ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい
人生初フルアルバムで堂々独立宣言
石崎ひゅーいの歌が地中海の底に眠っている
──それから「ファンタジックレディオ」は今からちょうど1年ぐらい前ですよね? その頃はファンタジーというか、妄想モードだったと話してましたね(参照:石崎ひゅーい「ファンタジックレディオ」インタビュー)。
そうですそうです。去年の夏だ。ファンタジーモードに突入していました。
──で、「バターチキンムーンカーニバル」もファンタジーモードの頃に作った曲なのかな?と思ったんです。
正解! すごいですね!? それを当ててくるのはすごいな(笑)。
──いや、すごくわかりやすいと思いますけど(笑)。だってシュールな表現も多いじゃないですか。アメリカに触れたりしながらも。
いつだったか忘れちゃったんですけど、プロデューサーの須藤さんが僕の歌詞と曲を持って豪華客船で旅行に行ったんですね。イタリアだったかな? そしたらその船が、なんと沈没したんですよ。
──えっ! ほんとに?
はい、僕の歌が地中海かエーゲ海か、どこかの海の底に沈んだんです。それでみんな須藤さんのことを「大丈夫か!?」って心配してたんですけど、無事に帰ってきた須藤さんが「ひゅーい、お前の歌は海の底に眠っている。お前は売れる!」って言ったんです。
──あははははは(笑)。
それで「ああ、俺売れるかもしれない!」と思いながら書きました。この歌、イタリアとは全然関係ないこと書いてるんですけど(笑)。
──歌詞の最後に出てくる「ジャナ・ガナ・マナ」とは?
これはインドの国歌です。僕はインドに行きたくて、その憧れがあって出てきた言葉なんです。あとバターチキンカレーもすごく好きだから、この歌では曲のタイトルと歌詞の最後にインドのフレーズを入れました。歌詞の途中にはアメリカとかフランスとかいろいろな国が出てきます。だからイメージ的にはインドで世界各国をはさんだサンドイッチ、みたいな曲ですね。
──ワールドワイドな曲でもあるんですね(笑)。ほかに去年書いた曲というと?
「反抗期」は紫陽花革命があったときだから、2012年ですね。僕、反抗期がまったくなかったんです。母親や親父や先生や何かに反抗することがなくて。ただあるとき自分の曲を聴いていて「あ、これはすげえ反抗してるのかな?」って思ったことがあって。「シーベルト」だったかな? それで「今が反抗期ってことか?」という歌を書いたら面白いかなと思って、この曲を書きました。これは歌詞の1番が紫陽花革命、2番が風営法のダンス規制に触発されて書きました。
──2番はダンス規制法に影響されてるんですか。じゃあひゅーいくんは、あの時期の報道はどう思ってたんですか?
紫陽花革命に関しては悲しいなあ、という気持ちですね。あと、お祭り騒ぎみたいな印象も受けましたね。もちろん、志を持って参加していた人もたくさんいると思いますけど。
──で、ダンス規制法についても悲しみが?
そうですね。友達が吉祥寺でバーを開いているんですけど、みんなで踊っていたら警察が来た、という話を聞いて……。
──そうですか。でもこの曲の歌詞は「バブル」とか「ボディコン」とか、すごい展開になってますけど(笑)。
ジュリアナ東京を思い出したんです。バブルのあの感じに憧れがあって。昔、ああいうところに行ってみたいなと思ってたんですよ。今やってないですよね? ちょっと面白そうだなと思って入れてみました。
「友達」は長澤知之への懺悔の歌
──それから5曲目の「友達」は孤独感がいっぱいで、人を求めるひゅーいくんの姿がとてもよく出ていますね。
はい。酔っぱらって大迷惑をかけた友達への懺悔の歌です。道端で寝ちゃったときに、たぶん1万円以上かかるのにタクシーに乗せて家まで送ってもらったことがあって。しかも自分は全然覚えてないっていう最悪のパターンだったんですけど。
──そんなひどいことが(笑)。歌詞にある通り「僕はしくじってばかりさ」なんですか?
いや、そうでもなくて、酒に関してはがんばっていたんですよ。2回ほど救急車で運ばれたことがあるので……(参照:石崎ひゅーい「ファンタジックレディオ」インタビュー)。
──あ、その話も前に聞きましたね。
はい。それから自分で、ちゃんと大人になって規制してたんですけど……。ひさしぶりにやっちゃいました。その相手っていうのが知ちゃん(長澤知之)だったんですけど、非常に迷惑をかけてしまって。
──そうなんですか! じゃあこれは長澤さんに懺悔している歌なんですね?
そうです! 知ちゃんへの懺悔の歌!(笑)
歌を歌っていくことは日記をつけていくこと
──あとはこの前のシングル「夜間飛行」と「おっぱい」ですね。「おっぱい」は、なんでこういう曲が生まれたんでしょうか?
ふふふ(笑)。胸が小さいことがコンプレックスの子がいたんですけど、「大丈夫だよ」って言いたかったんですよね。単純にそれだけです。ライブで1、2回しかやってないのに、女性からの評判がいいんですよ。「名曲だ!」みたいな。
──「君は君のままでいなよ」という歌詞はそういうことなんですね。
この曲を書くにあたっては、鶏肉とキャベツと豆乳を食べるとおっぱいが大きくなるという情報をどこかで入手したんですよ。あと、手をこうやって(両方の手のひらを押しつけて)合わせると、大きくなるっていう。
──あ、それはよく言いますね。
こういう歌を作ってあげたらその子はホッとしてくれるかな?と思って書きました。でも、曲が完成して改めて調べたら鶏肉とキャベツと豆乳はガセらしくて、「あんまり効き目がない」みたいなことが書いてあったんです。「一番効き目があるのはおっぱいを揉むことだ」って。でも「おっぱいを揉む」とはどうしても表現できなくて……それで最初の歌詞のままでいくことにしました。
──「おっぱいを揉む」だとコミックソングになりかねないですね。しかしこうして見ていくと、まさに日記ですね。このアルバムを作り終えて、自分の中で変わりつつあるところって、何かありますか?
アルバム出すっていう実感はまだ全然ないんですよ。でも思ったのは、ずっと同じ作業だなということですね。僕にとって歌っていくことは日記をつけていくことだから、それをずーっとしてくんだなと。それを純度の高いレベルや密な状態を保ちながら作っていくために、感覚を剥ぎ落としていくことをやっていかなければいけないんだと思います。逆にいえば、ただそれだけだと思ってますね。歌を歌っていくということは。
──そこがつかめたと。その純度を保っていくのは大変だと思いますか?
すごく大変だと思います。ツアーをやっていても、すごく大変だったので。周りは僕の純度とか、別に気にしないから。表現する上で「これは要らない」「これは要る」っていうものをしっかりと自分で判断していかないと、すぐヘンになっちゃうと思います。ヘンになっちゃうというか……そういうギリギリのところに自分はいるんだなって。
──表現する上で、不純物が入ってくると厄介ですよね。
そうそう。この先、ずっとそうなのかなと思っています。すごく感覚的なことを一生懸命やっていく。そういうことなんだろうなって。
──はい。ともあれ、すごくひゅーいくんらしいアルバムだと思います。聴いた人に「えっ、こんな歌?」とか「苦手だな」と思われたら、もうしょうがないと思えるぐらいの作品じゃないですか?
あ! ……うん。面白い! それ、今後使っていいですか?
──えっ? 使うって?
いや、インタビューで作品について聞かれたら「これを聴いてもらって『石崎くん嫌いだな』とか『ダサいな』と思われたら、もうしょうがないなと。そこまで思えるアルバムができました!」って答えます(笑)。
──そうですか(笑)。でも、自分では名作だと思ってるんですよね?
うん、そう思うな。めちゃいいもん!
収録曲
- 夜間飛行
- バターチキンムーンカーニバル
- シーベルト
- 第三惑星交響曲
- 友達
- ナイトミルク
- ファンタジックレディオ
- おっぱい
- 反抗期
- せんたくき
- ガールフレンド
ライブ情報
- 独立前夜祭
- 2013年7月18日(木)
東京都 六本木ヒルズアリーナ
- 石崎ひゅーいTOUR「独立前夜」
- 2013年9月7日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2013年9月8日(日)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO - 2013年9月22日(日)
東京都 下北沢GARDEN
石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)
1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、高校時代より音楽活動を開始する。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。11月には1stシングル「ファンタジックレディオ」と、初のライブDVD / Blu-ray「キミがいないLIVE」を同時リリースした。2013年2月から5月にかけてライブツアー「全国!ひゅーい博覧会」で全国47都道府県を回る。6月5日にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月17日に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。9月からは東名阪ワンマンツアーの開催も決定している。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。