コブクロ「QUARTER CENTURY」インタビュー|まだまだ旅の途中、25周年の集大成に込めた決意 (2/3)

コブクロが旅してきた海の広がる場所

──そういうエピソードを聞くと、アルバムの1曲目「RAISE THE ANCHOR」の世界観がよりリアルに響いてきます。

小渕 活動を休止したり、ライブが途中で止まったり、いろんなことがあったけど、一度たりともコブクロという船を捨てたり、壊したりせずによくぞ今日まで来られたなという思いもあるし、天候の悪い日も凪の日も、いろんな海を見ながら歌を作ってきたなと。その海の場所は、リスナーの心の中だというメッセージも含めたかったんです。僕らの曲を聴いてくれている人たちの心の中は海よりも広くて、荒れるときも穏やかなときもあって、いろんな表情を持ってる。心の中って、これぐらい壮大なんじゃないかと信じてるんです。その中をずっと旅してきたから、僕たちのいろんな歌が生まれた。だから「ありがとう」って言葉が出てくるんです。

──繰り返される「夢の方へ 舵を取れ 運命を超え その向こうへ」という歌詞がすごく印象的ですが、このフレーズは黒田さんのひと言がきっかけになって生まれたそうですね。

黒田 最初はここ、全部「ラララ」だったんですよ。

小渕 黒田から「ここって歌詞入るん?」と言われて、「いや、たぶん入らない」と答えたけど、「……ん? ここ、歌詞入る可能性があるの!?」と思って。

黒田 だから最初はあんなサビで始まる予定じゃなくて、いろいろ二転三転して最終的にここに着地した感じです。

小渕 「夢の方へ」の歌詞が乗らなかったら、Aメロもできてなかった。まず、このリフレインから考えたんですよ。繰り返し聴いてたら、旅のシーンが浮かんできて。そうすると「夢の方へ」のパート、メロディは一緒でもコードが変わると急に嵐になったり、夜になったり、めちゃくちゃこの曲に合うなと思ったんです。ポジティブな内容だけど、今日まで戦ってきたという、ものすごいリアルなことを歌いたかった。サビの1行目「与えられた鎧で勝てる様な時代じゃない」という、こんな切り捨てたような言葉がサビの歌、なかなか書かないですよ。決意めいたことを言うのも、25周年が通過点だから。その先で、最後に「ありがとう」と言いたくて歌っているみたいなところもありました。

小渕健太郎

小渕健太郎

黒田俊介の“入口のパンチ”

──「RAISE THE ANCHOR」はライブでいち早く歌われていましたね。

小渕 はい。ファンサイト会員の方だけに来てもらった東阪ライブ「ALL SEASONS」で初披露して、そのあとに無料招待ライブでumeda TRADっていう500人キャパぐらいのライブハウスでも披露したんですけど、この曲によって太平洋ぐらいの広さを感じました。ダウンタウン浜田(雅功)さん発案の「ごぶごぶフェスティバル2024」でもドカーン!と盛り上がったので、この歌は場所を選ばないですね。

──ライブでお客さんに披露してから音源化するというところに、コブクロのスタイルというか信念みたいなものを感じます。「RAISE THE ANCHOR」以外にも、ライブで披露されていた「Mr.GLORY」「雨粒と花火」「足跡」がアルバムに収録されています。

小渕 ライブで聴いてくれた人たちからすると、曲を育てた一員のように感じてもらえるんじゃないかなと思います。

──ライブで披露するときは、お客さんの反応をしっかりご覧になっているんですか?

小渕 そうですね。レコーディング中も、ライブを思い浮かべます。ちょっとしたことなんですけど、ライブの残像をまずひとつのピークとして持っていきますから。もちろん音源がライブっぽすぎてもよくないので、引くところは引きますけどね。

黒田 僕はお客さんの反応よりも、自分の歌声を確認しています。ライブで歌ってみないとわからないんですよ。人前に出たときとスタジオで録る歌って全然違うから、一発ライブをやっておくと、「あそこまではいけるな」と自分の天井が見えて録りやすいんですよね。

小渕 黒田の場合、ライブで歌ったか歌ってないかでレコーディングでの歌声がまったく違います。デッサンと油絵ぐらい違う。ライブで1回歌えば、響かせ方とか、自分の「これ」っていう形を持って帰ってきますね。

黒田 逆にやってないと、「どんな感じでテンション上がるんやろ?」と考えないといけなくて。それでちょっとズレた歌い方をして小渕に怒られるパターン、よくあるんですよ(笑)。

黒田俊介

黒田俊介

小渕 「RAISE THE ANCHOR」はさっき言ったumeda TRAD公演のリハーサル中に、もともとはなかったけど、最初にゆっくり「RAISE THE ANCHOR」と歌ってもらうのを試して。それがカッコよすぎて、絶対にこれでレコーディングしたいと思いました。

黒田 いきなり歌から始まるの、めっちゃ嫌だったんですよ。でもやったら盛り上がるだろうなって思ったら、結果、ライブで好評で。

小渕 そうそう、これこれ!という感じでしたよ。1秒で心をつかむような、黒田の“入口のパンチ”はもはやこのアルバムの顔です。

「Englishman in New York」ってなんであんなアレンジなんやろ

──ライブで披露されていたリアレンジ楽曲「ベテルギウス - Over the GLORY DAYS -」「Moon Light Party!!」が収録されているのも、ファンの皆さんにとってうれしい点だと思います。

小渕 大事に取っておいた古い置物があったとして、埃をかぶったままずっと大事にしておくのもいいんですけど、ピッカピカに磨き上げるよさってあるじゃないすか。「こんな色やったんや」みたいなことを「ベテルギウス」に感じて。オリジナルよりテンポが速いけど、曲のよさや世界観がまったく損なわれず、さらに広がって輝きを放ったこのアレンジは、絶対に録っておきたいなと思ったんです。リアレンジしてくれたヒロさん(山口寛雄)は楽曲の理解度がすごい。崩し方もうまいんですよ。僕らに気を使わず、思いきりやってくれるから。

コブクロ

──リアレンジ楽曲をレコーディングで歌うときの感覚はいかがでした?

黒田 僕は「こっちのアレンジがほんまやった」と思って歌うようにしています。「Moon Light Party!!」なんて特に、このスカバージョンがほんまやろ、って。デモの期間が長かったみたいな。「Moon Light Party!!」をスカにリアレンジしたときに、スティングの「Englishman in New York」って最初は普通だったのに、あとからレゲエ風にしたのかなと、なんかふと思ったんですよね。イングリッシュマンがニューヨークに行くのに、なんであんなアレンジなんやろって(笑)。

──確かに(笑)。「Moon Light Party!!」は小渕さんのウエーブのMCも含め、このバージョンがとてもしっくりきます。

小渕 そこをどうしようかと思って、何も入れないまま半年か1年ぐらい考えてたんですよ。

黒田 オケを録ってから完成まで長かったよな。

小渕 今日が歌入れ、リミットってときにふと「ツアーでやってることってなんやったっけ?」と思って。とりあえずヘッドホンかぶって目をつむって、出てきた言葉が「それでは会場全体でウエーブ行ってみましょう!」だった(笑)。1回録ってみたらスタッフも全員楽しそうに笑ってたんで、これ以外はもうないかと(笑)。

黒田 「リアレンジのほうがいいね」と言われるようになってほしいなと思ってます。

──ライブの楽しさが音源からもリアルに伝わってきましたし、パンが左右に振ってあって、小渕さんが移動する感じも再現されてましたね。

小渕 そう。音源の中でちっちゃい小渕が動いてます(笑)。