ラテンの曲をやることが増えている

──今後、また違った形のバンドプロジェクトを始めるようなこともあったりは?

細野 うん、それもあるんじゃないでしょうかね。そう言えば、大地くんには悪いんだけどさ、最近シンバルがうるさく感じられて(笑)。

──そうなんですか。

細野 いやね、星野(源)くんと話していたときに、「この間レコーディングをしていて、ドラマーにシンバル禁止令を出した」って言うんだよ。それを聞いて「なるほど、そうだ!」と。クールなソウルミュージックとかだと、そんなにシンバルを「ジャーン!」って使わないから。ハイハットだけ。星野くんは、シンバルありでやったのとなしでやったのではやっぱりなしのほうがよかったって言うんです。それを聞いて“禁止令”っていいなって(笑)。

安部 わかります。僕もこの前、同じことをドラマーに言いました。「シンバル禁止」「ハイハットだけにして」「シンバルに逃げちゃダメ」って。大地さんとウチのドラマーを比べられないですけど、「そのシンバル、いる?」ってなることがある。シンバルに逃げないで、音の広がりを気持ちよく、説得力を持って表現できたほうがいい。

安部勇磨

細野 そうなんだよね。僕が808(ROLAND TR-808)とかで打ち込みをやっていたときには、シンバルなんて考えたこともなかった。

──打ち込みのリズムの3点って、キック、スネア、ハットが基本ですもんね。

細野 そう。でも最近僕、ラテンの曲をやることが増えているんですけど。サンバとかじゃない、古いやつね。そこで悩ましいのが、ラテンだとキックも要らないってこと(笑)。

──今お話にあった通り、DISC 1の最後はラテンナンバー「El Negro Zumbon(Anna)」で締めくくられます。

細野 そうです。この曲、やっとまとまったんです。マスタリングが終わって2、3日経ってからミックスをやり直して、それでマスタリングもやり直してもらった。中域だけでできているようなミックスですね。そう言えば最近、自分のミックスで低音が小さくなっているんです。昔はベースが大きすぎたんだけど、それがだんだん小さくなっている……ベーシストとしてどうなんだっていうね(笑)。まあ、とにかく前はでっかすぎて。僕、キックに理想的な音を持っているんだけど、今回それが出せるようになったから、それをちょっと試していて。

──細野さんの理想のキックとは?

細野 あまり膨れすぎないのに、ちゃんと重低音が出ている、みたいな音。

──難しいですね。とんち話みたいです。

細野 そうそう(笑)。計画してもできない。試行錯誤しなきゃ。しかし難しいよね、音って。こんなに難しいと思ったの初めてだよ。「もうやりたくない」ってくらい。ミックスとかね。

ブギは完成

──今回は基本的にレコーダーはデジタルですか? テープっぽい質感でしたけど。

細野 テープは使ってないですね。

──そうなんですね。それでもテープコンプレッションされたような感触で、それが楽曲と合っていて心地よかったです。

細野 そういうプラグインエフェクトを使っているからね。あとはね、“気力”というプラグインでやってます。気力。

安部 「こうありたい」って強く思うっていう(笑)。

細野 気力はアナログなんで。気力、大事だよ。例えば人の音楽を聴くと「これいいなあ」って思うじゃない。自分の曲だとそうは思わないんだけど、人の音楽を聴くと「わあ、どうやって録ったんだろう」って思う。そういう驚きとかショックをずっと持ってないと。

安部 僕も年々それが強くなっているんですよね。やればやるほど。

細野 それはいいと思うよ。正しい。それによって、自分の作品が変わっていくってのがいいよね。だんだんよくなっていく。

──前作のインタビューのとき、細野さんは「ソロで40年やって、歌うことが好きになってきた」っておっしゃってました(参照:細野晴臣 ソロ活動40周年インタビュー)。

細野 うん。

──それは今でも変わらずに?

細野 あのね、カバーは楽しいんですよ。特にブギは、ここでワンテイクくらいで録ってね。歌詞を間違えてあとで録り直したりはしたけど(笑)。

──ブギなんかは、ノリも大事になりますからね。

細野 そう。やっぱりノリでやるのが楽しいですよ。なんで楽しいかと言うと、ライブで歌い込んでいるから。特に「Ain't Nobody Here But Us Chickens」。原曲を最初に聴いたのはいつだったっけ……確か初めて聴いて6年くらいしか経っていないんです。

──そうなんですね。

細野 フィル・ハリスのね。初めて聴いたとき「ブギウギ、すげえ!」って思った。そのときの「すげえ!」っていうのを忘れずに、原曲のいいところを受け継いだつもり。歌に関しては、最初は「こんなふうに歌えないな」って思っていたの。それでもなんとか歌ってみたいと思って、ライブで何度かやっているうちにだんだんつかんでいった。それでやっとレコーディングができたんだ。今日聴いて明日やれるかっていったら、そんな曲ではなかったね。あと、ミックスのときに自分の声のEQのしづらさに気が付いて。大変でした。特殊な声だなってつくづく思いますね。

──今お話で出た「Ain't Nobody Here But Us Chickens」や1曲目の「Tutti Frutti」はライブでのキラーチューンとしてファンにはおなじみです。ちなみに先ほど細野さんは「もうブギはいいや」とおっしゃっていましたけど、やり尽くした感じですか?

細野 そう言っちゃうと違うかな。終わってはいないよ。終わってはいないけど、完成したなと。カバーでやるって意味ではね……って言うのは、ブギの名曲ってそんなにないんだよ。同じような曲がいっぱいあるけどつまらない。飽きちゃうしね。でもその中にも、飛び抜けていいのが何曲かはあるんです。「Ain't Nobody Here But Us Chickens」はその中の1曲。「Tutti Frutti」はまた別だけど。ほかに2、3曲あってレコーディングしたんだけど、ライブでやっているうちに進化するんで、また録るかもしれない。ライブにピアニストの斎藤圭土くんが参加するようになってくれてよくなったんで、それで録りたいと。

──ちなみに安部さんは、ブギになじみは?

安部 いや、全然なくて。細野さんのライブに行かせていただいて、「あ、こういう音楽聴いたことある」って。それから意識をするようになりました。

細野 まあ僕も小さい頃に聴いてはいたけど、最近までやったことはなかったからね。ロック世代だから自分がやるとロックになっちゃうのが不満だった。

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横丁の音楽

細野晴臣「Vu Jà Dé」
2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
細野晴臣「Vu Jà Dé」

[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3

Amazon.co.jp

DISC 1「Eight Beat Combo」
  1. Tutti Frutti
  2. Ain't Nobody Here But Us Chickens
  3. Susie-Q
  4. Angel On My Shoulder
  5. More Than I Can Say
  6. A Cheat
  7. 29 Ways
  8. El Negro Zumbon(Anna)
DISC 2「Essay」
  1. 洲崎パラダイス
  2. 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
  3. ユリイカ 1
  4. 天気雨にハミングを
  5. 2355氏、帰る
  6. Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
  7. 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
  8. ユリイカ 2
  9. Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
  10. Pecora
  11. Retort ~Vu Jà Dé ver.~
  12. Oblio
細野晴臣(ホソノハルオミ)
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
  • 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
  • 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
  • 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
  • 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
  • 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
never young beach(ネバーヤングビーチ)
never young beach
安部勇磨(Vo, G)、松島皓(G)、阿南智史(G)、巽啓伍(B)、鈴木健人(Dr)からなる5人組バンド。2014年春に安部と松島の宅録ユニットとして始動し、同年9月に現体制となる。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演する。2016年には2ndアルバム「fam fam」をリリースし、さまざまなフェスやライブイベントに参加。2017年7月にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表した。

2017年11月20日更新