ミュージシャンではなく、ドリカムという仕事
──ここまでの規模のライブで、ミュージシャンであるお二人が演奏面だけでなくすべてを把握しているというのは、なかなか珍しいのでは?
あまりないかもしれないですね。
──自分たちの表現をやり遂げるには、すべて知っておくことが必要ということですか?
ある程度の知識を持たないと、ツアー関連企業さんと実質的な話をするのが困難になりますから。ほかのアーティストと話すと予算含め花火が1発いくらするかまで知っている場合は少ないと思います。でも、音楽だけに集中できるほうがいいんです。マネジメントも完璧、制作も完璧、ファイナンシャルも完璧、あとはパフォーマンスするだけっていうのが最高。本当は吉田もそういう状態にしてあげたいんだけど、彼女を上回る演出家がいないからしょうがない。
──自分たちでやっちゃったほうが早いというか。
もう重機の免許を取りたいぐらいです(笑)。直接話せば決裁も早いですし。予算を守るためには、すぐ決裁することと項目を減らすこと。この2つさえできていれば、無駄な時間も減りますからね。日本最高峰のショーを目指すためには、そこまでやらないといけない。DREAMSがCOME TRUEにならないんですよね。
──吉田さんのビジョンをサポートする中村さんも、相当な情熱がないと続けていけないように思えます。
正直しんどいですよ。でも僕は、ドリカムが売れてくれることがなにより好きなんです。ライブ会場が満員になる、新曲がいい評価をいただく、吉田が認められる。そのためならベースも弾くし、アレンジもするし、交渉もするし、権利関係の手続きもするし、インフラとして必要な法人も立ち上げ運営しています。
──その喜びがつらさに勝るから続けていけるんですね。
そんなにきれいなものじゃないです。つらいことのほうが圧倒的に多くて、喜びは本当に一瞬かもしれない。吉田だって大変ですよ。いつも「これが最後だ」という強い覚悟でやっているから。ビジネス的には明日のことも考えてもらわなくちゃ困るんですが、「それじゃ今日集まってくれたみんなを幸せにできないでしょ」って。でも、それが、例えば「WONDERLAND」の最高の1日につながるんですよ。これは彼女にしかできない。そのためには、僕もやるしかない。ミュージシャンというよりも、ドリカムという仕事をやっているという感覚ですね。
──自分たちの活動内容をちゃんと把握してコントロールするという意識のミュージシャンは、若い世代を中心に増えていますよね。
そうですよね。SpotifyでもYouTubeでも、今は自分たちでアップできるわけだし。アリーナクラスの会場でも、直接連絡してライブをやっているアーティストもいると聞きます。
──そういったミュージシャンと、お二人の活動は根底でつながっているんだなと、お話を聞いていて思いました。
つながっていますよ。僕らも自分たちで事務所を作って、自分たちなりにやってきたので。音楽業界の構造は変わったけれど、音楽は相変わらず愛されているから。
ミュージシャンという業態が変わった
──中村さんは音楽業界の変化をどのようにとらえていますか?
まず、音源の複製による利益をベースにしたビジネスモデルが崩壊しました。我々の時代では「CDが売れる」という前提でいろいろなシステムが回っていたわけです。CDのプロモーションになるから音楽番組にも出るし、ドラマにも曲を提供する。でも、現在のサブスクリプションの分配率だとそれはなかなか難しいですよ。「プロの音楽家」というものの業態が変わりました。もともとは、音楽家はパトロンからお金をもらって曲を書いていたわけじゃないですか。モーツァルトにしろベートーヴェンにしろ、みんなそうだった。そう考えると、複製の権利によって利益を得ていたのは、音楽の長い歴史から見ると一時のギフトみたいなものだったのかもしれないですよね。原盤権や著作権による収入をベースにしているレコード会社や作曲家にとっては難しい状況だけど、楽器を演奏することによって対価を得ているミュージシャンはあまり変わらないのかもしれない。
──そうなると、ミュージシャンにとってライブの比重が増えていきそうですよね。「目の前のお客さんを演奏で喜ばせる」ことがさらに重要になるというか。
ドリカムはそれをずっとやってきたんですよ。ありがたいことに権利ビジネスの恩恵を受けられた世代ですけど、本業はずっとライブですからね。でも、ミュージシャンは自分が持っている権利のことをもっと勉強したほうがいいと思うんですよ。我々が当然受け取るべき権利があるんだから、それを知らないのはもったいないでしょう。JASRACはその権利の行使を代行してくれているわけで。JASRACさんも大変ですよね、叩かれるのが仕事みたいになっちゃって(笑)。僕はすごく感謝していますよ。権利関係の事務作業は、本当に煩雑で大変な仕事です。ものすごい数の作家がいるから、1人ひとりに支払調書を郵送するだけで膨大なコストだと思うんです。音楽を聴くフォーマットがCDからダウンロードになったり、ストリーミングになったり、その変化に制度が追いついてない部分もあると思うし、いろいろご苦労もあると思うけれど、そこはJASRACにがんばっていただいて(笑)。
──まだ全体の1、2%ですが、ようやく海外からJASRACへの使用料入金が10億円に達したそうです。
この金額が作家に還元されるわけですから。欧米だとミュージシャンがエージェントとか弁護士とか、必要な専門家を雇って活動していくのが普通ですよね。日本はプロダクションに所属するやり方が根強いけれど、どんどん変わってきています。JASRACは権利代行業だから、ミュージシャンは大いにJASRACを使ったほうががいいですよね。
プロフィール
DREAMS COME TRUE(ドリームズカムトゥルー)
ベーシストでコンポーザー、アレンジャーの中村正人と、ボーカリストでコンポーザー、パフォーマーの吉田美和からなるバンド。時代に合わせて楽曲をクリエイトし、吉田美和が生み出す歌詞は世代を超えて多くの人に愛されている。2022年12月リリースの最新シングル「スピリラ」では世界的に活躍するYKBXとコラボレーション。2023年夏にはグレイテストヒッツライブ「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023」を5大ドーム、2アリーナで開催し、約44万人を動員した。本公演の模様を収録したライブBlu-ray / DVD「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2023」とライブ写真集「ALL ABOUT 2023 史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」を1月31日にリリース。
DREAMS COME TRUE - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
MASATO NAKAMURA (DREAMS COME TRUE) 中村正人(ドリカム)公式 (@DCT_MASATO) | X
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2024年12月11日更新