筋肉少女帯|メンバー4人が解き明かす、11編の愛の物語

03ハリウッドスター作詞:大槻ケンヂ / 作曲:本城聡章

本城聡章(G)

本城 「ザ・シサ」では30周年のお祝いで「セレブレーション」という曲を作ったので、31年目も「今までやったことないことは何かないかな」と思っていろいろ作っていたんですけど、あまりうまくいかなくて。「じゃあ、華々しくファンファーレでいこう」と決めて作り始めたら、普段半日かかるところを40分ぐらいで組み立てられた曲です。

大槻 「人生いろいろ悩みはあるけど、ハリウッドスターの悩みに比べればたいがいなんでもない」。これは僕の口癖で、ずっと歌おうと思っていたテーマの1つだったんです。こないだ古本屋さんでホキ徳田さんの「ヘンリー・ミラーの八人目の妻」という本を見つけて「8人目かあ……でも、そういうのって外国のショービジネス界にはよくあることだよなあ。それに比べればたいがいのことは何でもないなあ」って考えてたら、がんばろうという気持ちになってきて。ちなみに色恋で悩んだときは「いやー、俺大変だなあ、昔のフランス映画みたいでカッコいいなあ」と思うと、たいがい大丈夫です。

一同 わははは!(笑)

──「君がお金でトラブってても ハリウッドスターと桁違うだろ?」ですから。

大槻 俺、お金のことに関して歌うの嫌いなんですよ。そういう言葉を歌詞に使ったことなかったから、これがお金について初めて書いたと思う。

橘高 この「桁違うだろ?」がいいよね。

本城 破産だもんね(笑)。詞が上がってきたときに、これはドンピシャだと思った。

内田 内田は往年のミュージカル映画「ザッツ・エンターテイメント」みたいな画が浮かびました。

──「ブラピ ジョニデ サミュエルエル」の語感も最高でした。

大槻 これ書いてるとき、たまたまブラッド・ピットが出てる「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」って映画がヒットしてたんだけど。僕、あの映画は絶対観ないと決めてるんです。尊敬するブルース・リーが茶化されてるって聞いたから。もう一生観ない!

04ボーン・イン・うぐいす谷作詞:大槻ケンヂ / 作曲:本城聡章

──アルバムリード曲でミュージックビデオも制作されました。ライブではお客さん全員、大槻さんの手の振りをしている姿が目に浮かびます。

大槻 あの手が横のお客さんに悪いなあと思うよね。皆さん気を付けてって……(笑)。これをリード曲にしたのは、個人的にはQueenが「愛という名の欲望」を出したときのイメージです。ああいう変化球が意外と一番売れたりするんだよね。

橘高 アメリカで初めて1位になった曲だ。

大槻 僕、そもそもラテンをやりたかったんです。殿さまキングスの「恋は紅いバラ」という曲が好きで、ああいうノリを筋肉少女帯でやったらお客さんも楽しいだろうなと思って。

本城 実はこれ3年前に作った曲なんですよ。ある日「ラテンをやろう」って突然歌詞が送られてきて、「こんな感じにして」ってすごく細かい指令書が付いてて(笑)。

大槻 トーマス・ドルビーの「彼女はサイエンス」とThe Black Eyed Peasの「ブン・ブン・パウ」とQueenの「RADIO GA GA」みたいのやりたいってよく俺言うよね(笑)。「うぐいす谷」はSantanaの「スムース」みたいなムード歌謡をやろうよって、リリース時期でもなんでもないのに、おいちゃん(本城)に歌詞をメールで送ったらすぐ作ってくれたんです。けっこう長いこと寝かせてたね。オケミスのツアーでやったら一瞬でお客さん盛り上がったから、これは当たるなと思いました。僕はもう今年の「紅白歌合戦」で、純烈と高木ブーさんとコラボで歌ってる絵が浮かんでます(笑)。ただ、その裏で僕は「オカルト紅白」というCSの番組にも出てるんですよ。一生に一度でいいから紅白のオファーが来て「いや、僕は『オカルト紅白』に出てますからそういうことはできません!」って言ってみたい……出るけどね、結局(笑)。

橘高 本番中にうぐいす飛ばして日本野鳥の会に数えてもらおう(笑)。

大槻 曲に出てくる“うぐいす谷”っていうのは架空の街なんですけど、山手線の鶯谷も情緒があっていいですよね。鶯谷行ったことないでしょ?

本城 一度もないから、エンジニアさんと「鶯谷ってこんな感じかな?」みたいなことを言いながら録ってましたね。

内田 僕はこの曲を聴いて柳ジョージ&レイニーウッドのイメージが浮かんだので、ギターソロみたいに痛そうな顔をしながらベースを弾きました。

橘高 俺はこの曲のコンセプトは“feat. サンタナ”だろうなとわかったから、それが“feat. 橘高文彦”だったらどうなるんだろうという遊びを自分の中でちょっとしてます。ロックバンドをやってて注意しなきゃいけないのが、「○○○みたいな」ってところまではインスパイアとしていいけど、まんまそのフレーズを弾いちゃいがちなところ。そこは自分の看板背負ってやるべきであって。この曲に限らず筋少の大事にしているところは実はそこで、ここまで強く“feat. サンタナ”感が出てても、あえてフィードバックのロングトーンは禁じ手にしました。

大槻 聴きたかったなあ、フィードバックのロングトーン(笑)。まあ、僕もボーカル録りのとき、もっとムード歌謡に寄せることもできたけど「その方向性は筋少じゃないな」という思いはありましたね。やってもよかったかな。

05妄想防衛軍作詞:大槻ケンヂ / 作曲:内田雄一郎

内田雄一郎(B)

内田 これは僕としてはわりと新しめのロックを目指したつもりなんですけど、結果ものすごい古くさいものになったという。トラックダウンのときに橘高くんから「この曲は『仏陀L』(1988年発売のメジャーデビューアルバム)の匂いがする」と言われて、「なるほど、変わんないんだな」と思いました。

大槻 いや、これ古くないですよ! 斬新です!

橘高 うん。デモを聴いたときから「新しいことをやろうとしてるな」と思った。でも、三柴くんがピアノを入れた瞬間、本当に「仏陀L」と同じ匂いがしたんだよ。

大槻 最初、デモテープの仮タイトルが「ワルサー」だったんだよね。Aメロに、ルパン三世が車で走っているときの感じがちょっとあるから。ただ、後半の怒涛のシューゲイザー&プログレな部分を聴いたら「タチムカウ」をさらにひねくれさせた曲だなあと思って。それで「身を挺して宇宙や世界、歴史などを救っているんだけど、それを誰にも知られていない人たち」のことを歌おうとしたんです。

──感受性豊かな若い子はきっと琴線を掻きむしられるんじゃないでしょうか。

大槻 これ最初は違う防衛軍だったんですけど、内田くんから「何を守っているか限定すると、聴く人の想像の範囲を狭めてしまうのではないか」と言われて。だったらもっと曖昧模糊とした幻想小説的な方向に持っていこうと思って、どうとでも取れるタイトルにしました。彼らは何かと戦っている気になっているだけの人たちかもしれないし、本当に世界を牛耳る闇の権力と戦って自決したのかもしれない。

内田 歌詞について「ちょっとこれは……」って言うのは初めてだから、どう伝えようかすごく悩みました。部分的、いや全体的に……。

大槻 あはは!(笑) 僕は想像だにしてない意見だったから、思わず昔のマスオさんみたいなリアクションをしました。「(両手をピンと伸ばして)エエー!」って(笑)。ああ、そういう考え方もあるんだ、なるほどなあって。おかげで「妄想防衛軍」というタイトルになって、それによって狂気性が増したからとてもよかったです。

内田 最後に絶叫してくれたあたりが「仏陀L」だなと、ちょっと思いました。