筋肉少女帯|メンバー4人が解き明かす、11編の愛の物語

昨年メジャーデビュー30周年のアニバーサリーイヤーを駆け抜けた筋肉少女帯が、そこで歩みを止めることなく通算20作目となるオリジナルアルバム「LOVE」をリリースした。

今回のアルバムはタイトルの通り、さまざまな角度から“愛”を表現した作品。発売に先駆けてYouTubeでミュージックビデオが公開された「ボーン・イン・うぐいす谷」がムード歌謡だったことから、多くのファンが意表を突かれることになったが、いざ蓋を開けてみれば、どの曲もそれぞれ異色さを持ちながら、どこから切っても筋少印の1枚に仕上げられている。音楽ナタリーではこのアルバムについてメンバー4人に全曲解説をしてもらい、31年目に突入した彼らの現在のモードを紐解いた。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 入江達也

アルバムを作るって聞いて、全員「ええーっ!」ってなったよね

──「Future!」「ザ・シサ」に続き3年連続でオリジナルフルアルバムリリースというのは、まさに今のバンドの勢いを物語っていますね。

橘高文彦(G)

橘高文彦(G) 昨年、デビュー30周年で「ザ・シサ」を作った直後に筋肉少女帯はツアーに出まして。その初日の楽屋で大槻さんが「で、次のアルバムはすぐ出すよね?」って言ったんです。

本城聡章(G) 全員「ええーっ!」ってなったよね。さすがに翌年はないと思っていたから。

橘高 これはすごいことだと思って。「ザ・シサ」のミックスのとき、内田くんと「今回精魂込めてがんばったし、次はしばらく空けようか?」なんて雑談してた直後だったから。

内田雄一郎(B) うんうん。

橘高 ただ、メンバーのうち1人でもモチベーションが高い人がいるときは絶対やるべきだから「やりましょう!」って。

大槻ケンヂ(Vo) たぶんやる気に満ちてたんでしょうね。作詞脳が活性化してる今のうちにいっぱい書いておこうと思って。でも今回は、いつものオカルトネタはあまりないです。特撮とオケミス(大槻ケンヂミステリ文庫)でかなり使ったから。ちなみにまだ発表してないけど、実は「LOVE」と同時期にオケミス1枚分のアルバムの歌詞を書いてるんです。

橘高 このアルバムも30周年ライブのファイナル(今年6月30日の東京・中野サンプラザホール公演)直前にプリプロに入って、終わった翌々日からレコーディングに突入したので、30周年を駆け抜けたままの勢いがあるんじゃないかなと思いますね。

01愛は陽炎作詞:大槻ケンヂ / 作曲:橘高文彦

大槻ケンヂ(Vo)

大槻 フォークグループの雅夢に「愛はかげろう」って曲あったよね。あちらはひらがなだけど。

──伊藤麻衣子さん演じる主人公が裏切った婚約者を五寸釘で呪い殺す映画「愛の陽炎」も頭をよぎりました。それで「一番好きな人とは結ばれないのさ」なのかなと。

大槻 ああー、あったねえ。観てないや。これは歌の1行目でガツンと絶望的なことを歌うというのをやってみたかったんです。当初アルバムタイトルも「Falling out of love」にするつもりだったけど、ちょっと長いし「LOVE」だけの方が印象に残るなと思って。

──ギターの和のテイストも世界観にぴったりでした。これは歌詞に合わせて?

橘高 いや、今回詞先は「ボーン・イン・うぐいす谷」だけです。筋少は9割8分曲先なんだけど、大槻くんが楽曲から見事に世界観をキャッチして歌詞を書いてくれるから、「まるで詞先のようだ」と昔から言われるんです。イントロやアウトロのギターは普通だと16分音符で埋めたくなるんですが、「愛は陽炎」では1つの譜割を延々と繰り返すことでどんどん気持ちよくなっていくようなアレンジにチャレンジしてみました。

大槻 ヘヴィメタルと演歌の近接点というのはよく言われることじゃないですか。だから情念みたいなものを押し出すと日本人が聴いたときにピッタリくるんでしょうね。この曲、とにかくピアノがすごい。こんなに弾きまくってるって。びっくりした、俺。

橘高 若い子をプロデュースするとき、キーボードがいないバンドはやたらこういうフレーズを打ち込んでくるから「こんな複雑なの生で弾けないだろ? もっと人間味のあるものにしなさい!」って怒るんだけど、まさか自分のバンドにそれを弾く人がいるとは(笑)。

内田 筋少はドラムとピアノはサポートメンバーだけど、自己主張をものすごく出してくれるのでありがたいんです。今回もいつもより余計に弾いてくれて。

橘高 結局10曲弾いてるのかな。「いっぱい弾いちゃった」って喜んでました(笑)。三柴(理 / Key)くんもデビュー30周年で初のベストアルバムをリリースしたばかりだったんですよ。ピアニストとして1つの節目を迎えたあとのいい状態と、筋少のレコーディングの時期が重なってよかったなと思います。

02from Now作詞:大槻ケンヂ / 作曲:内田雄一郎

大槻 この曲の歌詞は中野サンプラザホール公演当日の朝、メンバーに送ったんだよね。Zweiというグループとの競作だから、その締め切りもあって。

内田 Zweiさんから発注を受けまして。しかも「作曲は内田で、『踊るダメ人間』や『これでいいのだ』みたいな曲を」と指定されたんです。注文があると曲をかけないタイプなので悩んだ結果、今まで恥ずかしくてやったことないアメリカンハードロックをやってみようと思って。

橘高 なかなかこのバンドでは出てこないフレーズだね。アメリカンハードロック。

内田 もちろん内田なりの妄想のアメリカンハードロックですけどね。JourneyやTotoが歌ってる映像を思い出しながら。でもなーんか恥ずかしいので、ギャグをところどころに入れました。

橘高 ギャグはブリティッシュなんだね。“深紫”な感じの(笑)。

大槻 これは当初、NHK「みんなのうた」のタイアップの話があったので、子供にも対応するように“親や友達とケンカしたけど仲直りする歌”を作ろうと思ったんです。結局その話はなくなったんですけど、謝ってる曲になりました。「愛は陽炎」「from Now」の2曲でちょっと“悲恋”というアルバムの方向性ができた気もしますよね。