音楽ナタリー PowerPush - GLAY

「MUSIC LIFE」特集

TERU×箭内道彦対談

「軽やかに動く人」と「慎重に考える人」という両輪

箭内 その「ちゃんとした大人」の話もそうなんだけど、TERUさんの話を聞きながら、このあいだも「うれしすぎてヤバいな」と思ったことがあって。「GLAY EXPO」が終わったあと、ホテルで関係者を集めた打ち上げがあったじゃないですか。

TERU 箭内さんにも参加していただきましたよね。

箭内 ええ。その打ち上げの挨拶でTERUさん、僕の名前を呼んでくれましたよね。あれだけたくさんの方が集まっている会場でまさか自分の名前が出てくるとは思わなかったから、すごく照れくさかったし、ビビりもしたんだけど、同時に「ああ、エールってこういうことをいうんだな」とも思って。あの言葉を聞いて「GLAYが自分のことを見てくれているんだからがんばらないとな」、それこそ「『ちゃんとした大人』にならなきゃいけないな」って思えたんです。だからなんていえばいいんだろう? GLAYってすごく効率のいいディレクターなんです。

TERU ディレクターですか?

箭内道彦

箭内 TERUさんが「いいね」って言ってくれるから、みんながんばれる。それってGLAYみたいな大きな存在のもたらす効果であり、使命の1つだと思うんですけど、皆さんはそれを本当に素直にできる。だから効率のいいディレクターであり、「いい人」なんです。しかも大きな存在になったからといって大御所ぶったりは……。

TERU していない……というか、できない(笑)。

箭内 すごく軽やかですよね。

──実際TERUさんは箭内さん同様、3年前の東日本大震災の直後からフットワーク軽く現地で支援活動をしたり、メッセージを発信し続けたりしていますよね。お2人ともなんでそんなに軽やかでいられるんですか?

TERU 秘訣なんてないと思いますよ(笑)。「GLAYのTERUである以前にちゃんとした大人でありたい」「1人の成人男性として自分たちの子供世代にちゃんとした背中を見せたい」っていう思いが根本にあるだけで。被災して困っている人がいて、しかも支援物資を運ぶ人手が不足しているなら俺にも荷物の上げ下ろしくらいは手伝えないかな? そう思ったから、そうしてみた。それだけなんです。

箭内 やっぱり大御所ぶっていない。出発点がすごくシンプルなんですよね。しかも隣に慎重なTAKUROさんがいるっていうのがすごくいいんですよ。

TERU 本当にそう思います。物事って軽やかに動く人間がいないと前に進んではいかないんだけど、俺はとにかく考えずに飛び出しちゃうタイプなので(笑)、万が一のことも起きかねない。でも周りにTAKUROとHISASHIとJIROっていう、俺のことを信頼しながらも、間違った方向に進みそうになれば軌道修正してくれるメンバーがいるから、安心して飛び出せるんですよね。身体が感じたままに動ける人と、慎重に物事を考えられる人。その両方がいて初めて生まれる行動力ってあると思うし、目標や夢もその両方がいるから叶えられるというか。

箭内 すごくわかります。僕もそうですもん。これまでも、それから今もたいがいムチャなことをしているとは思うんですけど、それでもいろんな人たちが快く送り出してくれたり、気にしてくれたりしているから、なんとかやってこられている。

──以前のインタビューでもおっしゃってましたもんね(参照:NOTTV×ナタリー「風とロック LIVE福島 CARAVAN日本」)。なんで一流どころのアーティストや俳優が箭内さんのフリーペーパー「風とロック」に協力するかといったら……。

箭内 みんなが「なんか箭内がタダで雑誌とか作っちゃって心配だからちょっと様子を見にいこう」って言ってくれるから(笑)。だからね、「心配してもらう」って1つのテクニックなんですよ。

TERU 確かに(笑)。GLAYであれば20年間をかけて築き上げてきたメンバー間の信頼関係があるから、ちゃんと心配してもらえる。俺もそうだし、メンバーもそうだと思うんですけど、まったく関わりのない人が何か行動を起こしたとしても、たぶん「なんかあの人飛び出していったぞ」って思うだけになってしまう。でもお互いのことを深く知っている間柄なら「あっ、コイツはこういうヤツだから手を差し伸べてあげなきゃ」って思いあえるし「こういうふうにサポートしてあげればいいのかな」って察しあえるんですよね。

みんなと口約束を続けた3年間

箭内 僕との共通点って言っちゃうとおこがましいんだけど、でもTERUさんを見ていると、その軌道修正する力を信じているところが似てる気がしていて。自分にとっての正しさって大切なことではあるんだけど、頑なに信じるには危険すぎるものでもあるじゃないですか。

──その正しさが他人にとっての正しさとイコールだとは限りませんもんね。固執するとカルトや独裁国家めいてしまうおそれもある。

箭内 そうそうそう。「一度決めた自分の正義を貫きます」ってなっちゃうと人間関係もうまくいかなくなるし。TERUさんを見ていてもそうなんだけど、僕らは今日信頼できる誰かに指摘を受けたら、昨日まで正しいと思っていたことについてですら「あっ俺、間違ってたわ」って言っちゃう。いろんな活動をスムーズに進めたいなら、この前言撤回する力ってけっこう大事な気がするんです。

TERU 実はこのあいだまさしくそういうことがありました。1カ月半くらい前に「Twitterを卒業する」って発言したら、それがニュースとして取り上げられて、ファンの人たちから「悲しいです」「毎日の楽しみが……」っていうリアクションをたくさんもらって。それで2週間くらい前「Twitterをやめるのをやめるかも」って撤回したんですよ。まあ、それもまたニュースになってしまったんですけど(笑)。

TERU

箭内 僕、そのニュース見ました(笑)。

TERU 前言撤回する力ってその柔軟性のことなんじゃないですか? 自分の思う正しさと、誰かが悲しんでいることを天秤にかけたとき、誰かの悲しみのほうが重いんだったら、俺のプライドなんて捨ててもいいや、みたいな(笑)。「誰かが喜んでくれるんなら恥をかいてもいいや」って思えることって、俺にとってはすごく大切なことですから。

箭内 そうやって柔軟であることによって、今日必要なこと、やるべきことをどんどん見つけていきたいんですよね。TERUさんの周りにはTAKUROさんのように過去や未来のことを見据えていろいろなことをしっかり考えてくれる人たちや、いろいろな立場からいろいろな声を寄せてくれる大勢のファンの人たちがいる。それなら自分は、その人たちの言葉に耳を傾けて、悲しんでいる人たちに対して今何ができるのかを考える。Twitterの一件の裏にはそういう判断があったんだろうし、3.11以降のTERUさんの取り組みを見ていてもそういう印象を受けるんですよ。

TERU 確かに今も東北に対する取り組み続けられているのは人の言葉、人との出会いのおかげですね。「また来ます」って伝えたときに見せてくれた現地の人の笑顔や「ホントに!? じゃあがんばるわ!」っていうひと言があるから俺も「また行こう」「また行きたい」という気持ちになるし、実際に行くんです。

箭内 ホントに原動力ってその気持ちだけですよね。もちろん「何か力になりたい」とは思っているけど、僕もTERUさんも「俺がやらねば」みたいな強固な意思で動いているわけじゃない(笑)。

TERU 言ってしまえば、みんなとの口約束が3年間続いているだけですから(笑)。

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ニューアルバム「MUSIC LIFE」 / 2014年11月5日発売
「MUSIC LIFE」
2CD豪華盤 BALLADE BEST☆MELODIES / 3996円 / ポニーキャニオン / PCCN-00017
2CD豪華盤(G-DIRECT限定)BALLADE BEST☆MEMORIES / 3996円 / loversoul music & associates / LSCD-0018
1CD盤 / 2700円 / ポニーキャニオン / PCCN-00018
CD収録曲
  1. BLEEZE(Album Ver.)
    [作詞・作曲:TERU / ドラム:永井利光]
  2. 百花繚乱
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:松下敦]
  3. Only Yesterday
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:村石雅行]
  4. 疾走れ!ミライ
    [作詞・作曲:TERU / ドラム:永井利光]
  5. 祭りのあと
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:永井利光]
  6. 浮気なKISS ME GIRL
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:高橋まこと]
  7. 妄想コレクター
    [作詞・作曲:HISASHI / ドラム:永井利光]
  8. Hospital pm9
    [作詞・作曲:TAKURO]
  9. DARK RIVER
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:村石雅行]
  10. TILL KINGDOM COME
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:中村達也]
  11. MUSIC LIFE
    [作詞:TAKURO / 作曲:JIRO / ドラム:永井利光]
GLAY(グレイ)

函館出身の4人組ロックバンド。TAKURO(G)とTERU(Vo)を中心に1988年から活動を開始し、1989年にHISASHI(G)が、1992年にJIRO(B)が加入して現在の体制となった。1994年にシングル「RAIN」でメジャーデビュー。1996年にはシングル「グロリアス」「BELOVED」が立て続けにヒットし、1997年に「HOWEVER」がミリオンセールスを記録したことでトップバンドの仲間入りを果たす。1999年7月には幕張メッセ駐車場特設会場にて20万人を動員するライブ「MAKUHARI MESSE 10TH ANNIVERSARY GLAY EXPO '99 SURVIVAL」を開催。この人数は単独の有料公演としては、日本のみならず全世界での史上最多動員記録となっている。その後も数多くのヒット曲やヒットアルバムを生み出し、2010年4月には自主レーベル「loversoul music & associates」を設立。メジャーデビュー20周年を迎えた2014年9月20日には、宮城で大型ライブ「GLAY EXPO 2014 TOHOKU 20th Anniversary」を敢行した。同年11月5日、1年10カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「MUSIC LIFE」をリリース。

箭内道彦(ヤナイミチヒコ)

1964年、福島県郡山市出身。東京藝術大学卒業後、博報堂勤務を経て「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、リクルート「ゼクシィ」など数々の話題の広告キャンペーンを手がける。「月刊 風とロック」発行人。2011年に「NHK紅白歌合戦」にも出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。


2014年11月26日更新