成長の過程や歴史を感じる続編曲も

──オープニングの「めぐり逢うすべてに」で意表を突かれて、2曲目の「STAND UP!」の素直さに驚いて、さらに3曲目の「Please Download」ではボーカルを加工したエレクトロなダンストラックと、冒頭からここまで驚きの連続なんですよね。

「Please Download」はデモの段階で加工された仮歌が入っていて、「……やってみたい」と思っちゃったんです。コーラスを加工することはあったけど、メインボーカルをここまで大胆に加工したことはなくて。今までの私ならそういう発想にならなかっただろうなと思うんですよね。ビブラートをかけたら極端にケロケロした声になったり、しゃくる音がカクカクになったりとか、自分が楽器になったような感覚で。「こういうふうに歌ったらどう変化するかな」って実験をしているみたいで、すごく楽しかったです。

──ここまでずっと驚きっぱなしなので、水樹さん得意の歌謡ロック的な4曲目「ALONE ARROWS」でようやくちょっと落ち着くというか。

作曲のYu-pan.さんは「理想論」（2012年1月発売の26thシングル「Synchrogazer」収録曲）というサスペンスなドロドロの恋愛を描いた曲を書いてくださっていて。曲が届いてメロを聴いた瞬間、今回もぜひ藤林聖子さんとのコンビで作ってほしいとお願いしました。歌詞は以前藤林さんが書いてくださった「Crescent Child」（2012年12月発売の9thアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」収録曲。参照：水樹奈々「ROCKBOUND NEIGHBORS」インタビュー）の主人公……悟り世代というか、危ない橋を渡りたくない、高望みをしない主人公を描いていた「Crescent Child」のその後、大人になった姿を歌いたいとリクエストしました。社会に出ていろんな考え方に触れたときに「このままじゃダメなんじゃないかな？」と感情が動く、人間の変化を表現してもらいました。

──「あの日夢見た願い」から「めぐり逢うすべてに」、「Crescent Child」から「ALONE ARROWS」と、過去の曲の続きを描いた新曲を作ったのは、アルバムのテーマを考えて？

はい。「水樹も大人になってきているね」という成長の過程や歴史を感じてもらえる楽曲があったらいいなって。

若いアーティストにも歌謡曲の血は受け継がれている

──「TWIST&TIGER」は、「DISCOTHEQUE」（2008年10月発売の18thシングル「Trickster」収録曲）や「Lovely Fruit」（アルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」収録曲）にも通じるグルーヴィな楽曲ですが、ファンクやジャズなどの要素にビートパンク的なリズムも加わり、よりごった煮状態になってますね。

こういうトリッキーな曲は、アルバムには必ず1曲入れたくて。サウンドに合わせたおしゃれな歌詞にしようかとも思ったんですけど、逆に「この歌詞でこの曲!?」というギャップを楽しんでもらいたかったので、矢吹（俊郎）さん節炸裂な歌詞を付けてもらいました。

──ヨシダさん提供の「Rock Ride Riot」は歌謡曲っぽいメロディを持ったダンスチューンで。

若いアーティストの方にも歌謡曲の血は受け継がれているんだ！とすごくうれしくて。やっぱりどこか新しいんですよね。構成もすごく面白いし、私たちの世代にはない感覚だなと思います。

──「はつ恋」はオリエンタルな響きの歌謡ロックで、新しい要素が多いアルバムの中では比較的安心して聴けるタイプの曲ですね。

はい。「悦楽カメリア」（2009年6月発売の7thアルバム「ULTIMATE DIAMOND」収録曲）や「純潔パラドックス」（2011年8月発売の25thシングル）に通じる、水樹奈々の王道の1つである“和ロック”でも1曲作りたくて。ちょうどアルバム制作をしているときに、来年のツアータイトルが「NANA MIZUKI LIVE ZIPANGU 2017」に決定したこともあって、「ZIPANGUと付けたからには、新しい和ロックが欲しい！」と思って作りました。

──8曲目「JEWEL」はラストの「絶対的幸福論」とは違った方向性の優しいバラードですが、これも人肌を感じる“人間・水樹奈々”を感じました。

この曲は、私の生まれ故郷を思いながら作りました。曲を聴いた瞬間、瀬戸内海が浮かんで（笑）。とてもシンプルな構成ですが、1音1音、ひと言ひと言に思いがリアルに込もっています。

上松範康（Elements Garden）のルームランナー作曲法

──「JEWEL」はちょうどアルバムの中間地点で、続く上松範康（Elements Garden）さん作詞作曲の「UNLIMITED BEAT」からは、ライブで盛り上がりそうな勢いのある楽曲が続きます。

これは上松さん節炸裂の1曲ですね。上松さんはライブの高揚感をイメージして曲作りするために、ルームランナーで心拍数を150まで上げてから作ったって言ってました（笑）。「オイ！ オイ！」とコールが上がるような曲ならば、椅子でひと息ついて書くんじゃダメだろうと。だからいつになくコール＆レスポンスが盛り込まれていて、掛け合いのコーラスもたくさん入っています。

──次の「WAKE UP THE SOULS」も客席の沸き上がりぶりが想像できる曲で。さらにシングル曲の「STARTING NOW!」、追い打ちをかけるような「GLORIA」と、ライブに当てはめるなら水樹さんがよく言う「スパルタ」ゾーンですね。

「みんなまだまだ声出していくよー！」って叫ぶところですね（笑）。「WAKE UP THE SOULS」はピンヒールを履いて歌うようなガールズロックを意識した曲で。今回のアルバムには絶対に入れたかったテイストで、レコーディングでは最初に録ったのがこの曲でした。「GLORIA」はEDM的なサウンドなのにメロディは歌謡曲という違和感が心地よくて。デモは1コーラスだけだったんですけど、その時点でメッセージに込められた思いと圧力がすごかったので、展開を入れすぎないようにしました。

──「RODEO COWGIRL」はこの流れで聴くとさわやかだけど、演奏のテンションは非常に高くて、まだまだスパルタゾーンが続きます。

この曲はレコーディングでキーを半音上げました。よりさわやかで駆け抜けていく雰囲気を出したくて。カウガールだから「Ay Ay Ay」のかけ声では縄を振り回すように絶対にタオルを振り回したいと思っています（笑）。

──なるほど、タオル曲なんですね。

はい！ ぜひライブではタオルを振り回しながら一緒に「Ay!! Ay!! Ay!!」と叫んでください！