シリーズが前作から8年も経っている事実にびっくりしました。
ベストアルバムはシングル曲がある程度そろわないと出せないので、やっぱりそれくらいの間隔が空いてしまいますよね。特にここ10年くらいは音楽シーン自体がCDから配信へと移行していって、CDシングルをリリースするペースも以前とは変わりましたし、それに取って代わってデジタルシングルという形態も新たに生まれて。またこの8年の間には世の中的にも、コロナがあったり、自分自身もプライベートで変化を迎えたタイミングでもあったので、いろんな変化を感じられる1枚になったなと思います。
──確かに、前作以降の8年間は世の中や音楽業界、そして水樹さん自身が大きな変化を迎えた期間でしたものね。
そうなんです。私自身の変化も、マスタリングのときにリリース順に並んだ1曲目からじっくり聴いてみたら、その歌声から如実に感じることができました。それは自分の心境だったり歌い方や声の出し方だったり、いろんな変化なんですよね。
──楽曲自体も、どんどん過剰さを増していますよね。
「THE MUSEUM III」をリリースしたときに「自分は生真面目なタイプだけど、枠にとらわれないような表現ができるようになってきた」という話をしたと思うんですけど、さらにその上があったんだなってことがわかってきたのが、今回の「THE MUSEUM IV」の期間でした。よく周りの先輩方から「40代からが楽しいよ」とか「50代はもっと楽しくなるから」みたいな話を伺っていたんですけど、その意味がようやくわかってきたというか(笑)。自分の中での「水樹奈々はこうでなくてはならない」みたいなイメージに対して、軸はブレることなく「もっと遊んでもいいんじゃない?」と冒険心が芽生えてきたのが、この8年間だったのかもしれません。
十八番よりもサプライズを
──今作に収録された既発シングル曲にはすべてタイアップが付いています。水樹さんにアニメの主題歌を求める側は水樹さんのパブリックイメージに基づきつつ、その作品に寄り添った楽曲をオーダーすると思いますが、そのうえで冒険的なことにチャレンジする、その舵の切り具合がより激しくなっている印象もあります。
私だけでなくチームみんなが「守りに入りたくない。もっと新しいものを見たいし、もっと楽しいことをやりたいよね」という傾向にあって。以前と違うのは、あれこれ試してただ猪突猛進に突き進むんじゃなくて、自分のルーツをちゃんと大事にしながら攻めていること。その要素がより明確になったのが「THE MUSEUM IV」に収録された楽曲で、メロディだけを抽出して聴くと完全に水樹のベースにある歌謡曲なんですよね。その分、サウンドやアレンジでいろいろ試してみることで、軸がブレることなく新しいものを生み出せているのかなって。
──前回のインタビューで「アニソンはなんでもあり」とおっしゃっていましたが、まさにその姿勢を体現した楽曲の数々が収録されていると。
そうですね。特にこの8年間は新たな作家チームとの出会いもありましたし、皆さんのエッセンスを私の音楽と融合させることでまた新たなものが生まれて。まだまだ見たことない世界がたくさんあるんだなと、より楽しくなったのがこの「THE MUSEUM IV」の期間です。未来に対してさらに希望が持てる1枚になったなと思います。
──聴いた瞬間に「水樹奈々の楽曲」だとメロディや歌からしっかり伝わるものの、おっしゃるようにサウンドやアレンジに新たなエッセンスが加わることで、25周年を迎えた今も安定感より新鮮さが強く伝わってくる。その姿勢をシングル曲で貫いている事実が、本当にすごいなと思います。
そう言っていただけるとうれしいです。やっぱり「水樹奈々といえばこれ!」みたいな十八番的なものも大事だと思うんですけど、常に「サプライズを!」という気持ちが強くて。いい意味でみんなの期待を裏切り続けられるよう、ギリギリのラインを攻め続けたいんです。もちろん定番の心地よさも必要ですが、それだけだともの足りないと思ってしまう自分がいて。それならその定番の奥行きを広げていくアプローチを取り続けていけば、そのどれもが定番になっていくのではと。熱い曲だけが水樹の定番ではなく、ポップな曲やキュートな曲、はたまたジャズテイストの曲や和風ロックな曲もあったりする。「どれもジャンルが違うんだけど、どれも水樹奈々なんだよね」と言ってもらえるような音楽を増やすことを、ずっと続けていきたいです。
──そうやって定番の奥行きを広げていくことが、シングル曲の宿命でもあると。
そうかもしれません。例えば、アニメなどのタイアップで「水樹さんでお願いします」とご指名いただくときって、「マイナーキーでアップテンポ、ゴリゴリのロックで」とか、「ストリングスが入ったシンフォニックなアレンジで、切なさもあって、歌い上げるような曲」といったオーダーをいただくことが多くて。
──ある意味、それが水樹奈々というアーティストが歌うアニソンのパブリックイメージなわけですものね。
そうですね。でも、私としては「また同じタイプの曲か」じゃなくて「次はこう来たか!」と驚いてもらいたいし、喜んでもらいたい。なので、毎回「そうするにはどうしたらいいか?」との戦いなんです。いただいたオーダーと自分の考える新しい挑戦を踏まえた結果が、定番の奥行きを広げることにつながるんだと思います。
──金太郎飴を作り続けるんじゃなくて、どんどん味変しているような。
それです(笑)。ベースは変わってないけど、そこにいろんな味変要素が加わっていくことで、絶妙なハーモニーや素晴らしいマリアージュを見つけていけたら面白いなと思っています。



