ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい
人生初フルアルバムで堂々独立宣言
箭内さんは僕を裸にさせる
──ではジャケットが裸なのは?
デビュー当初から箭内(道彦)さんがアートディレクションを担当してくれているんですけど、箭内さんは僕を裸にさせるんですよ。「第三惑星交響曲」のPVのときにも、世間に出ている作品は服を着ていますけど、現場では裸になったし。箭内さんは精神的にも僕を裸にさせるんですけど、作品でも本当に服を脱がせるんです。今回もその延長線上でしたね。ひとこと、「ひゅーい、今回裸だから」って言われて、僕は「はい」って言うだけ。それで何も違和感がないというか(笑)。許されるんだったら、ずっと裸でいたいっていうくらい僕は裸が好きなんです。
──裸は、さっきの剥ぎ落していく話ともつながりますよね。
そうなんです。けっこうリンクしていて、そこも面白いと思いました。
──ただ、恥ずかしくないのかな?とも思うんですが。
全然恥ずかしくないですね。どちらかというと、僕は裸を見せたい派なので(笑)。
結婚式ソングのストックが5、6曲あります
──アルバムには全部で11曲が収録されていますが、この中で一番古い曲というと、どれになりますか?
最後の「ガールフレンド」です。これはバンド時代の曲で、たぶん7、8年前からあります。僕が生まれて初めて弾き語りで作った曲なので、その頃からバンドというよりも僕の曲という意識がすごくありますね。この曲は知り合いの先輩2人が結婚するときに、結婚式で歌う目的で作りました。僕はそういうことを何回もやっていて、これはその第1作目です。
──あ、じゃあほかにもそういう曲が何曲かあるわけですか?
そう、結婚式ソングが5、6曲あります。「ゼクシィ」とかでぜひ使っていただきたい曲がいっぱいあるんです(笑)。だから、もちろん僕の言葉で書いた詞なんだけど、2人のストーリーを尊重して書いた曲なんですよね。そのぶんアルバムの中では異質な気がするけど、それも面白いかなと思って最後に入れました。
──じゃあこれ以外は、ソロで活動することになってから書いた曲なんですね。「第三惑星交響曲」はソロでやると決めてからわりと早いうちの、一昨年の夏に書いた曲らしいですね。
はい。「ナイトミルク」もそうです。あとの曲はそれ以降ですね。「ナイトミルク」、すごくいい曲なんですよ(笑)。
──強いイメージが湧く曲ですよね。映像的というか。
これは高校の頃の友達をモチーフにした曲です。高校の3年間そいつを見ていたんですけど、いつも心に闇を抱えていて混沌としたものとずっと戦っているような子だったんですね。それで僕が上京してきた頃に、新宿とか渋谷を夜歩いてるときのネオンがキラキラしてる感じとか、黒服の人がバーッといたり、キャバクラとかがいっぱいあったり、そういう景色がそいつの混沌としてる世界に近いって思ったんです。「あ、あいつはこういう混沌を感じてたんだ」と思って。そこで映像がすごくリンクしたというか。その友達はもう今は元気になっていて、結婚して子供も生まれて普通に生活しているんですけど。
──つまりひゅーいくんが26歳か27歳の頃に、茨城の高校時代のことがフラッシュバックしたんですよね。タイトルが「ナイトミルク」になったのはどうしてなんでしょう?
なんでだっけ? ……あ、岡村靖幸の「カルアミルク」聴いていたかもしれないです。そうだそうだ。
「お茶目にぶっ壊す」のが、ひゅーい流
──2年前、ソロでやろうと思った頃の自分ってどんな感じでした?
その気持ちを歌ってるのが「せんたくき」ですね。デビュー前は、僕にやれることは曲を作るくらいしかなかったんです。バイトを辞めて仕事もないし、まだ表舞台にも出ていなくて。給料だけもらってるんですけど、その給料も1カ月に1回パチンコに行って、10万円くらい負けちゃうんですよ。それで、どうしようもなくなって、家でうなだれてるしかない。お金もないし、メシも食えないから痩せてくし、洗濯もしたくない、っていう状況で。僕はロックスターになりたいという夢があってバンドも辞めてひとりになったのに、けっこう長い時期何もなかったから「ほんとに俺、大丈夫なのかな?」ってずっと心配で。何も見えない、みたいな。
──希望に燃えてた感じではないの?
そこまであったかな……。希望もあったけど、何もない日々がずっと続くと心配になってくるんですよね。「俺、大丈夫?」みたいな。
──確かにこの無力感というか、熱くなれない感じはすごいですね。
そうなんですよ! 当初「せんたくき」はアルバムに入れない予定だったんですけど、僕が「どうしても入れたい」って主張して。作品に“無力感”をどうしても入れたかったんです。すべてがすべて希望に満ちあふれてるのも胡散臭いと思ってしまうんで。アルバムってそういうところも含めて全体的に表現できるものだと思うから、欲張ってこの曲を入れました。
──この曲では「星」とか「天体観測」とか、「第三惑星交響曲」と同じく宇宙にまつわる言葉が出てきてますね。あと、この「せんたくき」と時期が近いのは「シーベルト」じゃないですか? この曲はデビュー前からライブでやってましたよね。
やってました、やってました。「シーベルト」は東日本大震災後に書いたので。
──その当時はどんなことを考えて、このタイトルの曲を作ったんですか?
曲で「お茶目にぶっ壊す」ということを大切にしていた時期ですね。すごく強い内容だと思うんですけど、僕は社会的なメッセージをそのまま表現したくないんです。ちゃんと芸術として、自分の言葉にして発信していくのがアーティストだと思うから。この曲は「石崎ひゅーいとして表現するには、こういうふうに書いたらいいかも?」っていう感触が、なんとなくつかめた作品ですね。
──あの震災後の混乱した空気の中で何か主張しなければいけないという思いはあったんですか?
衝動、みたいな感じですかね。別にタイムリーにこの歌で社会的なメッセージを発して何かを変えたい、という思いはないんですけど……。周りで起こってることを自分の中で作品にするのは当然のことというか、むしろそれは僕がずっとやっていくことなんですよね。
──ただ「シーベルト」と銘打つことで、この時期の感情だとはっきりわかりますよね。歌詞に「ほうれん草」というフレーズが出てくるのはそういうことなのか、と。
はい。最初は「ハーモニカ」っていう題名だったんですけど、もう少し潔くしたいと思ったんですよね。
収録曲
- 夜間飛行
- バターチキンムーンカーニバル
- シーベルト
- 第三惑星交響曲
- 友達
- ナイトミルク
- ファンタジックレディオ
- おっぱい
- 反抗期
- せんたくき
- ガールフレンド
ライブ情報
- 独立前夜祭
- 2013年7月18日(木)
東京都 六本木ヒルズアリーナ
- 石崎ひゅーいTOUR「独立前夜」
- 2013年9月7日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2013年9月8日(日)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO - 2013年9月22日(日)
東京都 下北沢GARDEN
石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)
1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、高校時代より音楽活動を開始する。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。11月には1stシングル「ファンタジックレディオ」と、初のライブDVD / Blu-ray「キミがいないLIVE」を同時リリースした。2013年2月から5月にかけてライブツアー「全国!ひゅーい博覧会」で全国47都道府県を回る。6月5日にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月17日に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。9月からは東名阪ワンマンツアーの開催も決定している。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。