GLAY特集|TAKURO & JIROソロインタビューで紐解くニューアルバム「Back To The Pops」

今年デビュー30周年を迎え、「GLAY EXPO」をテーマに掲げてライブやリリースだけでなく、さまざまな企画を展開しているGLAY。彼らとともに歩んできたファンは、さぞかし楽しく忙しい日々を過ごしていることだろう。

そんな中、GLAYから3年ぶりのニューアルバム「Back To The Pops」が届けられた。このアルバムはタイトルが示す通り「J-POP / J-ROCKへの回帰」「GLAYとしてのポップス」をテーマに生まれた1作。テーマの発案者であるTAKURO(G)が、「ちゃんと正しく、30年目のGLAYデビューアルバム」と太鼓判を押す仕上がりだ。

音楽ナタリーではアルバムのリリースを記念して、TAKUROとJIROのソロインタビューを前編後編に分けて掲載。今年の夏にGLAYとして初のフェス出演を果たした「SUMMER SONIC 2024」での手応え、先日映像作品化された6月のベルーナドーム公演「GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025」、そして「Back To The Pops」の制作エピソードを、それぞれの視点で語ってもらった。

取材・文 / 中野明子撮影 / 映美

前編:TAKUROインタビュー
TAKURO

サマソニで“夏フェスの魔物”に対峙

──少し前の話になりますが、GLAYとして初の国内夏フェス出演となった「SUMMER SONIC 2024」はいかがでしたか?

HYDEくんと春ぐらいにメシを食ったときに、彼が「今年はフェスに出れるだけ出ようと思うんだよね」と言ってて。実際に自分が出てみて、俺には2週間に1回の頻度でフェスのテンションを保つのは無理だとわかった(笑)。

──エネルギーが必要?

必要! ワンマンは自分たちのペースを保てるけど、フェスは外国勢も入り乱れての内容でしょ? もう日本のバンドとしての誇りも保たなきゃとか、海外アーティストに負けねえぞとか、いろんな感情が混ざって大変だった。確かに楽しかったけど、持っていかれるものも大きかったね。それくらい前のめりになっちゃった。室内でも想像より暑いもんだから体力を奪われるスピードも早くて、なんとか乗り切ったけど、ライブが終わってからTERUの足が痙攣したり、“夏フェスの魔物”と初めて対峙しました。でも、たくさんのお客さんが来てくれて、楽しんでもらえてよかったです。次はもうちょっとうまくやれそうかな。

──つまり次がある?

チャンスをいただければね。サマソニが終わってからメンバーとスタッフでメシを食ったんだけど、みんな楽しそうでしたよ。それぞれ手応えがあったみたいで、ずっとスマホで「GLAY」ってエゴサしてた。GLAYのことを好きでいてくれているSUPER BEAVERの柳沢亮太(G)くんもXにサマソニの感想をポストしてくれてたと、TERUから聞いてうれしかったですね。「HOWEVER」の野太い大合唱も面白かったなあ。Oasisの「Don't Look Back in Anger」をみんなで歌う感じでしょ?これはいいぞ!と思いました。サマソニでの経験は今後のGLAYの活動に大きく生きるでしょうね。フェスに出るときは、権力とお金を十分に使い、ヒット曲も出し惜しみせず、おじさんの本気を見せていきます(笑)。

TAKURO
TAKURO

──それができるのは、30年間第一線を走り続けた賜物だと思います。

賜物という隠れ蓑ね(笑)。一番は、足を運んでくれたお客さんに喜んでもらいたいという気持ちが大きいんです。例えば自分が行くフェスにCHAGE and ASKAが出ていたら「YAH YAH YAH」をやってほしいもん。って、今回のサマソニのセットリストはHISASHIが決めたんだけどね。途中でUnderworldのカバー(「Born Slippy」)をやったでしょ? 俺、あの曲知らないのよ。でもHISASHIがセットリストに入れたいと言ったからやってみた。そしたら、めちゃくちゃお客さんにウケるし、改めてバンドっていいなと思った。

──自分からは出てこないメンバーのアイデアを自由に取り入れることで、化学反応が起きる。

そう。GLAY初の夏フェスにサマソニを選ぶJIROに、函館の「イカ踊り」に参加するTERUに……「ホント面白いなあ、こいつら」というのがずっと続いている。GLAYを使って自分の人生を楽しんでもらえるなら、ナンボでもしゃぶり尽くしてもらってかまわないですよ。

自分たちの手に“あの日”を取り戻した

──先日、今年6月に埼玉のベルーナドームで開催されたライブ「GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025」の模様を収録した映像作品がリリースされました。この公演では、デビュー以降に行われたライブ100公演を対象に最も得票数が多かったライブのセットリストを再現する企画で選ばれた、1999年の幕張での20万人ライブ「GLAY EXPO」が再現されました。改めて、25年前の幕張公演を再現した感想をお伺いできますか?(参照:GLAY伝説の20万人ライブを“リバイバル”!初日はTERUの誕生日を祝福、2日目はJAYが駆けつける

ファンの人たちが、1999年の「GLAY EXPO」を選んでくれたことに俺はものすごく感謝していて。25年も経つとステージに立っていた自分ですら、あの20万人ライブは輪郭がはっきりしない都市伝説みたいに感じていたから、それを再現することで自分たちの手に“あの日”を取り戻した感があった。

──25年経って実感を手にしたと。

これまで数字的なこととか、バックヤードの面白エピソードとかが語られてきて、あまり演奏について触れる機会がなかったんです。1999年当時、デビュー曲の「RAIN」をパンクバージョンで演奏したのは、ロックバンドに憧れた若者たちのある種の嘆きであり、バラードでデビューしたことに対する少しの後悔であり……でも、今となってはどんな曲でデビューしようがマジでどっちでもいいなと思ったり(笑)。

TAKURO
TAKURO

──その後の自分たち次第で、イメージも未来は変えられる。

そういう意味で、ベルーナドーム公演は壮大なる答え合わせになった。まあ、1999年当時はデビュー5年目の新人バンドで、インディーズの香りがするような楽曲が多くて、今の俺にしてみればどれも68点ぐらいの曲なんだけどね。でもその68点の曲のライブがどれだけ美しかったのかを、ベルーナドームでは強烈に思い出した。本来の形に戻して自分の心にしまえたから、満足感も達成感もあって……そのあとちょっと燃え尽き症候群みたいな感じになっちゃった。

──ライブ映像を観ることで発見したことはありました?

一番の発見はバンドの技術が上がったので、68点の曲たちも、やりようによっては99点にも105点にもできるということ。一方で、それを68点のままキープしておくべきところもあるとも感じました。例えば、当時の曲をレゲエバージョンにして面白いのか?ジャズアレンジにしてどうしたいのか?という。やっぱりオリジナルのままがいいでしょうとなる。ただ、今の俺たちは誰かがいいフレーズ弾いてる後ろでごちゃごちゃ鳴っていた音を整理できる技量があるわけで。ファンの人たちの様子を見ながら、アホになるところは徹底的にアホになって、締めるところは締めて、ライブに緩急をつけられるようにもなった。それは20代の頃はできなかったよね。20代はアクセルを踏みっぱなしで、コーナーに突っ込んでいってしまったこともある。今は全員のスキル上がったおかげで楽曲のメッセージをよりクリアに伝えられるようになった。

曲順決めは大喜利

──25年前の20万人ライブの答え合わせ、デビュー31年目にして初の夏フェス出演という大きなトピックを経て、3年ぶりのニューアルバムが完成しました。すでに告知されている通り、曲順をくじ引きで決めたという前代未聞の作品です。まずはこの手法について聞かないわけにはいかないかなと。

あはははは。全アーティストにオススメしたいですよ、くじ引きでの曲順決め。お前のエゴを超えてくるぞ!と。

──ある程度まとまった曲数で構成されるアルバムは、聴き心地やコンセプトなどを踏まえて流れを作るのが定石ですよね。レコードの時代であればA面の最後、B面でそれぞれの流れを考えたり、配信の時代の今もストーリーを作ったり、アーティスト自身が表現したいメッセージを伝えたり。それを完全にぶった切るようなくじ引きという方法を選んだ理由は?

アルバムに限らず、曲順決めって大喜利だと思うんですよ。この作品に合う問題もしくは答えを考えろみたいな。例えば、富士山を見て俺たちは「日本を代表する山だ」「日本の心を映している」とか言うけど、富士山自体は何も語らないでしょ? アート作品も鑑賞した人がそれぞれ感じればいいものを、作者が何かを語り出すと、その意図を汲む必要が出てきてしまう。もちろん、それを考える面白さもあるけど、作者が定義した瞬間に作品の意味が限定されてしまうわけで。過去にGLAYは「BEAT out!」というアルバムをリリースして、「他の追随を許さない」という意志を作品に持たせて曲順を考えたけど、そんなもの後付けなんですよ。もちろん当時の俺らは一生懸命話し合って曲順を考えて意味を付けたけど、ふと“まったく自分たちの意思が反映されない曲順”というものに興味が湧いたんです。神の見えざる手で決められた曲順。「なぜこの曲が1曲目なのか」という答えを俺たち自身ですら持ってないし、こんな面白いエンタテインメントがあるのかと思ったね。

TAKURO

──曲順決めを「エンタメ」と表現するアーティストには初めてお会いしました。

どの曲がどこに配置されても屁理屈なんです。で、俺はその屁理屈を考えるのに飽きちゃった(笑)。

──それに対してほかのメンバーはどんな反応を?

やる理由はバカバカしいけど、やらない理由はないよねという意見だった。自分たちがいかにいろんなものに縛られてるのか、「GLAYはこうあらねばならない」という制約がいかに多かったかが見えてきたみたい。結論としては、何がどの順番で配置されても今のGLAYにはなんの影響もないだろうと。

──ただ、アルバムを通して聴いてみるとまとまりがあるというか、奇跡的な流れなんですよね。

まあ、聴いた人が後付けで奇跡にしていくんだと思います(笑)。