音楽ナタリー Power Push - 水樹奈々
「急」「実」「驚」な2016年と“新第三紀”の創造
「わかったよ奈々ちゃん。じゃあ覚悟して聴くわ」
──全体の構成として驚いたのが、1曲目に「めぐり逢うすべてに」があったことですね。イントロダクション的な要素を持つ曲、なだらかにエンジンをかけていく曲で始まることがこれまでは多かったと思うんですけど、冒頭からずいぶん重たい曲が来たなと。
前菜から出さずにすみません(笑)。これはもう直感なんです。三嶋プロデューサー(三嶋章夫。水樹をデビュー時から支えるプロデューサー)も「これ以外に1曲目は考えられない」って。このアルバムにかける私の決意表明を、この1曲から感じ取ってもらえるんじゃないかと思ったんです。1曲目にこれを聴いて「……そういうことね。わかったよ奈々ちゃん。じゃあ覚悟して聴くわ」って座り直す感じになってしまうかもですが……(笑)。
──まさにそれでした(笑)。「このアルバムはちょっと今までと様子が違うぞ」と冒頭から構えましたね。
映画のプロローグに挿し込まれるナレーションのようなイメージですね。第一紀の私から見てくださっている方もいれば、このアルバムで初めて私の作品に触れる方もいらっしゃると思うんです。「水樹奈々ってどんな人?」という方に、私の歩みを感じ取ってもらえたらいいなと思って。作詞をしてくださった松井五郎さんには、私の2ndアルバム「MAGIC ATTRACTION」(2002年11月発売)に入っている「あの日夢見た願い」という曲の続編的な歌詞を書いてほしいとお願いしました。「あの日夢見た願い」は初めての日本武道館や初めての東京ドームなど、節目のライブで必ず歌っている、すごく大事な曲なんです。あの曲はデビュー当初の私の気持ちを描いていて。その後いろんな経験をして、いろんな夢が現実になった今、その先の夢へ挑む気持ちを歌いたかったんです。夢に夢見ていたものがリアルになった今、同じ「夢を追いかける」というテーマでも、捉え方や見え方は変わってくるだろうなって。
丸裸な水樹奈々、泥臭い水樹奈々を
──続いてアルバム制作のきっかけになったという「STAND UP!」が登場します。作詞作曲のヨシダタクミ(phatmans after school)さんは計3曲を手がけていますが、どれも今までの水樹奈々サウンドになかったテイストが加わっているように感じました。ヨシダさん、まだ20代半ばなんですよね。
そうなんです! 若いんですよ。
──ヨシダさんの楽曲は、今までの水樹サウンドになかった少年っぽさというか、やんちゃな感じがあって。
まさにそこに胸を撃ち抜かれました。「レイジーシンドローム」(2015年4月発売の32ndシングル「Angel Blossom」カップリング曲。ヨシダが作詞作曲を担当)で出会ったんですけど、彼の描き出す世界観は新鮮ながら、どこかチーム水樹の世界と通じる部分があるんです。彼はいつも詞先で曲を作るそうで、不思議な曲構成になるのはそのせいらしいんです。歌詞の内容から、たくさん本を読まれる方なのかなと思っていたんですけど、マンガが大好きで、ヒントになるものは全部マンガなんですって。
──人生に必要なことはすべてマンガから教わったタイプ。
きっと私が惹かれるのはそこなんだと思います(笑)。マンガやアニメを通してつながっている感じがあるんですよね。
──「STAND UP!」は言葉のまっすぐさもさることながら、レミファソラシドレと上がっていくサビのメロディラインもこれまでになくストレートだなと。
そうですね。「STAND UP!」みたいな素直な応援ソングもあれば、「Rock Ride Riot」はものすごい怠け者を歌った曲で(笑)。特に胸を撃ち抜かれたのは、最後に収録した「絶対的幸福論」です。すごくいい曲をどんどん送ってくださるので、「自分のバンドに取っておいたほうがいいんじゃないですか」って話したりもするんですけど(笑)、実は「絶対的幸福論」はアルバム制作終了間際に滑り込みで届いた曲なんです。聴いた瞬間に涙を流してしまったほどの“一耳惚れ”で、飾らない朴訥な歌詞とメロディがすごく胸に響いて、急遽1曲差し替えました。
──これまでにもたくさんのバラードを歌われてきましたけど、ここまでむき出しの“人間・水樹奈々”が見えてくる楽曲はなかったなと思いました。
私が歌うバラードは、例えば「愛の星 -two hearts-」(2014年4月発売の10thアルバム「SUPERNAL LIBERTY」収録曲で、アニメ映画「宇宙戦艦ヤマト2199 第七章」エンディングテーマ。参照:水樹奈々「SUPERNAL LIBERTY」インタビュー)のような壮大なものだったり、「コイウタ。」(2015年11月発売の11thアルバム「SMASHING ANTHEMS」収録曲。参照:水樹奈々「SMASHING ANTHEMS」インタビュー)みたいな女性らしいものが多くて。こういうむき出しなバラードは、ほかのアーティストさんが歌うものを聴くのは好きだったんですけど、自分で歌うという発想がなかったんです。でも「絶対的幸福論」を聴いたとき、この生々しい感情を届けられる丸裸な水樹奈々、泥臭い水樹奈々を表現してみたいと思ったんです。
涙を流すワンカットMV「絶対的幸福論」の舞台裏
──「絶対的幸福論」はミュージックビデオも制作されましたが、こちらもかなり驚きました。ひたすら水樹さんが歌う表情だけを捉えたワンカット撮影という。
恥ずかしいですね(笑)。監督はプランを3つ持ってきてくださったんですよ。いつものようにイメージシーンを織り交ぜながら作っていくものが2つ、最後の1つがワンカットのフィルム撮影というアイデアで。満場一致でワンカットになりました。この曲だからこそ、等身大の水樹奈々にチャレンジできるよねって。ただ、本当は海辺で撮る予定だったのが、天気の都合で急遽室内に変更したんです。急な変更になったから、別のカットを織り交ぜていこうかという提案もあったんですけど、やっぱりワンカットにしました。
──ワンカットは大がかりな撮影ともまた違った大変さがあると思うのですが、いかがでしたか?
心を丸裸にしないと歌えない曲なので、なるべく私の目線の先に人がいないように(笑)、カメラマンさんがすごく気を遣ってくださって。MVを撮るときはすごく大人数なんですけど、私と画面の向こうにいるパートナーの2人だけという世界観を作るために、機材は固定させて、誰もいない状態を作ってくださったんです。
──カメラを見つめたり、うつむいたり、だんだんじわっと目に涙が溜まってきたり、とにかくリアルすぎて。
うふふ(笑)。監督からは「近しい人にしか見せない、これまでにない表情が撮りたい」というリクエストと共に、「この曲を初めて聴いたときの感覚で歌ってほしい」と言われたんです。初めて聴いたとき、私はホロリと涙しているので、あのままの気持ちで歌ったら自然と涙があふれてきました。
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- 12thアルバム「NEOGENE CREATION」 / 2016年12月21日発売 / KING RECORDS
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 3888円 / KICS-93456特製BOX+オニキスデジパック仕様+スペシャルフォトブック+Blu-ray
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3888円 / KICS-93457特製BOX+オニキスデジパック仕様+スペシャルフォトブック+DVD
- 通常盤 [CD] / 3024円 / KICS-3456
CD収録曲
- めぐり逢うすべてに
[作詞:松井五郎 / 作曲:園田健太郎 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
- STAND UP!
[作詞・作曲:ヨシダタクミ(phatmans after school) / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
- Please Download
[作詞:森月キャス / 作・編曲:ats-]
- ALONE ARROWS
[作詞:藤林聖子 / 作曲:Yu-pan. / 編曲:伊勢佳史]
- TWIST&TIGER
[作詞:矢吹俊郎 / 作曲:園田健太郎 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
- Rock Ride Riot
[作詞・作曲:ヨシダタクミ(phatmans after school) / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
- はつ恋
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:吉木絵里子、華原大輔]
- JEWEL
[作詞:水樹奈々 / 作曲:角野寿和、青葉紘季 / 編曲:ECHO(Martin Landstrom & Rasmus Faber)]
- UNLIMITED BEAT
[作詞・作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:藤永龍太郎(Elements Garden)]
- WAKE UP THE SOULS
[作詞:しほり / 作・編曲:山﨑佳祐]
- STARTING NOW!
[作詞:水樹奈々 / 作曲:藤田卓也 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
- GLORIA
[作詞:平朋崇 / 作曲:光増ハジメ / 編曲:EFFY]
- RODEO COWGIRL
[作詞:藤林聖子 / 作・編曲:h-wonder]
- 君よ叫べ
[作詞・作曲:水樹奈々 / 編曲:藤永龍太郎(Elements Garden)]
- 絶対的幸福論
[作詞・作曲:ヨシダタクミ(phatmans after school) / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
初回限定盤特典Blu-ray / DVD収録内容
- MUSIC CLIP「絶対的幸福論」
- 「NEOGENE CREATION」MAKING MOVIE
- 「TEAM MIZUKI 富士山頂への道」
- NHK「水樹奈々 in 新居浜 のど自慢延長戦」ダイジェスト
水樹奈々(ミズキナナ)
愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2013年には初の台湾公演を行い、海外へも活動の幅を広げている。2016年9月には長年の夢として掲げていた兵庫・阪神甲子園球場でのワンマンライブを実現させた。12月には通算12枚目となるオリジナルアルバム「NEOGENE CREATION」を発表。2017年1月より全国ツアー「NANA MIZUKI LIVE ZIPANGU 2017」を開催し、4月には島根・出雲大社東神苑でスペシャルライブ「水樹奈々 出雲大社御奉納公演」を行う。