私たちのブームとしてちょいダサは重要
──3曲目の「Freeder」ですが、このタイトルは造語ですか?
松尾 造語です。仮タイトルだったんですけど、これでいいかなって(笑)。
──曲調はアメリカのフォークロックを意識したものですか?
松尾 これはもう最近自分たちが聴いている音楽、特に亀のブームが反映された曲ですね。
亀本 最近アメリカのフォークロックというか、からっとしたポップな曲がすごく好きで。ライアン・アダムスとかKings of Leon、ジェイムス・ベイあたりは日本にも入ってきているけど、Kodalineはまだあまり知られていないんじゃないかな。でも海外ではYouTubeですごい数の再生回数なんですよ。ちょっとThe Lumineersみたいな感じなんですけど、そういうサウンドが好きだったので、自分たちでも作ってみました。
松尾 さわやかだけどフォーキーな風が吹いているという。
亀本 ちょいダサだけど新鮮、みたいな(笑)。
松尾 最近の私たちのブームとしてちょいダサは意外と重要だよね(笑)。ライアン・アダムスとか。
──スライドギターもブルース訛りというより、トラディショナルなポップスのそれみたいにスーッと耳に入ってくるような感じですね。
亀本 アメリカンポップの要素というか、テイラー・スウィフトの「RED」とか、ああいうポップさをイメージして弾きました。
少女同士は何か危うい
──そしてリードトラックでもある「美しい棘」です。これはGLIM SPANKYのリスナーであれば「大人になったら」を思い出す曲ですよね。
松尾 自分でもそう思います。これは1年くらい前からあった曲でした。「大人になったら」もそうだったんですけど、こういう曲ができるときって、自然なきっかけからできるんです。特定のテーマで曲を書きたいと思っていなくても、自然と湧き上がってくるように。「大人になったら」よりも年齢的にはもうちょっと前の時代の感情を書いたんですが。
──もう少し詳しく聞かせてください。
松尾 この曲を書いたときは京都に住んでいる親友がいて、お互いに忙しくてなかなか会えないからよく長電話をしていたんですね。そのときに学生の頃のことを思い出すんだけど、まだリアルに覚えすぎていて、ドロドロしていて、美化できない思い出もたくさんあって。たぶんもっと大人になっちゃえば笑えるようなことも、まだ生々しく残っている。そんな電話のあと実家に帰ったら昔の夕方4時くらいの、木の匂いとか光の感じとか犬を散歩させているおじさんの後ろ姿が急に鮮明に思い出されて。その頃の記憶は輝いて見えるんだけど、でも今の環境も私にとっては輝いて見える。今が最高だと思って生き続けているので、その頃に戻りたいとは思わないけれども、でもやっぱりあの頃の自分たちは無敵だと思っていた。そんな危うくてきれいな無敵さを思いながら、部屋でアコギを持ったらこの曲ができたんです。だから本当に「大人になったら」と対になる曲ですね。聴く人の受け取り方によって、男と女の歌だと取る人もいると思うけど、私だけの感情で言うと女同士の友達の歌です。
──なるほど。
松尾 あの頃って、危うくて、ちょっと長い休みを挟んだだけで人が変わったように見えたこともあったし、進学していくとお互いに知らない新しい友達ができて、昨日まで仲良しだったのに、住んでいる世界が変わっちゃったかのように思えた。私が上京したときも、地元の友達で「レミは都会の人になっちゃって手の届かない人になった」と言った子もいたし、何か危ういんですよ、女同士というか少女同士って。素敵なことも悪いことも知っていく季節で、棘に刺さりながら成長していくような実感があった。大人からは「今を大事にしろ」とか言われたけど、当の自分たちも今の若さが特別であることを本当は自覚している。制服を着て守られている貴重さを知っているんですね。そういう美しい危うさや、そこから変わってしまうことは悲しいんだけれど、でも変わることもまた美しいんだということについて書きました。
──松尾さんの詞はこれまで基本的にジェンダーレスでした。あまり女性性が出てこなかったし、だから男が聴いても女が聴いても盛り上がれる。
松尾 そうですね。
──だけどこの曲は女性性の曲だし、女性じゃないと書けない歌詞なんですよ。しかも男には絶対に書けない必殺のフレーズがあって。「今までとなりに居たあなたから手を離せば最後 もう知らぬ人」って。これ、絶対に男には書けない歌詞だと思います。
松尾 そっか。意識していなかったな。
──「怒りをくれよ」は男にも書けるかもしれないけど、この関係性という名の糸をぶつっと断絶するような描写は、まず男には書けない気がします。
松尾 自分としてはさらっと書けた歌詞だったので、そう言われると不思議な気分だけど、確かにそうかも知れませんね。
亀本 僕はどの曲も「僕にはこんな曲書けねえ」と思っているけど(笑)、そういう見方もあるんですねえ。
──この曲は編曲に亀田誠治さんを迎えています。
亀本 曲のプロデュースまで含めた全般ですね。基本を2人で作ってきて、亀田さんと最後に仕上げてレコーディングしました。
──歌心のあるベースラインも弾いていますね。
松尾 これは私からのラブコールで、最初からどうしても亀田さんにベースを弾いてほしかったんです。前に出すぎないんだけど、ものすごくしっかりとしたいいメロディラインをドキッとくる箇所に持ってきてくれるベーシストじゃないですか。だから私の中でこの曲のベースは亀田さん一択だったんです。
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本当に月に恋しちゃっている
- GLIM SPANKY「I STAND ALONE」
- 2017年4月12日発売 / Virgin Music
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初回限定盤 [CD+DVD]
2916円 / TYCT-69115 -
通常盤 [CD]
1944円 / TYCT-60098
- CD収録曲
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- アイスタンドアローン
- E.V.I
- Freeder
- 美しい棘
- お月様の歌
- 初回限定盤DVD収録内容
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全国ワンマンツアー "Next One TOUR 2016" ファイナル公演(2016.10.30新木場STUDIO COAST)ライブ映像
- NEXT ONE
- ダミーロックとブルース
- 闇に目を凝らせば
- grand port
- 時代のヒーロー
- いざメキシコへ
- 風に唄えば
- 怒りをくれよ
- 大人になったら
- ワイルド・サイドを行け
- リアル鬼ごっこ
- GLIM SPANKY 野音ライブ 2017
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- 2017年6月4日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂
- 2017年6月17日(土)大阪府 大阪城音楽堂
- GLIM SPANKY(グリムスパンキー)
- 松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)による男女2人組のロックユニット。2007年に長野県内の高校で結成。2009年にはコンテスト「閃光ライオット」で14組のファイナリストの1組に選ばれる。2014年6月に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。その後、スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMに、松尾がカバーするジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」が使われ、松尾の歌声が大きな反響を呼ぶ。2015年7月には1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」をリリース。10月には東京・赤坂BLITZにてワンマンライブを実施した。7月20日に2ndアルバム「Next One」を発表。収録曲「怒りをくれよ」は映画「ONE PIECE FILM GOLD」主題歌に起用された。2017年4月に3rdミニアルバム「I STAND ALONE」をリリースする。リード曲「美しい棘」はテレビ朝日系で4月13日より放送されるドラマ「警視庁・捜査一課長 season2」の主題歌。