音楽ナタリー Power Push - 堀込泰行
ソロ第一歩はドリーミーでカラフルな“普通の音楽”
2013年春にキリンジを脱退し、ソロでの活動をスタートさせた堀込泰行が、個人名義による1stアルバム「One」を完成させた。ライブを通してオリジナル楽曲を披露し、2014年11月には配信シングル「ブランニュー・ソング」、2016年4月には洋楽カバーアルバム「"Choice" by 堀込泰行」と、少しずつサウンドの方向性を覗かせてきた泰行。満を持してのオリジナルアルバムは、カラフルな色合いを持つポップな1枚となった。インタビューでは、彼がどのような姿勢で音楽に向き合い10編の楽曲を作り上げたのか、その過程と心境を詳しく聞いた。
取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 西槇太一
ストックのない状態からのリスタート
──堀込泰行名義での1stアルバムがついに完成しました。まずは第一声としていかがですか?
「やっとできた」というのが一番でかいですね。ようやく形になったなあと。今年の6月にレコーディングが始まって、8月半ばには終わる予定だったんだけど、ちょっとズレ込んでしまって。最後の10日間ぐらいはもう戦場のようでしたね。どんどん24時間サイクルじゃなくなっていって、終盤は1時間ぐらい仮眠しては作業しての繰り返しで。
──なんでまたそんな夏休み最終日の小学生みたいなスケジュールに?
別にのんびりなまけてやってるつもりはないんだけど……どっかタカをくくってたんですかね? 間に合うでしょ、みたいな。ペースを決めてやってるつもりだったんだけど、だんだんそうも言ってらんないぞって感じになってきて。
──キリンジ脱退直前、2013年春のインタビューでは(参照:キリンジ「Ten」インタビュー)、その後の活動についての質問で「このタイミングだからこそ、ちょっと早めに動き出そうとは思ってます」という発言がありましたが。
あっ、ホントに? (笑) あのときはアルバムを作ってライブもこれからというタイミングで。なんらかの躁状態というか興奮状態にあったから、どんどん次に行こうと考えてたんだと思います。
──その段階ではソロ楽曲のアイデアや展望はあったんですか? 今回のアルバムの雛形になるようなものだったり。
いやいや、全然。確か「Buffalo」だけはデモテープがあったのかな? それもギターだけ弾いて、ドラムとかベースは入ってない状態のまま、ずっとお蔵入りになっていて。周りのみんなにも、曲のストックはあるんだろう、ジョージ・ハリスンがThe Beatles解散後すぐソロを発表したみたいに次を出すんだろうというイメージを持たれていたんだけど、全然そんなことはなかったです。結局、キリンジでの最後のライブが終わって半年ぐらいは何もしなかったんじゃないかな。
“アルバム1枚聴き”で再確認
──ではしばらくの間はどう過ごしてたんですか?
のんびり過ごしてはいたんだけど、一応“アルバム1枚聴き”は必ず毎日しようと心がけてました。今はみんなアルバム1枚を通して聴かなくなってるし、時代遅れかもしれないけど、俺は続けようと思って。でも、古いものが多かったかな。The Modern Folk Quartetとかビル・エヴァンスとか、ああいうすごい地味なもの。曲がシンプルでコーラスがきれいなものを、夜な夜なお酒を飲みながら聴いて「これが今の気分にぴったりだわ」と思いながら。
──同時代のシンガーソングライターの作品は聴かなかったんですか? トム・オデールとかカート・ヴァイルとか。
聴かなかったですね。聴かなかったというか、同時代のものをチェックするという感覚があまりなかったのかなあ。自分が次に作るものとなると、単純に地味で癒しになる音楽が聴きたくて。音楽に興奮はあまり求めなかったですね。そういうことをやってるうちに1年ぐらい経っちゃって。最初、時間があれば旅行とかに行くのかなとも思っていたけど、全然行かなかった。行きたい場所が全然思い付かなかったんです。南の島に行って、もう1回自分を見つめ直してリスタートを切るのかな、みたいな想像はしたんだけど、いかんせん行きたい場所がなくて。本当に旅行ってものに対する欲求がない。目的なく近所を散歩することはあるんだけど。
──大好きだと公言しているスーパー銭湯に行くとか?
そうそう(笑)。ただ、旅ってスケールになると、そこまでの欲求がなくて。歴史的な建物とかにも興味がないんですよ。
──では、家の中でアルバム1枚聴きを続けたことでプラスになった部分は?
強いて言えば、自分はサウンドが目新しいものよりも、メロディがきれいなものが単純に好きなんだなっていうことが改めて確認できたことですかね。コードが展開していって、そこにきれいなメロディが乗るという古いスタイルの音楽の作り方が自分はやっぱり好きなんだなって。
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収録曲
- New Day
- Shiny
- Waltz
- Wah Wah Wah
- ブランニュー・ソング
- Jubilee
- さよならテディベア
- Buffalo
- 最後の週末
- 僕らのかたち
堀込泰行1stアルバム「One」発売記念イベント
- 2016年10月22日(土)
- 東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
- 2016年10月29日(土)
- 大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
- 2016年10月30日(日)
- 愛知県 名古屋パルコ東館 6F タワーレコード名古屋パルコ店内イベントスペース
- 2016年11月5日(土)
- 福岡県 タワーレコード福岡パルコ
- 2016年11月12日(土)
- 北海道 タワーレコード札幌ピヴォ店
内容:ミニライブ&サイン会
堀込泰行LIVE2016
- 2016年12月12日(月)
- 東京都 TSUTAYA O-EAST
- 2016年12月14日(水)
- 大阪府 UMEDA AKASO
堀込泰行(ホリゴメヤスユキ)
1972年5月2日生まれ。1997年に兄・堀込高樹とのバンド・キリンジでデビューを果たす。2005年にはキリンジと並行してソロプロジェクト・馬の骨としての活動も行い、2013年4月のキリンジ脱退後は個人名義でのソロ活動を開始。2014年11月には配信シングル「ブランニュー・ソング」を発表した。2016年10月には個人名義による1stアルバム「One」をリリース。自身の作品のほか、ハナレグミ、安藤裕子、一青窈、畠山美由紀、Keyco、松たか子、南波志帆、鈴木亜美といったアーティストへの楽曲提供でもソングライターとして独自の個性を発揮している。