なんか変なことしちゃう
──自分の好みの音楽性とはまた違ったものを作る作業をやってみていかがでした?
思いのほかストレスはなかったです。それまでは、自分の音楽を褒めてくれるのはライブハウスによく来てくれるような人だけだったんですけど、それ以外の声が聞こえるようになったので。単純にいっぱい評価してもらえることのうれしさが勝ったというか。思惑通りに、昔の曲も聴いてくれて「今とは全然違うけど、こっちもいいね」と言ってくれる人も増えましたし。音楽を作る工程そのものは全然違うし、できあがるものも違うけど、むしろ楽しかったです。ただ、ライブハウスで自分のやりたい音楽を貫いているようなバンドの人たちに嫌われているんじゃないか、という感覚がすごくあるんですよね。
──「メジャーに魂売りやがって」というような?
そうそう(笑)。そんなこと言ってくる人は、実際にはいないんですけどね。僕はすごく好きで対バンもしたいバンドもいるんですけど、たぶん断られるだろうなって思っちゃう。
──相思相愛になれないと思ってしまうんですね。
そういう感情が今でもあるんですよ。自分がバズる曲を狙って作っている間に、ライブハウスのフィールドで着実に力をつけているバンドとは、もう仲よくなれないんじゃないかという切なさが。
──その感情と折り合いをつけるのはなかなか難しそうですね。
ごく稀に、自分も好きだし、「このmeiyoという人の根っこには何かありそうだぞ」と気付いてくれるアーティストもいるんです。わざわざライブも観に来てくれて「すごくよかったです」と言ってくれたりする人もいて。「伝わる人には伝わってる!」と思えることがたまにあるから、正気を保てているのかもしれないです。いろんな人と関わりを持っていきたいんですけどね……。
──自分からはバンドを組めなかったという話と一緒で、meiyoさんから「対バンしましょう」と声をかければ嫌がる人はあまりいないと思うんですよ。
まあまあ、それは、そうっすね……。
──関係性に飢えているけど、自分からは踏み込めないというか。バズることで評価が増えても、そのコンプレックスは解消されないんですかね。
今と比べものにならないほど、頂点にいるくらい売れたら別かもしれないですけど。なんと言うか、「meiyoもただのバンドマンじゃん」みたいな感じで自分を見てくれる人が増えたらうれしいような気がしますね。……でも、この考えは健全なんすかね? ちょっと特殊なのかな。
──「こいつめっちゃ売れてるな」と思われたいバンドマンのほうが多いかもしれないです。
やっぱそうですよね。
──meiyoさんのアイデンティティはあくまでもライブハウスやバンドシーンにあるし、それをみんなにわかってほしいという。
そうなんです。自分の根っこはそこにあって。とにかく音楽好きだと思われたすぎるんですよね。カルチャー人間だとも思われたい(笑)。
──侍文化はソロでバズったあとも続けられていますし、それこそライブハウスで自主企画もやってるじゃないですか。先ほども話に出たギターのクロサワさんはあいみょんをはじめとして大舞台でも活躍していますし、だんだんスーパーバンド化してますよね。
侍文化は、気付いた人だけがライブに来てる状態なので。意図的にあまり発信してないですし、それでいいのかなと。侍文化は、ただのオルタナ好きが集まって2000年代のギターロックのような曲を作るというコンセプトだったのに、YouTubeもやったりしちゃって、気付いたら孤高になってました。やっぱり、なんか変なことしちゃうんですよね。
著作権の分配金が入ると健康になる
──ここ最近は楽曲提供もすごく多いですが、発注に応えるという制作の仕方はやってみてどうですか?
めちゃくちゃ得意だと思います。こういう仕事が来る前から、好きな芸人さんに勝手に曲を作ったりしていたんですよ。何もない状態から曲を作るのは難しいけど、自分の好きなものの歌を作ろうと思えば簡単にできたので。それと同じように、「このマンガのドラマ化に、こういうテーマの曲を書き下ろしてください」というような依頼をいただいたら、まず原作を好きになるところから始めるんです。アーティストへの曲提供だったら、自分がその人のファンで、こういう曲を歌ってくれたらうれしいという目線で作るようにしています。大喜利みたいな感じで。仕事というよりも、依頼してくれた相手に喜んでもらいたくてやってますね。
──meiyoさんは全員と相思相愛になりたいんですね。でも、気を使って尻込みしちゃうんだけど、クライアントワークは相手からお願いされてやることだから、こちらも全力で愛を返せば相思相愛になれるという。
いや、本当にそう。まさしくその通りですね。
──メジャーデビューするまで、音楽はコミュニティだったりアイデンティティに関わるものだったりしたと思うんですが、今では経済的な基盤でもあります。ネットでのバズやタイアップが主戦場になると、著作権使用料が占める割合も大きいですよね。
音楽出版社から明細書が送られてくるんですよ。「YouTubeからはいくら、Spotifyからはいくらがあなたに入ります」というのが全部書いてあるんですけど、そんな細かいことよりも、まず「マジで音楽で暮らせる」という衝撃がすごいです(笑)。
──内訳よりも合計金額が大事(笑)。
本当にありがたいですね。自分は健康なときに楽しい気持ちで曲を作ることが多いんです。お金がないときの不健康さってすさまじいなと思って。アルバイトもなるべくしたくなくて、実家に住んでいた時期が長いんですよ。自立してない後ろめたさがあるし、バイト自体も嫌だし、かといって働かないとお金がなくて病むし。シガテラの頃はライブをやればやるほどお金が消えていくだけだったので。CDを作ったときも、貧乏性で「500枚プレスするのも1000枚プレスするのもあんまり値段変わらないなら1000枚作ろう」と考えて、めちゃくちゃ在庫を抱えたりしてました(笑)。なんとかお金が欲しいとは思っていたので、いざ著作権のお金がちゃんと入ってくると健康になりますね。著作権使用料の徴収なんて、絶対自分じゃできないですし。
──JASRACへのイメージが変わったりしましたか?
自分がJASRACを意識し始めた頃は、変な言われ方をされがちだったんですよね。悪役っぽかったというか。そのとき、自分は直接関係なかったので「自分の好きなアーティストにはちゃんとお金が渡ってればいいなあ」くらいの感じだったんですけど、いざ自分が分配される立場になると実際ありがたい存在ですね。
──最後に、これから音楽で生きていきたいというミュージシャンにアドバイスはありますか?
やっぱり音楽が仕事になることで、それで生活できるという安心感は何ものにも代え難いです。今も悩みはめっちゃありますけど、すべてをネガティブに考えてしまっていたあの頃よりは断然楽しいんですよね。めちゃくちゃお金があるわけじゃないけど、音楽でごはんを食べて生活できるっていうのは1つの目標だったし、それをあきらめなくてよかったなと思いますね。好きな音楽をやることはいいことだし、そのままでいいんだけど、お金があるともっといいよ、と。



ライブ情報
meiyo First China Tour2025
- 2025年4月24日(木)中国 北京OMNI SPACE
- 2025年4月25日(金)中国 上海VAS
- 2025年4月26日(土)中国 広州MAO LIVEHOUSE
ワタナベタカシ10周年記念ツーマンライブ 第二陣~侍文化×meiyo 寒くて鳩膨らむ の巻~
2025年6月19日(木)東京都 新代田FEVER
<出演者>
meiyo / 侍文化
プロフィール
meiyo(メイヨー)
“令和のポップマエストロ”の異名を取る、1991年生まれの音楽家、ドラマー。ロックバンド・シガテラのドラマーとして音楽活動をスタート。2015年に「ワタナベタカシ」名義でソロ活動を開始し、2018年「meiyo」に改名。2021年夏、自身の”なにやってもうまくいかない”人生を歌った楽曲「なにやってもうまくいかない」をTikTokに投稿したところバズを巻き起こし、ユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たす。TikTokで30億再生を記録したasmi「PAKU」、NHK総合「Venue101」にて結成されたかまいたち・濱家隆一と生田絵梨花のユニット・ハマいく「ビートDEトーヒ」、Ado「クラクラ」などの提供曲が次々とヒット。2023年はau三太郎シリーズ「ココロ、オドルほうで。」編のCMソングの歌唱を担当したほか、メジャー1stアルバム「POP SOS」をリリースした。2025年4月に初の中国ツアー「meiyo First China Tour2025」を、6月19日に東京・新代田FEVERにて「ワタナベタカシ10周年記念ツーマンライブ 第二陣~侍文化×meiyo 寒くて鳩膨らむ の巻~」を開催する。
「音楽と生きる、音楽で生きる」特集
- 音楽と生きる、音楽で生きる|アーティストたちが明かす“この道で生きる理由”
- TOMOOインタビュー「やめようと思ったことは何度もある。だけど…」彼女が“音楽と生きる、音楽で生きる”理由
- 児玉雨子インタビュー「実は不器用。そんな私が作詞家を続けられたのは…」彼女が“音楽と生きる、音楽で生きる”秘訣
- 眉村ちあきインタビュー「人と同じことをやっても面白くない」彼女が“音楽と生きる、音楽で生きる”方法
- 中村正人インタビュー「日本最高峰のショーを目指すためには執念がいる」ドリカムが“音楽と生きる、音楽で生きる”覚悟
- オーイシマサヨシ インタビュー「自分の適性はやってみないとわからない」彼が“音楽と生きる、音楽で生きる”突破口
- SUPER BEAVER渋谷龍太&柳沢亮太インタビュー「音楽の力を信じてる」彼らが“音楽と生きる、音楽で生きる”希望
- 尾崎世界観インタビュー「音楽は好きだからこそ嫌い」彼が“音楽と生きる、音楽で生きる”もどかしさ
- 離婚伝説インタビュー「◯◯には音楽のすべてがある」“音楽と生きる、音楽で生きる”楽しさ