水樹奈々|6年間の“変革期”を記録したベストアルバム第3弾

水樹奈々の3作目となるベストアルバム「THE MUSEUM III」が1月10日にリリースされた。2012~17年のおよそ6年の間に発表された全シングルの表題曲に、T.M.Revolutionとのコラボレーション楽曲や山寺宏一とのデュエット曲、水樹の地元・愛媛で開催された「愛顔(えがお)つなぐえひめ国体・えひめ大会」のイメージソング「えがおは君のためにある」、そして現在放送中のテレビアニメ「バジリスク ~桜花忍法帖~」のために制作された新曲2曲を加えた合計17曲が収められている。

声優デビュー20周年を迎えた2017年には、全国ツアーや島根・出雲大社東神苑での特別公演、2枚のシングルリリース、キャロル・キングの半生を演じる主演ミュージカル「ビューティフル」など精力的な活動を行ってきた水樹。2017年の暮れに行った今回のインタビューでは、実り多いこの1年を振り返ってもらいつつ、ベストアルバムに凝縮された6年間の音楽活動を通じて起こった自身の変化、そして開催を間近に控える東京・日本武道館での7DAYSライブ「NANA MIZUKI LIVE GATE 2018」について、それぞれじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃

3週間でセットリスト総入れ替え

──2016年末のインタビュー(参照:水樹奈々「NEOGENE CREATION」インタビュー)でも1年を振り返ってもらいましたが、2017年はどんな1年になりましたか?

いやあ……特濃です(笑)。濃かったですー。2017年は声優デビュー20周年という節目の年でもあったので、いつも以上に精力的に活動したいという思いがあって。まずは“7(奈々)”つながりで1月7日からツアー(参照:水樹奈々が巨大な翼を背に歌い、屋内で盛大花火!「ZIPANGU」ツアー千秋楽)が始まり、ツアーが終わった3週間後には出雲大社での御奉納公演があり。

──ツアーは「ZIPANGU」というタイトルの通り和をモチーフにした演出が軸になっていて、御奉納公演もその流れになるのかなと思ったら、こちらは縁結びの神様にちなんだラブソング満載のライブでした(参照:水樹奈々、出雲大社で神話的な縁結びラブソングを熱唱)。

水樹奈々

御奉納公演のお話は、ちょうど「絶対的幸福論」(アルバム「NEOGENE CREATION」収録曲)のミュージックビデオの最終チェックをしていたときにたまたまご連絡をいただいたんです。「絶対的幸福論」はプロポーズするときの心境を歌った曲なので、何か引き寄せられるようなご縁を感じて。「これはぜひやらせていただきたい!」と思って「今ご連絡をいただいたということは、タイミングは来年の秋ぐらいでしょうか」と聞いたら「いえ、3月末から4月頭で」と(笑)。ツアー直後のタイミングではあったんですけど、なかなかこんな機会はないですし。それに、夏にはミュージカルに挑戦することも決まっていたので、ツアー後、2017年はライブがないという寂しさもあり、20周年はみんなと水樹奈々楽曲で触れ合える機会をできるだけ多く持ちたいとも思っていたので「ぜひやりたいです」とお返事しました。

──とは言え、ツアーから立て続けとなると水樹さんのみならずバンドの皆さんも大変ですよね。

振り返ると、初めての御奉納公演(参照:水樹奈々、秋の平安神宮で奉納ライブ「蒼月之宴」)も直前にツアーがあったんですけど、そのときは千秋楽の2週間後だったんですよ。であれば、チーム水樹なら3週間あれば全部セットリストを変えてできるだろうって(笑)。「過去の自分たちにできたのなら、今ならそれ以上のことができるはず」という私たちの負けず嫌い精神が働いて、ツアーとは1曲もかぶらないセットリストになりました(笑)。タイトルの「月花之宴」は平安神宮の「蒼月之宴」からの流れを汲んで付けたものですけど、「月花」という言葉には「寵愛する」という意味があるんです。縁結びの神様の前で曲たちを愛でるように楽しむライブにしたいという思いも込めました。さらに、私の曲には月や花をモチーフにした楽曲がたくさんあるので、その2つをキーワードにセットリストを組めば、これまでにない珍しい布陣になるんじゃないかなって。

──準備は大変だったでしょうけど、百戦錬磨のチーム水樹ならむしろその状況を楽しんでいそうですね。

楽しんでました(笑)。「エタブレ」も「パワゲ」も(「ETERNAL BLAZE」と「POWER GATE」。いずれも水樹のライブで人気の高い楽曲)ないワンマンライブはなかなかないので、私たちにとっても新鮮でした。

「シンフォギア」と「なのは」

──御奉納公演のあと、7月にはシングル「Destiny's Prelude」「TESTAMENT」の2枚同時リリースがありました(参照:水樹奈々がシングル2作同時発売、「シンフォギア」OP曲&劇場版「なのは」主題歌)。

そうですね。御奉納公演が終わったら待ったなしでレコーディングへ突入でした(笑)。

──「Destiny's Prelude」は「魔法少女リリカルなのは Reflection」、「TESTAMENT」は「戦姫絶唱シンフォギアAXZ」と、水樹さんがシリーズを通じて関わる2作品のテーマソングで、歌詞はどちらも水樹さん自身によるものでした。

どちらも思い入れの強い作品ですし、続編ならではの難しさがあるので、作詞にはすごく苦労しました。前作からの意志を継ぐものにしたいし、でも新しい切り口にしたいし……それは歌詞においても曲選びにおいてもそうで。フレーズを聴いただけで「あ、これはなのは曲」「これはシンフォギア曲」とわかるようなカラーがある曲にしたい。でも「同じだね」と言われることもないように。作品のカラーは出しつつも新しい挑戦が感じられる、この塩梅がすっごく難しかったです。

──歴史を踏まえた2作品の新作が20周年のタイミングで同時に巡ってきたというのも、いい流れですね。

しかも“7”の月に2枚同時に出せるなんて(笑)。今回のベストアルバムには「Synchrogazer」(2012年1月発売。テレビアニメ「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズ第1作オープニングテーマ)から始まって「TESTAMENT」まで、「シンフォギア」シリーズのテーマソングが全部入っているんです。「なのは」関連の曲も3曲入っていて。今の自分の活動の核になっていると言える2作品の最新楽曲を2曲、この節目にリリースできたことも巡り合わせだなあって。

ミュージカル「ビューティフル」の収穫

──そしてシングル2作同時発売の直後、7月から8月にかけては、水樹さんが平原綾香さんとのダブルキャストでキャロル・キングを演じるミュージカル「ビューティフル」が上演されました(参照:水樹奈々×平原綾香 ミュージカル「ビューティフル」特集)。ここでまだ半年ちょっとという(笑)。

ホント濃いですよね(笑)。

──ミュージカルを通して、アーティスト活動とは異なる部分、フィードバックできるような収穫や気付きはありましたか?

「ビューティフル」という作品を通して改めて感じたのは、「やっぱり歌にはその人の生き様が出るんだな」ということですね。曲作りって、自分の心が丸裸にされるような感覚があるんです。作詞もまるで日記を見られるような恥ずかしさがあるんですけど、作曲はそれ以上なんですよね。内臓の中まで見られるような(笑)。キャロルを演じることでさらにそれを感じました。キャロルは理想の人と巡り合って子供ができて、最高に人生がハッピーなときに「Will You Love Me Tomorrow」という曲を作って大ヒットさせて、離婚を経験して傷心のままロサンゼルスに移ったときに「It's Too Late」が生まれてるんですよね(笑)。メロディに彼女の人生が乗っているんです。そういう人に私もなっていきたいなって。もちろん若い頃にはそのときにしか出せない初々しさや恐いもの知らずなものがあるし、歳を重ねて経験が増えることでしか開けられない引き出しもある。お芝居を通してそんなことを思いました。

──英語で歌う難しさはありませんでしたか?

水樹奈々

ありました。英詞と日本語詞とでは、歌うときの発声法から違うんです。歌唱指導の先生によると、日本語の発声は前に飛ばすようなイメージなんですけど、英語の場合は自分の体の中で共鳴させる。自分のボトムを太くしていくような歌い方というか……それは今までやったことがないレッスンだったので、声の響かせ方を新たに研究できたことが大きな収穫でした。自分の声をいろんな形に変化させる方法は声優としても常に研究しているので、すごく楽しかったです。そこで学んだ歌唱法は今後の活動に生かせるかなと思ったのと同時に……今まで英語の発音がいかにダメだったかもわかりました(笑)。口の動かし方や、今まで漠然と理解していたLとRの発音の違いとか、なんとなくでやってきたことを一から学んでホントに目から鱗で! それを踏まえて、これまでの自分の曲での英語を振り返ると「わっ、恥ずかしい!」って(笑)。

──あははは(笑)。今の話を聞いたあとだと、今後のライブでは英語の発音に耳がいってしまうかもしれません。

そうですよね(笑)。でも、頭で理解するのと、きちんと身に付くかどうかはまた別で、しっかり発音するにはまだまだ時間がかかると思います(笑)。

──ミュージカルの舞台とライブのステージで、パフォーマーとしての違いはありましたか?

全然違います。自分のライブでは、まずは私が先頭に立って「しっかり引っ張っていかなきゃ!」というのがあるんですけど、ミュージカルは主演であってもあくまで「ビューティフル」という作品を作る一員。「自分が!」と先頭に立つものではなく、チームワークが重要。生ものなので同じセリフでも毎回出てくるものが変わってくるんですよ。相手のセリフをちゃんとキャッチして返す、その呼吸で熱量も違ってくるんです。ホント毎日が新鮮でした。

水樹奈々「THE MUSEUM III」
2018年1月10日発売 / KING RECORDS
水樹奈々「THE MUSEUM III」CD+Blu-ray

[CD+Blu-ray]
3780円 / KIZC-437~8

Amazon.co.jp

水樹奈々「THE MUSEUM III」CD+DVD

[CD+DVD]
3780円 / KIZC-439~40

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. Synchrogazer
    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:上松範康(Elements Garden)]
  2. METRO BAROQUE
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:やしきん / 編曲:中山真斗(Elements Garden)]
  3. BRIGHT STREAM
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  4. Vitalization
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:上松範康、菊田大介(Elements Garden)]
  5. 禁断のレジスタンス
    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:加藤裕介]
  6. エデン
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤森真一(藍坊主)/ 編曲:藤間 仁(Elements Garden)]
  7. Angel Blossom
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:光増ハジメ / 編曲:EFFY]
  8. Exterminate
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤田卓也 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  9. STARTING NOW!
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:藤田卓也 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  10. Destiny's Prelude
    [作詞:水樹奈々 / 作・編曲:加藤裕介]
  11. TESTAMENT -Aufwachen Form-
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  12. HOT BLOOD
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:山田竜平 / 編曲:加藤裕介]
  13. 粋恋
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲:K-WONDER、SAS3 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  14. Preserved Roses / T.M.Revolution×水樹奈々
    [作詞:井上秋緒 / 作・編曲:浅倉大介]
  15. 革命デュアリズム / 水樹奈々×T.M.Revolution
    [作詞:Hibiki / 作曲:上松範康(Elements Garden)/ 編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  16. 花は咲く ~アニメスター・バージョン~ / 山寺宏一&水樹奈々
    [作詞:岩井俊二 / 作・編曲:菅野よう子]
  17. えがおは君のためにある
    [作詞:篠原勲、市川勇嗣 / 作曲:篠原勲 / 編曲:石戸谷斉]
Blu-ray / DVD収録内容
  • 「粋恋」MUSIC CLIP
  • at SUGA SHIKAO 20th ANNIVERSARY「スガフェス!~20年に一度のミラクルフェス~」
    1. ETERNAL BLAZE
    2. はじまりの日 feat. Mummy-D
    3. 恋想花火
  • 水樹奈々のMTV Unpluggedを科学する -Special Edition-

公演情報

水樹奈々「NANA MIZUKI LIVE GATE 2018」
  • 2018年1月11日(木)東京都 日本武道館
  • 2018年1月13日(土)東京都 日本武道館
  • 2018年1月14日(日)東京都 日本武道館
  • 2018年1月16日(火)東京都 日本武道館
  • 2018年1月18日(木)東京都 日本武道館
  • 2018年1月20日(土)東京都 日本武道館
  • 2018年1月21日(日)東京都 日本武道館 ※ライブビューイングあり
水樹奈々(ミズキナナ)
愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2013年には初の台湾公演を行い、海外へも活動の幅を広げている。2016年9月には長年の夢として掲げていた兵庫・阪神甲子園球場でのワンマンライブを実現させ、12月には通算12枚目となるオリジナルアルバム「NEOGENE CREATION」を発表。2017年1月より全国ツアー「NANA MIZUKI LIVE ZIPANGU 2017」を開催し、4月には島根・出雲大社東神苑でスペシャルライブ「水樹奈々 出雲大社御奉納公演」を行った。7月には2枚同時シングル「Destiny's Prelude」「TESTAMENT」を2枚同時にリリース。7月から8月にかけて東京・帝国劇場で上演されたブロードウェイミュージカル「ビューティフル」では平原綾香とのダブルキャストで主人公のキャロル・キングを演じた。2018年1月にはベストアルバム「THE MUSEUM III」を発表し、合計7日間におよぶ東京・日本武道館公演「NANA MIZUKI LIVE GATE 2018」を行う。