音楽ナタリー Power Push - GLIM SPANKY

新しい時代目指し“ヤバい道”を行け

新しい時代を作りたい

──では、ここからは1曲ずつお話を聞かせてください。まず表題曲の「ワイルド・サイドを行け」から。

松尾 この曲は、今回の収録曲の中では最後に生まれた曲です。歌詞はすごく考えました。「今、自分が一番本気で言いたいことってなんだろう?」と考えたときに「新しい時代を作りたい」と思ったんです。最近いくつかのインタビューを読んだんですが、私たちと近い世代のミュージシャンで、新しい音楽やカルチャーをどう提示していけばいいか、ということについて、いろいろと発言する人が増えている気がしたんです。シティポップでもニューウェイブっぽいものでも、私たちとはやっている音楽こそ違っても、みんな新しいカルチャーを作りたいとか、時代を変えたいと思っている気がした。そこでGLIM SPANKYも突っ走るんだけど、1人で切り開いてもあまり意味がないというか。やるならデカいことをみんなでやりたいなって。

──そういう思いが「ヤバイ場所で今夜会おうぜ」であり「仲間とこじ開ける未来は絶景さ」という歌詞を書かせたということですか?

松尾 はい。仲間とともに真っ暗な道なき道を進めたら痛快だなって。難しい道でも、その先に大きな世界が広がっているかもしれないし。でもそれは別に大それたことじゃなくてもいい。学校の運動会でクラス一同が団結して優勝を目指すとか、会社のチームでノルマを達成しようとか、そういうときに盛り上がってくれるような曲になればなって。でもなかなかインパクトのある単語が浮かばずに悩んでしまい、淳治さんに相談したら「ルー・リードは?」と言ってくれて。

──彼の代表曲「ワイルド・サイドを歩け」(原題:Walk On The Wild Side / 1972年)ですね。

松尾 そう。それを聞いて「これだ!」と。そこでSteppenwolfの「ワイルドでいこう!」(原題:Born To Be Wild / 1968年)じゃなくてルー・リードを挙げてくれる淳治さんがさすがだなって(笑)。それと、ちょうど歌詞を書き上げた直後にパリでテロが起きてしまって。その時点で歌詞に偶然「同時多発」という言葉を使っていたので、テロを想起させるような誤解を受けたらイヤなので少し書き直しました。爆発させるなら爆弾や悪意じゃなくて喜びを、同時多発させるなら、テロじゃなくてカルチャーを。世界のどこかで、同じ情熱を持っている人たちが絶対どんどん生まれているはずだから、私らはその人たちと一緒に世界を変えたいんだという気持ちで書き直しました。

──個人的には「悪い予感のする方へ行く」という歌詞も好きです。この“悪い予感”には圧倒的なカルチャーに触れたときにふと口にする「ヤバいじゃん!」っていうようなニュアンスも含まれているんじゃないかなって。

松尾 そうそう。それもひっくるめて“ワイルド・サイド”なんです。いい予感のするほうに行けば結果もよくなるってわかっているけど、なんだかわからない方向で得られるミラクルを信じたいなって。“ヤバい”という言葉も淳治さんの発案だったんです。もしかしたら寒い響きに受け取れるかもしれないけど、誰でも使う言葉だし、今の時代に歌う価値はあると思ったので。そういう発案も淳治さん、さすがだなあって思います。

──あとGLIM SPANKYはレミさんがギター&ボーカルで、亀本さんがギターという編成で、ベースとドラムは楽曲ごとにサポートミュージシャンが担っている点も大きな個性です。だからこそアレンジでどうGLIM SPANKYらしさを出せるかがまた重要だと思うんですが、今回の5曲では亀本さんのギターサウンドが変わったなって。曲のどこにリフやフレーズを置くかという肝の座り方がしっかりしてきた気がするんですが。

亀本 うれしい! そうなんです。パッと聴きの感触ではめちゃくちゃ普通のことをやっているふうなんですけど、置きどころはかなり考えました。ベースとドラムがサポートである以上、やはりリズム隊のフレーズよりもギターのフレーズが曲の土台になって、むしろリズム隊には自由に弾いてもらうぐらいが正解だと、1stアルバムの「SUNRISE JOURNEY」で学べたことが大きかったですね。

──確かにギターが率先してグルーヴを生み出していますよね。しかもこれまでよりも大きく。

左から松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)。

亀本 ギターのリフが真ん中にバンッとある。普通、バンドはけっこう逆のパターンが多いと思うんですよ。リズムが中心にあってギターという感じだから。今作の楽器全体のまとまり感は、僕の中では満足度がハンパないですね。あと今回は、どこかでシンセを大々的に採り入れてみたかったので、「ワイルド・サイドを行け」でトライしてみました。

──「ワイルド・サイドを行け」には、サウンドプロデュースとベースに亀田さん、そしてドラムに河村“カースケ”智康さんが参加していますね。

亀本 はい。カースケさんとは初めてでしたが、うますぎてヤバかったなあ……。上物(ギターやベース、キーボードなど)がすごく乗せやすいんですよ。

松尾 仙人みたいな風貌なのに、うまい上に音の疾走感と若さがものすごかった。うまくてきれいなだけじゃない“生きたドラム”なんです。まさしくロックでした。

これからが勝負だ

──「NEXT ONE」は昨年10月の赤坂BLITZでのワンマンライブで披露された曲ですね。ブラインドサッカー日本代表の公式ソングということですが。

松尾 日本ブラインドサッカー協会の事務局長がGLIM SPANKYを朝の情報番組で知って、通勤のときに「褒めろよ」を聴いてくれていたそうなんです。面白い事務局長さんで「俺はタイアップが大嫌いだ。GLIM SPANKYは好きだから、仕事ではなくソウルでつながりたいんだ!」と。

──むちゃくちゃカッコいい方じゃないですか!

松尾 本当に熱くて、ブラインドサッカーという目の見えない方のためのスポーツを普及させたいと戦っている方なんです。「ぶっちゃけGLIM SPANKYならワールドカップのテーマソングだって似合うよ? でも今のGLIM SPANKYはブラインドサッカーが絶対に一番似合う!」と熱く語ってくださって。「これからが勝負だ」という同じシチュエーションに立って、一緒に新しい世界を目指そうと。まったくその通りだと感動しました。また新しい仲間が見つかった気分でしたね。それもあって歌詞も気負わずに書けました。

──ドラムは福田洋子さん、ベースは前田竜希さんですね。

亀本 前田くんはもともとアマチュア時代によく対バンしていたバンドにいたんです。同世代の中ではズバ抜けて腕の立つプレイヤーだったんで一緒にやりたかった。福田さんはBOOM BOOM SATELLITESのライブで演奏を聴いてヤラれてしまいました。

松尾 シンプルなビートを叩いてもカッコよくて、しかも女の人というのは貴重ですよね。「ワイルド・サイドを行け」以外は全曲お願いしました。

GLIM SPANKY ミニアルバム「ワイルド・サイドを行け」 / 2016年1月27日発売 / Virgin Music
初回限定盤 [CD+DVD] / 2700円 / TYCT-69097
通常盤 [CD] / 1620円 / TYCT-60077
CD収録曲
  1. ワイルド・サイドを行け
  2. NEXT ONE
  3. BOYS & GIRLS
  4. 太陽を目指せ
  5. 夜明けのフォーク
初回限定盤DVD収録内容

2015/10/17 赤坂BLITZワンマン公演

  1. サンライズジャーニー
  2. 焦燥
  3. MIDNIGHT CIRCUS
  4. ダミーロックとブルース
  5. 褒めろよ
  6. WONDER ALONE
  7. リアル鬼ごっこ
  8. NEXT ONE
  9. 大人になったら
  10. さよなら僕の町
GLIM SPANKY(グリムスパンキー)
GLIM SPANKY

松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)による男女2人組のロックユニット。2007年に長野県内の高校で結成。2009年にはコンテスト「閃光ライオット」で14組のファイナリストの1組に選ばれる。2014年6月に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。その後、スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMに、松尾がカバーするジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」が使われ、松尾の歌声が大きな反響を呼ぶ。2015年7月には1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」をリリース。10月には東京・赤坂BLITZにてワンマンライブを実施する。また2015年はJOIN ALIVE、FUJI ROCK FESTIVAL、SWEET LOVE SHOWERなどといった大型フェスにも出演し、沢山のオーディエンスを沸かせた。2016年1月に2ndミニアルバム「ワイルド・サイドを行け」を発表する。