音楽ナタリー Power Push - 藤原さくら

手練れとの濃密な経験が織り成す 1stアルバム「good morning」

つらいと思いながら作った曲はない

──ソングライティングについてはどうですか? 1年間経験を重ねて手法に変化があったとか、そういう実感はありますか?

曲の作り方は、根本的には変わってないと思います。私にとって作曲は、どっか遊びみたいな感覚が強くて。ギターを抱えてメロディが浮かんでくるのがうれしくてしょうがないんですね。ゲームと同じで楽しくなければ止めちゃうから、つらいと思いながら作った曲はないし。プロとしてそれはどうなんだって、最近は考えたりもするんですけど(笑)。ただ「good morning」では、メロディと一緒にアレンジが思い浮かぶケースが増えました。例えば「Oh Boy!」だったら伴奏にウクレレを入れたいとか、サビはリズムを変えたいなとか。以前に比べると、自分の気持ちを表現できる幅が広がった気がします。

藤原さくら

──「Oh Boy!」、編曲はLITTLE CREATURESの青柳さんですね。彼がウクレレも弾いていますが、どんなふうにイメージを伝えました?

まさに「すごくさわやかな朝みたいなアレンジにしてください」ってストレートにお願いしました(笑)。曲の原型は去年の4月か5月にできていて、それを森永乳業の「トロピココ」という飲料のWeb CMに使っていただけることになって。今回のアルバムで最初のほうにレコーディングした1曲です。この曲は女の子が朝起きて、好きな男の子のためにおしゃれして出かけるまでの気持ちを歌ってるんですね。相手とうまくいかないモヤモヤを抱えつつ、しきりに鏡ばっかり見ちゃったり……そういう「もう好きで好きでしょうがない」って気持ちがあふれるような音にしたかったです。

──次の「『かわいい』」にも言えることだけど、「good morning」の収録ナンバーからは、ボーカルのレンジがぐっと広がった印象を受けたんです。ハスキーでちょっと陰りを帯びた声が、曲のクライマックスでバーッと高音へと駆け抜けていく高揚感が伝わってきて。

ありがとうございます! 「Oh Boy!」は特に生音のリズムがいかにも朝っぽい感じで(笑)。本当に気持ちいいんですよね。青柳さんにアレンジをお願いしたら、結果的にLITTLE CREATURESの3人に演奏もしてもらえて。最高の仕上がりになって本当にうれしかった。ここから2曲目の「『かわいい』」につながっていく流れは、自分でもすごく気に入ってますね。

──この曲はYAGI & RYOTAさんの編曲ですね。柳下“DAYO”武史さんと宮原“TOYIN”良太さんは前作にも参加してるし、先日行われたビルボードライブ東京のサポートメンバーでもありますね。「Oh Boy!」と同じく女の子の届かない気持ちがテーマの曲ですが、イントロからいきなり突っ走ってる感じがグッときます。

そうなんです。やっぱりジャムバンドの方なんで、レコーディング自体がセッションっぽいというか……私の歌のテンションによって、その場で演奏もどんどん変わっていくんですよ。この曲のレコーディングのときは、気が付けばギターの柳下さんとキーボードを弾いてくださったH ZETT Mさんが音で“追っかけっこ”を始めてたり(笑)。アウトロの長さも「いい感じだから伸ばそうか」って予定の倍になったんですよ。

──間奏から後半にかけて、テンポがどんどん前のめりになっていくのも素敵でした。ギタープレイも自在で。曲で歌われてる心情とサウンドとが完璧に響き合ってる。

うんうん! 柳下さんのギター、本当に「歌わずにはいられない」って感じになるんです! この曲では女の子の強がってる部分と、好きな人に「かわいい」って言ってもらいたいシンプルな気持ちを、両方いっぺんに出したかったんですね。そういう曲に込めた思いを全部汲みとって、そのまま音で表現できるのは本当に尊敬します。私もいつかあんなギターが弾けるようになりたいなあって思いました。

お父さんが私のお父さんでよかった

──3曲目の「I wanna go out」はガラッと変わって、オール英語詞のジャズっぽい仕上がり。どこかフランスの新世代シャンソン歌手ザーズを思わせる、場末のクラブっぽい雰囲気が印象的ですね。

ザーズ大好きなので、そう言っていただけるとうれしいですね。これは高校時代に書いた曲で、メジャーデビュー前に福岡のライブハウスでもよく歌っていました。早く学校を抜け出して自分の好きなことができる場所に行きたいっていう気持ちで作った曲です(笑)。ただ、意外に現在の自分と重なるところも多かったんですね。ずっと居場所を探してた私が、今こうやって東京にいて、人前で演奏できている。その喜びとか幸運を再確認する意味でも、アルバムに入れたいなと思いました。Ovallのmabanuaさんにお願いして、曲のテイストを昔とまったく違う仕上がりにしていただいて。

──ライブハウス時代はどんな雰囲気だったんですか?

藤原さくら

お父さんのバンドと一緒に演奏することが多かったので、もう少しロックっぽい感じだったかな。今回のレコーディングでびっくりしたのは、私のアコースティックギター以外の全パートを、mabanuaさん1人で演奏されてるんですよ! ドラマーでありながら鍵盤もベースも弾けちゃうって、どういうことなんだって(笑)。もちろん曲の根っこの部分は変わってないんですけど、mabanuaさんも私もワールドミュージックが大好きなので、リズムのニュアンスがぐっと豊かになってると思います。

──前回、「à la carte」のインタビュー(参考:藤原さくら「à la carte」インタビュー)でも詳しく話されてましたが、藤原さんの中ではいろんな音楽が自然に溶け合ってるんですね。コード進行やメロディにはお父さんがお好きなブリティッシュロックの影響が確かに感じられるし。一方、ニュアンス豊かなリズム、自由な節回しやブレスの仕方は、世界中にいる同時代の女性シンガーソングライターたちとどこかでつながってる感じが強くします。

自分ではほとんど意識したことないんですけどね。ただ、物心がつく前からおうちではずっとトッド・ラングレンとかXTCとか、The Whoのアルバムがかかってたので、知らないうちに身体に入っちゃってる部分はあると思う。特にThe Beatlesは、どの曲も完璧に歌えるまで何度も聴かされたし。お父さんにギターを習い始めたときにも、最初はとにかくビートルズのリフばかり練習させられてましたから。

──お父さん、ビートルズの曲以外は教えてくれなかったんですか?

はい、まったく(笑)。

──ある種の英才教育ですね(笑)。

当時は「もういいよ、もっと違う曲も弾いてみたい」とか不満に感じたりもしたけど、今は感謝してますね。お父さんが私のお父さんでよかったなって。小学校5、6年生頃からはギターと一緒に自分でも歌ってみたくなって、大好きなYUIさんの曲をいっぱいカバーするようになるんだけど。そういう日本語の歌と洋楽の曲が、いつの間にかギュッと混ざっているのかもしれない。

1stアルバム「good morning」/ 2016年2月17日発売 / 3024円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64482
「good morning」
収録曲
  1. Oh Boy!
  2. 「かわいい」
  3. I wanna go out
  4. maybe maybe
  5. How do I look?
  6. 1995
  7. BABY
  8. good morning
  9. Give me a break
  10. これから
  11. You and I
藤原さくら Major 1st Full Album「good morning」リリース記念ミニライブ&サイン会
2016年2月18日(木)
東京都 タワーレコード渋谷店 1F イベントスペース
START 20:00
2016年2月21日(日)
福岡県 キャナルシティ博多 B1 サンプラザステージ
START 13:00
藤原さくらワンマンツアー2016「good morning」~first verse~
2016年6月25日(土)福岡県 イムズホール
2016年7月1日(金)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
藤原さくら(フジワラサクラ)
藤原さくら

福岡県出身の女性シンガーソングライター。幼少期からさまざまな音楽に親しみ、父親の影響で10歳からギターを弾き始める。高校進学後からオリジナル曲を作り始め、地元でライブ活動も行う。高校在学中の2013年に3枚の自主制作盤「bloom1」「bloom2」「bloom3」を発表し、2014年3月に初のフルアルバム「full bloom」をリリースする。高校卒業を機に上京すると音楽活動を本格化させ、2015年3月にミニアルバム「à la carte」でSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューを果たす。2016年1月に東京・Billboard Live TOKYOにて単独公演を開催。2月にメジャー1stフルアルバム「good morning」を発表した。