Maison book girl|成長するからこそ、今だけ表現できること

今年発表した「SOUP」「umbla」の2枚のシングル曲では、内省的な心情を歌ったものが多かった過去曲から方向転換し、他者や世界とのつながりを描いた物語が展開されるなど、新たなイメージを表現してきたMaison book girl。12月18日にリリースされたメジャー3枚目のアルバム「海と宇宙の子供たち」では、“海”や“宇宙”といったテーマが掲げられ、シングル曲ともリンクした世界観が濃密に描かれている。

音楽ナタリーでは「海と宇宙の子供たち」の発売を記念し、メンバー4人へのインタビューを実施。アルバム用に制作された新曲についてのほか、年明け1月5日に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で行われるワンマン「Solitude HOTEL ∞F」に向ける思いを聞いた。

取材・文 / 高橋拓也 撮影 / 映美

好きな曲、バラけそうですよね

──前作「yume」はアルバム全体を通して“夢”というテーマを表現する作品でしたが、新たなアルバム「海と宇宙の子供たち」は“海”や“宇宙”といった題材を各楽曲ごとで表現しているように感じられました。

コショージメグミ レコーディング中は、アルバム全体のテーマを考えながら作っていったというよりも、各楽曲ごとのイメージを意識して作っていったんです。それで完成した楽曲が集まったとき、このテーマが見えてきましたね。

──アルバムのテーマに合わせてか、衣装の雰囲気もかなり変わりました。肩の袋のような部分はどうなっているんでしょう……?

和田輪 ここ、お菓子のゴミとか入ってますね。

コショージ サクライ(ケンタ。プロデューサー)さんが考えた衣装なんですけど、アルバムのテーマになっている海や宇宙とかイメージしているのかも。

井上唯 塵とか?

矢川葵 こういうの、海に漂っていそうですよね。

コショージ まあそういう感じです(笑)。

Maison book girl

──「海と宇宙の子供たち」には新曲が5曲収録されていますが、皆さんそれぞれどの曲が特に印象に残りましたか?

コショージ 私が一番好きな曲は「悲しみの子供たち」で、5つの中ではあとのほうで完成したんです。仮歌の前にワンコーラス分のメロをもらったんですけど、それだけでもめっちゃ聴きました。Bメロの畳み掛けからサビに入る部分とか、特にヤバいですよね。ボーカルパートもみんなの声がはっきり分かれていて、それぞれの個性とか、魅力がよく伝わるんじゃないかと。

矢川 最後にできたのは「ランドリー」なんですけど、今回サクライさんが相当楽曲制作で悩んでいて、私たちに「どういう曲がいいと思う?」と聞いてくることもあったんです。その頃はよくみんなで椎名林檎さんのミュージックビデオを観ていたので何曲か紹介しました。

井上 「こういう曲が欲しい」というより、ちょっと息抜きになればいいかな……と思って教えたんですよね。「この曲が好きです」「これどうですか?」みたいな感じ。

矢川 それで「ランドリー」のイントロが届いたら……。

コショージ 椎名林檎さんの「正しい街」っぽかった(笑)。

矢川 でもそういうテイストを混ぜつつブクガらしい曲に仕上がっていたので、うれしかったです。心配だったんですけど、こんなに追い詰められてもいい曲が作れるから「すごい!」って思いました(笑)。

井上 「海辺にて」はもうライブでも披露している曲で、葵ちゃんがソロで入ったあと全員でガッと歌うサビとか、緩急の付け方は特にいいかも。

──「海辺にて」は過去曲だと「おかえりさよなら」に近い、ミドルテンポでスケール感のある楽曲でしたね。ある程度テンポを抑えている分、歌い込むためのパワーが必要な楽曲だったかと。

井上 ライブでは音数が少ない分歌声がよく聴こえるみたいで、ファンの方からは声や歌詞に関する感想をもらうことが多かったです。歌詞って相当集中しないと聴き流してしまったり、印象に残らないですよね。それだけ聴き込んでくれたのかも。

和田 今までの曲ではハモリが入るのはサビのユニゾンぐらいだったんですけど、「LandmarK」はメンバー同士の掛け合いがたくさんある曲で。リアルタイムにメンバーの声が重なるのはこの曲が初めてでした。ライブでの聴こえ方も音源とはだいぶ変わりそうです。

──シングル「umbla」の収録曲「シルエット」で初めて本格的にコーラスを録音したとお話ししていたので、そこから発展させ、より複雑な構成のボーカルに挑戦した楽曲と言えそうですね。

和田 ボイトレのときも、例えば「もうちょっと葵ちゃんの歌い方に寄り添ったほうがいい」とか、お互いのバランスについて教えてもらうことが多くて。レコーディングでは1人ずつ歌録りしたけど、ライブではよりキレイなハーモニーが生み出せそうです。

──挙げていただいた曲、見事にバラけましたね。

コショージ みんな空気を読んだんだと思う(笑)。でもお客さんが好きな曲もバラけそうですよね。

サクライさんに「こういう曲が今人気」って教えてあげる

──最近サクライさんは「『こんな曲がやりたい』って要望があったら教えてほしい」とお話したり、皆さんから意見を聞くことが多くなったそうですね。

コショージ 今回のアルバム制作中も何度か相談されました。「採用されるかはわからないけど」とは言ってましたけどね。例えば「悲しみの子供たち」のときは、「karma」みたいなワンマンでも対バンでもセトリに組み込みやすい曲があるといいですね……とざっくり伝えたり。テンポが速くて、そこまで重たくない曲は映えるし、ライブ全体の進行がうまく締まるんですよ。

──ほかのアーティストの曲ではなく、ブクガの過去曲を例にして要望することが多いんでしょうか?

コショージ そうですね。強いて言えばさっき挙げた椎名林檎さんぐらい。あとは何があったっけ?

矢川 自分が普段聴く音楽はメジャーなJ-POPがほとんどなので、「こういうタイプの曲が好きです」という話もちょっとしました。

井上唯

井上 サクライさんが普段聴いているものとは真逆の音楽が好きだから……。

矢川 「こういうのが今人気なんだよ」って教えてあげる。

──もし皆さんの意見を共有せず、サクライさんの中から出てきたアイデアだけだった場合、ポップな雰囲気の「ノーワンダーランド」「ランドリー」のような曲は生まれなかったかもしれないですよね。そういう意味では、皆さんの意見がアルバム制作に与えた影響は大きかったんじゃないかと思います。

井上 これまで作ってきた作品の中では、一番サクライさんと話し合った作品になったかもしれない。

コショージ あと「LandmarK」「ランドリー」とか、“ラン”って付く曲多いよね?

井上 「ノーワンダーランド」もそうだし。

コショージ サクライさん絶対気付いてないと思う(笑)。