ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい
人生初フルアルバムで堂々独立宣言
デビュー1周年を迎える石崎ひゅーいが1stフルアルバムをリリースした。「独立前夜」と命名されたこの作品は、彼のさまざまな感情をビビッドに描いた全11曲を収録。キャッチーなサウンドを基調としながら、実に多彩でオリジナリティあふれる世界観を提示している。
今回のインタビューでは、この1年間で石崎自身の意識がどう変化したのか、またこのアルバムの曲たちがどのような心境で作られていったのかを聞いた。彼は今回も飾らない人柄で茶目っ気たっぷりに、自分自身と作品の裏側について語ってくれた。
取材・文 / 青木優 撮影 / 大槻志穂
現場の人たちにはみんな愛があった
──ついに最初のフルアルバムが出るわけですが、デビューからちょうど1年のこの時期を、どんな気持ちで迎えてますか?
ツアーをやったり、テレビに出たり、いろいろ経験できてよかったと思いますね。「自分はどういう気持ちでこの仕事をやっていくのか?」という不安があったので。例えばこういうインタビューもそうだし、ライブで50県回るのもやったことなかったですし。
──(笑)。50県ではなく50本ですよね。そして47都道府県。
あ、47都道府県か(笑)。そういう経験も、どれもこれも面白かったです。
──じゃあいろいろやってみた中で「世の中、こういうふうになってるんだな」と思ったことってあります?
一番強く思ったのは、自分はメディアやメジャーというものに対して勘違いをしていたということですね。みんな愛があったんですよ、すごく。それを一番感じたのが「ミュージックステーション」に出たとき(参照:次週「Mステ」にきゃりー、ゆず、ひゅーい、SCANDALら)です。現場の人たちの気持ちの根底に愛があると感じることができました。番組に出演したあとにみんなが「放送事故だ」って言ってすごく盛り上がってくれて、そこに時代的なギャップを少し感じたりもしたんですけど。
──時代的なギャップ? どういうことですか?
僕はただカメラの前で、ワーッとパフォーマンスしただけなんですよ。でもそんなのって、昔はサザン(オールスターズ)だったり、(忌野)清志郎さんだったり、エレカシ(エレファントカシマシ)だって、テレビに出たときはすごかったじゃないですか? 芸人さんだと、とんねるずさんだってすごかった。そうやってテレビとかの枠から外れていく人たちに対して、みんな「楽しいな」「面白いな」って感じていたと思うんですよね。僕はその感覚がすごく好きだったから、自分が表現するときにもそういうことをやりたいという思いがあって。さっき愛があると言ったのは、「Mステ」の現場のスタッフも、そういうパフォーマンスを見せようと僕と一緒にやってくれる人たちだったんですよ。僕が勘違いしてたのは、そこなんです。実はアーティストが規制してるんだなと思いました。
──つまりテレビ局サイドではなく、むしろアーティスト側が自粛してしまっているということ?
そう、自粛をしてるんです。僕はそれまで、アーティストがメディアに規制されていると思ってたんですね。でも、そうじゃなかった。おそらくぶっ飛んだことはできるんですよ、環境的に。別にちんこ出せばいいとか、そういう話じゃないんですけど、面白いことはできるはずなんです。
──なるほど。枠から外れるとNGを出されると思ってるから、その前にやる側が過激なパフォーマンスを抑制してしまってると。
そう、それをすごく感じました。活動していく中で、自分自身で規制を勝手にかけてしまうんです。そこは気をつけて排除していかないと、つまらないものを生み出してしまって、どんどん腐っていくな、と。デビューする前から「そうなるのはイヤだな」とは思っていましたけど、フタを開けてみたらなんか違うぞ、みんな愛あるぞ、悪いのは俺らだ、と気付いて。
──そうですか。裏を返すと、そういう作り手側の愛情は現場にはあまりないだろうと思ってたんですか?
はい。去年の今頃はもっとビジネスライクなんだと思ってました。先入観で「くだらない世界だ」と思っていて。
──もしかしたらバンド時代の経験がそう思わせてたんでしょうか?
そうですね。コンプレックスだと思います。バンドの頃はインディーズで、何も花が咲かない、ドブみたいなところでやっていたので(笑)。だから憧れと同時にひねくれた先入観があったんですけど、全然そうではなかったというのが正直な感想です。
民生さん、トータスさん、和義さんには勝てない
──この1年の話ですが、ネガティブな出来事があってヘコんだり、現実を知ってガッカリしたことはなかったですか?
それはないですね。ツアーはちょっと大変でしたけど。
──それは極端なことをやったからですよ(笑)。自分の力不足を感じたり、「まだまだだな」と感じたことは?
力不足を感じたことはないですね。石崎ひゅーいというアーティストを世間に浸透させるのはすごく時間がかかるので、そこはまだまだだと思いますけど。僕はよく「売れてたくさんお金がほしい」って言っているけど、どこかで「そこまで売れない」と思っている部分もあるんです。まあ「売れたらいいな」くらいですね。「100万枚売れたい」って言ってるけど、そんなのギャグだしっていう(笑)。
──(笑)。ギャグだけど、本気でもあるんでしょう?
そうですね(笑)。でも別に気張ってやっている感じではないんです。まあムリだったらムリだし。向かってる方向はそこでいいと思ってるけど、すぐに結果を求めていないというか。
──ではイベントやテレビで共演者を見ていて「みんなが認めるアーティストは違うな」とか「全然及ばないな」って思うことはなかったですか?
あ、ありました! 「TOKYO GUITAR JAMBOREE」っていうギターの弾き語りをするイベントに出たんですよ(参照:民生、和義、岸田、直太朗、フミヤら国技館でギター競演)。(奥田)民生さんやトータス(松本)さん、(斉藤)和義さんっていう日本のロックスターが出演していて「なんで俺が出ているんだろう?」って思いました(笑)。とにかくすごかったです。「ムリだ! 何やっても勝てない!」って感じました。もちろんキャリアの違いもあるけど、持ってるものの違いは見たらわかるというか。
──それで落ち込んだりはしなかったんですか?
あ、落ちはしないです。当たり前だから。
──(笑)。そういう現状認識はしているんですね。それでもひゅーいくんは大きなことを言いたがるクセがありますよね。
はい(笑)。僕、口に出して言っておかないと、そっちに向かわないタイプなんです。言葉に出して、その方向につられていく。そういうタイプだと思います。
──あ、それで「毎日ライブしたい」って言ったから全都道府県ツアーをやることになったんですもんね(参照:石崎ひゅーい「夜間飛行」インタビュー)。
そうそう! そういうこともある、ということです(笑)。
「ここから始まる」と宣言する作品にしたかった
──さて、アルバムについて聞きたいんですけど、石崎ひゅーいらしさがすごく詰まっている作品ですよね。
はい、名作ができました(笑)。これは最高のアルバムだと思います。
──ひゅーいくん的には、どんな作品にしようと思ってたんですか?
コンセプトはないです。デビュー前から僕とアレンジャーのTOMI YOさんと2人で曲ができたら作る、できたら作る、という作業をずっとしてきたので、アルバムのために曲を作ったという感覚がまったくなくて。ただ、「ここから始まる」という自分の宣言みたいな作品にしたかった。音楽は中学3年からやってきたけど、人生で初めてのフルアルバムだから、題名もそれがわかるものにしたかったんです。10年、20年、30年経ったときに僕がまだ音楽をやっていて、アルバムを何枚も出していたとしても、振り返ったときに「ここがスタートだった」と思えるものにしたくて。もしアルバムのタイトルが、たとえば「烏龍茶」とか「イカリング」とか「ポテトサラダ」だったら、わからなくなっちゃうじゃないですか? 「あれ? 最初、『イカリング』だったっけ?」ってなるのがイヤだから「独立前夜」ってつけたんです(笑)。
──(笑)。じゃあ「独立前夜」という言葉はどういうところからつけたんですか?
プロデューサーの須藤(晃)さんと話して決めました。僕はずっとバンドをやっていたというのもあって、「ここからひとりで始める」っていう意識が強くて。あと、今はいろいろなものを捨てていく作業をする時期だと思っているんです。前にも話したかもしれないですけど、ツアーをやって歌っていくということは、剥ぎ落してく作業だと思ったんです(参照:石崎ひゅーい「夜間飛行」インタビュー)。
──「“孤”になっていく」と言ってましたね。
うん、“弧”になっていくことだと思っていて、そこで「何かから独立する」というキーワードが出てきたんです。石崎ひゅーいという国が……アメリカの中に石崎ひゅーいという国があって、それが独立するんですね。
──アメリカの中にあるんですか?
そうです、アメリカの中にあるんです(笑)。僕が革命児で旗を持って「独立します!」と宣言する感覚というか。その前の日に、仲間たちと酒を飲んでいて「明日革命が起こるかもしれない」「ワクワクするな」って話をしている。そういうイメージの前夜です。
──じゃあ「新しい時代をこれから切り開いていきたい」という気持ちがあると。
そう! そういう宣戦布告的なものですね、自分に対しての。この作品を出したら、ずっと歌っていかなければいけないという意味になるんです。
収録曲
- 夜間飛行
- バターチキンムーンカーニバル
- シーベルト
- 第三惑星交響曲
- 友達
- ナイトミルク
- ファンタジックレディオ
- おっぱい
- 反抗期
- せんたくき
- ガールフレンド
ライブ情報
- 独立前夜祭
- 2013年7月18日(木)
東京都 六本木ヒルズアリーナ
- 石崎ひゅーいTOUR「独立前夜」
- 2013年9月7日(土)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO - 2013年9月8日(日)
大阪府 梅田CLUB QUATTRO - 2013年9月22日(日)
東京都 下北沢GARDEN
石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)
1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、高校時代より音楽活動を開始する。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。11月には1stシングル「ファンタジックレディオ」と、初のライブDVD / Blu-ray「キミがいないLIVE」を同時リリースした。2013年2月から5月にかけてライブツアー「全国!ひゅーい博覧会」で全国47都道府県を回る。6月5日にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月17日に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。9月からは東名阪ワンマンツアーの開催も決定している。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。