「山人音楽祭2021」特集|挑戦し続ける茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)がローカリズムで狼煙を上げる

G-FREAK FACTORYの主催イベント「山人音楽祭2021~LOCAL×RHYTHM~」が12月4、5日に群馬・高崎芸術劇場で行われる。

「山人音楽祭2021~LOCAL×RHYTHM~」は、恒例の「山人音楽祭」の会場を群馬・ヤマダグリーンドーム前橋から高崎芸術劇場に移して行うイベント。4日は群馬出身バンドが集う“上州事変”、5日は “関東事変”と題して関東を拠点にするバンドがライブを繰り広げる。上州事変にはG-FREAK FACTORY、FOMARE、LACCO TOWER、ROGUE、関東事変にはOAU、G-FREAK FACTORY、HAWAIIAN6、MONOEYESが出演する。

音楽ナタリーでは本イベントの開催を記念して、茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)にインタビュー。コロナ禍において開催を決断するまでの経緯や出演アーティストにまつわるエピソード、イベントのテーマになっているローカリズムについて語ってもらった。

取材・文 / 小林千絵撮影 / 山川哲矢

大事に思えば思うほど簡単に開催できない

──コロナ禍においての地方でのイベント、フェス開催についてインタビューをさせてもらうと、皆さん「地元に住んでいるからこそ、地元に多くの人が集まることに懸念がある」ということをおっしゃいます。去年と今年の夏に「山人音楽祭」が開催できなかった理由の1つにもそれはあるのでしょうか?

まさにその通りで。大事に思えば思うほど簡単に開催できない。例えばこれが隣県だったら、もう開催しちゃってると思うんだけど、地元だから、まずは自分たちの生活のことを考えちゃうんだよね。万が一のことがあったら群馬を出て行かなきゃいけないだろうし。自分たちだけだったらいいけど、田舎って村社会だから、バンドを取り巻く仲間や家族にも飛び火していくだろうし。そう考えたら、この状況の中で開催を宣言していいのか?というのをずっと悩んでた。ローカルフェスには地方で作ってきたからこそのよさもある一方で、隣人が近いがゆえの難しさもあって。今回はまさにそれに直面した感じだね。

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

──今年は会場もこれまでのヤマダグリーンドーム前橋から高崎芸術劇場に移しての開催となります。これにはどのような経緯があったのでしょうか?

去年も今年も、一旦はヤマダグリーンドーム前橋を押さえていて、開催に対しての準備も水面下では進めていたんだよ。「開催しない」と決めるのは簡単だけど、この状況の中でどうやったら開催できるのか、逆の発想で考えていったの。でも去年はもちろん、今年も開催を発表するタイミングが感染のピークみたいな時期だったから無理だなと思って、9月開催は諦めて。そしたらヤマダグリーンドーム前橋はもう年内に使える日程がなかった。そこからだったね、焦り始めたのは。今年中になんとかして開催できないと「山人音楽祭」というものが終わるなと思った。なんでもいい、ライブハウスでのツーマンイベントとかでもいいから、このタイトルでイベントをやらないと、って。そこで、最初は高崎芸術劇場のすぐ近くのGメッセ群馬を仮押さえしたんだけど、ワクチンの接種会場になって使えなくなってしまった。もう年内に「山人音楽祭」の開催は無理だという話でまとまりそうなミーティングのときに、高崎芸術劇場のことが話題に上がって。で、スケジュールを確認してみたら棚ぼたみたいに2日間空いてたからすぐに押さえたんだよね。

高崎芸術劇場のホワイエ。

高崎芸術劇場のホワイエ。

高崎芸術劇場のホワイエ。

高崎芸術劇場のホワイエ。

──すごいですね。

ね。「やらない」と決めるほうが簡単だったんだけど、何よりも、やろうとしない自分が嫌だったんだよね。正直、もし最終的にやれなかったとしても、結果はどうでもよくて、それよりも挑戦してない自分がいることが嫌だった。

──「山人音楽祭」に対してそこまで思えるのはどうしてですか?

群馬という田舎を拠点にしてこれだけ長く活動してきた以上、バンド人生を懸けて、これを正解にしていかなきゃいけないと思っているから。東京に出たほうが活動しやすかったのかもしれないけど、俺たちはそれを選ばなかった。そういうやつらが、群馬にだけじゃなくて、各地方にいてさ。音楽業界は東京に集中しているけど、実は地元に根っこを張っていても面白いことができる。俺たちは、その確信を持つための挑戦を、これまでずっと密かにやってきたつもり。今は、それが試されるときなんだなと思った。

──その考えが、サブタイトルの“上州事変”、“関東事変”につながっているのでしょうか?

そう。「なんでもいいからやる」という気持ちで会場探しを始めたものの、会場とスケジュールが合ったからといって、ただキャパを減らして、ただ座りでっていうだけならやる必要ないなというのも思っていて。どういう形で開催できれば、これまで「山人音楽祭」というものを信じてきてくれた人に対して説得力が持たせられるのか。そこで見つけたのが、ローカリズムだった。

──今回の「山人音楽祭」で言うローカリズムとは、群馬出身のバンドのみ出演する“上州事変”、関東拠点のバンドのみ出演する“関東事変”として、バンドの出身地ごとにくくるということですね。

そう。これがうまくいったら、今度は関西バンドと関東のバンドっていうくくりにしてもいいし。ローカルでくくるというアイデアを思いついて、ようやく「山人音楽祭2021」を開催しようという覚悟が決まったね。正直チケットが売り切れなくてもいいやと思えるようになったし。それよりも、ローカリズムというものを大切にして「山人音楽祭2021」を開催するというチャレンジをしていくことが大事だと思った。例えばLACCO TOWERも群馬で「I ROCKS」というフェスを主催しているけど、群馬でフェスをやってる同士が足を引っ張っていてもしょうがないわけだよ。群馬同士で対立しているくらいだったら、束になって栃木を倒しにいったほうがいい。で、栃木とやりあって、栃木も仲間にして次は茨城へ。で、栃木と群馬と茨城でユナイトして東京をやっつけにいって、今度は関東という束で、関西をやっつけて、日本という束になって、アジアへ……とやってるうちに世界平和が生まれるんだと思う。その“束”、ローカリズムっていうものをテーマとして見つけられたのは大きかったね。

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

最後に出演が決まった、絶対に勝てないROGUE

── “上州事変”と名付けられた4日公演にはFOMARE、LACCO TOWER、ROGUEという群馬出身のバンドが出演します。FOMAREはインディーズ時代から「山人音楽祭」に出演している常連でもありますが、そのほかのバンドのブッキングはスムーズにいきましたか?

正直、4日のブッキングはかなり苦労した。FOMAREは「山人音楽祭」にずっと出てくれているし、シンスケ(アマダシンスケ[B, Vo])とはよく遊んでるから「なんでもやります!」と言ってくれてすぐに決まったんだけど、LACCO TOWERはこれまで縁があまりなくて。でもLACCO TOWERも群馬でフェスを開催してるから、まずはじっくり話してからにしようと思って、時間はかかったけど、出てもらえることになって。最後がROGUE。ROGUEは地元バンドだからということじゃなくて、いちバンドとして昔から好きだったの。奥野(敦士 [Vo])さんは、昔事故で頸椎を損傷した影響で腹筋に力が入らない状態なのに、車椅子に乗って、シートベルトの力を利用して歌うんだよ。毎日トンネルで歌の練習をしてさ。俺らには絶対に勝てない。それはハンディキャップがあるからとかじゃなくて、そんな強い歌を、俺たちには歌えるか?って。だから群馬でくくるなら絶対に出てほしかったんだけど、やっぱり奥野さんに出てもらえるかどうかが本当にギリギリまでわからなくて。俺やFOMAREやLACCO TOWERメンバーが歌う形の「ROGUE ANTHEM」で出てもらおうと話が進み始めて、オフィシャルTシャツも「ROGUE ANTHEM」と印字して納品しようと思ってた。そしたら納品のデッドライン数時間前に、ギターの香川誠(G, Cho)さんから「奥野、出るって」と電話が来て。開催前からすごいストーリーだなと思ったね。

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

──5日の“関東事変”にはOAU、MONOEYES、HAWAIIAN6が出演します。「関東」というくくりでは、いろいろなバンドが当てはまると思うのですが、この3バンドになったのはどのような理由からですか?

コロナ禍よりも前から、この4バンドのメンバーで飲もうという話があって。でもコロナで実現できなくて、ライブで一緒になることもないから、「じゃあ『山人』で集まるか」って。それだけのシンプルな理由。ほかのバンドがダメとか、この3組が特別すごいというわけじゃなくて、単純に関東で集まるバンドと言ったらこの4組かなって。それでいて、コロナ禍の間も、対策をしながら一点の曇りもなく信念を持ってたバンドだから、勉強させてもらいたいという気持ちもあったね。OAUは6日に大阪でBRAHMANのライブがあって「4日のほうがありがたいけど、両日空けとくわ」と言ってくれて、MONOEYESは3日に福岡でELLEGARDENのライブがあるから「5日だったら出る」と即答してくれて。HAWAIIAN6は3日に広島、4日に大分でライブがあって、若手バンドみたいな3日連続のライブ行程になってしまうけど出てくれることになって。突貫イベントだったのに、みんながスケジュールを合わせてくれて成り立ってるのはすごい話だなあと思う。

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

茂木洋晃(G-FREAK FACTORY)

──それはひとえに「山人音楽祭」やG-FREAK FACTORYが持つ力でしょうね。

そうなのかなあ。でも、なんとなくなところに人はエネルギーを使ってはくれないと思うんだ。だから「『山人』が覚悟するんだったら力貸すよ」と言ってくれるのは幸せだよね。来年以降にちゃんと恩返しがしたいなと思ってるよ。

──今回の出演者で言うと、HAWAIIAN6は「山人音楽祭」の前身イベント「GUNMA ROCK FESTIVAL」からの皆勤賞ですね。

そう。だからもうHAWAIIAN6がいない「山人音楽祭」は考えられない。HATANO(Dr)も「もし自分たちが出られる枠がなかったら前夜祭でも、外のステージとかでもいいから呼べ」って言ってくれていて。あとは10-FEETもこれまで皆勤だったんだけど、今回はこういう形だから呼べなくて。TAKUMA(Vo, G)には「今回はこういうローカルの括りでやらせてもらうから」と話をした。

──先ほどもおっしゃっていたように「次は関西のバンドと」という形もできるかもしれないですしね。

そう。次もまた高崎芸術劇場でやるのか、ヤマダグリーンドーム前橋に戻るのか、わからないけど、まずはコロナ禍で1回狼煙をあげないと始まんないから、まずはこの形でやらせてもらうよ。