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もうすぐ50歳&25周年 独特な軽やかさの秘密に迫る

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デビュー25周年を目前に控え、自身のソロ活動のみならず、バンド「Cabrells(カブレルズ)」を結成したり、三谷幸喜監督の最新映画「ステキな金縛り」に俳優として出演したりと、フットワークの軽い活動でファンを楽しませているKAN。そんな彼が、およそ1年9カ月ぶりの新曲となるニューシングル「Listen to the Music」を発表した。

ナタリーではこれに合わせ、"芸能生活23周年"記念アルバム「カンチガイもハナハダしい私の人生」発売時に続き、2度目のインタビューを敢行。もうすぐ50歳だとはとても思えない、飄々とした佇まいと独特な軽やかさの秘密に迫った。

取材・文 / 臼杵成晃

 
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「こっからのソロがカッコいいのに!」

──前回のインタビューのときは「デビュー23周年」ということで盛り上がってましたよね。来年春には25周年ですけど、KANさん的にはここはそんなに重要ではない?

特にないですね(笑)。まあ、2年前にあれだけ「23周年!」って言っといて、25周年も同じぐらい盛り上がるって手もあったんですけど。「この前と言ってること違う!」って。ただ、ある程度ちゃんと準備しないと、25周年なんてサラッと通り過ぎちゃうから。

──では、その25周年への足がかりともなるニューシングル「Listen to the Music」についてお訊きします。タイトル曲の「Listen to the Music」はすごくあたたかみのある、KANさんならではのポップスだなという印象を受けました。同時に、音楽とは、ロックとは、ポップスとはなんぞやと問いかける、音楽そのものに対する禅問答のような歌詞だなと。

歌詞のほとんどは最終的に結果論というか、先に曲があって、音で言葉をはめていくんですね、結果的にこんな歌になっちゃったっていう場合がほとんどで、今回もそうなんですけど。入り口の「Listen to the Music どんなとき」というのがひとつの音として最初に浮かんでたんです。「どんなとき」は元から音として一緒に出てきたものなので、そこを無理やりいじらないほうがいいなと。「さて、どんなとき……俺はどうすればいいんだろう」と考えながら書き始める。

──メッセージが先にあるシンガーソングライターとは異なる手法ですよね、おそらく。

もちろん曲によっては言いたいことが先にある場合もありますけど、そのとおりに聴き手が受けとるかというと、そんなこともないと思ってるので。解釈が10種類あって当たり前だと思ってるし、中にはこちらが考えもしなかった解釈をする人がいてもいい。いろんな受け取り方があるほうが楽しいと思っているので。

──「Listen to the Music」では、そんなKANさんの考え方そのものが歌われていますよね。

僕らが中学、高校の頃に必死でレコード聴いてた感じっていうのは、今は全然ないんだろうなとも思いますし、自分自身でも音楽1曲、アルバム1枚に対する価値観はすごく下がっていると思うんですよ。必死で聴いてた頃に比べれば。必死で聴き込む楽しさもあるけど、ふっと飛び込んできた音楽に心を突き動かされる瞬間もあって。配信の時代だからということじゃなくてね、今だってなんかの拍子にガーンとハマる1曲に出会って人生に大きな影響を与えるようなことはあるでしょうし。そのへんのことをなんとなく行ったり来たりして歌ってる曲なんです。

──「吹けるわきゃないサックスのソロ咽び泣かせ feel so good」からサックスソロに入るようなユーモアもありつつ、そんな「音楽との関係性」を歌った曲が、3分半のサイズに収まっているのがまた素敵だなと。

ラジオなんかだと、ソロに入ったところで曲が絞られちゃったりするでしょ。あれがイヤで。歌詞で一応言っておくと、ソロまで聴かなきゃいけなくなるから(笑)。ラジオを批判してるわけではないですよ。特にAMはお話がメインの媒体なのでしょうがないですけど。たまたまタクシーの中で好きな曲がかかっても「こっからのソロがカッコいいのに!」って思うことがあるんです。

カップリングは昔からずっと困ってる

──マニア気質と大衆的なポップセンスが矛盾なく両立しているのが、KANさんの大きな特徴だと思うんですが、KANさんの中ではどのように共存させているんですか?

写真は2012年1月1日にリリースされるライブDVD「KAN LIVE TOUR 2001 Rock'n Roll 39」より。

僕の中で「ポップ」というのはポール・マッカートニーのことなんです。大好きなビリー・ジョエルだって、THE BEATLESが好きな人ですから。ちゃんと安定したメロディがあるというのが大前提。でも歌詞に関しては、自分ではあまりポップだと思ってないんですよね。もっとどんな人にも共通するようなことがサビでカッコよく歌い上げられたりすれば、よりポップなのかなという気もしますけど。

──そんな海外の先達のセンスが絶妙に盛り込まれているのも、KANさんの大きな特徴だと思うのですが、今作にはカップリングに初の洋楽のカバーとなる「Christmas Song」(オリジナル:ギルバート・オサリバン)が収められています。これは意外といえば意外ですが、なぜ今このタイミングで初めて洋楽カバーに挑戦したのでしょうか。

「Christmas Song」は元々すごく好きな曲だったんですよ。今回は12月の頭にリリースするシングルということもあったし……そう簡単にホイホイホイホイ新しい曲を書けないのもあって(笑)。それで「そうだ、あれやろう!」と。カップリングは昔からずっと困ってるんですよ。「満足いくけど、アルバムに入れるほどでもねえな」っていう曲がスッとできれば一番いいんですけど。

──でも、いわゆる「B面の良さ」みたいものもありますよね。

前はそんな気持ちで出してたんですよ。だけど「惜しいな」と思う曲を出しちゃダメだろって。だってライブでやろうと思わないですもん。前作の「よければ一緒に」のカップリングだった「バイバイバイ」は弾き語りでも十分成り立つ曲なんですけど、一方でストリングスをいっぱい入れるのもアリだなと思ったから、最初からアルバムでは違うバージョンを録るというのが念頭にあって。弾き語りにしてもいいと思えない曲を無理にそうする必要はないし、そういう必然性のあるカップリングが常にあればねえ。

──今まで洋楽のカバーをやらなかったのは、何かこだわりや理由があるんですか?

それは特にないですね。やらない理由もやる理由もなく。ただ、「Christmas Song」は前からすごくやってみたかった曲だけど、これがもし2月に発売するものだったらやってないと思いますしね。

──スピッツの「チェリー」をカバーしたときはどうでしたか?

あれは元々FM802のキャンペーンで、10組ぐらいがそれぞれ「チェリー」をカバーするという企画があって。コンクールみたいで面白かったですね。できれば順位付けてほしかった(笑)。ワンコーラス目はほとんどそのままコピーしてるんですけど、その先は「チェリー」が入っている「インディゴ地平線」というアルバムの全曲のフレーズをコラージュするというめんどくさいことをやって。スピッツのカバーをやることでそっちのお客さんを引き込もうと思ったら、逆に僕のお客さんがスピッツのアルバムを買うはめになったという。

作り方はカバーもオリジナルも同じ

──オリジナルという対象があることで、よりそのアーティストの個性が浮き彫りになるという側面も、カバーの醍醐味だと思います。

いろんなタイプの曲をやるのが好きなので、自分のスタイル、個性と言えるものが僕にはないんですよ。だから、僕がやったらこうなるっていうイメージが自分にもなくて。歌も含めてね。例えば(井上)陽水さんだったら、ひとこと歌った瞬間にもう「ありがとうございました!」みたいな(笑)。確固たるイメージがあると思うんですよね。 僕は自分でそういうスタイルを持っているとは全然思わないんです。ごちょごちょ作ってナンボ。

──アーティストを二分するならそっち側、ということになるんですかね。

うん。で、この「Christmas Song」も基本はギルバート・オサリバンの世界をまんまやりましたけど、弦と管楽器については自分なりのアレンジにこだわりましたね。あと途中で転調したのは、そのほうが最後うれしくなるかなと(笑)。オリジナルのキーより一個下げたところから始めて、間奏後に転調するという。

──なるほど。元々熱心な洋楽ファンがニヤリとするエッセンスを取り入れるのが得意なKANさんが、洋楽そのものをカバーするというのは面白い試みですね。

僕としては作り方は一緒というか、カバーでも「こういうものをやる」という目標がはっきりあれば困ることは何もないんですよ。「メロディに対してどう世界を作っていくか」という作り方はカバーもオリジナルも同じなので。あとは英語の人が聴いてもちゃんと歌になってるかどうかってことですね。一番気を遣ったのは。

ニューシングル「Listen to the Music」 / 2011年12月7日発売 / 1050円(税込) / UP-FRONT WORKS / EPCE-5829

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CD収録曲
  1. Listen to the Music
  2. Christmas Song
  3. Listen to the Music -instrumental-
  4. Christmas Song -instrumental-
KAN(かん)

1962年、福岡県生まれのシンガーソングライター。1987年にデビューし、1990年にリリースしたシングル「愛は勝つ」が大ヒット。200万枚を超えるセールスを記録し、1991年には日本レコード大賞も受賞する。2002年からパリに移住。帰国後の2006年にはアルバム「遥かなるまわり道の向こうで」をリリース。その他、今井美樹やSMAPなどへ楽曲提供。2010年3月には"芸能生活23周年"記念アルバム「カンチガイもハナハダしい私の人生」をリリース。2012年春のデビュー25周年を目前に、2011年12月7日にはニューシングル「Listen to the Music」を発表した。