砂原良徳
新作を聴いてて思ったのは「カッチリしてるかと思えばそうじゃないところもある」ってこと。細野さんって「1mmでもズレてたら嫌」みたいな緻密な音作りをしているイメージが僕の中にあるんですけど、最近はそのへんの意識が変わってきたのかなと。今ってみんな、模範的な演奏、模範的な歌に近付けようとばかりするじゃないですか。でも今の細野さんは、模範から外れるような演奏をしたときに、その外れた部分を大事にしてるっていう印象が僕にはすごくあったんですよ。以前よりユルくなったと感じられる部分があるんだけど、そういうところこそが逆に面白く聴けるなって。人のライブを観ているときも、ちょっと演奏を間違ったくらいのほうがスリルが生まれることってあるじゃないですか。
録音とかミックスに関しては、やっぱり今回も「さすがだな」って感じですね。空気を通して音を録るってことをひと通り試してきた人の音だと思います。ただ、録音やミックスにもユルさと言うか、“ハンドルの遊び”みたいな部分が昔よりあるような気がしました。以前の細野さんはアコースティックな作品でも「1mmのズレも嫌」みたいなミックスをしていたところがあったので、その耳で新作を聴くと最初は「あれ、これでいいのかな?」って思っちゃうかもしれない。でも、カッチリしたものが絶対的にいいのかというと、そういうわけでもないんだなって気付かされるんですよね。意識的にゆるさを大事にした結果なのかは、僕にはちょっとわからないんですけども。
あと、以前まではエコーがもうちょっとドライだった気がするんですけど、新作は自然のエコーっぽいですね。あとでコンピュータで足したものなのかどうか全然わからない。そういうことをしないで、マイキングの仕方で効果を得る方法を自分で見つけたのかも。個人的には、DISC 2にいっぱい入ってる短いジングルみたいなのが好きだったな。僕らに強い刺激を与えていた80年代の細野さんを思い出す瞬間もあって、「人ってそう簡単に変わんないよな」ってうれしくなりました(笑)。
細野さんは若い頃に「歳取ったらどうしたい?」って聞かれて「隠居したい」って答えてたんですけど、新作を聴いて「これが細野さんなりの隠居なのかな」って思いました。まあ、2枚組アルバム出してツアーもやるのに隠居なんて言ったら失礼かもしれないけど。音楽活動ってビジネス的なことが絡んで思い通りできないこともあるものなのに、そういうしがらみから比較的開放されてやっているイメージがあるので、きっと気分は隠居なんだろうなって気がしますね。
今回のアルバムは“家で食べるごはん”みたいな音楽なんですよ。家の食事って、食べた1口目で「わっ、うまい」って感動することはあんまりないけど、毎日食べ続けられる。外食を毎日続けると刺激が強すぎるし飽きるんですけど、そういうことがない、長く聴けるアルバムだなと思いました。
- 砂原良徳(スナハラヨシノリ)
- 1969年生まれ、北海道出身のサウンドクリエイター / プロデューサー。1991年から1999年まで電気グルーヴのメンバーとして活躍し、日本のテクノシーンの基盤を築き上げる役割を担う。電気グルーヴ在籍時よりソロ活動を始め、1995年に「Crossover」、1998年に「TAKE OFF AND LANDING」「THE SOUND OF '70s」という3枚のアルバムを発表。電気グルーヴ脱退後は2001年にアルバム「LOVEBEAT」をリリースしたほか、スーパーカーのプロデュースやリミックス、CM音楽を手がけるなど多方面で活躍する。2014年より高橋幸宏、小山田圭吾、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井らと共にMETAFIVEのメンバーとしても活躍中。
田中開
時代の空気、という不可視で形容しづらい存在だけど、TRFのあのいかにもな電子音のイントロを聴けば90年代のそれが、おニャン子クラブを聴けば80年代のそれが、ググッと心に浮かんでくるような、定義不能なんだけど確実に存在するようなものがあるはず。
それは、ちょうど読んでいた「マンガでわかる戦後ニッポン」(※1)の解説で内田樹さん使っていた言葉なのだけど。
いい作品、とは、構成や表現という作品それ自体の完成度もさることながら、どれだけ多くの人に“it reminds me that~”(~を思い出させる)のように、外部との接続をもたらすかだと思う。
僕らは、物心ついた00年前後には、すでにドイツに壁は無かったし、あさま山荘とトキワ荘の違いもピンとこない世代(という言い振りも新鮮さが無いくらいに若者は世に続々と登場しているけど)。だけども、路地裏へ溜まる濁った空気とか、寂れた街に吹きさらす風、なんて、修辞はなんだっていいが、ともかく、景色は浮かぶのに言葉ではできないイメージ、もしかしたらこれが60、70年代なんだろうかって匂い(もしくは残り香?)を僕らに嗅がせてくれる存在が細野さんだと思ってる。
※1. 2015年、双葉社刊。著者は手塚治虫、水木しげる、つげ義春、はるき悦巳、ちばてつや、ほか。
- 田中開(タナカカイ)
- 1991年生まれ、東京育ち。大学卒業後の2016年に祖父である田中小実昌が慣れ親しんだ街・新宿ゴールデン街にある廃墟を買い取り、レモンサワー専門店・the OPEN BOOKを開店。
デヴェンドラ・バンハート
I've been listening to Haruomi Hosono’s new album Vu Ja De on repeat, no matter the place or the mood I’m in, it just sends me immediately to paradise … an elegant and deeply nuanced album, one only Hosono-san can transport us to…magnificent and genuinely cool…. Rain dappled yet sunshine laden, Vu Ja De is contemplative, playful, irreverent, and understated in the most delightful way, sophisticated yet totally unpretentious, deep listening is a must! Thank you Haruomi Hosono!
細野晴臣さんのニューアルバム「Vu Jà Dé」をリピートして聴いています。どんな場所にいても、どんな気分のときでも、この作品はすぐにパラダイスに連れて行ってくれます。
エレガントで巧妙にニュアンスを変えた細野さんのアルバムだけが、私たちを壮大で本当にクールなパラダイスへ運んでくれます。
雨はぱらぱらと降り日差しはまだですが、「Vu Jà Dé」は瞑想的で遊び心があり、遠慮がなく、気取らず、とても気持ちよく控えめで、とても洗練されています。気取らずに、じっくり耳を傾けるべき作品です! ありがとう、細野晴臣さん!
- デヴェンドラ・バンハート
- 1981年生まれ、アメリカ・テキサス州出身のシンガーソングライター。ベネズエラで育ち、母親の再婚を機にロサンゼルスに移住する。12歳から楽曲制作を始め、2000年頃からロサンゼルス近郊でライブ活動をスタートさせる。2002年に1stアルバム「Oh Me Oh My…」を発表し、以降もコンスタントに作品をリリース。日本文化に傾倒したびたび来日。2017年12月7日に東京・新木場STUDIO COASTで行われるnever young beachの公演「『A GOOD TIME』Release Tour"extra show !!"」にゲスト出演する。
豊崎愛生
細野さんの音楽たちは、わたしにとってプレゼントのような存在です。がんばった日の夜、ドライブ中の昼下がり、すこし泣いた日の朝。思えばキリがないほど、特別な時間には、いつも細野さんの音楽がありました。優しく楽しく寄り添ってくれる、自分へのご褒美のようなプレゼント。新しいアルバムの再生ボタンを押すときの緊張感は、きれいな包装のリボンをほどくときのワクワク感と同じ感覚になるのです。
「Vu Jà Dé」は、6年半ぶりのニューアルバムでしかも2枚組。ひさしぶりの豪華なプレゼントにドキドキしながら再生しました。懐かしの名曲にテレビから流れてくるおなじみのあの曲、そして待望のオリジナル新曲。細野さんの色とりどりの振り幅と優しさが詰まった、とてもとてもhappyな作品でした。オシャレでそれでいてクスリと笑える遊び心満載な音楽たちは、音符とリズムがじゃれあって重なって、幸せな気持ちにさせてくれます。中でも特にDISC 2の「Essay」に収録されている「Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~」がお気に入り。ついついステップを踏みながら部屋で一緒に口ずさんでしまうご機嫌なメロディは、すでに私の鼻唄登場曲No.1になっています。そこからの「悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~」の流れも至高。11月に入り、ちょうど家ではクリスマスツリーを出したところ。この冬は暖かい部屋の中で「Vu Jà Dé」というプレゼントを何度もリピートしようと思います。
- 豊崎愛生(トヨサキアキ)
- 1986年10月28日、徳島県生まれの声優 / アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」で主要キャラクターの1人、平沢唯を演じて注目を集めた。同年2月には同じミュージックレインに所属する寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥と共にユニット・スフィアの活動を始め、10月にシングル「love your life」でソロデビュー。以降は、ソロ、スフィア、さらには数々のアニメのキャラクターソングなど幅広く音楽活動を行っている。2017年5月にはソロ15作目となるシングル「ハニーアンドループス」を発表。7月には初のベストアルバム「love your Best」をリリースした。
のん
楽しかった~。軽快な音楽たちにぐんぐん、明るい気持を引っ張り出されて心躍りました。するりと耳に入り込んでくる音が気持ちよくて無心の時間を楽しみました。細野さんの声に酔いしれて、そんな自分にちょっと気恥ずかしい気分になりながらもずっと聴いていたいと感じていました。カッコいい……。
- のん
- 1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。2016年11月公開の長編アニメーション「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を担当。同作での演技が評価され、第31回高崎映画祭ホリゾント賞、第11回声優アワード特別賞などに輝いた。2017年8月には新レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足し、本格的な音楽活動を行っていくことを発表。11月22日に1stシングル「スーパーヒーローになりたい」をリリースする。
次のページ »
「Vu Jà Dé」バンドメンバー鼎談
高田漣×伊賀航×伊藤大地
- 細野晴臣「Vu Jà Dé」
- 2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3
- DISC 1「Eight Beat Combo」
-
- Tutti Frutti
- Ain't Nobody Here But Us Chickens
- Susie-Q
- Angel On My Shoulder
- More Than I Can Say
- A Cheat
- 29 Ways
- El Negro Zumbon(Anna)
- DISC 2「Essay」
-
- 洲崎パラダイス
- 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
- ユリイカ 1
- 天気雨にハミングを
- 2355氏、帰る
- Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
- 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
- ユリイカ 2
- Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
- Pecora
- Retort ~Vu Jà Dé ver.~
- Oblio
- 細野晴臣(ホソノハルオミ)
- 1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
- 細野晴臣 ニューアルバム「Vu Jà Dé」」特設サイト
- 細野晴臣“リリース記念ツアー”スペシャルムービー企画「昨日の1曲」実施中!
- 細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
-
- 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
- 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
- 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
- 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
- 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
- 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
2017年11月20日更新