音楽ナタリー Power Push - 藤原さくら

手練れとの濃密な経験が織り成す 1stアルバム「good morning」

藤原さくらが1stフルアルバム「good morning」をリリースした。

2015年3月にメジャーデビューを果たし、スモーキーな歌声と美しく繊細なサウンドで多くのリスナーを惹きつけた藤原。そんな彼女の新作「good morning」は、艶のあるミディアムチューンから明るくポップなナンバーまで、多彩な楽曲を織り交ぜた1枚に仕上がった。なお本作にはYAGI & RYOTA(SPECIAL OTHERS)、Curly Giraffe(高桑圭)、高田漣、mabanua(Ovall)、関口シンゴ(Ovall)、Shingo Suzuki(Ovall)、青柳拓次(LITTLE CREATURES)といった面々がプロデューサーとして参加しており、各曲ごとに魅力的なコラボレーションが楽しめる。

約1年ぶりとなる今回のインタビューでは、「good morning」収録曲のエピソードを聞きつつ、20歳を迎えた現在の心境を語ってもらった。

※本文中「『かわいい』」の正式曲名は、二重カギカッコが一重カギカッコの「かわいい」。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 西槇太一

朝の光を浴びながら聴いてもらいたいアルバム

──新しいアルバム「good morning」、とってもよかったです。

藤原さくら

おおっ、本当ですか?

──ええ、すごく。冒頭2曲「Oh Boy!」「『かわいい』」なんて、ポップだけどひねりの効いたメロディが耳に飛び込んできて、気が付けば一緒に口ずさんじゃってる感じでした。そういう元気な曲からちょっとメランコリックで大人っぽい曲まで、アルバムとしての起伏もしっかり伝わってきました。

やったー、うれしいです! 去年の3月にデビューミニアルバムの「à la carte」をリリースして、この1年いろんなところでライブを重ねながら、音楽的にも少しずつ成長できた実感があったんですね。素晴らしいミュージシャンの先輩方と日々一緒に過ごす中で、楽器やアレンジに対する好奇心もどんどん膨らんでいったし……。わからないことは片っ端から質問するようになって。

──年齢的にも19歳から20歳になって、大きな変化の1年だったのでは?

うん、そうですね。「自分もあんなふうになりたい」とか「もっとこういう演奏がしたい」とか、より具体的にイメージできるようになったと思う。いろんなことを学びつつ吸収できた1年でした。なので初めてのフルアルバムでは、そういう新しい自分を思いきり出したかった。例えばジャジーなテイストって最初からスタイルを決めちゃうんじゃなくて、自分が好きな音楽のジャンルや切り口をなるべくいっぱい詰め込みたいなって。で、そう思って書き始めたら、それこそ1曲目の「Oh Boy!」や2曲目「『かわいい』」みたいに、これまでちょっと作るのが苦手だった明るい曲がワーッと生まれてきたんです。

──藤原さんにとってもオープニングの2曲は新機軸だったんですね。ああいうポップな曲調って以前は苦手意識があったんですか?

うーん、苦手とまではいかないかもしれないけれど……ただ、「好きに作曲していいよ」って言われると、わりにマイナー調に走りがちなところはあったと思います。そのほうが私の低い声質に合ってるというか、メロディも自然と浮かびやすかったんです。ただ、以前は夜に作曲してたんだけど、最近は朝とか昼に曲を書くことが多くなって。ポップな曲調が増えたのは、それが関係してるのかもしれない。

──ああ、なるほど。

真夜中に1人で曲を作ってると、やっぱり悶々とした気持ちが出ちゃうんです(笑)。でも今は、夜にいろいろ考え込んでも翌朝はカラッと忘れて、新しい気持ちで曲を作ってる自分がいる。東京に出てきて2年が経って、やっと落ち着いてきたのもあると思うし。精神的にも安定して、普段からポップな音楽をたくさん聴くようになったり……。

──例えばどんなアーティストを?

アルバム制作中はミンディ・グレッドヒル(アメリカ・カリフォルニア出身の女性シンガーソングライター)をよく聴いてました。いろんな要素が重なったんでしょうね。なので今回、「Oh Boy!」や「『かわいい』」みたいに低音域から高音域までワーッと上がってカーン!と声を張るような曲が書けたときに、自分でも「あ、新しいものができたな」と素直に思えたんです。それでアルバムのタイトルを「good morning」にしようって最初に決めました。

──あ、じゃあ、まず冒頭の2曲とタイトルが固まったんですね。

はい。新しい朝のような、朝の光を浴びながら聴いてもらいたいアルバム。そこからどんどんイメージが広がっていった感じです。

「わー、ずるい!」手練れプレーヤーに芽生えた嫉妬心

──レコーディングはいつ頃から始めたんですか?

去年の7月あたりから少しずつ。楽曲ごとにいろんなプロデューサーやミュージシャンの方に手伝っていただいてるので、ワーッと一気に録るのではなくて1曲ずつ丁寧に仕上げていった感じです。なので最後は、8曲は完パケしてるのに残り3曲はまったく手付かずみたいなシビアなスケジュールになっちゃったんですけど(笑)。でも、今までにはなかったポップな曲からレコーディングできたのは、自分にとってよかった気がします。その2曲を軸に少しマイナー調の曲を書き足したり、高校時代に作った楽曲を持ってきたりと、アルバムとしてのバランスをいろいろ考えることができましたので。

──それにしても前作「à la carte」もすごかったけれど、今回も素晴らしく豪華なメンバーが集まってくれましたね。

ええ、もう(笑)。自分でもまだ信じられないくらい。

──LITTLE CREATURES、SPECIAL OTHERSのYAGI & RYOTA、H ZETTRIO、Ovall、Curly Giraffe、高田漣。皆さんシーンの第一線で活躍しつつ、コアな音楽好きからもリスペクトされてるミュージシャンばかりです。前作と比べて、レコーディングの進め方は何か変わりました?

藤原さくら

そうだなあ……「à la carte」のときは、目の前の現実についていくのに必死だったと思うんです。アレンジにしても、自分が書いた曲がとんでもないレベルになって返ってくる印象が強かった。「もっとこんなふうにしたい」とか、私の希望を伝えるのがもったいない気がしてました。でも今回の「good morning」では、具体的に楽曲を詰めていく過程で、いろんなことをもっと深く知りたくなった。この1年間先輩方にライブを手伝っていただく機会も多かったんですが、皆さん本当に優しくて、質問したらなんでも答えてくれるんです。それで、1年前はただ「ありがたい」ってだけだったのが、今は「悔しい」と感じるようになって……。

──ははは(笑)。プレーヤーとしての嫉妬心が芽生えたんだ。

ですね。「わー、ずるい!」みたいな(笑)。で、心に浮かんだ疑問は、今回のレコーディングでは恥ずかしがらず聞いてました。「どうすれば私もあなたのようになれますか?」って。その質問が先輩たちの持ってきてくれたアイデアと噛み合って面白いアレンジや演奏が生まれる瞬間は、「à la carte」のときよりもたくさん経験できたと思います。

1stアルバム「good morning」/ 2016年2月17日発売 / 3024円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64482
「good morning」
収録曲
  1. Oh Boy!
  2. 「かわいい」
  3. I wanna go out
  4. maybe maybe
  5. How do I look?
  6. 1995
  7. BABY
  8. good morning
  9. Give me a break
  10. これから
  11. You and I
藤原さくら Major 1st Full Album「good morning」リリース記念ミニライブ&サイン会
2016年2月18日(木)
東京都 タワーレコード渋谷店 1F イベントスペース
START 20:00
2016年2月21日(日)
福岡県 キャナルシティ博多 B1 サンプラザステージ
START 13:00
藤原さくらワンマンツアー2016「good morning」~first verse~
2016年6月25日(土)福岡県 イムズホール
2016年7月1日(金)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
藤原さくら(フジワラサクラ)
藤原さくら

福岡県出身の女性シンガーソングライター。幼少期からさまざまな音楽に親しみ、父親の影響で10歳からギターを弾き始める。高校進学後からオリジナル曲を作り始め、地元でライブ活動も行う。高校在学中の2013年に3枚の自主制作盤「bloom1」「bloom2」「bloom3」を発表し、2014年3月に初のフルアルバム「full bloom」をリリースする。高校卒業を機に上京すると音楽活動を本格化させ、2015年3月にミニアルバム「à la carte」でSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューを果たす。2016年1月に東京・Billboard Live TOKYOにて単独公演を開催。2月にメジャー1stフルアルバム「good morning」を発表した。