GLAY特集|TAKURO & JIROソロインタビューで紐解くニューアルバム「Back To The Pops」 (2/4)

ここまで間違えずにこれた

──くじ引きの背景が判明したところで、「Back To The Pops」というアルバムのタイトルおよびテーマについてもお伺いしますが、なぜデビュー30周年のタイミングでポップスへの回帰を?

「Only One,Only You」(2021年9月リリースのシングル)を作ったことで、今の世界情勢に対して自分の思いを表現できた。その次にJIRO作曲の「THE GHOST」(2023年2月リリースのシングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/ 限界突破 -」収録曲)という、GLAYとしては革新的でダンサブルな楽曲をリリースできたので、JIROの次の一手次第ではあるけど、アルバムもその路線でいこうかと考えていたんです。と思ったら、JIROが持ってきたのが彼のルーツであり、得意とするエイトビートのロックンロール(「シャルロ」)だったので、じゃあ自分が影響を受けてきた歌謡曲をGLAYで消化するようなアルバムを作ろうと思った。

──JIROさんがご自身のルーツに近い楽曲を持ってきたことで、TAKUROさんの中でアルバムの方向性が定まったと。具体的にTAKUROさんの中での歌謡曲というのは?

Duran Duran、荒井由実、REBECCA、BOØWY、尾崎紀世彦さん……どなたの曲も俺の中では素敵な歌謡曲ですね。ロックもポップスも関係ない。今回のアルバムは、桑田(佳祐)さんがご自身のイベントで昔の歌謡曲やジャズのスタンダードをカバーするときのようなイメージに近いかな。GLAYのオリジナリティの追求とは違った、自分の中から素直に湧き出る“音楽の泉”にアプローチをすることがテーマだった。

──そのテーマに着地したのはいつ頃だったんですか?

2021、2年頃かな。もちろんメンバーの意思が一番大事なので、3人の動きを見ながら「Back To The Pops」に着地した感じですね。2023年の頭くらいからアルバム用のデモテープをHISASHIとJIROにロサンゼルスからジャンジャン送り。返ってくるデータを整理したら、TERUに函館のスタジオで歌入れをしてもらって……当初は20曲くらいあったんだけど、最終的に14曲に絞り込みました。

TAKURO
TAKURO

安全地帯+ZI:KILL=「Romance Rose」

──1990年代から2024年まで、さまざまな年代のGLAYのサウンドが詰め込まれているアルバムですよね。1曲目を飾る「Romance Rose」は90年代のJ-ROCK、ヴィジュアル系サウンドを意識した曲で、一瞬「いつの時代のGLAYを聴いているんだ?」と思いましたが、TAKUROさん的にはどんな楽曲をリファレンスに?

「安全地帯II」(1984年5月リリースの安全地帯の2ndアルバム。「ワインレッドの心」などが収録されている)ですね。で、HISASHIにはZI:KILLの「CLOSE DANCE」(1990年3月リリースのアルバム)の感じで、と伝えてアレンジしてもらいました。

──安全地帯とZI:KILLの融合が「Romance Rose」。

そう。AメロとBメロ、歌詞はだいぶ昔からあって、サビを去年作りました。俺の中では荒々しいし、若さいっぱいだし、今なら絶対に作りたくないタイプの曲だけど、2024年のGLAYには必要な曲だと思ったんですよね。足元を見直すという言い方でも、原点回帰という言葉でもいいんだけど。商業音楽の世界に長年どっぷり浸かりながらも、売れることを1mmも意識していなかった頃の曲が残ってるのはすごく幸せなことだなと思って。ウケるウケないを意識しない、大人たちが喜ぶ喜ばないを考えない曲作りはすごく純粋で楽しい。

──同時に、世に出てないものをもう1回見直す過程がアルバム制作中にあった?

そうですね。「Back To The Pops」という作品における鍵はアレンジなんです。歌詞とメロディに関しては今までと同じ書き方をしてる。でも、アレンジは80年代、90年代の自分たちのフェイバリットを意識するようにしました。90年代のデビューしたての頃は、自分たちのオリジナリティを確立しなきゃいけないと考えて、あまり人のフレーズからインスパイアされるのをよしとしてなかったけど、大人になってブルースやジャズを聴き、自分でも演奏するようになると、オマージュや引用が一般的なことだとわかった。継承とも呼べる行為なわけです。そういうことがあって、自分が聴いて、作ってきたJ-ROCKやJ-POPに対してもっと胸を張っていいんだという気持ちも生まれたし、それを後世に伝えていかなきゃいけないという責任感や使命も感じるようになったんです。その思いやJ-ROCK、J-POPへの憧憬を、俺とHISASHIで今回のアルバムにものすごい詰め込みました。

TAKURO

──サウンドだけでなく、歌詞やタイトルにもオマージュがふんだんに込められていますよね。私が一番衝撃を受けたのが、清塚信也さんがピアノ演奏、凛として時雨のピエール中野さんがドラムで参加している「なんて野蛮にECSTASY」です。優雅でクラシックな雰囲気の曲かと思いきや、Aメロに突入したら耽美なサウンドがさく裂して、歌詞の内容は夫婦ゲンカという。今のGLAYがこんな曲を世に放つなんて最高だなと笑っちゃいました。

そこらへんは90年代のB'zの影響ですね。例えば、ハードなギターサウンドに「ギリギリchop」ってどういうことやねん!みたいな。たぶん洋楽にはこういう曲はないのよ。この面白さは、日本語を母国語とする人でないとわからないだろうなと。「なんて野蛮にECSTASY」ってタイトルからしてイカれてるでしょ?

──はい(笑)。

いつか抱いていた、全編プロデューサーを外国人にして、英語で歌って英語圏を席巻するとか、外国で人気者になりたいとか、そういう野心はなくなったんです。望まれるならどこでも行くけど、自分たちが望まれないところに行く必要はないんだなと。GLAYが登るべき山はそこじゃないと明確に理解して、50過ぎてから活動方針を変えたのが大きいでしょうね。

──過去にGLAYはアメリカツアーを開催したりもしていましたよね。現在のような心境に至ったきっかけが何かあったんですか?

メンバーの動向かな。日本で育った4人が日本の音楽シーンの頂点を目指すのは共通目標としてありだと思うけど、例えば全米制覇という目的を掲げたときに4人が同じテンションで考えるかと言ったら違うというのは長年の付き合いでわかるんです。GLAYを世界に持っていくことに人生を捧げるには、それぞれの生き方や考え方が違いすぎる。全米制覇を目標に掲げて飛び回るアーティストは素晴らしい。だけど、俺たちは“旧車”で街を走るような感覚も大切にしたい。GLAYのメンバーとして、そこは間違えたくないと思ってるんです。

──ここまで間違えずにこられた実感はありますか?

自分としてはあります。ほかのメンバーに関しては「今のGLAYが楽しい」と言ってくれるなら、それが答えかな。

TAKURO
TAKURO

TERUの歌で押される「GLAY印」

──かつてのJ-POPやJ-ROCKを意識されたという点でいくと、「Back Home With Mrs.Snowman」はユニコーンの楽曲の雰囲気を感じました。まったりとしたサウンドで、歌詞に日常感がある。

確かに「すばらしい日々」とか「雪が降る町」感はあるね。ユニコーンが「雪が降る町」をリリースするまで、クリスマスならまだしも、日本のロックバンドが年末年始の曲を作るとかほとんどなかったと思うんです。でもユニコーンはそれをやってのけた。「雪が降る町」と音のタイプは違うけど、「大迷惑」は単身赴任の歌だし、ユニコーンが広げた間口は大きいよね。俺たちが音楽を作り始めた頃、影響を受けたのは氷室京介さんやTHE BLUE HEARTS、REBECCAなどいわゆる職業作詞家でない人たちの歌詞で。GLAYも最初はヴィジュアル系バンドとして「千ノナイフガ胸ヲ刺ス」とか歌ってたけど、だんだん自分の生活に近い言葉で歌い出すようになったんです。その1つのきっかけとして「雪が降る町」の影響はあったと思う。

──「Back Home With Mrs.Snowman」はチャラン・ポ・ランタンの小春さんがアレンジで、GRe4N BOYZのHIDEさんがコーラス、南海キャンディーズの山里亮太さんがセリフで参加するなど、楽しい雰囲気の楽曲に仕上がってます。くじ引きで曲順を決めたアルバムの最後を、このハートウォーミングな曲が締めるというのはいいですね。

いや、この曲の位置だけはちょっとだけカラクリがあって。HISASHIの提案で「曲を入れ替えられる権利」が当たるくじ引きを1回だけやったんです。プロデューサーの亀田誠治さんが当たりを引いて、メンバーの圧を受けて「Back Home With Mrs.Snowman」を最後に据えたという。

──どの曲と入れ替えたんですか?

「シャルロ」。

──へえ! アルバムのイメージがだいぶ変わったでしょうね。

ただ、最後の曲は入れ替えたものの、今回のアルバムの曲順に意味なんてなくて。一生懸命考えて並べましたとか言えばいい話になるんだけど、俺らの意図なんて考えずに自分の感性に任せて音楽を聴くのもいいものだよ、と伝えたかったんです。

TAKURO

──いろんな時代の音楽性を詰め込んだアルバムですが、聴いていて「GLAYのアルバム」という認識が揺るがないのも面白かったです。

それはTERUの歌によるものでしょう。TERUの歌は社長のハンコみたいなものなんです。「GLAY印」を付けて、外に出荷する役割。それはサマソニのときも思ったことで、TERUが歌うことでGLAYの曲が完成する。TERUこそが“ミスターGLAY”なんでしょうね。

──さて、アルバムリリース後にはアリーナツアーが始まりますが、30周年記念も兼ねているのでどんな内容になるのか気になっている方も多いと思います。

アルバムの曲と過去の曲は親和性が高いと思う。「whodunit-GLAY × JAY(ENHYPEN)-」はJAYありきで作った曲だからちょっと置きどころが難しいかもしれないけど、ほかの曲は「Back To The Pops」のコンセプトで作ったものだし、うまく馴染むんじゃないかな。

──ツアー終了後の2月にLUNA SEAとの25年ぶりの対バンも行われますが、デビュー30周年プロジェクト「GLAY EXPO」はその先も続くとお伺いしました。

そうですね。後半戦がサマソニでスタートしたところなので、来年6月のゴールを目指して走り続けます。1年間で30年分の面白いことをやりますよ。

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2024年10月9日更新