燃え殻×成田凌のHuluオリジナル「あなたに聴かせたい歌があるんだ」、スタッフとキャストから紐解くドラマの見どころを徹底解説

成田凌が主演を務めるドラマ「あなたに聴かせたい歌があるんだ」が5月20日よりHuluで独占配信される。

萩原健太郎が監督を務める本作は、「ボクたちはみんな大人になれなかった」などで知られる燃え殻が書き下ろした完全オリジナルストーリー。17歳と27歳の2つの年齢を軸に、夢を叶える人生から降りた男女が理想と現実の間で葛藤する日々が描かれる。成田のほか、伊藤沙莉、藤原季節、上杉柊平、前田敦子、田中麗奈らがキャストに名を連ねた。

この特集ではスタッフ、キャストから紐解く本作の見どころを、ライターの小林千絵によるレビューで紹介する。さらに音楽ナタリーではテーマ曲であるキリンジ「エイリアンズ」について深掘りするほか、音楽的見どころを解説する特集を掲載する。

文 / 小林千絵

原作者・燃え殻の魅力

燃え殻

燃え殻

蓋をしていた、でも眩しかった出来事を、久しぶりに思い出したような気がする

原作者は「ボクたちはみんな大人になれなかった」で知られる燃え殻。デビュー作「ボクたちはみんな大人になれなかった」は燃え殻の半自伝的小説、小説第2弾「これはただの夏」も主人公はテレビ業界で働く社員と限定的な設定でありながらも、どこか身に覚えのあるような出来事や会話に、読者は自身の人生と重ね合わせて読んだ。ただし、その感情は“共感”と括ってしまいたくない、思い出したくない過去だったりする。それゆえに半径1メートル以内のほんのひと握りの友人にしか話していないような、でも確かにあった思い出で。燃え殻の小説を読むと、そんな蓋をしていた、でも眩しかった出来事を、久しぶりに思い出したような気がするのだ。今作「あなたに聴かせたい歌があるんだ」では、前述の作品とは違い、主人公の性別も性格も職業もさまざま。これまで以上に、読者はどこかに自分、もしくは半径1メートル以内の友人を見つけてしまうだろう。

「あなたに聴かせたい歌があるんだ」

「あなたに聴かせたい歌があるんだ」

実力派キャストによって描かれる6人の人生

成田凌/荻野智史役

主人公・荻野智史を演じるのは映画「スマホを落としただけなのに」「愛がなんだ」「窮鼠はチーズの夢を見る」などで知られる成田凌。特にここ数年は数々の映画賞も受賞するなど、その実力は折り紙付き。NHK連続テレビ小説「おちょやん」では妻がいながら若い劇団員と恋に落ちる喜劇一座の座長を演じ、あまりの名演技から放送中は“今日本で一番嫌われている男”としても名を馳せたほど。ファッション雑誌MEN'S NON-NOの専属モデルを務めていたこともあり、ビジュアルのよさを生かした色男役はもちろんのこと、映画「まともじゃないのは君も一緒」では人付き合いが下手な冴えない男を好演するなど、大きな振れ幅を持つ。今作で演じる荻野は、俳優になる夢を持っていたが“27歳”を前に会社勤めを始めた男。会社員2年目にしてくたびれていながらも、どこかにまだ小さな炎が見え隠れする萩野を、特有の気だるさと色気でもって輝かせている。

伊藤沙莉/前田ゆか役

アイドル志望の前田ゆか役は、同じく燃え殻原作の映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」でヒロインを務めた伊藤沙莉。ドラマ「いいね!光源氏くん」シリーズや映画「タイトル、拒絶」、菅田将暉主演ドラマ「ミステリと言う勿れ」などで主役やヒロインを演じてきた。愛くるしい見た目や、ナレーターにも抜擢される独特なハスキーボイスにより、鋭いセリフをマイルドに見せられることから、キャラクターや設定は違えど、芯に強いものを持っており、ここぞという場面で強く意見できる人物を演じることが多い。今作のゆかについて伊藤は、男性で描かれていることの多かったプライドをテーマにした役柄だと捉えているという。これまで伊藤が演じてきたキャラクターたちのメッセージを、彼女自身が受け取っているかのような解釈だ。最後にゆかが柔和な笑顔で言う「平凡だけど退屈じゃない」という一言には、救われる人も少なくないのではないだろうか。

藤原季節/片桐晃役

映画「his」「佐々木、イン、マイマイン」で第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞、2021年には映画「くれなずめ」「明日の食卓」「のさりの島」「空白」に出演するなど、日本映画界を牽引する1人となりつつある藤原季節。そんな彼は作家を目指す片桐晃を演じている。片桐は、藤原自身も「⻘春が薄っぺらい」「中途半端の連続」と分析している通り、作家というよりも、“自分の著書が本屋に平積みしてある”という夢を追い求めている男だ。しかしある女性との出会いによって、本気で書きたいと思う物語を見つけていく。「佐々木、イン、マイマイン」でもつかみどころのない石井悠二を熱演して評価を得た藤原。20分の中で、徐々に片桐の内に火を灯らせていく姿を、グラデーションで見せていく器用さはさすがだ。成田同様、端麗な見た目でありながら、冴えない文学青年にしか見えないのも“藤原節”。