俺が人生を懸けてやりたいのはライブなんだ

──新型コロナの感染拡大はなかなか収束しませんが、TAKUROさんは自粛期間中どんな心境でいらっしゃいましたか?

どなたもおっしゃいますけども、“日常”がある日突然奪われたような感じではありましたね。プライベートでは家族の長として、会社では社長として、近くにいる人たちの安全をずっと気にしてました。あとはニュースを観ながら安全かつ日々の生活に潤いを与えられるようなエンタテインメントの新しい一手はなんだろうなあと考えて。改めて自分の生き方やGLAYのこれからを考えるいい機会になりました。

──考え方や活動方針を見直す機会になったと。

2001年のアメリカ同時多発テロ事件、2011年の東日本大震災のときもそうでしたが、今まで自分たちがやってきたことに対して疑問を抱きますよね。音楽って無力だなあとか、作ってきたものが色褪せて見えて、今は説得力がないんじゃないかとか。日常的に作っていた音楽が非常事態のときには自分の中で胸を張って鳴らせない。それは多くのミュージシャンが同じように感じていると思うんです。

──そうやって思いを巡らせる中で気付いたことはありますか?

結局俺が人生を懸けてやりたいのはライブなんだなと再確認しました。誰も観に来なくても、メンバーとスタジオに入って日々作り上げたものをライブで届けたい。10代のときにGLAYを組んで最初に感じたことって、楽器の音が重なっていくうれしさや、その前後にある他愛ないメンバー同士の会話でもって人生で大切なものを学んでいる感覚だったんです。ただ、ライブができない一方でTERU、HISASHI、JIROに「こんな曲ができたんだけど、なんか歌入れてくれない? いいギターの音をつけてくれない?」とか連絡して、リハビリ的に曲を作ったりしていて。早くこの曲たちを10人の前であれ、5万人の前であれ直接やりたいという気持ちになりました。

GLAYを潰せないし、事務所も潰せないし、がんばるしかない

──今回のシングルリリースは自粛期間前に決まっていたんですか?

そうですね。こういった状況になるとは想像してなかったですけど。本来ならば東京ドームやナゴヤドームの公演があって、12月の札幌ドームに向けて新作で25周年を盛大に仕上げられればという思いだったんです。ただ、今それぞれ大変な状況の中にいる人に向けて新作を届けるのは意味があると思ってて。自分たちとしても、例えば10年後の2030年に振り返ったときに、今のことを思い出せるようなものとして象徴的にタイトルに「2020」を付けました。「『G4・2020』がリリースされたときは大変だったね。あのあと、ワクチンが見つかったり、特効薬が見つかったりでいろんな人の命が助かってよかったね」と言えるといいなという希望を込めて。

──「G4」シリーズと言えばどれもコンセプトがはっきりしていますが、本作は何か決めて作られたんでしょうか?

デビューから25年経ったGLAYが今ミュージシャンとして充実してるんだ、と高らかに伝えたいということですね。初めてHISASHIの「ROCK ACADEMIA」を聴いたときに、彼なりの25年の活動やGLAYというバンドにおける総決算みたいな歌詞だなと感じたんです。今のシーンをリスペクトしながら、自分たちがやってきたこれまでのことを表現している。歌詞は彼の10代の頃からのエピソードで始まるけど、同じ時代を生きてきたので共感できるし、すごく心が揺さぶられましたね。俺がHISASHIをGLAYに誘った身ですけど、「そういうふうに思ってくれているんだ」とリーダーとしての密かな喜びはありました。彼なりにGLAYに人生を懸けてくれて、いろんな思いを抱いて一緒に歩いてきたんだなあと。

──リスナーとして聴いていても、グッとくるポイントが多い曲でした。

あの歌詞で描かれているのは自分たちのことだけじゃなくて、今の音楽シーンやエンタテインメントの世界を俯瞰で見ていて、まるでHISASHIの頭の中に入ったような感覚を覚えるような歌詞なんです。

──今回のシングルの中では一番ポップな曲でもありますね。レコーディングはドラマーを入れずに4人だけで完成させたとか。

ええ。リズムトラックも含めてプログラミングは全部HISASHIなんです。曲の意味も踏まえて、今回はあえて4人で完結させる形になりました。いつかライブを再開できる日が来たら、お客さんと一緒に歌ってる絵も浮かぶような曲だし、少なくとも俺にとっての救済的な存在になってます。これからのGLAYにとってアンセム的な曲になると思います。今は4人でしか奏でてないけど、大勢の人の前でやったときにこの曲が持つ意味合いは深くなるんじゃないかな? その日まではコロナにはかかれないし、GLAYを潰せないし、事務所も潰せないし、がんばるしかないなと思っています。

TAKURO(G)

カッコいいってズルイ

──その言葉を聞いてこちらも勇気付けられました。シングルの2曲目にはJIROさん作曲で、TAKUROさんが作詞に参加した「DOPE」が収録されています。これはシンプルで骨太なロックチューンですね。

最初に聴いたとき、掛け値なしにカッコいい、ズルイなあと思いました。淀みがなくて迷いがなくてブレがないサウンド。これこそがロックンロールなんだなと感じました。「僕はこれがやりたいんです。これが僕なんです」というJIROの強みが出た曲ですね。レコーディングのときに俺が「イントロのHISASHIのギターの音をもっと上げて際立たせたほうがいいんじゃないか」と言ったら、彼は「TAKURO、HISASHI、JIRO、永井さんのドラムの音が同じくらいでいい。この曲はバンドとしての塊を表現したいから。そこにキャッチーな上モノのギターとかはいらないんだ」と言っていて。現場で陣頭指揮を執る自分としては、冷や水を浴びせられるような言葉でもありましたね(笑)。俺と考え方が真逆だけど、なんてカッコいいこと言うんだろうと思いました。俺だったらもっといろんなコード感とかいろんな音を足して、展開も増やすでしょうかからね。

──共作の歌詞はどんな形で書いたんですか?

まずJIROが書いた歌詞が長年親しまれているロックンロールの精神性を歌ってたので、それを踏まえて香港の情勢、コロナが引き起こした民族の分断みたいなもの……今2020年に起こっていることや、俺が感じたことを端的にまとめたつもりです。サビはJIROが書いてきたものから変えていないですね。

──TAKUROさんがロサンゼルスに住まわれている状況や、現地での「Black Lives Matter」運動なども歌詞に反映されたり?

はい。自分が知る限り、現地で人種の分断がこんなに表面化したのは初めてでしたし、たくさんの識者たちが何百年と考えているのに解決策が今も出てきていないことを思うと、人類は発展途上であるし、今ある法律も完璧ではないし、ましてや人間の精神性など未熟なんだと感じますね。その出来事や感じたことをある種のルポタージュとして、ジャーナリスティックに歌詞に記録しておきたいなと思ったんです。それが俺が学んだロックの役割なので。

──GLAYの曲は世相を反映した作品も多いですよね。例えば「-VENUS」「百花繚乱」「反省ノ色ナシ」などは社会風刺が込められた曲でしたし。

30代になって自分たちの役割を考えたときに、いわゆる音楽を聴くリスナー層が10代、20代だからその人たちの気持ちを汲むか、自分たちに素直になるかという選択を迫られたんです。考えた結果、自分がのちに人生を振り返ったときに、過去の思いを切り取って曲にしておいたら、自分が生きてきた足跡がわかるかなと。そこから、常に今の年齢から見たことを表現しようということになりましたね。職業作家的にラブソングを極める道もあったのかもしれないけど、それよりもほかのメンバーの面白い人生を曲にしたり、GLAYの生き方やGLAYから見た世界の歌を作るほうが楽しそうだと思って覚悟を決めたところはあります。

TAKURO(G)

みんなが恋しいです!

──時勢的なことを反映しているといえば、「Into the Wild ~密~」のタイトルもそうだと思いますが、これはどういう理由で付けられたんでしょうか?

ベストアルバムに収録されている「Into the Wild」とはアレンジも違うし、今のGLAYの状況も変わっているから区別をつけるためにサブタイトルを付けることにしたんですが、それを表す言葉となると悩んでしまって。それでHISASHIに「今感じる気持ち、そしてこの令和2年の状況を漢字1文字で表すなら何ですか?」と聞いたら、1分後くらいに「“密”です」と返ってきて(笑)。で、確かにそうだなと思ったんですね。「密」という言葉は今回のコロナ騒動でたくさんの解釈が生まれ、耳にしたときにいろんな思いを抱かせる言葉になった。いろんな解釈ができるという意味で、「Into the Wild」で伝えたいメッセージとも重なって。それと将来的に「Into the Wild ~密~」を聴いたとき、大変な時代を生き抜いたんだと確かめられるようなものにしたいなという思いもありました。

──なるほど。今回のシングルには「Into the Wild」のリミックスも3トラック収録されますが、どれも面白い仕上がりでした。

スタッフ発信で実現した企画だったんですが、最先端のDJの方に解体される事でこんなに新しいサウンドになるのかと発見があったし、何よりもどのリミックスも気に入ることができた。切り取られる部分もそれぞれ違ったし、「この曲にはこういった一面もあるんだよ!」と自分自身が心から喜べるのがうれしかったです。そもそも「Into the Wild」は今までのGLAYの曲とは違ったやり方で作った曲で。GLAYは長いことそれぞれがデモテープを作って、作曲者が指揮を取るスタイルでやってたんですが、この曲はモチーフはサビしかなくて、それをどうアレンジするか全員がアイデアを入れて作っていったんです。その新しい手法で作った曲がいろんな人に評価されて、世の中に寄り添えた気がするんです。それをリミックスしてもらうというのは意味があることだと思っています。

──シングルにはTERUさん作曲の「流星のHowl」も収録されていますが、こちらの歌詞はTAKUROさんが書かれていますね。TERUさんは「自分はポジティブすぎて敗者の視点での歌詞は書けないからTAKUROさんに依頼した」とお話しされていました。

「ダイヤのA」シリーズに対してGLAYができることはTERUが一手に引き受けていたんですけど、最近彼が作るサウンドに変化があったのと、今までのテーマソングのように疾走感があって青空が見えるような曲以外でアプローチしたいということになって。GLAYの将来を見据えていろいろ考えてくれているようだったので、依頼されたからには自分としても新しい切り口で挑まなきゃという気持ちがありました。俺としてはラブソングに限らず、すべての歌は人の背中を押してくれる応援歌であると常々感じていて。どんなに自分の苦しい胸の内を書いたものであれ、メロディがあって声が乗った瞬間から誰かのための応援歌になると思うんです。「ダイヤのA」は高校野球が題材ですから、主人公がいれば脇役がいて、勝利者がいれば敗者もいるし、そして試合が終わってもそれぞれの人生は続いていくんですよね。試合に負けたとして悔しい思い、虚しさを感じたあとに一歩を踏み出せるのが人間なのかなと思ったので、敗者の視点ではありますが、最終的に誰かの役に立てるような曲にしようと意識しました。

──そしてシングルと同時に「HOTEL GLAY」の映像作品もリリースされますね。

これはHISASHIワークスの1つとして、GLAYの歴史に残るツアーだったと思います。映像作品は、夢オチかというぐらいなんの着地もしない映像の数々が盛り込まれているんだけど、HISASHIの「なんでもかんでも伏線回収を求めるな」とか「何にでも意味を求めるな」とか昨今の風潮に対するアンチテーゼが反映されていて。俺も、ときには意味の放棄って大事だと思うんですよ。あらゆる意味から解放されたときに人間は自由になれると思うので。今まで「HOTEL GLAY」というライブシリーズではおもてなしとか、ラグジュアリーなリラクゼーションとかわかりやすい謳い文句でお客さんを楽しませてきましたけど、今回は「HOTEL GLAY殺人事件」というまったくなんも説明もないコンセプトでやったにも関わらず、楽しかった思い出しかないです。コメンタリーの内容も本当に50手前の連中のトークとは思えないもので。20年前と同じようなテンションで会話してるし、客観的に考えたらこれを世に出す勇気はすごいと思う(笑)。

──コメンタリーを聴くのが非常に楽しみです。何よりライブ映像を観ると、ライブに行きたくなる気持ちが強くなりますね。

そうですね。1日でも早くコンサート活動を再開したいというのが正直なところで、ファンの皆さんには、「みんなが恋しいです!」と伝えたいです。これほどまでにファンが恋しいのはデビュー以来初めてですね。いつも先の約束があったから。