GLAY|“トリックスター”HISASHIは「FREEDOM ONLY」をどう奏でたのか 名器を手に追求したストレートな“GLAYっぽさ”

「FREEDOM ONLY」はあくまで“GLAY作”のアルバム

HISASHI(G)

──いよいよ2年ぶりのニューアルバム「FREEDOM ONLY」がリリースされるわけですが、HISASHIさんがこのアルバムをひと言で表現するとしたらどんなものになりますか?

GLAYの25年史のようなアルバムですね。例えば「FRIED GREEN TOMATOES」は「pure soul」(1998年リリースのアルバム)を制作していた頃に作って、ずっと温め続けていた曲なんですよね。「Holy Knight」も2010年代のツアー中に、楽屋の隣に作ったレコーディングルームで作った曲ですし。昔から大事に温めていた曲が多いので、クレジット上の作詞作曲のメインはTAKUROですが、自分たちとしてはそんな感じはしなくて、“GLAY作”のアルバムという感覚なんです。

──具体的にはどれくらいの曲が過去に作ったものなんですか?

「BAD APPLE」以外はほぼそうなんじゃないかな。本当に20年、15年前にプリプロした曲が中心なんですよ。

──なぜこのタイミングで昔の曲を改めてレコーディングして、アルバムに収録することにしたんでしょう?

プロデューサーの亀田誠治さんの持っているメジャー感というのが要因の1つですね。飛びぬけてキャッチーなイントロを作れるところとか、当時の自分たちではあと一歩手が届かなかった表現を、亀田さんなら開花させてくれるというか。

──昔はできなかった表現も、亀田さんとならできると。

そうそう。例えば「FRIED GREEN TOMATOES」は、以前は「Pride and Soul」というタイトルだったんです。僕、リハーサルを含むGLAYのすべての音源をクラウドに残しているんですけど、「Pride and Soul」で検索するとイントロや曲調が違うバージョンが3つくらい出てきたんです。アコースティックなイントロだったり、ピアノ始まりだったり。今回のアルバムに収録されているのはアップテンポなアレンジになっているんですが、これも亀田さんの後押しや勢いが楽曲の完成に結び付いたと思ってます。

──その亀田さんから何かアルバムの方向性やテーマの提示はあったんですか?

「Hypersonic」に代表されるような、GLAYらしい音楽を楽しく作っているような姿が見えるようなもの、かな。

──制作手法は以前の作品と変わった部分はありますか? 以前、GLAYでは作曲者が中心となってレコーディングをディレクションしていくと聞いたのですが、先ほどおっしゃっていた“GLAY作”のアルバムとなると違ったんでしょうか。

今回はコロナ禍での制作でリモートレコーディングがメインだったので、今までのアルバム制作とは違いましたね。亀田さんに渡す前に、僕が2、3曲くらい自宅でアレンジを作ってから亀田さんに納品するというやり方でした。例えばTAKUROと僕の中での共通言語は亀田さんにはわからないところもあると思うんです。TAKUROから「昔のX JAPANのツインギターのソロ」とか、「90年代の混沌したライブハウスの感じ」とか、そういうイメージで渡された曲もあったので、僕がそれをわかりやすい形でアレンジして「こんなのどう?」と提示する感じ。それでアレンジをある程度練ってからレコーディングに入りましたね。

──メンバー間である程度構築したものを亀田さんとブラッシュアップしていった?

はい。ただ「Holy Knight」に関してはYOW-ROWさんにアレンジを頼みました。

──その背景はなんだったんでしょうか? この曲はゴシックテイストのシリアスな曲調で、ほかの収録曲とは少し趣が違いますが。

俺とTAKUROのゴスの限界はここだということになっちゃって(笑)。亀田さんのゴス感というのもわからなかったし、誰に任せよう?となったときにYOW-ROWくんが浮かんで。YOW-ROWくんのフィルターを通しながら、亀田さんのポップさを取り入れた感じです。「Holy Knight」に限らず、Tomi Yoさんに参加してもらった「BAD APPLE」もなんですが、今回はGLAYが踏み込む勇気がなかったフィールドでも、音楽っていうのは自由に踏み込ませてくれるんだなと感じる場面がありましたね。

独立したことが、歌う意味、作る音楽の自由さに結び付いた

──春頃、アルバムの詳細が発表される前にJIROさんやTERUさんにお話を聞いたとき、お二人とも「FREEDOM ONLY」は「BELOVED」だったり90年代の質感のある作品だとおっしゃっていたんですね(参照:「GLAY流エンターテインメントの逆襲」とは? TERU&JIROが2020年を振り返りながら語る)。もちろん、そういった懐かしい空気の曲がある一方で、洗練された音が印象的な「Holy Knight」「BAD APPLE」といった“最新のGLAY”も感じられる作品だと感じました。そういう意味では単に懐かしい、原点回帰のような作品ではないなと。

HISASHI(G)

確かに言葉にしたらそういうことかも。ただ、今と昔で何が一番違うかというと、あの頃は忙しすぎて音楽を楽しめてなかったんですよ。レコーディングの途中でもテレビの仕事があるから抜けなきゃいけないとか、音楽制作の現場で一番あってはならないことがあったんです。だから楽しむ余裕なんてなかった。それが変わったのは2000年以降。不自由なく、無理なく楽しくバンドができるようになって。そういった過去を経て生まれた「FREEDOM ONLY」は、「これがGLAYの自然な姿です」と言えるような作品じゃないかな。

──HISASHIさんの中で音楽を楽しめるようになった決定的な出来事というのはありましたか?

自分たちで事務所を設立して、いろんなしがらみから解き放たれた瞬間ですね。今も昔も大きな事務所から独立するうえでの問題はあると思うんです。揉めることもあるし、きれいに円満にというのは難しい場合もある。自分たちに降りかかるマイナス面に対して腹を括れるかというところで、GLAYは括ったんです。そのことが、歌う意味にもなったし、作る音楽の自由さにも直接結び付いた。

──気付けば独立されてもう16年なんですね。

僕らの場合、独立するのがバンドとしては合っていたんでしょうね。もちろんネガティブな要素ばかりでなく新たな出会いにも恵まれたし、コンサートやレコーディングは普通にできたし。言葉は悪いけど独立したことで“捨てた”ものへの清算はだいぶ前に終えたと思っています。