ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい

恋とライブと孤独

7年前から変わらない思い

──カップリングは「1983バックパッカーズ」という曲ですけど、これはいつできた曲なんですか?

これは7年くらい前にできていました。その当時バックパッカーがすごく流行っていて、みんなアジア行くっていう風潮があったじゃないですか。

──自分探しの旅、みたいな。

そうそう。僕の友達がみんなバックパック担いで、インドだのタイだのいろいろ行ってて。そのとき僕はバンドやってバイトやってパチンコやって家で寝て、みたいな生活をしていたので、「クソッ!」と思って書いた曲ですね。ただ、これは「いろんなところに行きたいな」っていう楽しい曲だから、全国47都道府県ツアーのテーマソングにしたんです。その流れでカップリングに入れました。

石崎ひゅーい

──これ、「夜間飛行」ともすごく合ってますよね。しかも、ここでも「夜間飛行」と同じような「かわいいあの子の胸の中に / もぐりこんで眠りたい」っていう歌詞が……。

そうなんですよね。結局僕は7年前から「あの子の胸にもぐりこんで眠りたい」んですね(笑)。

──1983年というのは?

僕は1984年3月生まれなんですけど、同級生は1983年なので。83年くくりということでこのタイトルにしました。

ライブをやるごとにどんどん孤独になっていく

──では、ここからはライブの話を聞こうと思います。ひゅーいくんは先だって47都道府県50公演のツアー「全国!ひゅーい博覧会」を敢行しましたけど、どうですか? やり終えて。

ひたすら戦いでしたね。毎日歌ってると、これからずっと歌っていくっていうことを考えさせられるんですよ。それでおかしな話なんですけど孤独になっていくんです。毎回大勢のお客さんたちが観に来てくれて、ワーワーってお祭り騒ぎみたいになってるんだけど、その中で僕はどんどんひとりになっていくんです。それは純粋でいたいっていう思いがあるからなんですよね。ライブや歌を作ることに関して、邪念がないものをずっとやっていくんだっていう意識がどこかにあるからで。ろ過器にいろいろなもの全部入れて純粋なものだけポタッポタッと落とす感じというか。

──純粋さが抽出される感じ?

石崎ひゅーい

そうそう。ああいうのに似ていて、どんどんこうやって孤独になっていかないと純粋でいられないっていうか。歌いまくる中でそういうことを考えてました。「それが歌っていくことなのかな」っていう答えを自分の中で見つけたツアーでしたね。自分のことを客観的に見て、“孤”にならないと表現し続けていけないタイプの人なのかなって。

──どのあたりでそう感じたんですか?

けっこう初期の段階で、3月上旬にはもう思ってましたね。

──“孤”になっていく。それは「寂しい」という感じなんですか?

うん。あとは具体的なことを言うと、当たり前なんだけど自分の時間もなくなっていくし、会いたい人には会えないし、いろいろなものを捨てなきゃいけないわけじゃないですか。ツアーで毎日歌っていくっていうことって。

──犠牲にするっていうこと?

そう。僕が歌っていくことに関して何かの犠牲があって。それはたぶん今だけじゃないと思うんです。この先アーティストとしてでっかくなりたいんだったら、たぶんいろんなものを捨てる作業が大事なことなんだなと、なんとなく感覚的にはわかっていて。そういった意味でも“孤”に向かっていくっていうか。それは寂しいけど、感じちゃいました。むしろ僕はそこに向かおうとしてるわけだから、感じなくちゃいけないんだなって。

──それについて引き受けようっていう決心はできたんですか?

うん……引き受けなくちゃいけないんだっていう感じ。

石崎ひゅーい

──ものすごく苦い表情してますね。それによってパフォーマンスに違いは出てきたりするものですか? ライブ中に。

そうですね。自分で言うのもなんですけど、歌がより研ぎ澄まされていく感じはしましたね。何も考えずに“表現する”ことに集中できるようになったというか。

──じゃあすごく大きな経験になったんじゃないですか?

そうですね。「俺、アーティストなんだ」っていう感じがしました。あと、今回のツアーでよく覚えてるのは福島公演ですね。福島のお客さんだけほかと違ったんですよ。気持ちがすごくて……。見えないものと戦ってる感じがしたんです。そういうお客さんだからこっちもパワーをもらう。だから自然とすごいライブになるんですよ。福島でライブをやった人って「逆にみんなからパワーもらった」ってよく言うじゃないですか? 今までその感覚がわからなかったんですけど、今回それを感じました。ライブハウスの店長も「震災後に音楽を聴くお客さんも増えて、お客さんの目が変わった」って言ってて。もちろん震災はないほうがよかったことなんだけど、すごいパワーを感じることができました。

石崎ひゅーい(いしざきひゅーい)
石崎ひゅーい

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身の男性シンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、高校時代より音楽活動を開始する。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。11月には1stシングル「ファンタジックレディオ」と、初のライブDVD / Blu-ray「キミがいないLIVE」を同時リリースした。2013年2月から5月にかけて全国47都道府県ツアー「全国!ひゅーい博覧会」を開催。6月5日にはテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」をリリース。9月からは東名阪ワンマンツアーの開催も決定している。自身の心情やエピソードを歌った、赤裸々な中に幻想的な表情を見せる歌詞、強い印象を与えるメロディライン、ダイナミックなライブパフォーマンスで、大きな注目を集めている。