細野晴臣「Vu Jà Dé」 PR

細密画みたいな世界に入っちゃう

──作り始めてからかれこれ4年ほど費やしたわけですね。

細野 まあ、放っておいただけですよ。録りっぱなしで。

──アルバムのサウンドの方向性が見えたのはどのあたりですか?

細野 うーん、難しいなあ。いつだろう。ミックスをやり始めると細部に入り込んでいくんですよね。全体が見えない。例えば、ウッドベースにもいろんなノイズがあるでしょ? フレットのノイズとか。あとは歌のノイズを取ったり。

安部 そういうの、やられるんですね……。

細野 うん、全部やる。職人の世界に入っちゃう。ものすごく細かいことをやり始めるの。細密画みたいな世界に入っちゃうから、全体が全然見えない。でも最初に大まかな音像は作っておくんですよ。大体はそれで満足しちゃうんだけど、しばらくして聴くと、だんだんといつもは聴こえない音が聴こえてくるわけです。「あれ? これなんだろう?」とね。それで入っていくんですね、細かい世界に。

安部 僕、以前宅録していたときは、本当によくないんですけど、ノイズが乗っても「これはこれで味なんじゃないか」って気持ちになっていたんです。最近は「ちげえよバカ、俺!」「(ノイズを)取れよ!」っていうのがわかってきたんですけど(笑)。でもまた、たまたま入ってきた風の音とかがよかったりすることもあることにも気付いたりしていて……。

細野 それはいいじゃない。

安部 ただ、自分でやるぶんにはいいんですけど、バンドメンバーには厳しいです(笑)。録ったあとに演奏が気になってしまうことがあって。バンドメンバーってだいたい気が付かないところで変なことをしているんですよね。そういうの、録ったあとに初めて気付くんです。「お前はこんなことをしていたのか!」って(笑)。

安部勇磨

細野 そうそう。スタジオでレコーディングしているときは、すごい大らかな気持ちなんだよね。寛容。「よっしゃ、いいじゃん! できた!」って。そのあとに聴くと、「あれ?」って思うことがいっぱいある(笑)。

安部 レコーディングが終わったあとにトラックを1個1個確認していくと、「何これ?」みたいな。

細野 そうすると、さっき言ったような細かい作業をやり出すわけです。だからもう本当にね、自分では毎回言うんだけど、漆塗り職人みたいな気持ちでやっている。一度ノイズを取っても、また違うところが気になったりするからね。何度も何度も漆を塗り直していくような感じ。全然ミュージシャンじゃないよ、そういうときは。完成品をキレイに作らなきゃっていう変なモードになってる。全然終わらない。いまだに終わってない気がする(笑)。途中で提出してしまったみたい。

安部 そういうときって、一度時間を置いたりすることはありませんか? ずっと聴いていて、わかんなくなっちゃって。

細野 余裕があればそうしたいんだけどね。そのほうが絶対いい。変なんだよ、脳みそって。入り込んでいると、細部はわかるけど全体がわからなくなっちゃう。で、一度離れて、忘れて、そのあとで改めてぼーっとしながら聴くと、全然気にならなかったりする。変な世界だ。難しい。

安部 聴こえ方って、気分やタイミングでも変わりますからね。

細野 そう。でね、今回一番感じたのは、ずっとミックスをやっていると耳が疲れちゃうっていうこと。いろんなトラブルがあって……「あ、これいいな」と思ってミックスしていたのに、コンピュータのシーケンサーの画面が消えちゃったりね。何もできなくなる。それでエンジニアを呼んで直してもらったり、直らなかったら全部やり直したりしてね。作業の終盤なんか、アンプが飛んでスピーカーが使えなくなっちゃったから、ヘッドフォンでミックスして。ヘッドフォンでミックスするのって難しいんだよ。

安部 ああ……。

細野 グッと耳を押さえて聴かないとダメで。それで耳がおかしくなっちゃった。耳が疲れると普段は気にならない音がピーンと響いてきて、それでその音をカットしちゃったりする。そうするとカットしすぎちゃう(笑)。

安部 ピーンと響いてくると、イライラしますよね(笑)。

──とは言え細野さんは、そういった作業を50年近くやられてきたわけですよね。

細野 でもミックスってことで言うと、初期は僕は音は何もいじっていないからね。例えば「HOSONO HOUSE」のときは吉野(金次)さんっていうオーソリティがいたから。コンソールにすら触っていない。

──そうでしたか。

細野 当時は分業で、「専門家の方がそこで音を作っていらっしゃるんだから!」っていう感じだったんです。もちろん方針はいろいろ話し合うけど、細かい作業に関しては絶対に手を出さない。だから初期は全部自分でミックスをやったわけじゃなく、エンジニアの横に座ってあれこれ言うだけでしたよ。「エコー切って」とかね。アンビエントの時代あたりから自分で機材をそろえて……まあ、宅録ですよね。そこからです。本格的にミックスをやり始めたのは。宅録から始まっている。だから僕も最初、FOSTEXの4trの機材を買ったりしてね。

10年もバンドをやったことがなかったから

──今回のアルバムのサウンドについて、僕の感想になってしまうんですけど。

細野 うん、聞きたい。

──DISC 1の収録曲やDISC 2の「洲崎パラダイス」などがそうなんですけど、ものすごくまろやかなサウンドで気持ちいいなと。

細野 本当? よかった。今ね、アルバムを聴かれるのが嫌なんです。

──なぜですか?

細野 不安なの。ミュージシャンはみんなそうですよ。

安部 あははは(笑)。

──いやいや、とても芳醇なサウンドでした。そして、この10年細野さんとライブやレコーディングを共にしてきたバンドの演奏も生々しく捉えられていて。このスタイルでのある種の完成形なんじゃないかなと思いました。長い間一緒にやっているからこそなせるものですね。

細野 それはそうですね。完成形。記録として残しておけてよかったな。10年かかったのか。

──普通のバンドでも10年一緒にやるのは長いです。

細野 ね。僕、10年もバンドをやったことがなかったから。3年でも長いと思っているからね。

──以前からおっしゃっていますが、“バンドを解散させるのが趣味”ですもんね。

細野 そうそう(笑)。

──と言うことは、今の形態は細野さんのキャリアで一番長いバンドです。

細野 ソロだから、本当はバンドではないですけどね。いつの間にかバンドっぽくなっているけれど。

細野晴臣「Vu Jà Dé」
2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
細野晴臣「Vu Jà Dé」

[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3

Amazon.co.jp

DISC 1「Eight Beat Combo」
  1. Tutti Frutti
  2. Ain't Nobody Here But Us Chickens
  3. Susie-Q
  4. Angel On My Shoulder
  5. More Than I Can Say
  6. A Cheat
  7. 29 Ways
  8. El Negro Zumbon(Anna)
DISC 2「Essay」
  1. 洲崎パラダイス
  2. 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
  3. ユリイカ 1
  4. 天気雨にハミングを
  5. 2355氏、帰る
  6. Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
  7. 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
  8. ユリイカ 2
  9. Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
  10. Pecora
  11. Retort ~Vu Jà Dé ver.~
  12. Oblio
細野晴臣(ホソノハルオミ)
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
  • 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
  • 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
  • 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
  • 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
  • 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
never young beach(ネバーヤングビーチ)
never young beach
安部勇磨(Vo, G)、松島皓(G)、阿南智史(G)、巽啓伍(B)、鈴木健人(Dr)からなる5人組バンド。2014年春に安部と松島の宅録ユニットとして始動し、同年9月に現体制となる。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演する。2016年には2ndアルバム「fam fam」をリリースし、さまざまなフェスやライブイベントに参加。2017年7月にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表した。