ナタリー PowerPush - LACCO TOWER

“狂騒演奏家”がすべてをさらけ出した 激情的新作「続・短編傷説」

マイナスがあるからこそプラスをより濃く感じることができる

塩崎啓示(B)

──バンドとして鳴らすサウンドも、松川さんが書く歌詞も、ものすごくヒリヒリした印象がありますよね。人間として隠しておきたくなる感情さえも、オブラートに包むことなく表現しているから、それは多感な少年たちのみならず、大人にも強烈に刺さるものだと思います。

松川 大人になるといろんな感情を表現することがめんどくさくなりますからね。でも、僕らはそれを音楽で表現していきたいっていう。

塩崎 松川の歌詞は基本ネガティブで暗いんですよ。でも、そこから何か見えるものがあるだろっていう内容にはなっていて。そういうところがいいなって思うんですよね。

松川 よくある「ハッピーだね! バーベキューいこうよ!」みたいな曲は書けないですから(笑)。

塩崎 よくある? 例えがよくねえよ!

松川 僕は基本、考え方としてマイナスがあるからこそプラスをより濃く感じることができると思ってるタイプなんで。

──うん。だから聴き心地は単純にハッピーではないけど、絶望を描いているわけではないっていう。

塩崎 結局はポジティブですからね。

漢字ワンワードの曲タイトルの理由

──あとは日本語を大事にしたいという意識に通ずるところだと思うんですけど、LACCO TOWERの曲タイトルはすべて漢字のワンワードになっていて。それも大きな特徴です。

左から、重田雅俊(Dr)、松川ケイスケ(Vo)、塩崎啓示(B)。

重田 パッと見、読めないんですけどね。まともに読める人なんていないでしょ。

松川 「檸檬」とか「柘榴」とか、けっこうみんな読めないみたいで。当て字もいくつかあったりしますからね。今回のミニアルバムの1曲目「杏子」も、“きょうこ”って読まれがちですから(笑)。

──正解は“あんず”ですね(笑)。あえて漢字にこだわるのには理由があるんですか?

松川 まあ最初はそんなに意識してなかったんですけど、1stアルバムがたまたまそうなったんで、2ndからはこれでやっていこうと。理由としては、僕は本好きなのでそういう雰囲気がいいかなっていうくらいなんですけど。

──でも、LACCO TOWERの曲には漢字のタイトルがすごくマッチしていると思います。今回の「続・短編傷説」なんかもすごくいいタイトルですよね。“小説”を“傷説”と表現するあたりにニヤリとさせられるというか。

松川 それはもう僕が書く詞が、マイナスに焦点をあててるからこそですよね。そういう物語がいくつも入っているっていう意味で。あとは、本好きな僕としては“続”っていう言葉をただ使いたかったっていうのもあって(笑)。

──2009年に「短編傷説」というミニアルバムをリリースされてますもんね。本作はその第2弾という位置付けになると。

松川 そうですね。曲の内容的に似たようなところに属してるものが多かったので。

塩崎 あとは前回の「短編傷説」は真一が入ったあと、新たなスタートのタイミングでのミニアルバムだったんですよ。で、今回は大介が入ってのリスタートというタイミングなので、またこのタイトルの作品になったっていうのもありますね。

松川 そうだね。新生LACCO TOWERとしてまったく新しいものをひねり出したというよりは、今までに持ってた僕らのフィルターを使って大介にいろいろと表現してもらったっていう意味合いが強い作品にもなったので。

一番想像を超えたのは「変身」

──今回、制作はどのように進められたんですか?

真一ジェット(Key)

松川 まずは真一に大本の曲を持ってきてもらうところから始まりましたね。今回は5曲中4曲が真一の曲ですから。

真一 そうですね。曲作りは年末からやってました。毎年だいたいそうなんですけど、正月はどこにも行かずに曲を作るっていうのが恒例行事です。けっこうな数を作ったんですけど、50くらいはボツにしましたね。

──じゃあ厳選された曲たちが本作には詰まっているわけですね。

塩崎 こいつはそのへんのジャッジがめちゃめちゃ厳しいんですよ。自分でボツだと思ったやつは聴かせてもくれないんで。

真一 しかも、できたと思っても時間があるともっといい曲できんじゃねえかなって考えちゃうんですよね。結果、レコーディング2日前にできた曲もあったりして。

松川 みんなで「今かよ!?」っつってね(笑)。真一が持ってきてくれる曲は、ドラムパターンからギター、ベースまでほぼ全部入った状態なので、イメージがしやすくていいんですよね。「今回はこう来たか」っていう楽しみが毎回あります。

塩崎 で、それに対しての説明は一切いらないっていう。「こういう曲にしたくてさ」っていうのを聞かなくても、音だけでキャッチボールできるというか。

──そこはもうメンバー間にある信頼感のなせるわざなんでしょうね。

真一 そうですね。作ってる段階から、このメンバーでやればこうなるなっていうのがなんとなくわかりますし。

──でも、アレンジの過程でその想像を超える瞬間もあるんじゃないですか?

真一 あ、それはほんとあるんですよ。それがあるんですよ!

松川 わかったよ。2回言わなくても聞こえてるよちゃんと(笑)。

真一 今回、一番想像を超えたのは「変身」かな。これはギターがすごくがんばってくれて、めちゃくちゃよくなりましたね。

細川 がんばりました(笑)。

塩崎 ギターで言うと、「凡人論」も大介がきっかけでできた曲だよね。

細川 ああ、そうですね。LACCO TOWERにはギターリフの曲があんまりなかったんで、そういう曲をやったらどうかなっていう話を真一ジェットにしたんですよ。で、僕が弾いたギターリフを渡したら、すぐ曲にしてくれて。

塩崎 曲としては全然“凡人”じゃないっていうね。

重田雅俊(Dr)

重田 (ドヤ顔で)“超人論”だよね!

松川 (スルーしつつ)「凡人論」の歌詞はちょっとドキドキしてますけどね。ある種、挑戦的な言葉が入ってたりもするので。

──確かにちょっと挑んでる感じはありますね。

松川 ただ、僕らしいなと思うのは、僕自身も凡人なんだよって言っているところで。批判者になりきれないところがちょっとズルい(笑)。まあ、歌詞に関して成長していく段階のひとつとして、温かい目で見ていただければいいかなと思いますけど。

LACCO TOWER(らっこたわー)

2002年に結成されたロックバンド。自ら“狂想演奏家”を名乗り、結成当初より楽曲タイトルはすべて「日本語ひとつの言葉」にこだわり続けている。ロック、パンク、ポップス、歌謡曲など特定のジャンルにカテゴライズされない、ソウルフルかつエモーショナルなサウンドが魅力。その叙情的な世界観とは裏腹に、攻撃的なライブパフォーマンスで都内、群馬を拠点に活動を続けている。現在のメンバーは松川ケイスケ(Vo)、塩崎啓示(B)、重田雅俊(Dr)、真一ジェット(Key)、細川大介(G)の5名。2013年7月に新編成となって初のミニアルバム「続・短編傷説」をリリースする。