ファンの人にとって自慢のアーティストでいたい

──今回はいろいろな人を迎えた効果が十分に出てるんじゃないですか。今までのファンの人がこのアルバムをどう受け止めるか私にはわからないですが、そうでない人に向けて、なるほど清春はこういういい曲を書くんだ、こういういい歌を歌うんだと認識を新たにしてもらうには、いいアルバムではないかと思います。

ああ、そうなってほしいですね。作品の持つパワーや魅力が伝わっていくきっかけって、たとえばナタリーみたいなメディアや、ラジオやテレビ、有線、タイアップなどいろいろあるけど、それらがうまく一致しないと作品も届かなくて、内容もしっかり見てもらえないのが常じゃないですか。大して売れなくてもいいんです。でも本当に音楽が好きな人に届いて、気持ちいいねって言ってもらえればいい。

──みんなに好かれようとは思ってないけど、でも自分の音楽を届くべき人には届けたいし、評価もされたい。

ええ。たとえば岡村靖幸さんとか、彼のことをあまり知らない人でもちゃんとした音楽をやる人ってイメージがちゃんとあるじゃないですか。でも僕らみたいなジャンルの出身者って、そういうイメージを持たれにくい。つまり……元ヴィジュアル系っていうね。それは普段ギャグにしてるんですけど、いざこうやってアルバムを作っていろいろチャレンジして、いいものを作って出そうかというときには、足かせになってしまう。それは悔しいですね。ちゃんと聴いてほしいし、評価してほしい。別に100万枚売れたいとか思ってないですけど、普段洋楽ばかり聴いてるような人にも「清春って、いい音楽を作るんだね」って知ってほしい。それはいつも思ってますけど、今回は森さんっていう新しい出会いもあったし、3年ぶりのソロアルバムだし、ちょっと思うところもあって。

──みんなに先入観抜きで聴いてもらいたい、届けるべき人に届けたい。そのためにはどうすればいいでしょう。

これは長年のテーマなんですけどね。かなり壁は厚いんですよ。今は僕のことを知らない若い人も増えてきているから、そういう人たちのほうがむしろ伝わりやすいかもしれない。けど30を越えてる人は僕のことを知ってるから、前のイメージのままなんですよ。遊びに行ってもそうですよ。僕の顔を見て、「あっ」と思う人も時々いる。僕の歴史やヒット曲をいくつか知ってる人ですよね。それはうれしいことなんですが、「『忘却の空』歌ってよ、カラオケで」みたいなこと言われるとね。

──そんなこと言われるんですか？ ずいぶん失敬な話だなあ。

歌わないですけどね（笑）。

──過去のイメージにがんじがらめになって身動きがとれなくなって、なかなか広がっていかないアーティストはほかにもいると思うですけど、そうかといってあきらめて、理解者だけに向けて閉じてしまうのはやはりもったいないと思うんです。その点、清春さんは決してあきらめず広くいろんな人に向けて音楽を発信しようとしている。

うん。僕はファンの人にとって自慢のアーティストでいたいんですよ。

──清春さんのファンでいてよかった、という。

そう。私たちが好きな人はこんなにすごいんだって。そういうのは絶対必要だと思うんです。「私たちだけがわかってる」でもいいんですけど、それもありつつ、「この人ってこんなに評価が高いんだ」という。僕だって自分が好きなアーティストが海外で評価されたらうれしいですもんね。たとえプロモーション上のことであっても。

──なるほど。

でもさっきも言ったように、枚数を売りたいわけじゃない。評価してくれる人も増えるけど、そのぶん誤解してる人も増えるんで。それが何年後かの自分を苦しめるんです。音楽的評価と枚数って今の時代、絶対に比例してない。昔みたいに放っておいても売れる時代じゃない。だからみんなかなり強引な方法でCDを買わせてる。そうしないと売れないから。なので今の時代、まっとうに音楽的なことをやっても、しかも1人でやってるとなかなか売れない時代だと思うんですよ。でも聴いてほしいし、届けるべき人には届けたい。この時代だからこそ「SOLOIST」でありたい。団体戦でもなんでもないけど、ただちゃんと音楽をやっていきたい、という主張なんです。バンドのときよりももっとチャレンジしているし、それをわかってほしい。