井上唯 インタビュー

音楽活動はブクガしかやらない

──皆さんに2020年に入ってからのことを聞いています。「Solitude HOTEL ∞F」はすごいライブだと思ったのですが、井上さんは手応えとしてはいかがでしたか?

井上唯

今までで一番やりきった感じがありました。過去のワンマンも達成感はあったんですけど、反省点も多くあって。「∞F」は楽しかったという記憶が一番強いです。終盤に向けてやることがたくさんあって、そこに集中できたのもあると思うし、チケットが完売したから余計そう感じたのかもしれないですね。

──矢川さんやコショージさんとは、過去のインタビューでよく「このタイミングで売れたい」と話していたと話題になったんですが、あれだけのライブをやれたら「これでいける」と実感できたと思うんです。

はい。毎回ワンマンのあとはそう思ってるんですけどね(笑)。

──その勢いのままベスト盤を出して、ツアーが始まって、というプランがあったと思うんですが、コロナウイルスの感染拡大で予期せぬ自粛期間に突入することになり。この期間はどんなことを考えていましたか?

残念ではありましたけど、今になってみるといい面もあって。ライブ中は歌ったり踊ったりすることに集中しちゃって、客観的に見れないんですよね。YouTubeで配信企画を行うにあたって、みんなで昔のミュージックビデオとかライブ映像を観る機会があったんです。普段とは違う目線で各映像をチェックしたら、すごいカッコいいことをしてるなって。ベスト盤を出すのはこれまでの活動を振り返る機会にもなるし、ちょうどよかったなって思いました。

──ずっと走り続けているとなかなかできないけど、ゆったり振り返ることができたと。

いつもだったら余裕がないんでしょうね。レコーディングも収録中は一生懸命やってるんですけど、終わってみたら「もうちょっとできたな」と反省することがよくあって。そういうタイプなので、これだけ距離を置いてブクガの活動を振り返ることができたのはよかったです。これまでもトークイベントとか、過去のライブ映像を観る機会はあったんですけど、ただ「がんばれ!」みたいな気持ちになっちゃうんですよ。今はそれがなくなって「めっちゃカッコいいじゃん」「『夢』ってこんなによかったっけ、めちゃめちゃきれいじゃん」って思いました。

──引退した人が昔の自分を振り返った感想みたいな(笑)。

もうそのくらい距離を置いているような感じです。いや、知ってました? 毎度毎度いい作品なんですよ。

──知ってました! この春活動が止まってしまったときに、「自分から歌とダンスを取り上げたらどうなるんだろう」みたいなことは考えました?

いや、私は歌とかダンスがなくても社会で生きていけるタイプなので。

──おお。ほかのメンバーにはなかった意見です。

いや、わからないですよ? 自分ではそう思ってるんですけど。

──普通に就職できる。

なんとなくそういう自信があります。ほかのメンバーと比べると、くらいの感じですけど。逆に歌とかダンスのほうが意識的にがんばってることだから、なくなったら普通の生活を送るんだろうなって。この期間じゃなくとも、普段からそういうことを考えてます。

──そうなんですね。

だってブクガしかやる気がないので。Maison book girlでしか音楽活動をやろうと思っていなくて、ほかのグループに入ろうとか、ソロで活動しよう、みたいな気持ちもさらさらないんです。

順応したらこっちのもんですよ

──なるほど。自粛期間中に何か別のことをしようかなと考えたりしました?

この期間に何かできるようになれば……って最初は思ったんですよ。

──思いますよね。

井上唯

生産性のあることをしようって。でも途中から「そんな無理してやること、なくない?」みたいな考えに変わっていきました(笑)。「何かやらなきゃ」って気張ったところで身になるのかなって思ったり。歌もダンスもやってみたんですけどね。

──自主練を。

やったにせよ、しょせんは家だから。よく「家でゴルフの練習をしたらフォームが小さくなる」とか言うじゃないですか。ダンスも同じで、ひさしぶりにスタジオで踊ったら動きがちっちゃくなってたんですよ。無理してやるものじゃないなと思いました。だから楽しめる程度というか、気休め程度にやるべきでしたよね。

──そんなに焦ることもなかったんですね。

最初は鬱っぽくなるんですよ。「ヒマで何もやることないな」とか。でも、それも1周したらこっちのもんですよね。

──環境に順応していきますよね(笑)。

友達と話してても、「仕事がなくなってお金の心配とかしてても、1周したらのんきになるよね」って(笑)。心配していた親には「ヤバい」と言ってましたけどね。実はわりと元気でした。なんなら3年前に伸び悩んでいた頃のほうが焦ってました。

──そういう時期があったんですね。

あの時期があって強くなったんですかね。今も伸び悩んでいないわけではないんですけど、視野が広がったというか、「代わりにこっちでがんばろう」って考えられるようになって。大人になったんですかね? 20歳前後は今より考え方も未熟だったと思いますし。