黒夢のライブBlu-ray「CORKSCREW A GO GO! SAINT MX XXXX XXXX」がリリースされた。
このBlu-rayには、清春のメジャーデビュー30周年記念ツアーの一環として行われた黒夢のライブ「CORKSCREW A GO GO! SAINT MX XXXX XXXX」のうち、東京ガーデンシアター公演の模様を収録。10年ぶりの復活を果たした黒夢のメモリアルな一夜が記録されている。Blu-rayの発売を記念した本特集では、ライブの模様をレポートしながら、新たな“伝説”となった公演を振り返る。
文 / 真貝聡 撮影 / 森好弘
“伝説”の幕開け
大観衆を前に清春(Vo)は言った。「伝説ってすごいなと思います。伝説ってこうなんだって……」。これは清春デビュー30周年ツアー「debut 30th anniversary year TOUR 天使ノ詩 『NEVER END EXTRA』」の最終公演、メジャーデビュー記念日にあたる2月9日に東京ガーデンシアターにて行われた、黒夢10年ぶりの復活ライブ「CORKSCREW A GO GO! SAINT MX XXXX XXXX」のひと幕である。その伝説のステージがBlu-rayでリリースされたことを記念し、ライブの全容をレビューしていく。
開演前から会場は異様な熱気に包まれていた。ステージにメンバーの人時(B)とサポートアクトの坂下たけとも(G)、Daiki(G)、Katsuma(Dr / coldrain)が姿を見せ、4人の後ろには“黒夢”と書かれたバックドロップ幕が掲げられている。そして清春が登場すると、マイクスタンドをどけて、大空を飛び立つ鳥のように両腕を大きく広げた。腕を下ろした瞬間、耳をつんざくような轟音が鳴り響き、ライブ一発目の定番曲「FAKE STAR」で火蓋が切られた。清春がスピーカーに足を乗せて、刺々しく攻撃的なシャウトを放つと、けたたましい音がフロアに襲いかかる。これが、ライブ開始1分の光景だ。まるで10年もの間、息を荒くしながらそのときを待っていたケルベロスが檻から解き放たれたかのような、強烈なワンシーンだった。
そんな圧巻のオープニングを経て「Suck me!」「SPOON & CAFFEINE」でさらに燃料が投下され、黒夢という名の炎が大きく燃え盛っていく。周年のめでたい場などという生易しいものではなく、すさまじい緊迫感を放っている。彼らが長きにわたって音楽シーンで圧倒的な輝きを放ち続けているのは、時代をぶっ壊していく破滅的な気概が楽曲や生き様にほとばしっているからだ。「CAN'T SEE YARD」で「彼らが作り上げた家畜の王国 / 首に縄を付けられた同年代達」と歌い、オーディエンスに「お前らのことじゃないよな?」と尋ねると、フロアから無数の拳が上がる。その絶景を見ながら深くタバコを吸う清春。ロックスターのライブはどの瞬間を切り取っても絵になるのだと、改めて思わされた。
「BARTER」がマシンガンのようなベースで始まると、人時を軸に曲が展開し、皆が音の渦に酔いしれた。ここで清春が「有明、両手上げろ。上げろって言ってんだよ!」と檄を飛ばして「1 Barter 2 Barter 皮はがせば ブタになる」というフレーズをオーディエンスと一緒に熱唱。一体感をより強固なものにしたところで「頭飛ばせるか? 頭飛ばせるか!? 頭飛ばせるかって言ってんだよ!」と強い語気で投げかけ、決河の勢いを感じさせるハードロックナンバー「BAD SPEED PLAY」で前半戦を締めくくった。
骨の髄まで壊れてください
清春がマイクを握り、改めて挨拶した。「10年ぶりです、黒夢です。そして今日は30年前の同じ日にデビューした日です」「結成で言うと、もう35年近くやっているんですけど、そのほとんどがお休み時間で」と言うとフロアから温かい笑い声が起きた。「お休みをしてるのに、よくもまあこんなに集まってくれるなって。伝説ってすごいなと思います。伝説ってこうなんだって。今日は骨の髄まで壊れてください」。
中盤戦に入ると、黒夢はゲストのタブゾンビ (Tp / SOIL&"PIMP"SESSIONS)と栗原健(Sax)をステージに呼び込み、「HELLO, CP ISOLATION」でライブを再開。前半のセクションが“モノクロの衝動”ならば、中盤は“多彩の高揚感”だろう。黒夢というキャンバスにブリリアントな色が足されて、2025年の楽曲として新しい顔を覗かせる。「YA-YA-YA!」では清春が「PEACE & ROCK'N' ROLL」と声高らかに歌う横で、人時と栗原が向かい合って演奏する場面も。彼らの代表曲の1つである9曲目「MARIA」も素晴らしかった。跳ねるような心地いいスカのリズムに、トランペットのスケール感が加わり、サックスの妖艶さとブルージーな雰囲気が加味されたことで、よりボーカルのドラマチックさが増幅して聞こえた。その後、人時がインストゥメンタルナンバーを披露し、高次元の演奏力で観る者を圧倒。そこにバンドメンバーも加わり、美しくエモーショナルな音を奏でた。
後半戦は「MASTURBATING SMILE」でスタート。オーディエンスの胸ぐらをつかむような、鬼気迫るパフォーマンスにしびれる。彼らの放つ表現は、触れたら皮膚を裂かれる、ナイフのような鋭利さがある。今や清春、人時も50歳を超え、ベテランと言われるキャリアになった。普通のアーティストは年齢や経験とともに、出立ちや音楽に対する姿勢が丸みを帯びていくが、黒夢はそうじゃない。表現力を研磨し続けた結果、より切れ味のある音楽に昇華されている。「あのときはよかった」とならないからこそ、これほどの狂気的な歌と演奏が生まれるのだろう。清春は煙草に火を着けてくるっとフロアを向くと、「ロックンロール!」と叫び、「ROCK'N'ROLL」の爆音の上で「首吊り台に見える / 誰も居ない STAGE / BEATに身をまかせて / いらだち吐きすてた」と歌う。サビでオーディエンスと一緒に「SUICIDE, SUICIDE, SUICIDAL ROCK'N' ROLL」のフレーズを熱唱する姿は実に痛快だった。
膝をついた清春が宙を見ながら、何かに取り憑かれたように声を出す。「ひどく、後遺症に犯されてる。ひどく、後遺症に犯されてる……後遺症!」という叫び声に続けて「後遺症 -aftereffect-」へ。ダークでダウナーな歌詞が強烈なサウンドに乗ることで凶暴な楽曲となり、会場は熱狂の渦に包まれていった。そして清春が「有明! ラスト!」と叫んで歌ったのは、2011年の復活ライブ「XXXX THE FAKE STAR」でも本編最後にパフォーマンスした「Sick」だ。美しい衝動と爆発力を見せつけた5人に、盛大な拍手が送られた。
清春と人時が見せた幸福感
再びステージに姿を見せた彼らが、アンコール一発目に届けたのは黒夢最大のヒットナンバー「少年」だ。1998年に発表されてから17年が経った今、その曲は色褪せないどころか、歌も演奏も強靭さが増して進化しているように感じられた。ステージが照明で赤く染まり、サイレンの音が鳴り響く中、清春はマイクを握る。「2023、イスラエル。2024、能登半島。2025、有明。PEACE LOVE NO WAR……PEACE LOVE NO WAR!」「『カマキリ』を潰せ!」と叫んで、知的権力を振りかざす者たちを痛烈に批判する「カマキリ」を歌う姿は爽快そのものだ。
ライブ終盤、清春は90年代後半の人時との関係について話し始める。「今では笑い話になっていますけど、(当時は)楽屋も別、移動も別、廊下も別。本番までは一緒にいない状態でしたが、その中でツアーのライブを約120本やりまして。もう地獄のようなツアーだったんですけど」と暴露をすると会場から笑い声が起きて、思わず人時も笑みを浮かべた。「そのとき坂下くんが『仲よくなろうよ』と言ってくれて。彼が(雰囲気を)和らげてくれてくれたおかげで、『CORKSCREW』(『1998 KUROYUME TOUR "Many Sex Years" Vol.5 "CORKSCREW A GO GO!"』)があったんじゃないかと思っています」。その後、DaikiとKatsumaの紹介を挟んで「Spray」を演奏した。肩を組んで笑顔を見せた清春と人時の様子は“幸福感”という言葉がしっくりくる。「僕と人時くんが、あの頃のことを何か思うとしたら、まず真っ先にこの曲が浮かんでくると思います」と言って「NEEDLESS」へ。そして彼らがラストナンバーに選んだのは「Like @ Angel」だ。フロアに明かりが点き、会場にいる全員で熱唱。有終の美を飾った5人に大きな拍手と声援が送られると、清春は「愛してます」と告げてライブの幕を閉じた。黒夢が伝説のロックバンドであり続ける答えが、このライブ映像にしっかりと収められていた。
フォトギャラリー
ライブ情報
「CORKSCREW 2025 追加公演」
- 2026年2月16日(月)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2026年2月17日(火)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
プロフィール
黒夢(クロユメ)
清春(Vo)と人時(B)の2人からなるロックバンド。1994年2月にシングル「for dear」でメジャーデビューし、「優しい悲劇」「Like @ Angel」「少年」など数々の名曲を発表。1995年5月にリリースされたアルバム「feminism」以降、すべてのアルバムがチャート上位を記録する。しかし人気絶頂のさなか、1999年1月に無期限活動休止を発表。その後、清春はsadsを結成し、人時もソロプロジェクトを始動する。2009年1月に日本武道館にて解散ライブを開催し活動に一旦終止符を打つも、翌2010年1月に再始動を発表。2011年2月にシングル「ミザリー」をリリースしたほか、同月に国立代々木競技場第一体育館にて復活ライブを敢行。同年11月に復活後初めてとなるアルバム「Headache and Dub Reel Inch」、2014年1月にアルバム「黒と影」をリリースした。2014年7月より最後のロングツアーと銘打ち「黒夢 DEBUT 20TH ANNIVERSARY TOUR 2014 BEFORE THE NEXT SLEEP」を開催した。2025年2月に、清春のメジャーデビュー30周年ツアーの一環として“10年ぶりの再始動”を謳ったライブ「CORKSCREW A GO GO! SAINT MY FAKE STAR」を行った。