敬遠していたジャズマスターを弾いてみた
──「FREEDOM ONLY」が「GLAYの自然な姿」の作品である一方で、いわゆるHISASHIさんのシグネチャーとも言える、ギミックに富んだ飛び道具的なギターサウンドは以前の作品ほど鳴ってないのが印象的だったんです。音もアレンジも各楽曲の歌やメロディを生かす感じというか。「FREEDOM ONLY」のレコーディングにあたって、どういうアプローチのプレイを意識したんでしょうか。
まずGLAYというのは、TERUのボーカルと、TAKUROのアコースティックギター1本で聴かせられるところから始まっているんですよ。そこに、それぞれの時代の音が反映されるスタイルなんです。それは今も昔も変わらず、今回もTERUとTAKUROの2人でも成立するような楽曲を目指そうという意図で選曲していったんですよね。僕は今までのように聴いた人の耳を惹きつけるようなギターが目指せればと思ってはいたんですが、考えを変えてTAKUROが作った当初の目標を大事にしようと思って弾きました。あと、コロナ禍の中で自分個人のYouTubeチャンネル「HISASHI TV」を本格的に更新し始めたことで、パーソナルな部分はそこで発信していけばいいかなと思うようになったんですよ。
──自己表現欲求みたいなものが、GLAYでギターを弾く以外のことに分散された?
というのもあったし……今、話していて思い出したけど、新たな楽器との出会いというのも大きかったな。
──その新たな楽器について詳しく教えていただけますか?
フェンダーのジャズマスターです。今までジャズマスターって使ってる人が多すぎて、俺にとって敷居が高すぎたんですよ。もともとはジャズギタリスト向けにいろいろな表情を持っているギターである一方、ミクスチャーロックやガレージロック系のギタリストにも受け入れられた楽器だったから逆に敬遠していたんです。「俺はTalboを使ってアイデンティティを保とう。Zemaitis最高!」みたいな(笑)。
──メジャーが故に敬遠してしまう気持ち、わかります……。
ただ、レコーディングでシングルピックアップのギターが必要になって、ときどきストラトは使ってたんでFenderに馴染みがなかったわけではなくて。そんな中で試してみようと思って買った60年代のジャズマスターが、かなりの当たりだったんです。
──その“当たり”というのは?
そうだな……バランスがいいことかな。音がきれいというのはもちろんだけど、ピッチが狂わないとか、6弦全部の音がバランスよく聞こえるとか、弾きやすいとか。あと、バンドのアンサンブルによってヌケの悪い音ってあるんですよ。でもジャズマスターだとフェーダーを最小限に抑えても聞こえてくる。そういう楽器と出会えたのが大きくて、自分の実験的なアプローチというより、それぞれの曲をいかにストレートにみんなに届けるかを考えながら弾くほうが面白くなってきた。
──そういう気持ちになった背景には、ご自身で好きなものについて自由に話したり、ギタープレイを披露できる「HISASHI TV」の存在もあった。
ようやく自分の発信したいものが頭角を現してきたというか。コロナ禍でそれが拍車をかけたところは確かにあるでしょうね。あと、「FREEDOM ONLY」の前まで、ほかのメンバーも亀田さんも、僕の自由にやらせてくれたからね(笑)。アニバーサリーライブで「悪いGLAY」と「良いGLAY」をやったり(参照:「FATSOUNDS」3連発に「安EVER」!MISIAも駆け付けた“悪いGLAY”メットライフ公演 / 名曲&ヒット曲だらけの2時間半!GLAY、3万人を興奮させた“良いGLAY”ライブ)、よくもあそこまで自由にさせてくれたと思いますよ。あれこそが俺にとっての“FREEDOM ONLY”だったんです。
──(笑)。つまり、ご自身としてやりたかったことがある程度満たされたうえでのニューアルバムの制作だったので、今回は作品性を踏まえて、ジャズマスターという定番のギターでレコーディングに臨む姿勢につながったと。
その通りですね! あとGLAYの場合、作品ごとに「今回は俺の番ね」みたい空気があるんですよ(笑)。
──それはTAKUROさんも常々おっしゃってますね。そして、「FREEDOM ONLY」ではTAKUROさんがイニシアチブを取ったと。
そうそう。もちろん奇抜な曲があればギタリストとして乗っかるんだけど、今回はTAKUROの綴った言葉や作った音をわかりやすく届けたいという思いが強かったですね。僕がGLAYというバンドに無理なく、自然にアプローチした結果が「FREEDOM ONLY」だと思います。とはいえ、わりとワガママにレコーディングしてるんですよ(笑)。JIROはいつでも曲に寄り添うことを考えてくれるんですけど。
常に未来の話はしてます
──ジャズマスターを手に入れ、従来とは異なるアプローチを今回のアルバムではされているわけですが、そのうえでHISASHIさんが考える“GLAYっぽいギター”、“HISASHIらしいギター”とはどういう音でしょうか?
うーん、それがうまく言葉にできないんだよなあ。ただ自分が弾くとGLAYっぽくなっちゃうとは感じているので、好きなアーティストのレコーディングには参加したくないんです。後悔とまでは言わないけど、僕が参加したり、提供したことでGLAYっぽくなっちゃった曲があって。むしろGLAYっぽくならないほうがいい場面でもそうなってしまう。たぶん、ノート(音)をどのフレーズに当てるかとか、ミュートで1拍休むとか、そういう些細なことだと思うんですよね。
──手クセみたいなものですか?
そう。例えば、同じ曲でもL'Arc-en-Cielのメンバーが弾けばラルクの音になって、GLAYみたいなちょっと田舎っぽい明るさはなくなると思うし(笑)。人の曲をコピーすると、自分らしくない感じが居心地悪かったりするんですよ。そこで相手の特徴とか、自分のギターのクセを知るというか。答えというか、“GLAYっぽさ”は分析できると思うんですよ。それを「HISASHI TV」で解説していきたいですね。そんなことを言いながら、4人で音を鳴らせば自然とGLAYになっちゃうんですけど(笑)。
──ところでTAKUROさんとTERUさんが今年50歳を迎えられて、インタビューなどでときどき言及されていますが、HISASHIさんも来年大台を迎えられます。
まさか50歳までGLAYをやるとは思ってなかったですね(笑)。年齢は気になりますけど、今度対バンするB'zのお二人とか先輩がまだまだ現役で元気で、感情を動かしてくれるライブをしてますし、後輩にもいいバンドがいっぱいいるし、僕らもまだまだですね(取材は9月上旬に実施)。
──解散しないバンドを標榜しているGLAYですから、当然今後についてもお話されているんですよね。
もちろん。デビュー25周年が終わって、30周年を見えてきたところでのコロナ禍ではありますが、常にメンバー同士で未来の話はしてます。
ライブ情報
- GLAY ARENA TOUR 2021 "FREEDOM ONLY"
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- 2021年11月5日(金)大阪府 大阪城ホール
- 2021年11月6日(土)大阪府 大阪城ホール
- 2021年11月20日(土)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
- 2021年11月21日(日)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
- 2021年11月27日(土)福岡県 マリンメッセ福岡A館
- 2021年11月28日(日)福岡県 マリンメッセ福岡A館
- 2021年12月4日(土)神奈川県 横浜アリーナ
- 2021年12月5日(日)神奈川県 横浜アリーナ
- 2021年12月25日(土)愛知県 日本ガイシホール
- 2021年12月26日(日)愛知県 日本ガイシホール
- GLAY(グレイ)
- 北海道函館市出身の4人組ロックバンド。TAKURO(G)とTERU(Vo)を中心に1988年に活動を開始し、1989年にHISASHI(G)、1992年にJIRO(B)が加入して現在の体制となった。1994年にシングル「RAIN」でメジャーデビュー。1996年にはシングル「グロリアス」「BELOVED」が立て続けにヒットし、1997年に12枚目のシングル「HOWEVER」がミリオンセールスを記録したことでトップバンドの仲間入りを果たす。1999年7月には千葉・幕張メッセ駐車場特設会場にて20万人を動員するライブを開催し、当時有料の単独ライブとしては日本最多観客動員を記録する。2010年4月には自主レーベル「loversoul music & associates」(現:LSG)を設立。メジャーデビュー20周年となる2014年には宮城・ひとめぼれスタジアム宮城にて単独ライブ「GLAY EXPO 2014 TOHOKU」を行った。デビュー25周年を迎えた2019年より「GLAY DEMOCRACY」をテーマに精力的な活動を展開。10月にアルバム「NO DEMOCRACY」を、2020年3月にベストアルバム「REVIEW II -BEST OF GLAY-」をリリースした。2021年3月から6月にかけて配信ライブ企画「THE ENTERTAINMENT STRIKES BACK」を開催。8月にニューシングル「BAD APPLE」を発表した。10月に2年ぶりのオリジナルアルバム「FREEDOM ONLY」をリリースし、11月よりアリーナツアー「GLAY ARENA TOUR 2021 "FREEDOM ONLY"」を行う。