音楽ナタリー PowerPush - 梶浦由記
人生を賭けて描く1つの絵
FictionJunctionの理想のライブ
──ライブBlu-rayにはツアーファイナル、4月20日のNHKホール公演が収録されています。KAORIさん、YURIKO KAIDAさん、KEIKOさん、WAKANAさんという4人の歌い手の方々の美しいコーラスで幕を開けるオープニングで、一気にライブの世界に引き込まれました。
あの4人に関してはもう、ライブを重ねてきたことでの貫録と余裕があるんですね。なので、その貫禄をまずはドンと惜しみなく出して、FictionJunctionのライブとはこういうものですよ、4人の歌の絡みで持っていくライブですよっていうことをまずは見せたいなと。そういった自己紹介的なコーラスワークで、観てくださる方々が「おお!」と思っていただけたら願ったり叶ったりですね。
──FictionJunctionのライブはまさにそういった荘厳で神秘的ですらあるコーラスワークが大きな魅力なんですけど、中盤の「eternal blue」「時の向こう 幻の空」では歌い手の方がアクティブなパフォーマンスを見せてもいて。自由に動いて、観客を煽っていく感じもすごくよかったんですよね。
アップテンポな曲を2曲続けてやるのはすごく楽しかったですね。私たちも自然とカラダが動いてノリノリになるので。ボーカルが4人いるからまったく自由に動くというわけにはいかないとは思うんですけど、それぞれのテンションが一緒に上がっていったときの相乗効果はすごいなって思います。とは言え、彼女たちは案外クールなところもあるんですよ。
──それはどういうことですか?
彼女たちは基本的に、いい歌を聴かせようという意識がすごく高いんです。だから冷静さを失うまでテンションを行き上がらせることはないというか。やっぱりテンションが行き上がっちゃうといい歌はなかなか出てこないですからね。どこかに冷静さを残したままで歌い、その中で楽しもうっていうことを考えていると思うんです。
──なるほど。それがFictionJunctionのライブのあるべき姿ということでもあるのでしょうか?
そう。FictionJunctionのライブには華やかで派手な演出もないですし、小細工もない。いい演奏、いい歌を聴かせるという単純な目標しかないので、このスタイルが一番いいんじゃないかなって私も思っていますね。
──確かに特効(特殊効果)を使った演出などは皆無ですもんね。
そういうライブでお客様がちゃんと楽しんでくださっていることはすごくうれしいですよね。昔はライブ中に衣装を替えていたこともあったんですよ。でもお客様を待たせるのがイヤでやめちゃったんです。アンコールで5分待たせるなら、2分で出ていって1曲多めにやったほうがいいんじゃないかなって。
──すごく素敵な考え方ですね。
ただ、着替えや大がかりな仕掛けがないぶん、セットはすごくいいものを作っていただいていますし、照明も1曲1曲すごく考えていただけているので、そこはありがたいことだなって思います。スタッフさんも含めて、FictionJunctionの理想のライブを作ることができるようになったのは、Vol.#11までやってきたからこそなのかなとも思いますし。
「人生を賭けた1つの絵」は現状15%
──15曲目の「野原」の前には、梶浦さんが音楽をやっている意味を吐露したMCがありましたね。すごく感動的なシーンでした。
ありがとうございます。どんな音楽家でも、作家さんでも、絵描きさんでもそうだとは思うんですけど、私は自分の理想を自分の中に作り出すために音楽をやっているんです。そういう本音に近い部分を話したんですけど、お客様みんながそれを受け止めてくれる雰囲気だったのがすごくうれしかったですね。
──そこで梶浦さんは「人生を賭けて1つの絵を創り上げている」とおっしゃっていました。デビューから20年経って、その絵はどれくらい完成しているんでしょうね。
まだまだですよ。現状15%くらいですかね。まだ全然ダメ。あと何年やんなきゃいけないんでしょうね。あと80年くらいかな?(笑) まあでも100%になっちゃったら音楽をやめちゃうと思うので、それでいいのかなとは思いますけどね。だから楽しく続けられているっていう。
──ライブの後半では梶浦さんがコーラスをされる曲もいくつかありましたね。
恥ずかしいんですけどね。「stone cold」と「zodiacal sign」はCDでも私がけっこう歌っていたので、ライブでも歌おうかなと。「stone cold」はAメロでやることがないですし(笑)。あとは私が歌っているパートはキーが低すぎてほかの人じゃ出ないという理由もあります。
──「zodiacal sign」では会場が一体になる振り付けもあるので、かなり大きく盛り上がっていました。
お祭りソングと言う認識ですね。1曲くらいみんなで一緒に盛り上がる曲がうちらにもあっていいんじゃないかっていう話になって、KEIKOが振りを考えてくれたんですよ。Yuki Kajiura LIVEのお客様はワーワー騒ぐ感じではないので、決まった振りがあるのはいいですよね。暗いんだかの明るいんだかよくわかんない振りですけど(笑)。
──ライブの最後には「お客様もメンバーの1人でした」と梶浦さんはおっしゃっていましたが、今回リリースされたBlu-rayを観る人もそういった感覚で楽しんでしまっていいですかね?
もちろんです。楽しんでいただくのになんの注文もないです。しかめっ面してようが、あくびしてようが、一番楽しいと思う聴き方をしていただくのが一番ですね。最終日ということで、いろいろな気持ちのテンションが一番高いライブにはなっていると思うので、そういうところも感じてもらえたらなと思います。
──そして梶浦さんのライブは次の予定がすでに決まっていますね。
来年の6月なのでだいぶ先なんですけど、ライブは次が決まってないと寂しくてやるせないので強引に発表しちゃいました(笑)。以前にやった地獄の3日間(2012年開催の「Yuki Kajiura LIVE Vol.#9」)みたいなことを今回もまたやるんですよ。
──インストゥルメンタル限定、日本語限定、日本語封印というテーマを設けたライブになるそうですね。
はい。テーマごとに曲のダブリがないので、けっこう頭が死ぬことになるんです(笑)。でもライブはどんなにしんどくても楽しいものなので、楽しめるだけ楽しみたいと思っています。
- ライブBlu-ray「Yuki Kajiura LIVE vol.#11 elemental Tour 2014 2014.04.20 @NHK Hall + Making of elemental Tour 2014」 / 2014年9月24日発売 / 7020円 / FlyingDog / VTXL-21
- ライブBlu-ray「Yuki Kajiura LIVE vol.#11 elemental Tour 2014 2014.04.20 @NHK Hall + Making of elemental Tour 2014」
収録内容
- overture~elemental
- storytelling
- forest
- Liminality
- in the land of twilight, under the moon
- Luminous Sword
- 花守の丘
- Credens justitiam
- Historia:opening theme
- M23(空の境界「未来福音」)
- ひとりごと
- storm
- eternal blue
- 時の向こう 幻の空
- 野原
- rising up
- 凱歌
- absolute configuration
- 君がいた物語
- stone cold
- Distance
- zodiacal sign
- Parallel Hearts
- Sweet Song
梶浦由記(カジウラユキ)
1993年にユニットSee-Sawでデビュー。約2年の活動ののちソロ活動を開始し、テレビ、CM、映画、アニメ、ゲームなどさまざまな分野の楽曲提供、サウンドプロデュースを手がける。2002年にはボーカル石川千亜紀とSee-Sawの活動を再開し、テレビアニメ「NOIR」「.hack」関連の楽曲を担当した。2003年7月にはアメリカで1stソロアルバム「FICTION」を発表。同年よりFictionJunction名義のプロジェクトをスタートさせ、2008年からはボーカルユニットKalafinaの全面プロデュースを手がけている。「Yuki Kajiura LIVE」と題したライブを不定期に行っており、2014年2~4月にはツアー形式で「Yuki Kajiura LIVE Vol.#11 "elemental"」を実施。9月にはツアーファイナルとなった東京・NHKホール公演とツアーメイキング映像を収めたライブBlu-ray「Yuki Kajiura LIVE Vol.#11 elemental Tour 2014.4.20@NHK HALL+Making of elemental Tour 2014」がリリースされた。