音楽ナタリー PowerPush - GLAY

「MUSIC LIFE」特集

TERU×箭内道彦対談

だから有言実行はやめられない

TERU しかもGLAYの中で口約束を守ろうとしているのは俺だけじゃなくて。JIROも大船渡で出会った少年に「大船渡にはいいホールがあるから、復旧したらぜひ来てください」って言われたからっていうことで「行けるかな?」って言いだしたことがありましたし。で、メンバー全員「やろうやろう」ってなって、スケジュールを調整して次の年、その会場でライブしたんですよ。

──まさに軌道修正する力。口約束を守るためにスケジュールという“軌道”を“修正”した(笑)。

TERU TAKUROがステージでよく言うんですよ「GLAYは約束を守るバンドだ」って。実際GLAYはこの20年間、ファンといろいろな約束を交わしてきたからこそ未来を描けてきた。例えば「また来年、ここでライブをやるから」ってファンと約束をしたから「じゃあ来年までがんばろう」「俺たちは来年までがんばれる」っていうパワーが生まれることが多々あって。だからメンバー全員、たとえそれが口約束であっても守りたいんですよね。それが自分たちの大きなパワーにもなることを知ってるから。

箭内 その約束のパワーを早くから信じられていたっていうのも「GLAYはすごい」と思う理由なんです。実は僕、ずっと約束恐怖症で。だから結婚もできないんですけど……。

左から箭内道彦、TERU。

TERU ははははは(笑)。

箭内 「一生幸せにします」って言っておきながらできなかったどうしようって思っちゃって(笑)。でも支援活動を通じて、ようやく約束のパワーを信じられるようになった。僕は今、福島県内の59市町村全部を回ろうって決めて、今も毎月1市町村ずつ回ってるんです。それをなぜ続けられるかっていったら「待ってるよ」って言ってくれる人がいるから。毎月1カ所で59カ所回るから約束を守るのに5年くらいかかっちゃうんだけど(笑)、それでも約束を守ろうとしている自分を振り返ったとき「あっ、少しは約束が怖くなくなってる」って気付けて、ちょっとうれしかったんです。

TERU 不言実行ってカッコいいし素晴らしいことだと思うんですけど、有言実行には有言実行なりの美学や楽しさがあるから約束ってやめられなくなりますよね。

箭内 ホントに皆さんが喜んでくれるしね。

TERU あの顔を見たらこっちもうれしくなるから、つい約束を守ってしまう(笑)。俺1人が東北に行くぶんには、そんなに負担のかかる話でもないですし。以前、友達と一緒に支援物資を届けにいったら、地元のおじいちゃん、おばあちゃんがなんとなくだとは思うんですけど、俺のことをバンドで歌っている人だって認識してくれたみたいで「歌ってよ」って言ってくれて。でもその日はなんの準備もしてなかったから「ごめんなさい。また必ず歌いに来るから」っていう話になって、1週間後に……。

箭内 1週間後はさすがに早すぎません?(笑)

TERU 「我がことながら早すぎでしょ」とは思ったんですけど、ギターを持って行っちゃってました(笑)。

メガヒットのもつ社会的意義を痛感

箭内 さっきTERUさんは「1人の成人男性として」って言っていたけど、そうやって歌うことを期待されていて、ちゃんとそれに応えるのは「GLAYのTERU」だからこそできることだし、やるべきことなんですよ。

TERU それは痛感しました。おじいちゃん、おばあちゃんがなぜ俺のことを知ってくれていたかというと、きっと「HOWEVER」みたいな楽曲があるからですから。一緒に行った友達は、支援物資のような人間っていう意味で「お前は“人間物資”だ」なんて言ってましたけど(笑)。

箭内 TERUさんに限らず、スターが存在する意義には「効率のいいディレクター」という側面のほかに、その「人間物資」的な側面もあるんですよね。以前さだまさしさんとお話したんですけど、そのときさださんが「石巻で歌ったとき『ヒット曲ってこういうときのためにあるものなんだな』って思った」って言っていて。「みんなが知ってる歌を自分が歌うことで、みんなが笑顔になってくれる。だからもっとヒット曲がほしい」って。

TERU すごくわかります。ある年の春先、「地元の学校のグラウンドでみんなで集まって花見をやる」ってツイートを見たことがあって。「じゃあ一瞬寄っていいですか?」ってギターを持って行って「HOWEVER」を歌ったら、花見に来ていたみんながすごく喜んでくれたんです。あのときの俺の気持ちはきっとさださんと同じ。「みんなが聴いたことのある曲を歌っている人間が今ここで歌うことって、こんなにも人を笑顔にできるんだ」ってすごく感じましたから。今年の「GLAY EXPO」にしても「じゃあそういう笑顔の輪をもっと広げるために俺とGLAYには何ができるのか?」っていう発想から生まれた面はありますし。

怒りをも優しさでパッケージするバンド

左からTERU、箭内道彦。

箭内 そうやって自分の表現の着地点に笑顔や優しさを据えているからGLAYってすごく「いい人」なんですよ。ともすれば僕もそうなりがちなんだけど、特に震災以降って多くの人が怒りを怒りのまま放出している気がしていて。そんな中、GLAYは怒りですら優しさで表現しようとするじゃないですか。今回のアルバムにしたって「百花繚乱」を聴いたときビックリさせられたわけですよ。「これ、ホントにGLAYか!?」「俺、プレイヤーに入れるCD間違えたか!?」って(笑)。

──東京オリンピック開催を無批判に喜ぶ人にいきなり強い疑問を投げかける、ストレートなアングリーミュージックですもんね。

箭内 でもその曲が入っているアルバムのタイトルは「MUSIC LIFE」。音楽のある生活や、音楽とともに生きる人生をすごくシンプルに喜んでいる。

TERU そこまで深く考えてはないんですけどね(笑)。

箭内 たぶんTAKUROさんには、このタイトルについて相当思うところがあると思うなあ。で、TERUさんはそのTAKUROさんの思惑に乗って自らの“MUSIC LIFE”をのびのびと楽しんでいる(笑)。

TERU ははははは(笑)。それは当たってます。

箭内 だからこのすごくシンプルなアルバムタイトルには、すごく深遠な意味がある気がするんですよ(笑)。

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TAKUROインタビュー
「MUSIC LIFE」参加ドラマーインタビュー
ニューアルバム「MUSIC LIFE」 / 2014年11月5日発売
「MUSIC LIFE」
2CD豪華盤 BALLADE BEST☆MELODIES / 3996円 / ポニーキャニオン / PCCN-00017
2CD豪華盤(G-DIRECT限定)BALLADE BEST☆MEMORIES / 3996円 / loversoul music & associates / LSCD-0018
1CD盤 / 2700円 / ポニーキャニオン / PCCN-00018
CD収録曲
  1. BLEEZE(Album Ver.)
    [作詞・作曲:TERU / ドラム:永井利光]
  2. 百花繚乱
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:松下敦]
  3. Only Yesterday
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:村石雅行]
  4. 疾走れ!ミライ
    [作詞・作曲:TERU / ドラム:永井利光]
  5. 祭りのあと
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:永井利光]
  6. 浮気なKISS ME GIRL
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:高橋まこと]
  7. 妄想コレクター
    [作詞・作曲:HISASHI / ドラム:永井利光]
  8. Hospital pm9
    [作詞・作曲:TAKURO]
  9. DARK RIVER
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:村石雅行]
  10. TILL KINGDOM COME
    [作詞・作曲:TAKURO / ドラム:中村達也]
  11. MUSIC LIFE
    [作詞:TAKURO / 作曲:JIRO / ドラム:永井利光]
GLAY(グレイ)

函館出身の4人組ロックバンド。TAKURO(G)とTERU(Vo)を中心に1988年から活動を開始し、1989年にHISASHI(G)が、1992年にJIRO(B)が加入して現在の体制となった。1994年にシングル「RAIN」でメジャーデビュー。1996年にはシングル「グロリアス」「BELOVED」が立て続けにヒットし、1997年に「HOWEVER」がミリオンセールスを記録したことでトップバンドの仲間入りを果たす。1999年7月には幕張メッセ駐車場特設会場にて20万人を動員するライブ「MAKUHARI MESSE 10TH ANNIVERSARY GLAY EXPO '99 SURVIVAL」を開催。この人数は単独の有料公演としては、日本のみならず全世界での史上最多動員記録となっている。その後も数多くのヒット曲やヒットアルバムを生み出し、2010年4月には自主レーベル「loversoul music & associates」を設立。メジャーデビュー20周年を迎えた2014年9月20日には、宮城で大型ライブ「GLAY EXPO 2014 TOHOKU 20th Anniversary」を敢行した。同年11月5日、1年10カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「MUSIC LIFE」をリリース。

箭内道彦(ヤナイミチヒコ)

1964年、福島県郡山市出身。東京藝術大学卒業後、博報堂勤務を経て「風とロック」を設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、リクルート「ゼクシィ」など数々の話題の広告キャンペーンを手がける。「月刊 風とロック」発行人。2011年に「NHK紅白歌合戦」にも出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。


2014年11月26日更新