ナタリー PowerPush - カジヒデキ
自主レーベルで新たな一歩 新作アルバム「BLUE HEART」
震災後に作った希望の歌
──今回は、震災を挟んで作られたアルバムでもありますよね。震災発生直後に作られた曲もありますし、特に後半4曲は「カジくん哲学」的な歌詞を織り交ぜつつ、被災者へのさりげないエールとも取れる歌詞も見受けられましたが。
震災は大きかったですね。今回のアルバムのテーマが「エバーグリーン」だったっていうのもあるけれども、被災者を応援したい気持ちもあって、希望っぽいものが出したくて、何かそういう響きのあるホーンの音、トランペットだとかフリューゲルホルンだとか、そういう音をたくさん入れました。ちょうど震災直前に、JACCSさんからキャンペーンで「応援ソング」を作る依頼があって、当初は漠然と「ヘイ・ヘイ・ベイビー・ポップ」みたいな能天気なポップチューンを作るつもりだったのですが、震災が起こって。その直後は全然曲が書けなくなってしまったんです。締め切りもあるし「どうしようか?」と悩み続け、でも震災から3週間した朝に「ホワイトシューズ」という曲がパッとできたんです。被災者を励ましたい気持ちが強くあったせいか、希望に満ちた曲ができました。その後も紆余曲折があったわけですが、アルバム全体はネオアコというか、抜けのいい青空のような作品を作りたかったですしね。
──確かに抜けのいいアルバムですね。最後の曲「クローバーに囲まれた日」の冒頭では「新しい音を聴きたい」という歌詞もあったりして、カジくんの好奇心の旺盛さがそのまま哲学になっていると感じました。やはりフレッシュなものに常に触れたいという気持ちは強いですか?
そうですね。自分自身も常にそうだし、みんなのそういう気持ちにも応えたいんですよね、大変だけど(笑)。今はみんなそういうものが欲しいんだろうな、と思いますし。
「デトロイト・メタル・シティ」で吹っ切れた
──最後に、ソロデビュー以降のこの16年を振り返った雑感を訊きたいんですが。デビュー当初はどんな気持ちで活動してました?
ソロデビュー直前の頃、当時の渋谷系のリスナーはセンスに厳しい人が多かったし、なかなか自信が持てなかったですね。最初のソロライブはエスカレーターレコーズのDJイベントで「マスカット」初披露だったんですけど、ベタベタな日本語の歌詞だし絶対にバッシングを受ける!と思っていたら、すごくウケて安心しました(苦笑)。その頃いわゆる渋谷系というよりは、もっと大衆的なラインの曲を書きたいとがんばっていたので。でもおかげさまで「マスカットe.p.」も「ミニ・スカート」も好調で。でも、その一方で急激にメディア露出が増えたことに戸惑ってしまったのも事実で、会社から「じゃあ海外行ってゆっくり曲作ってこい!」っていう話をもらって、スウェーデンで2ndの「tea」を作ったら、すごくローなリラックスしたアルバムになりました。ファンの人はいまだにほめてくれるアルバムだけれど、一般的には「ミニ・スカート」のトーンを期待されていたのかもしれませんね。
──2000年代はどうでしたか?
ゼロ年代前半は新しい世代の台頭の中で、渋谷系批判のようなこともあったと思うし、僕的には海外に居ることも多かったし、日本のシーンから少し距離を置いていた感じでしたね。とはいえクアトロやリキッドなどでライブをやってもお客さんがたくさん来てくれましたし、カフェライブなど小さなライブも積極的に始めて、再び地固めをした時期でもありました。
──2008年の映画「デトロイト・メタル・シティ」への曲提供と出演は大きな出来事でしたよね。「甘い恋人」という曲は、カジくんのセルフパロディ的な側面も大きかったですし。
あそこで吹っ切れたところはありますね(笑)。マンガでああいうふうに歌っていたから、僕もああいうふうにするしかなかったし(笑)。「ラ・ブーム」だとか「ミニ・スカート」の感じで曲を書いてください、というリクエストもあったので原点を見つめ直す良い機会でしたし、プロデューサーの方のアドバイスがとても的確だったので刺激になりました。
──そして40代を迎え、改めて短パンを履き直して現在に至る!と。
あはは(笑)。そうですね。3枚目のアルバムくらいまでは短パンで悩みましたね。短パンのイメージがキャラクターになってしまい、その反動でもう短パン履きたくない、みたいな感じにもなってね。今思えば贅沢な悩みです。でも短パンを履かなくなった頃に、台湾からライブのオファーがあって、しかも「必ず短パンを履いてきてください」という指示があり、仕方なくわざわざ短パンを買いに行って、台湾でのライブに臨んだこともありました(笑)。もう短パン履いてないのになあ、と思いながら(笑)。
「ビーチボーイのジャームッシュ」ビデオクリップ
CD収録曲
- トリコロール フィーバー
- ビーチボーイのジャームッシュ
- 君とサマーと太陽がいっぱい
- ヒツジ君とミツバチ君
- 春風がフュー
- 君は君を見てるだけ
- ブルージーンズ
- ホワイトシューズ
- 小さな光、新しい光
- フットボールの無い土曜日
- クローバーに囲まれた日
カジヒデキ「BLUE HEART TOUR」
- 2012年7月13日(金)
福岡県 福岡BEAT STATION - 2012年7月15日(日)
大阪府 心斎橋Janus - 2012年7月16日(月・祝)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2012年7月20日(金)
東京都 渋谷CLUB QUATTRO
カジヒデキ
1967年生まれ、千葉県出身のシンガーソングライター。1989年結成の男女混成バンド・bridgeでベースを担当し、1993年3月に1stアルバム「Spring Hill Fair」をリリース。1995年のバンド解散を経て、1996年8月に「マスカットe.p.」でソロデビューを果たす。そのポップな音楽性とキャラクターが幅広い支持を受け、一躍“渋谷系”シーンの中心的存在に。他アーティストの楽曲提供やプロデュースなども多数手がけつつ、コンスタントにリリースを重ね、2008年公開の映画「デトロイト・メタル・シティ」に提供した「甘い恋人」はスマッシュヒットを記録した。2012年3月に自身のレーベル「BLUE BOYS CLUB」を立ち上げ、同年5月に約2年半ぶりのニューアルバム「BLUE HEART」をリリース。