あ、やってる甲斐があるじゃん
──今回の特集では、いろいろな方に細野さんの新譜を聴いていただいて、ディスクレビューを書いてもらうことにしています。
細野 いやだな、怖いよ。みんなケナせないじゃん。「正直に書いて」って言ってね。反省のもとにするから。
──いやいや(笑)。細野さんの今後のスケジュールなのですが、11月にツアーが始まって、来年1月には台湾でもライブをやられるんですよね。最近の細野さんのライブは若いお客さんが多い印象です。
細野 そう感じますね。ラジオも若い人が聴いているみたい。20歳そこそこの子が「聴いています」「あれを聴いていて、古い音楽に興味を持ちました」って。それで「あ、やってる甲斐があるじゃん」って。
──前作のインタビューでも、細野さんは「カバー曲を若い世代に伝えたいという思いがある」とおっしゃっていました。
細野 うん。ブギは伝わりづらいかもしれないけどね。でも子供には伝わるんだよ。ライブでやっているときに見てるとわかる。踊り出すから。頭で考えないで、楽しそうに踊っている。興奮しているんだよね。5、6歳の女の子がすごい真面目な、真剣な顔で踊ってる。これは確かな手応えだと。なぜなら自分がそうだったんだ。そしてそれが今の原動力になっている。アルバムではブギとは別に60年代のポップソングもやっていますけど、そっちは紹介って意味が強いです。原曲を聴いてほしい。それで解説もいろいろ書いているんですけど。
──アルバムに同梱される細野さんの解説文、ものすごく読み応えがあるものでした。
細野 差し出がましいと言うか、おせっかいと言うか……本当は何も書かないのがカッコいいんだけれど。
──アルバムタイトルはデジャヴの逆で、“よく知っていることなのに、初めて知る、体験するような印象を受ける感覚”を表す言葉だそうですね。アルバムの内容をよく表したタイトルだと思いました。
細野 うん、一貫してますね。「聴いたことがあるのに、知らない」っていうね。
もう引退は卒業
──50周年が近付いていますね。
細野 2年後くらいですよね。
──どういう心境ですか?
細野 さっきも言ったけど、ソロでオリジナル曲をやっていると、鏡みたいに自分の70歳の姿がそこに映るんだよね。それは嫌ではあるけど、仕方がない。それに、上には上がいるからね。
──キャリアが長い人はまだまだいます。
細野 うん。今、100歳以上の人っていっぱいいるでしょ? 何万人といるんじゃないの、ひょっとすると。それでね、「100まで生きるなら、80まで仕事しろ」って説があるらしいの。僕は100歳まで生きるかどうかわからないけど、あと10年くらいはやるだろうと。って言うか、死ぬまでやるんだろうけど。
──細野さん、いつもインタビューで「これが引退後最初のアルバムだよ」なんて先のことをはぐらかしていたじゃないですか。
細野 そうそうそう(笑)。
──だから今の発言、ちょっとびっくりしました。
細野 もう引退は卒業。引退は散々したから。
──先日、“引退後初ライブ”もやりましたからね(参照:細野晴臣、初夏ツアー浅草公演で大喝采「引退後初ライブです」)。
細野 そう(笑)。やりたいことがまた出てきたんです。1枚作ると、またやりたいことが出てくるでしょ?
安部 違う音とか、違う音楽とか。
細野 そう。今そうなの。
──では、50周年までにまた新作が届けられる可能性はあったりするんですか?
細野 今の気持ちでは、作りたいなと思っている。今すぐここでまた作業を始めればすぐできるんだけど、いつもやらない。遊んじゃう(笑)。まあやりたいことはあるんで、次はちゃんとやるかな、うん。今回ミックスしながら、昭和歌謡を聴き出したんです。「次、こういうのやりたいな」って。逃避だったんだけど(笑)。
──ラテンと昭和歌謡とブギが混在したようなアルバムも面白そうです。
細野 そう、それそれ。
──そう言えば細野さんに前回インタビューをしたときに、「『HOSONO HOUSE』を録り直す」とおっしゃっていたのは忘れていません。
安部 ええ!? 本当ですか!?
──細野さんがそうおっしゃってくれているだけかもしれませんけど。
細野 いやね、これ誰かに言われたんだよ。「やってください」って。
安部 僕、10枚くらい買います……。
細野 本当? じゃあそれ先に作ろうかな(笑)。
安部 すっごい聴きたいです。今の細野さんが、今の録音環境で録ったらどんな音になるだろうな。
細野 違うものになるだろうね……なるほど。やってみようかな。企画としては面白いですよね。じゃあ、こっちが先か。
安部 ああ、実現したら本当うれしい!
細野 今の反応を見て、ちょっとその気になっちゃった(笑)。安部くんの世代には受けるかもね。
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原曲を超えることができない
- 細野晴臣「Vu Jà Dé」
- 2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3
- DISC 1「Eight Beat Combo」
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- Tutti Frutti
- Ain't Nobody Here But Us Chickens
- Susie-Q
- Angel On My Shoulder
- More Than I Can Say
- A Cheat
- 29 Ways
- El Negro Zumbon(Anna)
- DISC 2「Essay」
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- 洲崎パラダイス
- 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
- ユリイカ 1
- 天気雨にハミングを
- 2355氏、帰る
- Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
- 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
- ユリイカ 2
- Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
- Pecora
- Retort ~Vu Jà Dé ver.~
- Oblio
- 細野晴臣(ホソノハルオミ)
- 1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
- 細野晴臣 ニューアルバム「Vu Jà Dé」」特設サイト
- 細野晴臣“リリース記念ツアー”スペシャルムービー企画「昨日の1曲」実施中!
- 細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
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- 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
- 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
- 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
- 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
- 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
- 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
- never young beach(ネバーヤングビーチ)
- 安部勇磨(Vo, G)、松島皓(G)、阿南智史(G)、巽啓伍(B)、鈴木健人(Dr)からなる5人組バンド。2014年春に安部と松島の宅録ユニットとして始動し、同年9月に現体制となる。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演する。2016年には2ndアルバム「fam fam」をリリースし、さまざまなフェスやライブイベントに参加。2017年7月にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表した。
2017年11月20日更新